理論株価クイズ014   -PER4.5倍の東海カーボン(5301)のリスクプレミアムを計算しましょう

理論株価クイズ014

5301東海カーボンの過去の業績からリスクプレミアムを計算してください

答えの一例

過去の純益の時系列を用意します。その時系列から純利益の変化率の標準偏差を出して、その1/3がリスクプレミアムとしたいのです。

ところが、過去2016年には同社は赤字でした。その場合、g_2016=LN(2016 net income /2015 net income)もg_2017=LN(2017/2016)も計算できませんね。その場合、このように考えてみます。

増収率 g_s (i) = LN(S(i)/S(i-1))とコスト変動率 g_c(i) = LN(C(i)/C(i-1))の標本を用意します。

特にC(i)= S(i)-I(i)とします。I(i)は年度iの純益です。

こうすると、g_sとg_cは必ず計算できます。S(i),C(i)>0であるからです。

そこで収益構造をb= LN(S/C)=LN(最新の売上/最新のコスト)とします。例えば、東海カーボンの場合、b=0.18となります。(2019/12の想定)

つまり同社は純益の利益率が18%(連続複利)あるということ。すぐにわかるように、例えば来年の利益率が1.8%改善すると、投入された費用が同じであれば、1.8/18=0.1ですから10%程度の増益になることがわかります。そこで、a=1/bとして、a[g_s(i) – g_c(i)]は利益率の改善(改悪)による増益(減益)率を表します。また、g_c(i)はaが変わらない場合は、投入コストの増加による増益率を表します。

そうです。純益の変化率は、工夫して、aを導入したことで、計算が可能になるのです。

Y= a(g_s – g_c) + g_c たちの標準偏差を計算するとできます。

結果は、過去11年のサンプルを用いて、標準偏差は77%でした。

計算はエクセルシートを参照ください。

Stock_Valuation007HW

さて、利益が下振れすることを保証するのは、標準偏差の1/3程度でした。よって、リスクプレミアム(業績保証型)は26%が答えとなります。

同社の利回りは5%程度ですし、ROEが20%を超えますが、配当成長率は配当性向から21%程度と考えると一段階の配当モデル d / (r-g)から評価すれば本当にフェアバリューとなります。このようにリスクプレミアムが非常に高いと資本コストはそれ以上に大きくなります。

同社の場合、配当の成長率の標準偏差で評価したらどうなるでしょうか。それは皆様の課題とします。

業績ほどリスクは高くないことが容易に確認できるはずです。同社は配当を継続しておりますので。11%程度に収まるはずです。高い成長を見込んでその分リスクが高いと見るか、マイナス成長を見込んでその分、リスクは小さいと見るか、解釈は無数です。大事なのはリスクとリターンの差、スプレッドを見る癖をつけることです。どちらか一方だけを重視するのはプロではありません。

仮に、無配転落がある企業については、工夫は自分で考えてみてください。ゼロの代わりに、とても小さな正の数を代入して計算してみてください。

PER4倍でも割安ではないということがはっきりとわかります。

筆者について

山本 潤 (やまもと じゅん)  

ダイヤモンドフィナンシャルリサーチ投資助言部にて投資判断者を務める。株の学校長期投資ゼミの講師。コロンビア大学大学院修了。哲学・工学・理学の3つの修士号取得。外資系投資顧問のファンドマネジャー歴20年。

日本株の成長株投資を得意としている。外資系投資顧問会社クレイ フィンレイ日本法人共同パートナーで日本株及びアジア株の運用などを経て投資教育の会社を設立。現在も年間200社前後の会社訪問と投資判断を行っている。1997-2003年年金運用の時代は1,000億円を運用。


その後、2004年から2017年5月までの14年間、日本株ロング・ショート戦略ファンドマネジャー。月刊マネー誌『ダイヤモンドZAi』誌上の銘柄分析を10年以上続けている。過去20年超の機関投資家としての運用戦績は年ベースで17勝4敗の勝率8割超(同期間の日経平均は、12勝9敗)。