日本株はバブルでしょうか? いいえ。違います。by yamamoto

株式相場はバブル? 市場の需要と供給についての考察

株式投資のベテランの中には、信用の買い残などの信用取引の情報を活用し、株価チャートによる分析が上手い方がいます。それは結構なことなのです。株の世界をしっかりと理解しようとするならば株式以外の市場よく見るということだと思うのです。例えば日本株を見る場合、時価総額が日本よりも大きい米国市場を見るというのは誰もが知っていることです。

株式市場を見る上でもっと大きい市場はどこでしょうか。

答えは債券市場ですね。ざっと残高は株式市場の倍程度です。債券市場から株式市場への資金のシフトの方向性が株式の需給に大きな影響を与えます。その債券市場では、米国の長期金利の水準が重要です。数パーセントのインカムがあるのが普通だった債券利回りですが、米国で1%を下回るようになったのは2017年からです。10年債の利回りが0.1%まで低下したのが今年の春先です。その後、利回りは上昇し0.8%程度の水準です。

債券投資家の立場で物事を見ると世の中がより理解できるかもしれません。この先、利回りは長期的に上昇するのか。下落するのか。どちらでしょう。米国のインフレ率が1%を超える中です。さて債券投資家ならばどのような判断をするでしょうか。合理的には債券相場に対する上昇期待はあまり持てないと判断する方もいらっしゃるのではないでしょうか。

債券市場を見る上で重要なのは、やはり債券市場よりも大きな別の市場を見ることです。それは短期マネー市場です。短期金利の市場ですね。現金や預金の市場規模は債券の倍程度です。非常に大きなマーケットが短期金利の市場なのです。

さて米国の短期金利の状況はどうでしょうか。1ヶ月のUSD LIBOR(ロンドンインターバンク市場)の推移を見れば2018年から2%以上あった短期金利はコロナショック以降、消滅し2020年12月現在では0.2%以下になってしまったのです。短期金利が消滅してからまだ数ヶ月しか経っていません。CPIの上昇の方が高い状況下ですから、預金者の立場では、このまま0.1%で短期金利を短期で稼ぐか。あるいはそう入っても1%弱の長期債券を購入するか意見が分かれるでしょう。

この大きなキャッシュ・マーケットが債券市場の2倍の規模なのです。さらに債券市場が株の2倍の規模。そして日本株のウエイトはグローバル株式市場の中で極めて低く、他国の株式市場以外からの資金流入で評価を上げてしてしまう。これは短期金利市場、長期金利市場、株式市場という市場間のアセットアロケーション、そしてグローバル株式市場の中でのアセットアロケーションは、合理的なリスクとリターンの議論の帰結ですから、株式市場はバブルではありません。

-運用商品の評価はリスクとリターンとの関係で評価-

短期の短期金利資産ではボラティリティは1%未満ですがリターンも0.2%しかない。金利の変動により短期のマテュリティのものであっても元本の変動リスクはあります。一般的に金利の変動による影響をデュレーションで計りますが、1年デュレーションと10年デュレーションではデュレーションの長さに応じて流通価格は変動が大きくなります。したがって長期の債券市場ではボラティリティは3-4%程度でしょうがそのリターンは0.8%しかありません。これらのリスク・リターン比率(利回り/資産価格ボラティリティ)が短期のキャッシュマーケットで数分の1になってしまったのです。長期の債券市場では半分になってしまったのです。

株式市場の外で起こっている大きな大問題がこれです。

-インカムゲインの消滅!!! –

元本保証市場におけるリターンとリスクの比率の著しい悪化が起こったのです。株式投資のリスクとリターンはETFなどのインデックスではリスク20%でリターンは7%程度です。リターンをリスクで割って1/3です。金利商品である短期マネー市場や債券市場で株のリターン・リスク比率である1/3を下回ったのです。長期金利ものの場合、リスク4%でリターンが0.8%ですからね。

10年ぐらい前は債券のリターン/リスクが1程度はありました。まさに劇的な悪化です。相対的にリターンリスクの比率は上場株が勝るようになったのです。

-金利のお話-

金利の消滅の理由は非常に難しい質問です。金融の重心が米ドル圏のマネーマーケットですので米国の市場を中心にお話します。金利要因の一つはインフレ率です。インフレとパラレルに金利は動く傾向があります。皆様はお若いからオイルショックは知りませんね。1970年代に二度起こったのです。当時、私は小学生でしたが菓子パンとアイスクリームの値段がすぐに上がるので嫌になってしまいました。トイレットペーパの買い占めなどが起こってしまったのです。

原油価格が非常に安価だった時代は戦後1945-1970年ごろまではCPI(消費者物価指数)は安定していました。1947-1974年のCPIの上昇率は年率で平均3%でした。ですから金利はそれ以上でした。1970年代。オイル価格が暴騰してコストプッシュ型のインフレになりました。コストプッシュですので需要を喚起できずスタグフレーションの時代になり、株式の死と呼ばれる暗黒の時代を迎えます。

1974-1983年のCPIの上昇率(インフレ)は年率8.2%です。長期金利はもちろんそれ以上になります。

その後、レーガン、サッチャーという新保守が登場し、福祉国家型社会を資本主義型で競争社会へと、つまり、現在へと続く経済格差の容認方針へと変貌していきました。その後の40年間、CPIは平均2.5%であり債券の金利も安定しました。この1年は1.2%程度のCPIの上昇率です。

現状、原油価格は低迷し、逆オイルショックが起きていますね。これはコストダウン型のデフレインパクトです。

原油の高騰が5%程度のCPIを押し上げた1970年代。原油の暴落が数%のCPIを押し下げる要因になるのだろうか。それが2020年代。各国の大掛かりな財政出動による需要の喚起を行ってようやく物価が保たれている状況です。この財政出動はもっと大掛かりにならないと金利は復活しないと思われます。オイルプライスは多少、もちなおしているので長期金利も少し上昇していますね。

原油脱却の時代には、自然エネルギーの利用や大型のインフラ投資により安定の時代を迎えるのでしょうか。工業やITでの生産性の高まりは命の産業である農業や漁業にどれほどの影響をも与えていませんが、養殖や水耕栽培の対象となる種の範囲が徐々に広がり、一次産業の生産性もようやく自動化やIoTによって高まっていくでしょう。グローバルな経済の繋がりによって新興国の物価が上昇、先進国の物価が低位安定している状況は続きます。よって先進国の債券市場の利回りは簡単には上昇できないのではないでしょうか。

金利水準を決めるもう一つの重要なファクターは政策金利です。FED金利ですね。こちらは短期金利にダイレクトな影響を与えますが、コロナ前は2.3%。今は0.1%です。リーマンショック後も数年間は0.1-0.2%程度でした。こちらの影響は短期マネーマーケットに波及して今の株高の一つの要因になっているはずです。

中央銀行はインフレファイターからデフレファイターになりつつあり、その転換点に私たちは遭遇しているのかもしれません。

-相対的なものの見方-

このような需給の見方はアセットアロケーションの世界の話ですが、株式のセクターのアウトパフォームやアンダーパフォームにも使えるのです。

たとえば証券アナリストはセクターの専門家ですが、投資判断が当たらないケースが多いのです。なぜならば食品アナリストが機械アナリストのことを知らない場合あります。機械のアナリストが非常に弱気になっている中で、食品が相対的にましなことがわからないと、食品アナリストの強気の格付けは当たりません。顧客がその意見に同意できないからです。顧客は機械のウエイトを落としたがっている。ならば今、俺は格付けを効果的にあげることができるなと。そういう機微を知らないとアナリストは商売になりませんでした。

同様のことが国家財政についても言えます。よく言われていることですが、間違っている意見があります。国家財政が破綻して為替市場が暴落するという俗説です。間違っている理由はわかりますね。日本の財政だけではなく世界を見なければならないからです。まず70億人の世界人口でグローバルな流通通貨になっているものはドル、ユーロ、円です。これらをハードカレンシーと呼びます。それだけで世界の他の通貨よりも信任が圧倒的に高いということがわかります。米国も欧州も財政支出を増やしています。どの国も金融緩和を懸命にやっている。

世界の中で日本が財政出動や金融緩和やらないと円高になる。

つまり日本円は世界から圧倒的な信任を受けている。実際、この数年ずっと円高基調ですね。インフレ率が一番低い国の通貨が日本円ですが、このことは日本円がグローバル投資家からは信頼されていることに他なりません。日本の財政状況だけを見ても日本の財政のことはわからないのです。ここが相場の面白いところですね。

話は元に戻りますが、最大のマーケットであるキャッシュマーケットのリターンとリスクの比率が米国で過去最低になっている事実を無視してはダメです。株がバブルだとおっしゃっている方の投資判断は当たらないでしょう。横比較が重要だという相場の需給の本質がわかっていないからです。相場の需給のコツは自分より巨大な市場のリスクリターンの比率の変化を見ることなのですから。

元本保証市場で消滅したインカムゲインを補うために比較的に安定した事業構造を持つ株式の大型優良株を保有する。そういう「ずるい」ことを考える投資家が出てきているのです。債券利回りの低さの一部を高い配当利回りで補うことになる。そうならば株式の需給はこれからもとてもよいということになります。元本保証市場一部を株にシフトするだけで株式市場に巨大なマネーが流入すると大きな相場へのインパクトになります。一般に1%の資金流入で数%程度は市場価格が上がると言われています。5%の資金の流入で数十%の値上がりになります。需給の見方は信用とかチャートで見るだけではないのです。リスクとリターンの比率が各商品でどのような状況であるかを含めて検討していくものでしょう。

そのことは簡単な観察から明らかでしょう。企業の時価総額と市場での売買金額を比べれば時価総額が大きく売買金額は小さいものです。しかるに通常の5倍の買い注文があれば株価は大きく上昇してしまいます。楽天の出来高は1日で百億円程度。時価総額は1兆円以上。2020年9月10日と11日の両日は大商いで売買代金は500億円と通常の数倍になりましたが、時価総額の3-4%程度の金額で株価は13%上昇しました。大型株ではこのような感じですが、小型株や中型株は時価総額の1%の金額の流入で株価が10%上がることは多いのです。

ですからキャッシュマーケットが4倍で債券市場が2倍、トータルで株式市場の6倍の資金が滞留しているわけですから、その10%が株式に徐々にシフトすれば株式市場の規模の6割にも及ぶわけですから市場の時価総額は数倍になってしまうのです。1%の流入が60回にわたって断続的に行われるならば株価を押し上げるには十分なのです。