7320 日本リビング保証 ―宅建業法改正が追い風 潤沢なキャッシュフローも魅力― by安田清十郎
2018年8月30日追記
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7320 日本リビング保証 2018年6月期決算を受けてのアップデートレポート by安田清十郎
https://double-growth.com/7320_2japanliving/
■日本リビング保証の概要
日本リビング保証は、住宅設備機器等の保証、住宅の検査や補修等をおこなう会社である。
2018年4月1日より改正宅建業法が施行され、中古住宅売買の際のインスペクション業者(建物の状態を検査する業者)のあっせん等について法定された。
これが、同社業績への追い風となっている。
また、同社は住宅設備機器等の保証料を一括で受け取る場合が多い。
しかし、売上や利益は保証期間に応じて按分計上される。
つまり、キャッシュフローと、PL上の売上や利益について、かなりのズレが生じる。
見た目の利益は小さくても、キャッシュフローは潤沢なのである。
インスペクションやキャッシュフローについては、この説明だけではわかりづらいので、後で詳述する。
■沿革
同社は2009年に4名が出資して設立された。
創業メンバー4名は、損害保険分野の出身である。
同社は長期の住宅設備保証について損害保険契約を締結したり、後述するBPO事業で損害保険会社と密接に関わったりしている。
損害保険を知り尽くしていることが同社の優位性の一部である。
同社設立当初は新築住宅の設備の延長保証事業のみをおこなっていたが、3年後に中古住宅向けの保証サービスを開始した。
翌年にはBPO事業を開始する等、既存事業を伸ばしつつ、常に新規事業を模索している。
■おうちのトータルメンテナンス事業
おうちのトータルメンテナンス事業は、住宅設備の「保証サービス」のほか、物件引き渡し前の竣工検査、引き渡し後のアフター点検等をおこなう「検査補修サービス」、将来のメンテナンス・リフォーム等のための「電子マネー発行サービス」の3つから構成されている。
新品の住宅設備は、通常、1~2年のメーカー保証がつけられている。
同社の保証は、これを5年または10年に延長するものである。
同社では、新築住宅の設備の保証を「住設あんしんサポート」という名称で提供している。
システムキッチンやシステムバス等、大型の住宅設備が故障すると、修理費用は数十万円に及ぶ場合が少なくない。
このため、同社が提供する保証サービスの存在意義がある。
同社の住設あんしんサポートの保証料は、住宅メーカーが負担する場合もあるし、住宅購入者が負担する場合もある。
住宅メーカーが保証料を負担すれば、住宅設備の延長保証付きの住宅ということで、付加価値が高まる。
新品の住宅設備であれば、状態にばらつきはない。
しかし、既に使われている住宅設備の状態はさまざまだ。
既存の住宅設備への保証は、状態を確認し、保証をつけられるかどうかを確認しなければならない。
よって、同社に住宅設備の検査のノウハウが積み上がっていった。
その後、検査・補修を単独でおこなうニーズが増加し、現在では、住宅設備のみならず、建物の躯体(屋根・外装・基礎等)を含む住宅全体の検査補修サービスをおこなっている。
なお、中古住宅向けの保証料は、おもに不動産の仲介業者が支払う。
これにより、仲介業者は、専任媒介契約を得やすくなるというメリットがある。
同社では、中古住宅の設備・建物本体の保証を「売買あんしんサポート」という名称で提供している。
電子マネー発行サービスは、将来のメンテナンス・リフォーム等に使われる電子マネーを発行するサービスである。
たとえば、保証サービスの保証料を分割で支払う場合において、月の支払いが3,000円であるとした場合、保証料相当額を1,500円とし、残りの1,500円は「おうちポイント」という電子マネーとして積み立てられるというものである。
同社では、これを「住設あんしんサポートプレミアム」等の名称で提供している。
このおうちポイントは、将来のリフォームや修繕に利用することができる。
なぜ、このような電子マネーを発行するのか?
それは、住宅メーカー等が、将来のメンテナンス・リフォーム契約等を確実に得られるようにするためである。
この点が、住宅メーカー等が同社の保証を顧客に勧めるインセンティブとなっている。
■BPO事業
BPO事業は、太陽光発電機器等の住宅設備メーカーが提供する延長保証サービスの運営をサポートする事業である。
具体的には、コールセンターで電話を受けたり、検査の手配、損害保険料の精算業務等をおこなったりしている。
なお、BPOとはビジネス・プロセス・アウトソーシングのことであり、業務の外部委託を指す言葉である。
住宅設備メーカーが延長保証サービスを提供する際、保険会社と損害保険契約を締結しているが、同社が間に入るのである。
もしも同社が間に入らないと、住宅設備メーカーが不必要な修理をおこなったり、修理対応が可能であっても簡単に新品に交換してしまう等、住宅設備メーカーと損害保険会社の間に利益相反が生じる。
そこで、住宅設備にも損害保険にも詳しい、同社のような第三者の業務受託会社が必要なのである。
なお、BPO事業は、ストック性が強いものと、一過性のものがあるようである。
一過性の部分については、業績のブレの原因となりやすいことに注意されたい。
■競合の状況
同社の保証サービスは、長期の契約については、将来、不測の損害が発生しないように損害保険を付している。
ここで疑問に感じるのは、保険会社が自社でこのような保証を提供すればよいのではないかという点である。
実際、SOMPOホールディングスグループのSOMPOワランティ等、損保系の競合もいる。
しかし、競合他社は、住宅設備のみならず、家電や自動車等の延長保証サービスも取り扱っている場合が多い。
日本リビング保証によれば、延長保証サービスのうち、住宅設備向けは約8%しかなく、現時点でのマーケットはそれほど大きくないうえに、細かなノウハウの積み重ねが必要であるため、住宅設備に特化して大手が参入するのは難しいという。
また、同社は住宅分野に特化しているので、不動産業界と損害保険業界の両分野に精通している。これも同社の優位性の一部である。
損保系以外でも、ジャパンベストレスキューシステム子会社のJBRあんしん保証、アクトコール、プレステージ・インターナショナルも、同様の保証サービスを取り扱っている。
このような競合は存在するものの、日本リビング保証は、住宅分野に特化しており、住宅事業者、不動産仲介業者と強固な関係を築いているのが強みである。
検査補修サービスについては、同社と日本ERI、LIXILグループのジャパンホームシールドの3社の寡占となっている模様だ。
■宅建業法の改正
2018年4月1日に施行された改正宅建業法では、中古住宅を安心して売買するための規定が整備された。
具体的には、不動産の仲介業者が媒介契約を締結する際に、インスペクション業者のあっせんの可否を示さなければならなくなった。
もしもインスペクションをおこなった場合、重要事項の説明や売買契約の際、仲介業者がインスペクションの結果を説明する必要がある。
この法改正により、インスペクションの需要が増加することが考えられる。
同社にとっては、検査補修サービスの受託のみならず、あわせて保証サービスを受託する場合も増えることが考えられ、同社の業績には追い風である。
■潤沢なキャッシュフロー
同社の新築住宅の設備保証は、期間10年のものが多い。
そして、保証料は、契約当初に一括して受け取るのが基本である。
売上の計上は、保証期間にわたって均等に期間按分される。
つまり、期間10年の保証契約時に、たとえば10万円を受け取った場合、契約時に10万円の売上が計上されるわけではなく、売上は1年目に1万円、2年目に1万円・・・・10年目に1万円と計上される。
注目すべきは、売上とキャッシュフローの差だ。
上の例では、1年目の売上は1万円だが、1年目のキャッシュフローは10万円だ。
実際に、2017年6月期の数字を確認してみよう。
同期の売上高は1,032百万円、営業利益は68百万円、経常利益は77百万円、当期純利益は90百万円である。
同期の営業キャッシュフローは819百万円のプラス、投資キャッシュフローは279百万円のマイナス、現金及び現金同等物は540百万円増となっている。
もう一度、よく見てほしい。
経常利益は77百万円、営業キャッシュフローは819百万円のプラスである。
そして、1年で540百万円のキャッシュが増えているのだ。
これは、2017年6月期だけの特殊事情ではない。
2016年6月期も同様の傾向である。
現預金は、以下のとおり順調に増加している。
2016年6月末 994百万円
2017年6月末 1,534百万円
2018年3月末 2,127百万円
新規の保証契約が積み上がれば積み上がるほど、キャッシュフローは増加する。
