7084 Kids Smile Holdings 日本の低年齢教育はこれからが本番 by宇佐見

2023年2月3日

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7084 Kids Smile Holdingsレポート_20230107

はじめに

明治維新にルーツを持つ、日本の義務教育を中心に据えた教育形態の在り方が今、主に民間企業の先導で見直されようとしている。2010年代半ばを過ぎた頃から進化が加速しているAI技術、この数年で急速に組織運営に際し当たり前の前提になりつつあるDX、国境を越えた人材活用の多用化。多様な価値観が融合発展する「答えのない時代」21世紀が、いよいよこれから半ばへと差し掛かっていこうとする中、これからの時代を切り開いていける人物像を見据えて日本の低年齢期教育に取り組む、Kids Smile Holdings。この時代の変革期にある中での社会の根幹テーマ「教育」に対して同社はどのように捉えアプローチしているのだろうか。

教育分野へ身を捧げた父

株式会社Kids Smile Projectは今から14年前の2008年12月に設立された。(2018年4月に株式移転によりKids Smile Holdingsを設立し、Kids Smile Projectを完全子会社化)。創業者であり、かつ現在の代表取締役社長である中西正文氏は、自身のキャリア開花の場を子供の教育分野へ定めたバックグラウンドに父の存在を意識する。22歳の時に文部科学省へ入省し長く役人を務め、その後大学学長となり77歳で引退した中西氏の父はその55年の間、一貫して教育の分野へ身を投じた。そうした父の姿勢を無自覚にではあったが常に見守っていた中西氏の内面には、日本の教育業界へ貢献していきたいとの意思が次第に醸成されていった。大学卒業後、企業へ就職して社会経験を積んだ後38歳の時、志に従い同社を設立した。

■代表取締役社長 中西正文氏

出所:株式会社Kids Smile Holdings HP

まずは、日本が抱える喫緊の課題へ取り組む

保育園を主体にした事業を始めたい、と中西氏が明確に思うようになったのは2006年。待機児童問題が日本社会を激しく揺るがせている時期であった。内閣府が主導し2001年に「待機児童ゼロ作戦」を掲げたものの一向に事態の改善見られず、「新・待機児童ゼロ作戦」を発表したのが2008年、その同年に Kids Smile Projectを設立する。

日本の保育園は戦後、戦死した夫に代わり母親が唯一の働き手とならざるを得なかった家庭に対する社会福祉サービスとして発展してきたという経緯がある。それが今では、女性の社会進出に伴い一般家庭全般が必要とするインフラとして必要とされるようになった。時代の移り変わりに合わせて運営手法や提供内容は少しずつ変化させながらも、存在そのものの必然性は全く衰えていない。それならば、今から将来にかけての日本社会で保育園はいかに必要とされていくのだろうか。いずれ待機児童問題はピークアウトすることは見えている。その後は既存の保育園にどれだけ質の高い教育の要素を備えていけるか、そこが勝負どころになってくるのではないだろうかと同社設立に際して中西氏は考えていた。

厚生労働省管轄の保育園と違い、文部科学省管轄であって教育を運営主旨としている幼稚園は現在、株式会社の参入が認められていない。一方保育園は2000年に株式会社の参入が解禁されたところであった。身近に、優秀な女性が子供の預け先が見つからずに仕事を辞めざるを得なくなっている現状を目の当たりにもしていた中西氏は、待機児童問題解消後の教育提供こそが自らの使命と自覚すると同時に、今目の前にある社会のニーズにも応えるべく、保育園業界で同社の設立を決めた。

地道に実績を積んだ先、業界に認められる

2008年に立ち上がったKids Smile Projectは、2009年、最初の保育所として1~3歳を主に対象としたプレスクール一体型保育所を開園する(現:「キッズガーデンプレップスクール自由が丘」)。形態は、(当時)国からも自治体からも補助金を受けていなかった認可外保育園。2000年に民間主体での開設が解禁になるまで保育園の設立は社会福祉法人か市町村が請け負ってきた名残で、当時、民間による認可保育園の設立は実績がなければ論外、そもそも株式会社による設立そのものを受け付けていない自治体もまだあった。同社に先んじて保育園の設立を手掛ける企業は既にあったことが心強くはあったものの、やはり出だしは苦難であった。1園目を開設した後は⇒港区南麻布に2園目(2012年)、港区元麻布に3園目(2014年)の認可外保育園を開設と地道に活動を広げていく。初めての開設から6年後の2014年、まだ大半の自治体が、認可保育園の開設には認可保育園の運営実績を条件としていた中で、認可外であっても信頼し得る運営実績があればそれを認める方針をとっていた文京区から、同社の認可外保育園における取り組みが認められ、同社として1カ所目となる認可保育園が文京区内に開設されることとなった。これをきっかけにしてようやく認可保育園業界で認められ受け入れられた同社は翌2015年に認可保育園7園を開設、その後も順調に保有数を伸ばしていった。

