長期投資の展望と人類の底力 by yamamoto

長期の社会のトレンドと人類の底力

-人類の底力を実感した2020年-

-ユートピアの構築が進んでいる-

-グローバル協調路線と教育水準の向上-

-消滅する争いへの動機-

-人類の課題の解決に向けて動き出す株式市場-

-長期投資の二つの軸 本能との対峙すること、少数派に留まること-

-来年の抱負  自然の復元と寛容な組織の普及-

-若い世代の圧倒的な実力と高い自己肯定感-

-人類の底力を実感した2020年-

2020年は人類の底力を実感した年でした。

2020年は新型コロナウイルスの蔓延に見舞われた年として長く歴史に残るでしょう。世界の主要国でロックダウンとなり、株式市場は一時的に急落、コロナショックと命名されました。その後、各国の財政出動や金融緩和により市場はV字の回復を見せNYダウは史上最高値を更新しました。ウイルスのゲノムがグローバルで共有されテクノロジーの発展により史上最短で解析が終了し、最新の設備で大量のワクチンが生産され大量の輸送がなされ劇的な展開を見せたのです。

ここで少し全体のトレンドを俯瞰してみましょう。

産業革命以後、人類は機械の力を得て港湾、鉄道網、高速道路網などのインフラを整備してきました。電力の大規模発電所や送電線網の整備が次に行われました。高度な建設工法の普及で都市インフラが整備されました。高層ビルが立ち並び、港には大型タンカーやコンテナが、空港にはジャンボジェットが、各世帯からはマイカーが行き交う世の中となりました。高速通信網が整備され、半導体の進化により多くのデジタルデータが瞬時に解析される時代に移り変わりました。ITによる自動化が進み、クラウドには膨大なデジタルデータが集まり、解析されるようになったのです。

古代では数万人を要したピラミッド建築現場。

現代では危険を伴う鉱山開発の現場は無人化されつつあります。

社会的課題にも人類は対応してきたのです。

産業革命後の都市スラムの悲惨な状況がありました。日本も女工哀史を経験しています。

これらの反省から福祉国家が誕生してきたのです。最低賃金が決められ、国民皆保険や生活保護などの施作も生まれました。

戦後に公害が野放しになりました。

環境面では工業の発展過程では深刻な大気汚染や水質汚染が生じました。

これも住民の運動と司法の力によって、強力な環境規制が誕生し、徐々に解決してきました。

このように大きな社会問題であっても、私たち人類は解決に導くことができるのです。

性差別や人種差別は依然として残ってはいますが、かつてのように制度として公然と差別があった時代は過ぎました。

社会変革のベースにあるのは、困っている人を放置しておけないという人の自然な感情もあるでしょう。仲間を思いやり、根拠のない差別をおかしいと思い、権力に対して闘うことも厭わない。そういうベースが人類にあるのでしょう。

-ユートピアの構築が進んでいる-

経済面では自由貿易が拡大。新興国の低賃金を利用して先進国が消費を拡大してきました。

すると新興国の経済が発展し、生活レベルが向上するという好循環が生まれました。米国の一人当たりGDPは1960年に3000ドル台でしたが、一度も下落することなく伸び続け2018年は6万ドル台を超えました。日本も同期間2000ドル台から4万ドル台となりました。日本の順位は26位。かつては1位でしたがそれだけ裕福な国が多数出てきたのです。その象徴が6万ドルを超えた都市国家シンガポールです。

医療水準も底上げされ、人類の平均寿命は長期化の一途をたどっています。世界の平均寿命は1950年に46才でしたが現在は72才を超えてきました。日本は世界一の長寿国です。日本女性の平均寿命は87才を超えました。

1960年には海外旅行者はグローバルで100万人でしたが、2019年には14億人を突破。

海外旅行は豊かさの象徴です。

地域面では、世界の経済の成長ドライバーは米国一本槍からグローバル規模のバランスの取れた経済発展となり中国、アジア諸国の発展は目を見張るものがあります。

今後はインドがグローバル経済を下支えるステージに入りました。リーマンショックという金融危機を経験しましたが、世界経済の落ち込みは短期で払拭されました。中国をはじめとする新興国の急速な経済成長が危機にあった先進国の経済を救ったのです。

-グローバル協調路線と教育水準の向上-

人類のこのような全体をグッと底上げする「全員野球」は知の共有と組織力に支えられています。人類は知識を共有し命の枠を超えて、ノウハウを次世代に引き継ぐことができる。先人たちが到達した境地を書籍やデータに残すことができる。だから後輩は先輩の成果を元に、「続き」を始めることができる。結果として全ての学問領域で飛躍的なステップアップがなされるシステムが完成したのです。

知の最高峰と言われる大学の先端研究だけではなく、人類は全体の教育水準を底上げしています。例えばインドは識字率の低い国でした。1950年、インド人女性の識字率は10%未満。今は60%を超えたのです。特に若者の識字率は90%です。

国民全体の教育水準の底上げは、何を意味するのでしょうか。もちろん、社会の生産性を向上させるのです。それ以上に重要なことは、失敗をしても、その失敗から学び、再度、困難にチャレンジしようというメンタルは、教育を受けないと生まれないのです。

逆に言えば、教育とは、試行錯誤が決して無意味ではなく、悩むことも苦しむことも決して無意味ではないことを人類に植え付ける社会悪を撲滅するための有効なワクチンでもあるのです。

-消滅する戦争への動機-

自動化無人化の流れはますます強まり、生産性が飛躍的に高まり、経済的な利害を独り占めにしようとする動機が消滅していく好循環が生まれました。人間の社会では何もなければ食べていけませんので物資の取り合いになります。物資を求めて争ってしまうのですが、豊かな社会になれば犯罪も減り、物資を共有し、互いに分け合えるため、争いが少なくなる時代になりました。警察白書によれば犯罪件数は高度成長期に1000人あたり15件でした。現在は7件と半減しています。日本における犯罪件数はそれでも年間100万件弱が発生しています。日本は人口10万人あたりの殺人事件の発生率は0.28人でもっとも安全な国の一つです。30年で半減のペースです。米国は5人と危険な国ですが30年でやはり半減しています。一方でメキシコのように紛争が勃発し凶悪犯罪が増加している国もあります。移民は経済的に豊かで危険の少ない地域へ流れます。それは地域間でも同様で安全で経済のよい都道府県に人口がシフトしていくわけです。

グローバル経済ではある国で販売されるものが他国で製造されたものも多いのですから、経済的な利害は数珠のように繋がって共有されています。国家間の戦争をしても得をする人は少なく損をする人が圧倒的に多いのです。知やノウハウを分かち合い、互いに教え合い、励まし合い、助け合うことがグローバル規模で人類はできるようになったのです。

  • 国家間の緊張関係はいつの時代も存在する。だが国際分業制によって全ての国の利害が概ね一致する時代になった

その中で人類には課題も見えてきました。

-課題の解決に向けて動き出す株式市場-

グローバル企業に富が集中し、大企業の財力が相対的に強力になる一方で、先進国の一部では格差が広がりつつあることが問題になっています。経済格差は移民が大量に流入することでそれにより職を失う自国民が増えていることもあるでしょう。本邦においては派遣切りなどが横行しました。深夜営業のワンオペやパワハラや過労死を引き起こすブラック企業が社会問題化しました。

格差の問題は既得権益を生む深刻な社会問題なのです。国会を見渡せば二世議員や三世議員ばかりの政治家の世界です。お金がないと入学できない私立学校が人気化し、大学の学費は大きく値上がりしたため、少子化が加速しました。

小学校の時から高額の塾へ通い、中学も高校も大学も私立でその間も塾に通うのが東京都の平均的なサラリーマン家庭のモデルになっているのです。

無秩序な都市開発によって、郊外地区の水質汚染や地盤沈下が進み、見渡せば個性のないコンクリートで覆われた乾いた都会の風景は人の心を蝕んできました。

問題は山積みです。

-長期投資の二つの軸 本能より理性 多数派より少数派-

私は事あるごとに、弱い人間の一人として嘆いてしまうことがありました。

なぜ人は協力すれば大きな付加価値が得られるにも関わらずあえて傷付けあい闘うのか。

なぜ論理的に行動できず感情に任せてしまうのか。

なぜ思ったことを主張できず多数派の前で沈黙し、多数派になびいてしまうのか。

なぜ疑問に思っても上司の命令ならば深く考えず実行してしまうのか。

なぜ自分の利益を優先してしまうのか。

自分自身を律することができなければ組織のガバナンスが効かない。

組織としてのガバナンスがなければ将来への再投資となる原資が確保できない。

原資が確保できなければ高く崇高な目的も遂行できない。

なぜ人はゴシップを流し他者をわざわざ貶めるのか。

しかし気がついたのです。

そうしたことに悩み、傷つき、嘆く時間はない。

目的外のことに、わき目をしている暇はない。私たちはそんなことに関わっている場合ではないのです。

そのために、私たちは株式投資の基本方針として本能に逆らうこと、理性を信じること、あえて多数派を離脱し少数派に留まることを行動指針として掲げてきました。

人類の抱える課題は解決できる。課題を解決しても次々と課題は生まれる。

でもそれと真摯に向き合うことで人の一生の価値は決まるのだと。その集合知が人類の底力です。

人類は壮大な知識の体系を作りソルーションを安価に提供できます。その提供者が上場企業なのです。今、ようやく人類に底力が備わってきた。この人類の底力を使って、何ができるのか。それが来年以降の私の抱負になります。

私たちが投資をするのはよりよい社会を作るためです。

-株式投資の未来  自然の復元と寛容な組織の普及-

来年の株式市場のテーマは2つです。

一つは地球環境の復元

もう一つは寛容さの復権。多様性(ダイバーシティ)と基本的人権の保障です。

超長期的には安藤広重が描いたような江戸時代の自然豊かな都市空間を実現することになる。広重の隅田川八景を眺めるとき、なんて豊かな生活であっただあろうかと憧れ感心するのです。

都市部に大自然を取り戻す。人類に課せられた責務です。

東京湾では漁師の新規採用が始まっています。豊かな江戸前の資源をこれからはしっかりと育て守る時代となったのです。

花粉症などの免疫疾患は広葉樹が豊かな里山を徐々に作っていくことで解決できるかもしれません。そして便利さを伴う田舎が誕生するでしょう。

豊かな水や自然の恵みによって地方の再生が可能になるでしょう。グローバル社会に日本の知見を活用します。大気汚染や水質汚染に苦しむ新興国の人々を見殺しにはできません。

環境問題はとても大きな株式市場のテーマです。

また、一部、酒やジャンクフードには医学的エビデンスから長期で強烈な逆風となります。

寛容性の復権。社会の分断からは進歩は生まれません。

私たち投資家は差別する側に与してはならないと考えます。全てのステークホルダーの力を結集するためには、皆のよいところだけを集めればよい。運用とは皆のよいところだけ集めるものです。

人は誰でも1%のよい部分があり逆に言えば99%がチャランポランでも全く構わない。誰もが認められる。これは綺麗事ではなく、真実です。他者の99%のチャランポランなところを咎めるという行為には意味がありません。グローバル社会の全員から1%のよい部分を結集する。そのために経営者がいる。我々投資家があるのです。

LGBTや女性のさらなる活躍を促す社会になります。ダイバーシティを受け入れるためには、子供のうちから多様性溢れるチームで学ぶという経験が必要になるでしょう。

そして、日本の未来は薔薇色です。

-若い世代の圧倒的な実力と高い自己肯定感-

日本の若者を見ていると、私はとても励まされます。私の世代よりも圧倒的な実力があるからです。私の世代は大量消費の文化に侵され公害を受け入れ差別を阻止することはできませんでした。私の世代は大学でもしっかりと勉強しませんでした。大学の授業に出ませんでした。麻雀ばかりしていました。身の丈に合わない多額のローンを組み自動車を乗り回していました。そして職業に必要な資格や試験勉強さえからも逃れていました。先輩たちが築いた楽園である終身雇用の制度に何も考えず乗っかっただけです。極めて能天気な世代だったのです。そんな我々世代が子育てに失敗し日本の国際競争力をガタ落ちさせたのは当たり前の帰結です。

