3359 cotta (旧タイセイ) 新社長就任と中期計画発表

1 新社長就任、商号変更

株式会社タイセイは2020年1月1日付けで、代表取締役社長が交代した。タイセイの創業者である佐藤成一氏は会長に就任し、同氏のご息女である黒須綾希子氏が社長に就任した。

また、商号も「株式会社タイセイ」から同社が運営するECサイトであるcottaの名前を冠した、「株式会社cotta」に変更された。

新しい門出である。

筆者は3月某日同社を訪問し、黒須新社長にインタビューを行った。以下のレポートはその内容をもとにしたものである。

2 中期計画発表

さて、同社は3月13日に中期経営計画を発表した。以下がその計画である。(2018,2019の値は筆者追加による。2020からは会社計画のもの、2018、2019の広告宣伝費は有報より抜粋。)

(百万単位) 2018.9 2019.9 2020.9 2021.9 2022.9 2023.9 2024.9
売上 6278 6399 6542 8209 9209 10570 11142
広告宣伝費 286 289 344 655 583 574 288
営業利益 206 188 -31 8 228 530 995
経常利益 256 221 -9 32 251 554 1020

同社は2020.9月期より、大々的な広告宣伝を行い、顧客を増やし、同時に売上、利益率を増やしていく計画である。黒須社長いわく「すべてのチャンスを取りきって」初めて達成できる目標である。とても意欲的で挑戦的な計画である。

まず注目したいのが営業利益率。計画最終年度で8%を目指すがこの値は同社が未だ達成したことがない数字。利益率の改善には無形商材や新商品の販売が、増収にはテレビ広告を通じて新規顧客の増加が貢献すると見ている。

3 増収への施策

3.1 テレビ広告への大幅な投資

広告宣伝費の大半はテレビコマーシャルに投入する。テレビで広範囲にリーチし、ネット広告を使って細かく顧客を取り込んでいくという。同社は一部地域ですでに実験的にコマーシャルをいくつか制作し、放映している。

ネット広告全盛の時代にテレビでコマーシャルを行う意味はあるのだろうか?

同社は大いにあると考えている。

実験的に行ったコマーシャルでは短期間(二週間程度)でcottaの知名度が大幅に上がった。ネット広告で同様の効果を生み出すにはもっと期間が必要だという。

広い時間帯かつ全国ネットでテレビ広告を流せばさらに知名度を拡大することができる、と同社は踏んでいる。このため大幅な広告費を計画している。

テレビ広告で広範囲の顧客の顧客にリーチし、ネット広告でさらに細かい顧客にリーチする。計画のはじめでテレビ広告を行い、それからはネット広告に切り替えていく。このため初めの方で広告費は大幅に増額し、徐々に減っていく。

さて、同社は集めた顧客に対してどのようなアピールをしていくのだろうか?

3.2 お菓子作り未経験層の取り込み

アピールの1つがお菓子作り未経験者へのものである。

cottaはお菓子作りが好きな人のためのECサイトである。「お菓子作りが好き」と認識して、お菓子を実際に作っている人、というのは実はそれほど多くない。だいたいその30倍程度「お菓子を作ってみたいがやったことはない」という人たちがいるようだ。こうした人々を取り込んでいく。

すでに趣味としてお菓子作りを楽しんでいる人々は自分が何をすればいいかわかっている。目的のお菓子を作るには、どんな材料を買って、どのレシピをみながら、どう調理すればいいかわかっている。彼らは質にも値段にもシビアだ。こうした顧客は意外に利益を取りにいけない。

反面「やってみたい」という人々は自分が何をしたらいいかわからない。cottaのラインナップをみても何を選んだらいいかわからない。くわえて「ほんとうに楽しいのか?」「本当に上手くできるのか?」なども心配している。

こうした層にアピールするのがミールキットの販売だ。材料や道具だけでなく、動画教材などもセットにして販売することで、「お菓子を作る」という体験を売る。詳しいレシピを見ながらできるので、失敗も少ない。こうした商品はパッケージして売るので単体で売るより利益率が高い。

外出自粛、学校の閉鎖、在宅勤務の奨励などではからずも家族がともに過ごす時間が増えている。こどもを外に出しづらいので、結局家でYoutubeばかり見ている・・・というのは好ましくない。それでは、パンやお菓子を子供と作るのはどうか?というのが同社の提案。余暇の有効な使い方でもあるし、食育にも良い。

このキットの販売はアソビューと組んでも行う。アソビューは家族向けの外遊びの体験を提供する会社。肺炎の流行で外出しづらい昨今、外遊びではなく「ウチ遊び」の体験を売る。

3.3 cotta business で、飲食店を取り込む

cottaを利用するのはアマチュアだけではない、街のお菓子店、パン屋などプロも利用する。以前からプロはカタログを通じてオーダーしていた。アマチュアもプロも使う材料や器具は同じ、量の多少はあれどニーズは似たようなものである。

こうしたプロ層が利用しやすいように始めたサービスがcotta businessである。ほしいものをほしいときにほしいだけ購入できて、プロ向けの割引もある。ここを皮切りに全国のプロを取り込んでいく・・という目論見であった。

3.3.1 嬉しい誤算

が、サービスを初めて見ると面白いことがわかった。当初はお菓子屋やパン屋からのオーダーを見込んでいたが、居酒屋、カフェ、フレンチレストランなど個人経営の飲食店からのオーダーが半分程度をしめた。偶然新規顧客にリーチできたのだ。

