4971 メック 半導体パッケージ向け表面粗化剤「CZシリーズ」で世界を席巻 by kuroki and yamamoto  

2018年12月27日

はじめに

営業利益率が高い企業は事業リスクが小さい。まず、バランスシート・リスク(資産価値の変動)は想定しなくてもよい。投資回収もスピーディだ。同社は薬液の会社であるが汎用品には関わらず、主に金属表面改質に化学物質の配合という「ノウハウ」を売っている。化学の会社ではあるが、基礎化学会社のようにドッグに隣接したコンビナートを持つ必要はないし、高圧のバブルや配管をはりめぐらす必要はない。投資負担が小さいため、フリーキャッシュフローは恒常的にブラスになる会社である。

バリューエションの考え。

将来の配当原資とも見なせるネットキャッシュを大きく含んだ自己資本をベースにしたROEが12%である。

原価と販管費だけを投資家が資本として提供すると仮定した場合、原価と販管費合わせたものが凡そ90億円程度だから、擬似的な拠出資本90億円に対して、税引後営業利益(NOPATという)が15億円(23億円の0.62倍)。

擬似的なROE、本質的な資本利益率は17%と仮定できる。(15/90=0.17)(もちろん、企業には内部留保があるのでこの仮定は現実的ではないが、投資の本質的な議論ではあるのだ)

(本質的資本利益率 = NOPAT / (COS + SGA))

SGA: 販管費 selling, general admin expenses,

COS:原価  Cost of Sales

逆に90億円以外の余分なキャッシュは将来のM&Aや配当や設備に回るものと見れば、拡大均衡策をとる同社の10年後は楽しみである。17%の10年の複利は5倍である。過去5年のBPSは2倍になっているが、10年後のBPSは3−6倍になっているであろう。配当成長率は実績で過去6年で2.4倍と高く、年率20%程度の配当成長率の実績である。

今後の配当成長率を15%と査定するならば、10年後には配当は100円である。これを市場平均の2%程度の配当利回りで評価すれば5000円が数年後の将来の配当を織り込んだ株価の適正価格ということになる。あくまで、一定の前提に立てば、だが。

(このようなことを言うと、10年? 長すぎる、待てないという人が必ず出てくる。しかし、過去を振り返ってほしい。あなたにとっても10年なんてものはあっとう間に過ぎ去ったではないか…長期保有に興味があるならば、10年保有する必要はないが、少なくとも10年先を想像することはしてもらいたいのだ)

この会社は売上の10%をR&Dに使い、社員300人のおよそ1/3をR&D要員としている。

連結社員数は15年で倍増した。先行投資を優先し、拡大再生産を着実に行ってきた。

着実に増収している。増収率は過去5年で1割だ。

1)増収が見込まれ、2)利益率が高い。

(実はこの2つの条件を満たす企業はなかなかない。なかなかないので書いているというわけだ)

この2つの条件があれば、純利益は複利で成長するからだ。二桁以上の複利なら長期保有で大化けする。

どうして、増収が可能なのか。これについては、長期政権を担う前田和夫社長の功績は大きい。ぶれない。そして、経営者がもっとも厳しいとき、苦しいときに、ぶれなかった。業績の底で研究棟を新設したり、採用を積極化する。

(これが正しいことは、不況下では、よい人材が獲得でき、不況下では設備投資も安く上がるため)

ITバブル崩壊やリーマンショック、民主党政権下の超円高、日本のエレクトロニクスの凋落を経験した。こうしたショック時に何を経営者が行ったかを検証すれば、大概の場合、どんな会社かはわかる。この会社は社員を裏切らない。経営者は揺らがない。それはレポートの最後の年表を確認してほしい。

5年後にこのまま増収が続けば、限界利益率から計算すれば営業利益率は30%に乗る。(いまでもR&DをかけなければOPMは30%である)

そのときのNOPATは30億円程度であろう。配当性向40%とすれば12億円が配当支払いとなり、600億円が想定される時価総額となる。株価3000円というところだ。

5年で3000円になって、10年で5000円になるだろうな、というイメージで考えている。5年前の同社の株価は500円。いまは2200円だ。

一年で株価が倍近くになったので、当面、短期的には上値余地は小さいかもれないが、長期保有に適する企業と考え、掲載することにした。企業研究として掲載する。

拡大再生産が可能になるためには潜在的な需要を開拓していかなければならない。潜在的な需要が多くの経営者には見えないが同社の社員や前田社長をはじめとする経営陣には見えている。なぜそれがわかるかといえば、彼らのR&Dの体制だ。研究開発型の企業として、同社には、「見えないけれどあるんだよ」と金子みすゞが詠った「昼間の星」が見えているのだ。それゆえ、複利の効果という長期投資の醍醐味を投資家は期待してよい。複利効果といっても、同社の持つ20%の複利効果は凄まじいが、低収益企業の3%程度の複利効果は複利の意味が全くない。低収益事業を長期保有する意義はない。つまり、ROEが低ければ長期保有をする意味がない。たとえば、みずほ銀行は資産208兆円で5000億円の純利益があるが、資産が倍になるにには、複利でも300年以上かかるだろう。

ROEが高い企業であっても、短期保有では、単利とそう変わらない。

そして、もっとも投資をする価値がない企業は潜在需要が見えない経営者だ。そういう企業へ投資しても、投資家の受け取る将来利益は単利の積み上げにすぎない。売上は伸びず、利益率を守るためだけにきゅうきゅうすることになるのだ。

せっかくROEが高い企業を見つけたのであれば、長期で保有しなければ複利効果は得られない。高い複利の長期の効果はときには1000倍以上である。長期投資の基本的な考え方であるが、高ROEを長期で保有せよ、だ。

メックの概要と業況

メックは1969年の創業以来、電子基板の製造工程で使用される化学薬品を研究開発、製造、販売している会社である。PC用電子基板向けの化学薬品からスマートフォン、車市場での拡販に成功し、足元業績を伸ばしている。詳細は後述するが、売上の50%以上を占め、電子基板用薬品である銅表面粗化密着向上剤「CZシリーズ」は、世界中で使用されており、非常に高いシェアを誇っている。特にスマートフォンに使用される電子部品は、高機能化や小型化が進んでおり、搭載する電子基板も高密度化の傾向だ。メックの各薬品は、顧客の高い要求に応えることが可能であり、今後も車の電装化など用途の拡大が見込まれている。

2001年ナスダックジャパンに上場し、現在は東証一部に上場している。

(49期は変則決算であり、日本単体9か月及び海外子会社12か月決算となっている、比較のため「49期調整」は、会社発表の数値を使用)

業況

業況としてはパソコン、スマートフォン、タブレット等の出荷台数に影響を受けるが、前期(49期)はスマートフォン、タブレット向けのパッケージ基板向けにシェアを拡大している「CZシリーズ」が業績をけん引し、売上高16%増、営業利益24%増の大幅増収増益であった。また特筆すべきは、営業利益率の高さで、4期連続20%を超えており、高収益体質といえよう。

また、リーマンショックの影響を受けた2009年3月期でも、売上高69.5億(前年比23.7%減)、営業利益8.7億(前年比58.3%減)と黒字を確保しており、限界利益率の高さがうかがえる。

さらに地域別の売上高比率は既に海外が50%以上となっており、年々拡大傾向だ。1990年の台湾支店を皮切りに、中国、香港、ベルギーと既に海外拠点はあるが、タイで販売力強化、生産能力向上を目的とした設備投資(工場建設等)をする予定で、操業開始は2019年。まさにグローバルニッチな企業である

CPUパッケージ向けの薬液CZシリーズが拡大期入り

メックの売上が拡大している。2013年には60億円規模であった売上が2018年には120億円へと迫る勢いだ。5年間の年率平均の増収率は二桁以上となった。

背景にあるのは、同社のCZシリーズの拡販だ。

CZとは「Copper Zarazara、銅ザラザラ」から付けられたシリーズ名で、プリント基板や半導体パッケージ基板の銅配線の酸化銅表面を粗面にする薬液である。粗面とは小さな凹凸をつけた状態にする。

半導体パッケージはPCの普及で90年代にセラミック基板からプラスチック基板へとコストダウンを狙って切り替えられたことは有名な話だ。インテルCPU向けパッケージではイビデン(4063)や新光電工(6967)などがプラスチック基板ではシェアを分け合っていた。1995年当時、パッケージの歩留まりが悪く、問題になっていた。銅配線とソルダーレジストが剥離してしまうのであった。

インテル社のFC-BGA基板 HPより

当時、普及しつつあったFC-BGA(FlipChip Ball Grid Array)では半導体チップの接点が増した事から、 基板と半導体チップ間において,両者の熱膨張係数(基 材:約20~30ppm/℃,半導体チップ:<10ppm/℃)の差異が熱履歴による変形歪みとなり,ソルダレジストへの負荷と なって亀裂が入り配線回路が断線してしまうのだ。

また高密度化のためにビルドアップ基板が用いられるが, ビルドアップ材の熱膨張係数(約40~100ppm/℃)が大きく,両面基板よりも熱履歴による歪みが増し、パッケージの歩留まりが上がらなかった。

ビルドアップ基板

パッケージの役割のひとつは、配線のショートを防止するであったから、剥離はショートや断線に繋がる。集積回路(CPU)は作動すると100度以上になる。特に微細化が進めば進むほど、発熱はひどくなる宿命だ。そうなると、ある一定の温度を超えると基板樹脂の熱膨張係数は急激に上昇することがわかっている。剥離の問題は、酸化銅の表面を粗面にすることで、アンカー効果(凹凸による密着面積の増大)により樹脂と銅箔とが剥がれにくくしようと取り組むことになったが、その粗面化の薬剤がメックのCZ8100であった。CZ8100がインテルの認定を受け、シェアの独占状態が現在まで続いているのだ。

このCZシリーズのインテルCPUパッケージへの採用によって、メックの業績は1999年までには売上50億円の会社へと成長した。

PKGの配線の微細化

PKGの微細化も時代と共に進展している。CPUの演算能力は周波数の高速化によって向上するが、電圧の低下(電流の増大)によりCPUの演算速度は向上していった。on-offのMOSトランジスタのスイッチングスピードは素子の小ささに比例するから微細化は有効な手段なのだ。また、大量のデータを記録するメモリーもその容量はトランジスタ数に比例するから素子を小さくすればそれだけ大容量になるのだ。半導体の端子の幅も小さくなり、半導体自体も高密度の端子を備えるようになったし、多機能化によってプリント基板に多数の半導体を高密度に実装するようになった。そのため、パッケージ配線においても半導体のトランジスタ数の増大に比例して銅配線を施すことになるので、銅配線幅をどんどん狭くしなければならない。満員電車の中では隣の人に触れても死なないが、パッケージを流れる電子は隣の配線に触れると死んでしまう。満員電車に乗る乗客は10年前に60キロでも乗せていたのを、たとえるならば、体重を5キロまで落として鉛筆のように餓死寸前まで痩せさせて絶対に隣の人には触れるな!という暴力的なことがブラックな配線の世界では当たり前になってきたのだ。非常にまずい例えだが、せっかく書いたのでそのままにしておく。

1990年はL/Sは100/100よりもゆるかった。Line and Spaceとは配線の幅とその配線間のマージンのことである。100とは100ミクロンメートルのことである。これが現在は10/10となっている。CZによるエッチングによる凹凸が1ミクロンであったから、もっと小さな凹凸が求められるようになった。そのため、CZシリーズは進化し、CZ8100に続いてCZ8101が投入された。