しかも、翌期以降の売上、利益も積み上がる構造である。
今後、売上に計上されるストック部分は、バランスシートを見るとわかる。
1年以内に売上に計上されるものは流動負債の「前受収益」勘定、1年を超えるものは固定負債の「長期前受収益」勘定である。
前受収益は、以下のとおりである。
2016年6月末 326百万円
2017年6月末 464百万円
2018年3月末 559百万円
長期前受収益は、以下のとおりである。
2016年6月末 1,614百万円
2017年6月末 2,258百万円
2018年3月末 2,766百万円
前受収益、長期前受収益のいずれも、順調に伸びていることがわかる。
2018年3月末の前受収益と長期前受収益の合計は3,325百万円だ。
2018年6月期以降、これが取り崩されて売上に計上される。
繰り返しになるが、これだけの今後の保証サービスの売上が確保されているのである。
しかもこれは、キャッシュとして、すでに受け取っているものだ。
手元のキャッシュが確保されることがいかに有利かは、次で検討する。
■2018年6月期業績予想とバリュエーション
同社は2018年3月30日に上場した。
同社は上場時、以下のとおり2018年6月期の業績予想を発表している。
売上高 1,182百万円(前年比14.6%増)
営業利益 104百万円(前年比54.1%増)
経常利益 111百万円(前年比45.8%増)
当期純利益 91百万円(前年比1.5%増)
その後、2018年5月14日に、以下のとおり業績予想を修正した。
売上高 1,270百万円(修正前比7.4%増)
営業利益 144百万円(修正前比38.4%増)
経常利益 141百万円(修正前比27.0%増)
当期純利益 112百万円(修正前比23.0%増)
本レポート執筆時点である2018年6月29日の終値ベースの同社の時価総額は約55億円である。
時価総額は純利益の約49倍であるから、PERは約49倍である。
ただし、注意しなければならないのは、上で検討したとおり、同社は、利益とキャッシュフローの乖離が非常に大きい点だ。
言い換えれば、会計上の利益とキャッシュフロー(しかも、利益の裏付けのあるキャッシュフロー)のどちらが重要かということだ。
「利益は意見、キャッシュは事実」とよく言われる。
たとえば減価償却の方法について定額法か定率法かを選択できるように、会計は、企業の実態を完全に、正確に、一つの尺度で表すものとは言い切れない。
一方、手元のキャッシュには意見が入り込む余地がない。
また、同社の利益は、過去に契約したものが後に分割計上されているだけであるから、今後の利益の確度は非常に高い。
そうであれば、同社のバリュエーションは、現在の利益だけではなくキャッシュフローも加味して考えるべきであろう。
同社に限らず、バリュエーションの計算においてキャッシュフローを重視すべきことは当然である。
しかし、利益とキャッシュフローにそれほど大きな乖離が生じない場合が一般的である。
特に、個人投資家は、利益を基準としたPERという一つの尺度で考えがちであるが、同社のような構造の会社については、特にキャッシュフローを重視すべきである。
キャッシュがあれば、新規事業に投資したり、他社を買収することも容易だ。
もしも良い投資案件がなければ、配当したり自社株買いをおこなうこともできる。
ウォーレン・バフェットがなぜ保険会社に好んで投資したかを考えてみると良いだろう。
それほど、強固なキャッシュフローの価値は大きい。
■今後の展開
同社の保証サービスは、主に住宅事業者や不動産仲介業者をとおして提供される。
つまり、これらの業者へ、いかに同社の保証サービスを売り込むかが問題となる。
現在の同社の主要な取引先は、大手の住宅事業者や仲介業者である。
取引先の層をさらに拡大することが目先の課題である。
取引先の拡大は、保証サービスのみならず、検査補修サービスのためにも重要だ。
検査補修サービスに追い風が吹いていることは上で検討したとおりである。
検査補修サービスとあわせて保証サービスの受託件数を増やしていくことが飛躍のポイントだ。
さらに大きな市場は、不動産業界用語でOB顧客と呼ばれる、すでに住宅に居住している顧客へのアプローチである。
住宅事業者は、新築や中古住宅の売買だけに頼りきっていると、今後は苦しくなってくるであろう。
そこで彼らが注目しているのが、OB顧客からの修繕やリフォームの受託である。
同社の保証サービスや電子マネーにより、OB顧客からの修繕やリフォームの受託が増加することが認知されれば、同社の業績はさらに拡大していくであろう。
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