そもそもこうした飲食店はハナマサや業務スーパーなど、プロ向けの店で食材や包装材料を調達していた。

いちいち買い出しに行くのはとても面倒くさい(行って戻るだけでも重労働)。デザートやパンはメインディシュほど量を作るわけではない。問屋からオーダーしてしまうと材料が余ってしまう。

彼らがコスパの良い調達方法を求めてたどり着いたのがcotta businessだったのだろう。

この顧客層は前述のアマチュア層と同様、価格にシビアである。利益を取りにいける顧客ではないが、増収のために積極的に取り込んでいきたい顧客層である。また、この層はSNSなどもマメにチェックする。後述するがテレビCMなどでも取り込んでいける層である。

3.4 商品を選びやすくする工夫

cottaの商品はとても多い。同社も今の利用客数から見るとラインナップが豊富すぎると感じているらしい。実際包装材料、食器、調理器具、収納器具などのcottaオリジナル商品。資格や動画教材などの無形商材などは着々と増えている。

いろいろな商品を揃えてみて同社が感じているのは、選択肢が多くなりすぎたこと。顧客が増えたとしても「品揃えが悪い」と思われることはもちろんない。逆に「多すぎて選びにくい」と思われることは大いにありえる。

経験のあるアマチュアやプロはほしい物にたどり着けるが、「お菓子を作ってみたい」というビギナー層はそうではない。同社は選択を後押しするような工夫が必要だと考えている。前述のキットの販売はもちろん、特集ページを作って「迷ったらこれ」というように商品を紹介することも考えている。

3.5 配送費は今がピークか

前回のレポートでも書いたとおり同社は去年の7月に新潟に物流センターを設けた。

上がり続ける配送費を圧縮することが狙いである。

当初は在庫管理、発注タイミング、倉庫作業などが習熟しておらず、在庫管理に失敗することもあったようだが、ここにきて習熟が見られるようになってきたという。

この配送センターを最大活用することで配送費は今をピークにして削減していけると考えている。

4 外出自粛ムードはプラス

肺炎の流行により、外出自粛が勧告されている。肺炎の流行が収まったとしても、国民の労働意識は大きく変わるだろう。体調が悪ければ出社してはならない。自宅でできる仕事は自宅でやっても良い。そうした意識が広がるはずである。

cottaはECサイトなのでそうした意識変革は大きなプラスである。家にいることが多くなり、家族で過ごす時間が増える。自宅で漫然と過ごすぐらいなら、なにか役に立つことを、こどもにとって有意義な経験はなにか。

一番手軽なのが料理である。食事ではなくお菓子、パン、など食べて楽しく、作って楽しいもの。そうした経験を求める人は増えていくだろうと踏む。

5 中国市場の開拓

同社はかねてより中国市場の開拓を模索していた。

海外に食料品を輸出するのはとても難しい。cottaオリジナルのアイディア商品を拡販するのもよいが、こうした商品はすぐに現地で真似されてしまう。

真似されず、輸出の規制が少ないもの。それが資格や動画教材などの無形商材である。無形商材の制作に協力してくれるのは、著名シェフや有名ブロガー達。彼らとのネットワークは同社がECサイトを開始した時期から着々と作り上げてきたもの。簡単に真似できるものではない。

こうした無形商材を売るために同社はOnedotと提携した。Onedotは育児に役立つ動画サービスであるBabilyを運営している。中国ではcottaはほぼ無名。このためOnedotとの提携に踏み切った。

同社はOnedotを通して商品を売るというよりむしろ、顧客にリーチして、チャットアプリ上のコミュニティへ送客を狙っている。提携先を通すとレベニューシェアしないといけないからだ。メインの商品はコミュニティ上で直接販売したいという。

では何を売っていくのか?

主力商品はcottaの独自資格だ。日本でcotta資格を求めるのはお菓子作りが好きなアマチュア達だ。勉強して、知識を得て、資格を取ることで達成感を味わうことができる。ただ、こうした資格を重視するのは日本人ぐらいのもの。

同社は中国ではこうした資格がむしろプロに売れると見ている。中国内ではSNSでお菓子を販売することが流行っている。大した衛生基準があるわけではないので、美味しい屋台料理が広がるように口コミで広まって客が集まっているようだ。こうしたプロ(セミプロと行ってもいいかもしれない)にアピールしていく。

資格はこうしたプロたちの箔付けになるはずだ。日本で有名なパティシエは中国でも有名。有名パティシエ監修の講座を修了した、というのは大きなアピールになる。

同社はゆくゆくは中国でお菓子作りの講習会なども開きたいと考えている。

6 まとめ

社歴の長い会社が二代目の社長に変わる。新社長は創業者の親族。というに良い印象を持つ人は少ない。筆者もあまりいい印象を持たない。

創業者がやってきたような挑戦が無くなるかもしれない。安定飛行をするだけの会社になるかもしれない。そんな心配がある。

インタビューを通してそういった心配は感じなかった。

いろいろなことにチャレンジして、フィードバックをもとに修正を繰り返していく。

大胆なこともやるが、慎重さは失わない。

創業20年以上を経ても挑戦する雰囲気は衰えていないと感じた。

広告費の増加も心配することはないだろう。成長期にある会社が多額の広告費を計上して知名度の上昇を狙うのはよくあること。

一番の心配は集客が上手く行くかどうかだ。実験は上手く行っているが、将来を確約するものではない。これはもう祈るしかない。

同社のさらなる活躍に期待したい。

銘柄研究所

Posted by 古瀬雄明