■同社、認可保育園の保有数推移
※先行して認可保育園の展開を進めていた、認可保育園を保有する代表的な会社との比較において

出所:各社開示資料を基にリンクスリサーチ作成

■認可保育園を保有する代表的な会社、及び直近の保有数

出所:各社開示資料およびHPを基にリンクスリサーチ作成

■認可保育園の運営主体別数(2016年時点)

出所:厚生労働省資料「保育所の設置主体別認可状況等について(平成28年10月1日現在)」を基にリンクスリサーチ作成

理想の幼児教育を追求し研究を重ねていく

認可保育園の開設を進めると同時に同社は、待機児童数がピークアウトしたゲームチェンジ後のマーケットを見据えて着々と準備を重ねてきていた。例えば、海外の幼児教育視察。コロナ感染症の流行後こそ行けなくなってしまったがそれまでは頻繁に赴いた。自らのみならず現場で働く職員にも海外研修という形で海外の教育に触れさせていた。国内では研究活動に取り組む。中西氏の母校でもある早稲田大学との間では研究開発契約を締結し、勉強会や研究会を重ねてきている。また2022年3月に契約締結したリソー教育とは以前より子会社の伸芽会と組んでプログラムを開発し実践に落とし込んでいっている。このように学問領域と実践領域の2側面からのアプローチで、優れた知見を持つ他所の知恵を取り込み生かす手法で歩みを進めている。

同社が実践する幼児教育は根底の理念に、非認知能力とコミュニケーション能力の育成を据えている。対象とする年齢は自立して学習ができるようになる10歳より前の9歳まで。時間が経てば忘れてしまう知識や計算力などの学力を教え込むのではなく、10歳以降に自らの意思で学習に取り組めるよう、好奇心や探求心を育むアクティブラーニングを主体にした教育手法を採用する。と同時に、もはや終身雇用制度が通用しない世の中で様々な文化を背景とする海外の人々と渡り合えるコミュニケーション力の育成も大切にする。「幼児教育の経済学」の著作を持つジェームズ・ヘックマン教授(ノーベル経済学賞受賞)や幼児期からのアクティブラーニングを提唱するOECDレポート等を軸に、同社なりの調査や研究開発の成果を織り込み独自のプログラムを構築してきた。

一時期は2万5千人を超えた全国待機児童の数は2022年に3千人を切り、一応の解決は見えてきた。これからは利用者が施設を選ぶ時代、保育園に教育の在り方が問われるフェーズとなる。まさに今、同社が本領発揮への転換期として定めていた、ゲームチェンジのタイミング、すなわち待機児童解消を命題としていた時代から、教育の質を追求する時代へと切り替わった、そのように同社は捉えている。

■全国待機児童数の推移

出所:厚生労働省発表資料を基にリンクスリサーチ作成

独自の視点で選び抜いた、あるいは開発したプログラムで運営される各園

同社は認可保育所、認可外保育所の他、2019年から幼児教室、2021年から学童施設、2022年からはスイミングスクールの運営も行っているが、このうち同社が理想とする教育要素の殆どが注ぎ込まれているのが、2009年に開設したキッズガーデンプレップスクール自由が丘にはじまる現在5か所で運営している認可外保育園。これら基幹園を中心に運営される、こだわりのプログラムについて各要素をみていきたい。

①キッズプレッププログラム
リソー教育の子会社が運営する幼児教室、伸芽会(1956年創立)と共同開発したプログラム。「6歳までに身に付けたい5つの力」として、見る、聞く、話す、考える、行う力を養う構成で2016年に完成、現在、同社が展開する認可および認可外保育園、幼児教室で取り入れられている。