近年では、さらなる微細化のために、CZ8201が投入されている。このシリーズでは0.3ミクロンの凹凸が可能になるという。

CZシリーズが当初のハイエンドCPUのインテル製品に採用されたが、その後、発熱がかつては問題にはならなかった消費電力の小さな半導体(マイコンやスマホのプロセッサー)やセンサー分野においても、CZシリーズがここにきて採用が進んでいるという。また、パワー半導体においても樹脂基板の採用が進んでいることから電源モジュールやドライバーIC等にもCZを採用する動きがあるというのだ。

車載向けは同社は20年前は売上比1割未満に近かったが、現在は売上の1-2割あるのではと筆者は推定している。車載は信頼性が命だ。断線は事故に繋がる。多彩なセンサーやモータが次々と搭載が始まるため、同社にとって車載向けは大きな市場となるだろう。

  CZシリーズの拡販分野
1990年代 CPUパッケージ。ビルドアップ基板向け。ソルダーレジスト処理向け。
現在

PC、スマートフォンのマザーボード、ソルダーレジスト前処理に加えて層間絶縁材上の銅箔の粗面も加わる。数量だけではなく員数が増加。

また、各種センサ、メモリ基板、パワー半導体パッケージ向けに用途が拡大中。

IoT時代では500億個のセンサーが普及すると言われている

 

グローバルニッチ

同社がシェア100%を保っていることは脅威的である。しかも、変化の激しいエレクトロニクス業界において。1995年に開発されたCZ8100がいまだに売られていることには驚愕する。

この20年の間、新規参入の動きはあったようだ。薬液である以上、分析すれば成分は特定しようと思えばできる。にもかかわらず、同社の牙城が揺るがなかった主な理由は2つあると思う。

ひとつは、技術サポートだ。

同社は売上の1割をR&Dに費やす研究開発型の企業だ。分析ルームでは、高価な分析機器が並ぶ。基板メーカが無料で使えるようにしてあるという。JEOL製の電子顕微鏡などの分析機器が何台も揃えられている。同社の顧客の多くはこのような高価な分析評価機器を揃えていない。そこで、顧客に無料で使わせ、そのニーズを聞き出し、相談にのることで、新規開発を進めているのだ。非常に上手いシステムである。顧客がいま何に困っているかの課題を彼らはすべて抑える。

さらに、顧客が持つべきスプレー装置などの量産ラインも同社は保有している。新製品については、どの機械でどうすれば歩留まりが上がるのかを丁寧に指導する。顧客の買うべき機械まで仕様を決めているのだ。こうした技術サポートは、顧客の歩留まり向上や安定という顧客の利益をコミットする経営姿勢であり、顧客から高く評価されている。ライザップではないが、結果をコミットする、わけだ。

もうひとつは、ニッチすぎる市場であり、大きなコスト削減の対象にはならない薬剤であるからだ。トータルのパッケージに占めるコストの1%以下である同社の薬液を半値にしたところで、パッケージコストは(0.5%)しか下がらないし、そのため、歩留まりは悪化してしまう。同社の薬品は、歩留まりをあげるためのものである。

主な理由は2つ書いたが、他にも参入されないような、いろいろな理由や背景があるのだろう。たとえば、最終顧客が最大手のCPUメーカであったり某北米スマホメーカであったりするからだ。そういうメーカは認定が厳しい。勝手に中国ローカルメーカの薬品にスイッチはできないのだ。

また、技術流出しないように、拡大均衡策をとってきた。同社の歴史の中で、リストラはなく、また、離職率は極めて低い。関西地盤ということで、優秀な学生が確保しやすいという。リーマンショック時も人員を減らすどころか増員しているのだ。優秀なスタッフと自由闊達な社風が社員に生きがいを与える。チームとしてのベクトルが合っている組織は強い。

  • 技術トレンドが追い風。スマホの充電池のスペース確保のために、基板の微細化が進んでいること(L/Sのさらなる微細化)
  • パッケージ原価1%に満たない薬品であるため参入企業がないこと。そのためにシェアが100%であること(競争がない)
  • IoTなどの新規分野におけるCZの採用(新規用途の拡大)
  • 従来分野における層間絶縁膜(ABFなど)へのCZプロセスの新規採用、SRだけではなく層間にまで適用分野が拡大していること (員数の増加)

新たなる用途が次々と花開く

UTシリーズは、圧延銅箔向けの粗面処理薬液だ。スマホでは、フレキ基板の採用が増加している。3Dで配線の引き回しの自由度が高いフレキ基板の活躍の場が広がっている。同社のUTシリーズ(uniform transformから名付けた)が着実に伸びているという。フレク基板とはFlexible Print Wiring Boardのことで、ガラケーの折りたたみ部分に使われていたものだ。ねじったりする用途で使われるため、電解銅箔(めっき)ではもろすぎて応力に対応できない。そのため、折り曲げに強い圧延銅箔(銅板を物理的に引き伸ばしたもの)を用いる。圧延銅箔は結晶粒が大きく結晶面方位の均一性が高いため、凹凸形状が形成され難い。CZでは圧延銅箔に対しては、適切な粗化形状が形成されない場合や粗化ムラを生じる。(メックHPより写真下段中央)つまり、UTはそれらの諸問題を解決した難易度の高い薬液なのだ。

UTはCZの性能を兼ねていることも確かめられる。(相応に高価なものであろう)

また、新規分野としてブレイクしたのが、SFシリーズだ。(sulfuric acid freeでSF。硫酸をつかなわい)。これは、弱アルカリ性のエッチング薬液だ。タッチパネルの透明電極上の銅スパッタのエッチングに使われる。タッチパネルの配線は最終的に引き回しの銅箔に繋がれるのだが、ディスプレイ全面にスパッタし、ITO膜は残し銅だけを選択的にエッチングする薬剤SFが使われるようになった。銅といっても非常に薄い銅の層だけをきれいに溶かすというのだから想像するだけで疲れてしまう。

現在は、新型のスマホがOLEDであるので、液晶のようなインセル(TFT製造時にセンサを内臓する)が使えない。センサが外付けになるので、タッチパネルフィルムが使われるため、同社の活躍の場が広がっているのだ。スマホの今後の主だった新機種は軒並みインセルを使わないタイプになりつつあるという。スマホ向けのSFシリーズがブレ一クする見通しだ。

CZを軸に、SFとUTが伸びている。いずれの製品も粗利は極めて高い。

同社の前田社長は、昨年の説明会では「iPhone では、CZ シリーズ、EXE シリーズ、V ボンドなどが採用さ れ、スマートフォンの高性能化、高密度化に寄与している。自動車の ADAS 基板には、その高い信頼性のために CZ シリーズが採用される機会が増加している」と述べている。

また、5Gの普及により、高速伝送基板に同社のFlatBONDが期待されている。高速伝送を実現するには誘電率の低い絶縁材料が必要になる。そうなるとまた、材料と配線との剥離が問題になる。低誘電率材料向けの粗面形成需要が拡大するだろう。

5Gでは2時間の映画のダウンロード時間は4秒弱となり、4Gのときの6分よりも大幅に短縮する。

(今後の成長牽引のキーワードとして、「5G、IoT・AI、くるま」の3つを同社IRはあげている。)

縮小均衡ではなく拡大均衡策をとる会社。上場来の沿革

1999年 売上50億円で営業益6億円規模。創業者前田耕作氏(阪大工学部卒)が社長も兼任。
2001年

ITバブルが崩壊する中、11月に中国蘇州生産1000トン/月で生産子会社設立。

連結社員数157人。単体121人(37歳)。平均年収690万円。

2002年

前田耕作会長へ。社長には息子の前田和夫氏(神戸大卒)が就任。

ITバブル崩壊で営業利益が5億円に半減。その中で、R&Dを大幅に増強。研究棟整備で5.5億円を投入。

海外比率38%。アジア市場を日本の1.5倍程度と見積もる

2003年

日本のプリント基板メーカの淘汰始まる。携帯は折りたたみガラケーでフレキシブル基板が急拡大。将来、圧延銅箔向けのUTシリーズの開発及び拡販に繋がっていくことに。

中国は蘇州に続き広東省にも拠点を整備。

2004年 ITバブル時の営業益に並ぶ。株価は2001年の高値1000円を大きく更新。株価は2000円を突破。創業者の前田耕作会長が退任。会長職置かず、名実ともに、前田和夫社長の時代へ。
2005年

海外比率45%に高まる。連結社員数200名に。売上は初の60億円となる。

2006年 売上68億円で営業利益14億円と過去最高を更新。台湾工場を増設。台湾のキャパシティを3倍(900 ton/month)にすると決定。
2007年

売上78億円で営業益18億円と連続最高益。社員平均年収700万円乗せ。

車載用基板にも開発の力点を置く。

2008年 連結社員数240人。単体145人。売上91億円、営業益21億円。連続最高益。車載向けが売上の1割程度に達する。
2009年

リーマンショック。さらに原料高が追い討ち。ハーフエコノミーの衝撃。売上69億円へ大幅減収。そして、営業益は8億円第へと半減以下に。配当は半減の8円に減配。

ところが同社は攻めに出る。尼崎の土地20億円取得。二ヶ所目の研究所を設立。研究開発を高水準で継続を経営決定。

さらに、連結従業員を264名へと大幅増員。単体社員も164名へ大幅増員。ただし、不況下のため、人件費を抑制。平均年収はショック前の738万円から610万円に。

 

2010年 売上61億円で営業益8億円。人員をリストラせず、拡大均衡策を実施したことが将来の飛躍へと繋がった。研究所・本社集約。
2011年 売上70億円に回復。営業益9億円。資源高一服で原料価格沈静化。
2012年

連結社員280人。単体170人へ増強。樹脂と金属との結合薬品(アマルファ)をこの頃開発。

自動車向け需要を睨んだもの。自動車展示会などに初参加。

民主党政権下の超円高局面で苦しむ。

売上63億円、営業益7億円と減収減益。だが、またしても人員増加という拡大均衡策をとる。

2013年

将来増える電源向けにパワー半導体パッケージ向け薬液の開発進める。

タブレットのタッチパネル向けITO膜上にスパッタされた銅を選択的にエッチングするSFシリーズが急拡大。ディスプレイやスマホ用途への市場が突然、立ち上がる。

2014年 売上80億円、利益14億円に急回復。半導体パッケージの高密度化急進展。PKGの多層にCZシリーズが使用されはじめる。これまではソルダーレジストの前処理で表面だけであった。層間に使用されることで使用量が増えていく局面を迎えた。
2015年

40億円を投じて本社・研究所・製造工場を集約。連結社員数初の300人へ。

売上90億円、営業益20億円へ急拡大。

2016年 売上91億円、利益22億円と過去最高益を更新。連結社員320人へ。
2017年

連結350人。単体社員200名体制へ拡充。スマホ高機能化でCZシリーズ大きく伸びる。スマホにおける省スペース実現のためフレキ基板の使用量も増えUTシリーズが伸びる。17/3は増収92億円も先行投資負担で営業益19億円と微減益。

決算を12月に変更。9ヶ月間ならば売上96億円と過去最高。利益も20億円と実質的な過去最高益。

2018年

タイ新工場稼働。2018年12月の会社計画では、売上は初の100億円越え。116億円を計画。営業益は23億円を計画。いずれも過去最高の数字。

連結社員数350人。海外売上比率55%。

総括

20年で社員数2.3倍。売上2.3倍。利益3.8倍。

10年でBPSは2倍。配当は10年で1.5倍。

途中、ITバブルの崩壊、リーマンショック、民主党政権下の超円高を経験。

リストラを実施せず。拡大均衡策(拡大再生産)を継続してきた。

2017/12 OPM16%、ROE14%

 

参考文献

高周波パッケージの諸問題

味の素バイオ・ファインの見解

知財のフォロー

190の同社の特許出願が確認できた。

ほとんどは単独出願であり、単独取得は特許戦略の基本の「き」である。

共同出願は少ないがある。相手は、最先端の極薄銅箔を提供する三井金属(特許はTABのエッチング関連であったが)、そして、ユーザーのキョウデン(これは製造メーカも絡んでいる)、あとは、酸化防止材の提供メーカである和光純薬だ。

数少ない共同出願の相手

特に早期審査請求の比率は4分の1程度の48件である。

数は一見少ないがブラックボックス的要素が多い業界であり、ブラックボックス戦略と知財戦略の両面で競争力を維持していることがわかる。

早期の審査請求特許の推移

同社の出願即審査請求という特許の出願は2008年がもっとも多いので、このあたりで、ブレークスルーが起こったと推定できる。

2008年の特許をまず読むべきだ。

とりあえず、48の早期の審査請求を行った特許を列挙してみよう。

0 特許6338232
1 特許6333455
2 特開2017-226912
4 特開2017-150069
5 特開2017-048463
6 特開2017-048462
8 特許6000420
18 特許5618340
19 再表2014/171174
20 特開2014-132107
21 特開2014-111392
23 再表2013/187537
24 特開2013-167024
27 特許5219008
30 特開2013-065892
31 特開2013-052671
36 再表2012/063740
37 特開2012-094918
38 特開2012-019232
42 特開2011-195949
43 特開2011-181890
52 特開2009-221596
53 特開2009-185377
54 特開2009-149971
55 特許4278705
56 特開2009-102432
58 特開2009-079284
59 特開2009-076844
60 特開2009-046761
61 特開2009-030163
64 特開2009-019270
65 特開2009-019268
66 特開2009-019266
69 特開2008-109111
70 特開2008-106354
71 特開2008-007852
72 特開2007-262394
74 特開2007-129193
77 特開2006-229196
80 特開2006-028484
82 特開2005-154899
83 特開2005-035984
84 特開2005-023301
85 特開2004-349693
108 特開2001-140084
109 特開2001-068837
145 特開平06-280089
154 特開平05-263275

となる。これらは会社側が権利化をなんらかの理由で急いだ、という意味で先行して読む必要がある。2008年の出願ならば、55番あたりが怪しいぞ、ということだ。

投資家の時間は有限であり限られた時間の中で、プライオリティをもって読むことをお勧めする。

FIは3つ以上のものは、以下の通りである。

多い順に銅、銅合金のエッチング領域、鉄系のエッチング領域である。銅皮膜の扱いが技術領域である。

逆にC23F1/18でJPlatpatで逆引きをすると、2018年登録された権利はたったの5件しかないが、そのうち2件は同社であった。他には三菱瓦斯化学2件、日立化成1件である。瓦斯化学や日立化成の特許は粗面処理のエッチングではなくラインを切るための本格エッチングに関するであり競合はしない。このように、逆引きを使うことで競合関係を確かめることができる。2017年にはJCUが同じFIで特許を取得している。この特許は粗面処理に関するものであり、競合する。同社とJCUと太陽HDは技術交流があると思われるが、JCUの意図はなんであろうか、投資家は留意しておく必要はある。

特許のもうひとつの活用方法は、古い順に読むことである。これにより、ブレークスルーが時系列に整理できる。

特許は投資家が無料で得ることのできる有力な一次情報である。IR資料と共に活用することをお勧めしたい。

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by 山本 潤