しかし現代の若者は忖度しない。酒/アルコール/タバコを飲まず、理性を重視する。大学時代は真剣に勉強し資格試験に邁進。セカンドスクールにも通う。在学中からインターンを多数こなす。マイカーを好まず、トレッキングやジョギングを好む。環境問題や貧困問題などに積極的に関わる。消費者としても体に悪いものは悪いと発信する。多様性を受けいれ、デジタルツールを使いこなす。海外展開も上手い。数字にも強い。日本の未来を考えるとき胸躍る資質に溢れている。

プロゴルフのプラチナ世代や黄金世代を見ればわかりますね。私の世代ではオリンピックでは国家を挙げてもブロンズメダル一つしか取れなかったが、今の世代はゴールドメダルを20も30も取れるのですから。

若者の自己肯定感は劇的に上昇しています。昭和の世代では「とても幸せだ」と感じる高校生位の割合は高校生では24%でした。現在は半数の高校生が「とても幸せだ」と実感しているのです。

投資家は若者の価値観を肯定しなければなりません。次世代は彼らのものです。

彼らは大量の紙を印刷する複写機も嫌いです。石化燃料をわざわざ燃やす火力発電も嫌いです。魚群探知機で一網打尽にする漁業も嫌いです。

そのような行為は地球価値の破壊です。

チコちゃんやグレタさんは我々を怒っているのです。「ボーッといきてんじゃねー」と。

今後はグローバル市民としての行動規範が私利私欲のエゴよりも重視される時代になるでしょう。若者への世代交代により、人類はようやく気がつき始めたのです。地球が命の土台であり母なる地球をありのままに復元しなければならないことに。地球のみならず、宇宙ゴミの回収活動まで行います。

豊かな土地には雑草が生えないように、豊かな生態系を復元することで免疫疾患は抑えられるでしょう。環境の復元は人類の存在を持続可能にします。人類はウイルスの力、菌の力、微生物の力、植物の力、動物の力をビックデータによって解析し、その巧妙なフィードバックシステムに感嘆するでしょう。2021年は人類がさらなる底力を発揮する年になると考えています。

株式投資家が見るべき二つの要素は自然と人です。

世界のこうした強いトレンドに沿った銘柄の選択が自ずと有利になるでしょう。

私も微力ながら、長期投資の意義を世間に訴え、自然と人を豊かにする上場企業の活動をしっかりと評価し、皆様と共に考え、共に論じていくことになるでしょう。

ESGについてはこれまでも重視していましたが、GがしっかりしていなければEとSどころではないというのが運用の現場の状況です。Gとはガバナンス。経営と投資家との緊張関係が足りない企業もまだ多いのです。投資家の役割としては、「しっかりと企業組織を運営してもらう」。そのためには不要な経費は削減し必要な経費はしっかりと投資家に説明する責任が経営にはあると思うのです。投資家を説得できない商品や事業は畳んでもらう必要もある。投資家も短期的な業績よりも、応援する企業が、意義ある長期の社会トレンドに貢献できるように一緒に汗を流す覚悟が必要です。少なくとも人類の系譜に沿うように企業とともに悩みつつも投資家としての対話を継続していくつもりです。

個人的な課題としては古臭くなったファイナンス理論に変わる新しい時代の投資理論を提唱できるように鍛錬していきます。目的意識・存在意義をベースにした経営が長期的にアウトパフォームする研究成果も多く、エビデンスもあります。自然と人がベースになる経営が結局はインクルーシブな社会を作ることを手助けする。ステークホルダー全員が主役となるそんな世の中が目の前にきているのです。