9272 ブティックス 介護業界の商談型展示会を開催し、M&A仲介をおこなう by安田清十郎

2018年12月27日

■ブティックスの概要

ブティックスは介護業界に特化したマッチング・プラットフォームを提供している会社である。

もともと、BtoCの介護用品のeコマース事業で創業したが、その後、商談型展示会事業を開始。そこで培った顧客基盤をもとに介護事業者のM&A仲介事業を開始し、業績を伸ばしている。
他、介護事業者向けの会員制情報検索・マッチングサイトを運営するWEBマッチング事業をおこなっている。

同社の魅力は、各事業のシナジーである。
特に、商談型展示会事業で利益をあげつつ、M&A仲介の案件を集めている点が特徴的だ。

■沿革

同社の実質的な創業は2007年。祖業はBtoCの介護用品のeコマースである。

新村社長の前職はリードエグジビションジャパン。展示会を主催する会社である。ここで取締役まで出世している。
リードエグジビションジャパンの事業領域は、現在のブティックスの事業領域と重なるが、ブティックス創業時には、社長は展示会を主催することは考えていなかったというから驚く。

新村社長の親族が介護用品レンタル事業を営んでおり、その立て直しのために事業を買い取ったのが起業のきっかけであった。
ただし、個人向けの介護用品レンタル事業は介護保険に左右されるし、利用者は、従前の使用者に思いを馳せてしまうという欠点があったので、個人向けの介護用品の販売事業、それも介護保険を使わないもののBtoCのeコマースを開始した。

BtoC事業を数年おこない、介護用品メーカーと信頼関係が培われた。介護用品を介護施設に売り込む場がほしいというニーズもわかってきた。

一方、介護事業者は、日々忙しいが、新たな介護用品の情報が手軽に欲しいし、手短に商談をおこないたいというニーズもわかった。

そこで、介護用品メーカーと介護事業者双方のニーズを満たす場として、商談型展示会を始めることとなった。

展示会開催準備中から、介護事業者の情報が集まり始めた。その際、「介護事業の会社を売りたい」「介護事業の会社を買いたい」という話も集まりだした。
そこで始めたのが、M&A仲介事業である。

■BtoC事業

BtoC事業は、介護用品のeコマースである。
「けあ太郎」「車椅子販売センター」「くつ急便」「介護ベッド販売センター」といったサイトを運営している。

楽天のようなモール型ではなく、自社で仕入れ、販売をおこなっている。

ただし、基本的には在庫リスクを負っていない。受注があって初めて仕入れるのが基本である。
介護用品は、いまのところ、「大急ぎで明日、すぐに欲しい」というようなものではないと一般的に認識されているがゆえ、この方法をとることができる。

BtoC事業は、減益トレンドであり、2018年3月期のセグメント利益は赤字である。

ただし、介護用品メーカーとの関係を維持することがBtoB事業の業績に重要なので、同社は、BtoC事業を継続することが大切であると考えており、収支の状況を調整しながら運営していく方針だ。

 

■商談型展示会事業(BtoB事業)

同社の商談型展示会事業は、介護業界に特化していること、決済権限者が参加することが特徴である。

これまでも介護業界に特化した展示会は存在したが、公的な色彩が強く、業界全体の活性化を目的にしたものが主であった。
このような展示会の目的は商談ではないため、出店するサプライヤー(介護用品メーカーや商社、高齢者施設向け設備や備品関係の会社、高齢者施設向けサービスを提供する会社等)は、決済権限者が参加していなかった。

一方、ブティックスの商談型展示会は、目的が商談なので、サプライヤー、介護事業者とも、決済権限者が参加する。
サプライヤーにとっては、ピンポイントに見込み客がたくさん来場するからメリットが大きい。介護事業者は小規模企業が多く、購買部門として専任の人員を配置する余力のある企業は多くない。
展示会のその場で商談ができるから、サプライヤー、介護事業者ともに、メリットが大きい。

同社の展示会は、出展するサプライヤーの出展料が主な売上となる。介護事業者の来場は無料である(一般個人の入場は不可)。
展示会の企画は1年程度かかるが、売上計上は展示会が現実に開催された時点である。ただし、準備段階で前受金を受領し、開催費用(展示会会場費用や広告費等)を支払う。
この方法のメリットは、売上計上前にキャッシュフローが発生すること、業績予想の確度が非常に高いことである。

商談型展示会は、まだまだ開催地を広げている途中のフェーズであり、今後も拡大が見込まれる。

 

■M&A仲介事業(BtoB事業)

同社のM&A仲介事業は、介護業界に特化している。
展示会の出展者、来場者が増えるに従い、売り手や買い手が集まってくる構造である。

介護業界全体は伸びている業界であるが、介護事業の売上は、介護保険に大きく依存している。介護保険の報酬は、下げトレンドである。
つまり、介護事業者にとっては、現状維持は衰退を意味する。介護事業者にとっては、今後、攻めるのか、それとも衰退を受け入れるかの2つに1つしかない。

介護保険には、人員数の基準がある。つまり、一定の人員数を満たさなければ、事業を継続することができない。
ただでさえ人手不足と言われている昨今、小規模事業者が人員を採用するのは容易ではない。
大規模事業者であれば福利厚生がしっかりしているし、たとえば現場要員からマネージャーに転身する等、キャリアアップの道も開かれる。
よって、小規模事業者が大規模事業者に買収されるのは、従業員にとって悪い話ではない。
また、介護施設の利用者にとっても、良いサービスを受けることができるようになるから、悪い話ではない。

M&A仲介事業は、ネットワーク効果が強烈に働く事業であると考えられる。
ここで言うネットワーク効果とは、あるネットワークの利用者が増えれば増えるほど、ネットワークの価値が増すことを指す。
身売りの情報は、当然ながら極秘だ。
売り手としては、当然、買い手が多い仲介事業者に依頼したほうが売却が成功する確率が高くなる。すると、その仲介事業者には売り手の情報が集まってくる。それによって買い手がさらに集まる。
このようにして、勝者がさらに強くなっていく。
介護業界に特化しているから、業界の内情に詳しいというのも、案件が多く集まる理由である。

同社には現在、約3,000件の買い手のデータベースがある。
介護業界に特化してこれだけの案件数を抱えている会社は他にないという。
また、同社は証券会社・銀行・M&A専業会社がターゲットとしづらい小規模案件を多く抱えている。

さらに同社のM&A仲介事業がすごいのは、集客コストが低い点である。
顧客は同社展示会の利用者がベースだから、まっさらな状態から一生懸命集客するより、はるかに有利だ。

 

■2018年3月期通期決算と2019年3月期業績予想

2018年3月期通期の着地は、以下のとおりであった。
 売上高 1,333百万円(前年比19.8%増)
 営業利益 122百万円(前年比82.1%増)
 経常利益 105百万円(前年比57.4%増)
 当期純利益 73百万円(前年比53.9%増)

2018年4月3日に上場した際の業績予想は以下のとおりであり、すべての項目で上振れた着地となった。
 売上高 1,328百万円
 営業利益 108百万円
 経常利益 96百万円
 当期純利益 62百万円

新規上場企業については、業績予想と着地とのブレについての傾向、業績予想の信頼性についての資料が少ないが、少なくとも上場後はじめての決算を見る限り、これらの点についての心配はなさそうである。

2019年3月期の業績予想は、以下のとおりである。
 売上高 1,604百万円(前年比20.4%増)
 営業利益 207百万円(前年比70.0%増)
 経常利益 207百万円(前年比97.5%増)
 当期純利益 134百万円(前年比82.8%増)

2018年3月期の着地も、2019年3月期の業績予想も大変すばらしいものである。

2019年3月期は、大幅成長が見込まれる商談型展示会とM&A仲介に注力していく。

 

■収益構造と今後の見込み

これまで述べてきたとおり、同社の事業は大きくBtoC事業とBtoB事業に分けられる。
同社の業績のセグメント情報も、この区分けがされている。

2018年3月期の各セグメントの概況は、以下のとおりであった。
・BtoB事業
  売上高 774,208千円(前年比55.3%増)
  セグメント利益 311,927千円(前年比71.0%増)
・BtoC事業
  売上高 558,968千円(前年比9.0%減)
  セグメント損失 21,067千円(前年は16,650千円のセグメント利益)

収益ドライバーは、明らかにBtoB事業である。
ただし、BtoC事業も大切であることは、上で述べたとおりだ。

2018年3月期の商談型展示会事業の出店小間数(出展社に貸し出すために仕切られたスペースの単位)は、前年比35%増であった。
同期のM&A仲介事業の成約組数は前年比68%増であった。

BtoB事業内部の各事業の売上高や利益は現段階では明らかではない。しかし、上記のとおり、BtoB事業のセグメント利益率は40.29%と極めて高い。

2018年3月期には、M&Aコンサルタントが3名純増し、7名となった。成約数は42組である。コンサルタントは7名とはいえ、うち3名は採用したばかりである。実質的に4名が稼働していたと考えれば、M&Aコンサルタント1名あたりの成約数は10.5組である。

同社上場時の成長可能性に関する説明資料によれば、2018年3月期のM&A仲介手数料の予想単価は6,800千円である。
つまり、実質的に稼働しているM&Aコンサルタントが4名だとすると、1名あたりの売上は71,400千円である。
実際の期末の人員数7名で計算しても、1名あたりの売上は40,800千円である。

M&A仲介事業にかかる費用は、コンサルタントの人件費が大きなものであり、かつ、これがほとんどであると考えられる。
上場時の2018年3月期の業績予想のなかで、売上原価の予想として、M&A仲介サービスの売上原価として、紹介手数料5百万円を見込んでいる。成約は42組だから、1組あたり119千円程度であり、仲介手数料単価と比較すると、微々たるものである。
よって、M&A仲介事業の費用はほとんど固定費の人件費のみといってよいと考えられ、限界利益率が極めて高いと考えられる。

なお、2019年3月期はコンサルタントを5~6名採用する予定である。コンサルタントは中途採用で、M&A未経験者も多い。
同社の人材育成は、未経験者でも3か月の研修で案件を成約できるものとなっている。

 

商談型展示会事業もかなりの勢いで伸びている。
商談型展示会事業で利益をあげつつ、ここでM&A案件を集め、さらに利益を上げるという構造になっている。

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by seijyurouyasuda