出所:同社HP

②モンテッソーリ レッジョ・エミリア・アプローチ
海外を視察した際に感銘を受け、導入を決めた。どちらもイタリアから始まった教育法で「教えない→教育」を軸としている。国内で唯一モンテッソーリ教育の国際資格を発給している国際モンテッソーリ協会の有資格者が職員として在籍し、展開する認可および認可外保育園、幼児教室で取り入れている。

③早稲田大学との共同開発プログラム:理科実験・プログラミング教育・アート
現在は主に幼稚部で採用されている他、小学生対象のプログラム(学童)でも活用されている。

④プロフェッショナルとの共同開発運動系プログラム
オリンピック選手に対するトレーニングを担う、株式会社R-bodyの持つノウハウであるコンディショニングトレーニングという手法を取り入れた体操プログラムや、北島康介氏が代表を務める株式会社IMPRINTが監修する水泳プログラムを展開、いずれも共同で研究開発を行った。運動系プログラムは、将来幅広い種目から特定のスポーツを選択する際に身に付けているべき基礎となる体の動かし方、怪我をしない体の動き方を体得することを目的に取り入れている。それに加えて運動を通じてチームワークを経験することも大切な要素と同社は考えている。

このような各プログラムが、1日のスケジュールに組み込まれ運営されている。

■3歳クラス 1日のスケジュール(キッズガーデンプレップスクール広尾)

■幼稚部(年中・年長)1日のスケジュール(キッズガーデンプレップスクール元麻布)

■学童 1日のスケジュール(キッズガーデンアフタースクールEducation Lab広尾)

出所:キッズガーデンHP

■認可保育園以外に展開している各施設

出所:同社HP、キッズガーデンHPを基にリンクスリサーチ作成

より多くの児童へ行き渡らせるべく、価格帯を下げた新スクールを立ち上げ

ところで、日本はOECD加盟国の中で子供の教育に対する公的支出(対GDP比)が最下層におり、子供の教育に対して少なくとも支出の面では世界標準に照らして消極的であることが見て取れる(下グラフ)。そうした中2019年10月1日より、同日から実施された消費税増税分を充てる(財源確保増4兆円の内8千億円)形で「幼児教育・保育の無償化」がスタート。中身は、3歳以上の児童については、認可保育園及び子ども・子育て支援新制度の対象となる幼稚園(2021年時点で全幼稚園の内50%強)は無償、認可外保育施設や預かり保育に関しては3万7千円(月額)を上限に補償。0歳から2歳児は非課税世帯に限定して4万2千円(月額)を上限に補償、というもので、依然として、子供に対して付加的な教育を与えたい場合に相応の自己負担が求められる状況にかわりはなく、子供へ与え得る教育の質が各家庭の所得程度に依存する傾向にある。

■教育機関に対する公的総支出の対GDP比(2018年)

出所:OECD「EDUCATION AT A GRANCE 2021」

■幼児教育機関に対する教育支出の対GDP比(2013年)

出所:OECD「EDUCATION AT A GRANCE 2016」

同社が展開する認可外保育園(キッズガーデンプレップスクール)は、入園金に加えて月額最大20万円強の費用がかかる。(上表参照)。一定所得以上の世帯以外にとっては月額4万円弱が国から補填されたとしても負担割合が高く、実質として、同社が提供するプログラムは、富裕層をターゲットにしたハイクオリティ幼児教育施設という位置づけとなっている。

しかし、そもそも富裕層マーケットを対象とすると、同社の理念を広く実現させるには限られてしまう。そこで同社は、様々な工夫を施し、月額費用10万以内に収まる(かつ国からの上限3万7千円の補償対象となる)新形態の認可外保育園の設立を実現させた。2023年4月に開園予定の「キッズガーデングローバルスクール錦糸町」となる。低価格の設定に加え、英語の強化へ踏み切った2020年の学習指導要領改訂を踏まえた時代の要請に応じて1日の半分を英語で過ごす要素も盛り込んだ、キッズガーデングローバルスクールは、今後都内各所のみならず全国主要都市への展開を計画しており、同社がこれまでに蓄積してきた教育ノウハウを加速度的に広めていける見通しを持っている。対象顧客層は世帯年収額1千万円以上で、これまでの40倍程度に広がる見込みとしている。

■1日のスケジュール(キッズガーデングローバルスクール錦糸町)

出所:キッズガーデンHP

中長期でバイリンガル教育を一つの柱として育てる

同社は現在、2023年4月に開園するキッズガーデングローバルスクール錦糸町に始まるバイリンガル教育を一つの柱として育てていく方針としている。日本の子供達への英語教育は喫緊の課題であるし保護者からの要望も強い。かつ事業として成り立つ仕組みも構築できた。キッズガーデングローバルスクール錦糸町と同じプログラム内容を備えた施設を全国的に展開していくことへ来期以降は注力していく方針としている。2023年5月に発表予定の中期経営計画で、今後の新規開設プランとそれに伴う各数値見込みの具体的な内容を示す予定となっている。

長期のヴィジョンでは、理想の教育プログラムを研究開発し提供していくスタンスを今後も継続。0歳から9歳までの一貫した保育・教育サービスを提供していくとする。例えば、スキー合宿や収穫体験、キャンプといった、現在は通園児だけに提供しているプログラムを一般向けにも整えていくプラン、さらにその次のステップとして、9歳までの子供を持つ家庭の生活そのものを豊かにするサービス提供へと広げていきたいという構想も温めている。

ビジネスモデル

同社は、売上に加え、認可保育園開設に伴う施設整備補助金収入(営業外収益)を含めた収入を実質的収入と捉えている。そのため、業績を営業利益で捉えた場合現状では赤字となるが、経常利益は黒字で推移している。また、国内の待機児童数が概ね解消したことにより、今後は認可保育園にかわり民間教育施設の開設に軸足を移す方針としている。また、開園2年目以降、児童が進級することで、定員充足率が上昇していき営業利益が改善されていくことから、中期展望で営業利益の黒字転換が見込まれている。

■売上高・営業利益・経常利益

出所:同社資料を基にリンクスリサーチ作成

業績および中期計画

同社の収益は、売上に加え、認可保育園開設に伴う施設整備補助金収入(営業外収益)を含めた収入となっている。よって売上に対して認識する利益としては、園開設にともなう設備投資に係る減価償却費を加算したEBITDAを採用している。そのため以下ではまず、全体収益を表す「売上高および補助金収入」、続いてその裏付けとなる「運営施設数及び在籍児童数」、そして利益率を把握するべく「売上高およびEBITDA/売上高」を示した。

■売上高および補助金収入(通期)

出所:同社資料を基にリンクスリサーチ作成

■運営施設数および在籍児童数

出所:同社資料を基にリンクスリサーチ作成

■売上高およびEBITDA/売上高

出所:同社資料を基にリンクスリサーチ作成

業績の分析に際して主要なポイントを以下に挙げる。

●2023年第2四半期の進捗
2023年度3月期の第2四半期までの業績は、売上高が計画に対する進捗度48.9%。営業利益およびEBITDAについても、定員充足率の上昇が昨年を超えるペースで推移しており昨年を上回る見通し。足元でも順調に進捗している模様。

●2022年5月に発表した中期経営計画の進捗
2022年5月に発表した、2025年3月期までを対象に定めた中期計画については新園の開設及び児童募集は順調であり23年3月期については予定通り、24年3月期も現時点においてほぼ予定通りの見通し。25年3月期に関しては現在、新規開設園の不動産確保へ向けて取り組んでおり順調に進捗中としている。

●コスト先行期の見極め
設立後黒字化までに要する期間は認可保育園がおよそ4~5年、認可外保育園が2~3年とのことであり、拡大期にはコスト先行の施設割合が多くなるため収益性はその分低くなる傾向にある。前述のビジネスモデルでも示した通り、認可外保育所の割合が増えることで収益性改善が早まる。

●職員の採用状況
労務管理に関しては、大半が個人経営の社会福祉法人が運営する保育園と比較した場合、有給取得や産休・育休制度の基準が明確で透明性が確保されている。保育士の給与は認可外保育園で初任新卒がと業界標準を超える。また、児童へ提供する各コンテンツについて職員向けのシラバスや研修動画が整備されている等、研修制度も整っている。複数園を展開しており異動の自由が効くことも評価され同業他社と比較し求人に対する応募率は高く、採用はそれなりに大変ではあるが順調とのこと。

                                                            以上

2023年2月3日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira