7084 Kids Smile Holdings 待機児童問題が解消、いよいよプレミアム教育サービスへ軸足を移す by宇佐見聖果

2023年9月14日

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7084_Kids Smile Holdingsレポート_直近フォロー版(2023年8月8日)

はじめに

本レポートは、2023年1月に発行した同社の初回紹介基本レポートをベースに、それから半年が経過した2023年8月時点での、事業の進捗、変遷、及び将来の見通しについてフォローアップを目的に執筆したものとなる。本レポートでは、2023年6月29日に同社が発表した中計を反映させている。

同社これまでの歩み

リンク紹介

■初回紹介基本レポート:7084-Kids-Smile-Holdingsレポート_初回紹介版2023年1月7日

■動画版同社紹介(社長登壇2時間セミナー):

これまでの歩み

同社の創業は2008年12月。待機児童問題が日本社会を激しく揺るがせ、世の中の声に突き上げられるように内閣府が「新・待機児童ゼロ作戦」を打ち出した年だった。

2009年5月、同社代表取締役社長の中西正文氏は、妻である土居亜由美氏(株式会社Kids Smile Project代表取締役社長、同社取締役副社長)と一緒に、同社として1ヵ所目となる認可外保育所「キッズガーデンプレップスクール自由が丘」を開設した。

開設はしたもののなかなか園児が集まらない日々の中、公園や街へ赴いては親子連れや家族連れに話しかけインタビューを行い、ニーズを探っていった。求められる教育サービスを提供していくとする同社の理念がこうした中で育っていく。

2014年、それまでの実績が認められて同社1ヵ所目となる認可保育園を文京区に開設。2022年3月期までの間に66カ所の認可保育所を開設。何よりもまずは、日本の喫緊の課題であった待機児童問題の解消へ向けて奔走してきた8年間であった。

そして、待機児童問題が解消に向かいつつある現在。同社は新たな事業展開へ向かっている。

創業から14年、いよいよビジョンの核心へ

2023年初旬、同社は、2000年代に入って以降国内保育業界が直面し続けてきた待機児童問題が全国的に解消を迎えつつある状況に際し、本格的に事業の軸を調整していくタイミングにあった。定員数を増やすべく認可保育園の開設を第一優先として奔走してきたこれまでから、創業時から抱いてきたビジョン「教育を通じて社会に貢献する」の根幹である、最適を突き詰め開発を重ねてきた教育プログラムを備えたオリジナル保育サービスの拡充へ。

2008年12月の創業以来、同社が認可保育所の拡充と平行して運営を進めてきた、都内富裕層を対象とした認可外保育所「キッズガーデンプレップスクール」。この基本構想はそのままに、月額費用を10万円以内に収めることでより幅広い世帯へ提供の可能性を広め、かつ新たに保育時間の半分を英語で行う方針を盛り込んだ、新形態の保育所「キッズガーデングローバルスクール」、この1カ所目の開園が2023年4月に予定されていた。

それから約半年経った2023年7月現在。「キッズガーデングローバルスクール錦糸町」が予定通り4月に開園、運営が軌道に乗りつつある段階の今、グローバルスクールモデルを中心に全国展開を進めた先に見据える「キッズガーデン教育圏」確立への構想が具体化、明確化してきている。

■同社が運営する認可外保育所(既開設所及び予定開設所)

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

直近までの業績および中期経営計画に基づく分析

ここで、直近までの業績および2023年6月29日に開示された中期経営計画を踏まえて分析を行う。

独自プログラムに基づく教育施設の運営へと注力していく2024年3月期以降は、認可保育所の拡充に主軸を置いてきた2023年3月期までとは収支バランスの構造が変化してくる。これを明確化するために同社は、2023年3月期末の業績開示より、それまで1本で捉えていた事業を、認可保育園の運営に絞った「認可保育所事業」と、認可外保育園の運営に絞った「プレミアム教育サービス事業」に区分している。

これからは、より利益率の高いプレミアム教育サービス事業が業績を牽引

自治体が開設や運営に深く関与し99.9%が補助金によって賄われる認可保育所事業は本来的に、利益率を高める工夫の余地が限られている。それに対してサービス内容、ターゲット層の設定、価格設定を自社の責任において自在に決められるプレミアム教育サービス事業は同社にとって本領の発揮どころ。

