コラム 下方修正を避ける方法について by yamamoto

下方修正を「食らった」? 食らわない方法はあるの?

1Qの決算シーズンです。

思いもよらない下方修正に株価が急落し、「こんなはずでは…」と戸惑った経験は投資家ならば一度や二度はあるのではないでしょうか。

下方修正は株式投資の敵です。

今回は、下方修正を確率的に見ることで、下方修正になりやすい銘柄を見分ける方法論をひとつご紹介します。

準備するもの

分析したい銘柄の過去の売上と営業利益の時系列のデータ(年単位)を揃えましょう。多ければ多いほどよいが、過去10年分ぐらいあればよいでしょう。

手順その1

営業費用を算出します。

算出方法は、売上から営業利益を引きます。

営業費用のデータが時系列で得られました。

手順その2

営業利益率を算出します。

直近の営業利益率を算出。

手順その3

時系列データを年率の変動率に直します。

10年分のデータがあれば、9年分の年率変動率が算出できます。

20年分であれば19年分ですね。

出し方は、エクセルならば、=ln(ある年度の数字/その前の年の数字)

となります。(連続複利)

手順その4

その年率増加率の時系列データの平均や標準偏差を算出します。

増収率の標準偏差、営業費用の増加率の標準偏差を算出します。

(売上の標準偏差ではないことに注意。営業費用そのものの標準偏差ではないことに注意)

手順その5

営業利益率を営業費用の標準偏差で割ります。

これが1未満であれば、下方修正の確率は低くはないのです。

これが2以上であれば、下方修正の確率はかなり小さいのです。

実例 その1 新報国製鉄 (5542)

昨日、2018年8月9日に新報国製鉄は好決算を出しましたが、通期見通しを下方修正。株価は急落しました。(8月10日現在)。

過去28年間の新報国製鉄の増収率と営業費用の増加率のグラフが上のものです。両者の相関係数は0.965です。

過去の経緯をみると、よい年が数年続くと、ドカンと悪い年が出る。そういう傾向があります。

さて、この営業費用の増加率の系列の標準偏差は23%でした。

年率ですので、1年後、営業費用がプラスにもマイナスにも23%動く可能性は低くはないのです。現に、2割以上、費用が上昇した年は何度も観測できていますね。

そして、この会社の営業利益率は15%です。決して低くはないとはいえ、15%を費用の増加率の標準偏差で割ったら1を切ります。

つまり、コストプッシュ型の費用増の影響を受けて、利益率が減少するリスクは低くはない会社であることがわかります。

増収率の標準偏差は38%あります。

つまり、この会社は、売上の予測が難しい会社といえます。増収率で4割の標準偏差ですから、営業利益15%あっても、15を40で割ると1を大きく切ります。つまり、大幅減収減益のリスクも相応に高い会社であることがわかるのです。

そうはいっても、株ですから、減収から増収になるタイミングで買えば、ものすごく儲かるし、その逆をやればものすごく損をする、ということですね。

補足ですが、増収率のグラフをみればわかるとおり、すごくよかった年の次の年は増収率が鈍化するか減少するかしていることから、増収率の自己相関がラグ1でもラグ2でもマイナスの数字になっています。これは、何を意味しているかというと、とてもよかった年があったら、それよりもよい年はその後2年はなくて、3年目ぐらいからまたとてもよい年が出てくるパターンでしたよ、という意味です。

過去のパターンから読めるものはこの程度のことです。

実例その2 オービック (4684)

一方で、オービックという会社のケースですが、

増収率と営業費用の増加率のグラフは以下の通りです。新報国の場合と比べてメモリのスケールが全然小さいことがわかります。

増収率の標準偏差は3.4%です。

営業費用の増加率の標準偏差は3.8%です。

営業利益率は48%です。

営業利益率48を費用変化率の標準偏差3.8で割ると12.6となり、この会社がコストプッシュで下方修正になることはない、と断言できるレベルです。

増収率の標準偏差は尚低いのですから、下方修正のリスクはほぼない企業といえるでしょう。

営業費用の増加率の自己相関は一貫してマイナスの値であることから、継続的な効率化が可能な事業であることがわかります。

また、増収率の自己相関はラグ1でマイナスですが、ラグ2、ラグ3ではプラスに転じているので、トータルとしてはよい年の2−3年後はまたよいというサイクルが多少あるようです。いずれにしても、両者の自己相関の水準は低いレベルです。

業績の下方修正の要因など

下方修正になる要因は、販売数量が計画より出ないこと、商品価格が計画より低くなること、いずれにしても、計画よりも売上が出ないことがひとつの要因です。

もうひとつの要因は、コストプッシュによる費用増の影響です。人件費が上がった、材料コストや外注費が上がったなどのケースです。

今回、営業費用の増加率を時系列にして、その標準偏差が何%かを計量していきました。

営業利益率が15%の新報国製鉄は、営業費用が売上の85%ですが、その85%が、2割上昇することがありえますね。標準偏差は2割以上でした。よって、営業利益率15%よりも高い標準偏差なので、業績が見通しが難しい企業です。

(投資妙味はこういう企業にも存在するので、この企業が投資対象とはならないといっているのではないことに注意。)

営業利益率が48%のオービックは、営業費用は売上の52%で、それがブレるレベルともいえる費用増加率の標準偏差が4%未満でした。どう転んでも下方修正にはならない収益構造であるということです。

下方修正になりやすい企業

日々、世の中の変化に伴い、業況も変化しますので、下方修正は避けられません。

ただし、下方修正を避けたいならば、避ける方法はあります。

それは、利益率が高い企業で、費用の増加率の標準偏差が低いものを選ぶことです。

今回は、たった二つの系列、売上と営業利益の系列だけから簡単に算出できるものを紹介しました。たった2つの系列を整理するだけですから、お気軽にやってみてください。

一般的には、価格支配力が弱い企業、あるいは、競争の厳しい企業は、コストアップを商品価格に転嫁できません。よって、価格支配力の低いシェアの低い、競争の厳しい企業ほど、外部環境の変化に弱いことになります。概ね、低いPER企業はこのような傾向があります。

つまり、PERの低さは下方修正の確率の高さとも見なせます。

PERが低い企業は、状況が固定されて、なにも変わらないならば投資回収期間が短くなることを意味します。逆に、状況の変わりやすさがPERの低さともいえるので、業況の変化で投資回収期間が長引く可能性もあるのです。

 

コラム 下方修正を避ける方法について by yamamoto” に対して1件のコメントがあります。

  1. yama より:

    つなぎ売りしたらいいと思うのですが

    1. 山本 潤 より:

      yamaさま

      コメントありがとうございます。株価の変動をヘッジする手段としてとても有効な手段だとおもいます。

  2. hiji より:

    いつも楽しく拝読させて頂いております。
    費用増加率の標準偏差に基づいて下方修正リスクを避ける手法、勉強になりました。
    ありがとうございます。
    質問ですが、手順5で、営業利益率を営業費用増加率の標準偏差で割った値を算出していますが、営業利益率が会計年度で異なる場合、どうすればよろしいのでしょうか?
    それと手順5は、正規分布に従うことを前提に、営業利益率が、営業費用増加率の1σ内に入る状態(63.4%)、2σ圏外となる状態(9%)に振り分けて下方修正確率を検討しているという理解で正しいでしょうか?

    また実例1(新報国製鉄)では、営業利益率を、増収率の標準偏差38%の1σ内に入るかどうかで、減収リスクを推測していますが、これは手順5と同様の理解で正しいでしょうか?

    長々と申し訳ありませんが、御教示頂ければ嬉しく思います。

    1. 山本 潤 より:

      hijiさま

      コメントを寄せていただきありがとうございます。配慮が足りませんでした。
      変則決算の場合、12ヶ月換算の売上、営業費用を算出する必要があります。
      7ヶ月決算の場合、7で割って12をかけることで年換算の値になります。

      季節性の影響が出てしまいますので、もうひとつ、変則決算のデータを消去し、サンプル数をひとつ減らすという方法もあります。

      これらの二つの方法で両方とも試してほしいです。
      年率換算した後、あるいは変則数字を消去後の生の売上、営業費用を出した後は、手順通りです。変動率を出して、その変動率の標準偏差を算出ください。

      後半のご指摘はhijiさんのご理解の内容で構わないと思います。

  3. 石川臨太郎 より:

    山本さん いつも勉強させていただいています。

     四半期決算で前年同期比で微々たる減益でも異常なくらい株価が下がります。

     主力投資先としている昭和電工など、四半期ごとに増益修正を続け、今後も四半期ごとに増益修正をすることが見えているのに、株価が大きく売られます。

     デイトレードのような短期バクチ売買でしか利益を確保できなくなり、中長期の時間軸で投資している投資家には厳しい状況ですが、こんな時ほど企業のファンダメンタルズ分析を重視して、投げ売りされた有望企業をポートフォリオに増やしていきたいと考えています。

     4月頃に山本さんが取材メモを書かれた出光興産が昭和シェル石油との企業統合を進めるために創業家と和解の前提として、来期から配当を純利益の50%以上という方針を打ち出しました。

     中期的に企業の存続を危うくするような冒険とも思えますが、いままで配当を押さえすぎていた企業が3年だけ配当を純利益の50%(ただし自社株買いなど10%を含む)以上とすると、株価に与える影響はどう考えたらよいのでしょうか。

     ご教授いただけるとありがたいです。

    1. 山本 潤 より:

      石川様

      コメントをありがとうございます。
      先行きの不透明な状況になりますと、業績がよいのに売られてしまうことがあります。
      デイトレードでボラティリティを利用して儲けることを専業にしている人々にとっても、年々、儲けるのは困難になっていると思います。
      短期で相場を当てるのは尚難しいと思います。

      長期で相場を見る場合、投資の含み益が減ることも増えることも一時的な現象です。
      今の株価の水準が下がったからといって一喜一憂することは長期の投資においては好ましい態度ではないことは石川さんもよくおっしゃっていることかと存じます。

      今の株価は単なる幻影に過ぎないし、どうしても売りたい人が無理に売るから弱気相場になっているのでしょう。
      毎年のように増えていくキャッシュや配当がじわりじわりと投資を回収してくれるのですが、株価が下がると回収スピードはその分早くなるので、株価下落は一般的には喜ばしいことです。
      ご指摘の銘柄たちは、益利回り20%近くあるので、競合環境や需要の見通しに自信があるのであれば、追加で投資する局面であろうと思います。追加投資により投資回収期間が短縮されるのですから。

      一時的な増配(たとえば記念配当等)であっても、増配自体は株価にプラスになります。4年後、5年後の配当水準が予想できないのが元売りの業界の悲しいところですが、ROEがそもそも低い業界であるので、この業界の配当性向はわたしは100%近くであるべきだと思います。他分野への高水準の投資がうまく行ったとは言えない状況であると思いますので、経営効率を高め、さらに業界再編をすることで、安売りをやめて適正な利潤を得て、利益はすべて配当するという姿勢がこういう業界には必要だと思います。

  4. 石川臨太郎 より:

     山本さん 早速のご返事、ありがとうございます。

     今日は大きく下げた日本精鉱、小野さんが分析した、生まれ故郷の上田市の長野計器、相川さんが分析しパウダーテックなどを買い増しています。

     自分で選んだ大同特殊鋼やオーデリック、相川さんアイシン精機の設備投資のレポートを読んで安心して買えるようになった自動車部品のジーテクト、ユニプレス、エフ・シー・シー、エクセディ、パイオラックスなどの優待株をバルクで買い増しています。

     これからの執筆者のみなさんのレポートを楽しみに読ませていただきます。

    1. 石川臨太郎 より:

      私がどの企業に投資したかは、意味のない余計なコメントでした。失礼しました。

       しかし、今のように企業の業績やビジネスモデル、技術力と将来性に関係なく株価が投げ売りされる状況下にあり、企業のもつファンダメンタルズや、それを築き上げてきた歴史を丁寧に分析して説明していただけるレポートは投資対象を選択するときの参考になります。

       そして投げ売りされた市場で一時的についた株価に怯えて、自分も付和雷同して投げたくなる不安を抑えるためにとても役に立っているので、とてもありがたいことだと感謝しています。

  5. hiji より:

    山本先生、迅速で明確なご回答を頂戴し、ありがとうございました。
    よく理解することができました。

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