プレミアム教育サービス事業で今後中心的に展開していく計画のグローバルスクールモデルは、開設から3年目の想定モデルとして利益率28%、スケール化における想定モデルとして利益率25%を掲げている。

■グローバルスクール(プレミアム教育サービス事業)1施設あたりの想定収支モデル

出所:同社資料「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2023年6月29日付)を基にリンクスリサーチ作成
※預かり人数(1日最大)70名の場合

■施設の開設計画

■事業毎の売上高(左)、営業利益(右)計画

出所:同社資料「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2023年6月29日付)を基にリンクスリサーチ作成
※本社経費等を配布前の数値

認可保育所事業は充足率が指標になっていく

待機児童の解消が主眼に置かれてきたこれまでは、児童を受け入れる場を提供すること、すなわち保育所の開設それ自体が収益に直結してきた。そこにおけるKPIは、いくつ園を開設できるか。しかし待機児童問題が解消へ向かい充足率が全国的に落ちてきている現在、焦点になってくるのは、いかに利用者から選ばれる保育所であり得るか。その指標が充足率となる

■全国保育所等の定員充足率

出所:「保育所関連状況取りまとめ」(令和4年4月1日)、(令和3年4月1日)を基にリンクスリサーチ作成

創立時からプログラムの開発を継続し、自身で運営する認可外保育所で実践を重ねてきた同社にとって、時代のニーズに応えるプログラムを揃えて提供していくことはまさに得意分野。保育所業界を取り巻くこの現況は競争優位性を発揮していけるチャンスと言える。既に、同社が運営する施設の充足率は上昇の推移をみせているが、この背景として同社は、伸芽会等との共同で開発したプログラムに対する顧客からの評価、及び顧客対応等に関する研修が社員に行き届いていることが背景にあると自負する。

■同社が運営する認可保育所の定員充足率(左:0-2歳 右:全年齢)

出所:同社資料「2023年3月期決算及び今後の事業戦略に関する説明資料」を基にリンクスリサーチ作成
※上表は、充足率が一定に達しない開設1~3年目の施設も含むことから、「全国保育所等の定員充足率」との対比において正確な整合性を持つものではない。

また現在、プロダクトアウトの形でプログラムそのものの販売もスタートしており、新しい事業の芽として育てていく方針としている。

営業赤字からの脱却、補助金の影響により経常利益は一旦減益の後成長

認可保育所に対する補助金の交付は、日常的な運営に係るものの他、施設の開設に要した工事費もその対象に定められている。この「施設整備費補助金」は営業外収益として計上され経常利益に反映されてきた。

これについて、同社は2024年3月期以降、認可保育所の新規開設を予定していないことから、同補助金の減収が予想され、それに伴い経常利益の一時的な落ち込みが見込まれる。その後はプレミアム教育サービス事業の成長に伴い回復の計画としている。


出所:同社資料「2023年3月期決算及び今後の事業戦略に関する説明資料」他を基にリンクスリサーチ作成

過去の業績及び将来の経営計画に基づく同社の業績推移を下記に示す。同社は施設整備型事業であるため、現実に即した指標としてEBITDAを営業利益に代わるものとして重視している。


出所:同社資料「事業計画及び成長可能性に関する事項」(2023年6月29日付)を基にリンクスリサーチ作成

バリュエーション

時価総額    32.9億円
株価      1,021円(8月8日終値)
会社予想EPS    24.7円
会社予想PER  41.1倍
PBR        0.53倍
期末配当         0円                                                         

●配当について

収入の99.9%が補助金によって賄われる認可保育園事業においては、補助金支給規定の観点より利益を配当へ回すことが極めて難しい現実がある。同社は創業以来これまで認可保育園の拡張に主軸を置いて展開を進めてきていたが、今後はプレミアム教育サービス事業へ軸足を移すとしており、同事業が一定の軌道に乗るタイミングで配当を開始する可能性が高い。

●PBR1倍割れの原因について

収入の殆どが補助金で賄われる装置型事業、かつ同社のビジネスが少子高齢化を背景とする中での保育所運営であること等、要因は複数考えられる。一方、同社が今現在プレミアム教育サービス事業へ軸足を移していくタイミングにあること、また、代表取締役社長の中西正文氏においては投資家へ事業説明の機会を頻繁に作る等IRに積極的であることは、今後、同社に対する投資家からの評価として何らかの形で反映されてくるものと考えられる。

                                                            以上

2023年9月14日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira