誰一人取り残さない 未来を変える思考2 地政学リスクに思うこと

地政学リスクに思う

ウイグル問題からユニクロや良品計画が人権団体から批判されています。そして、米中対立の構図から市場参加者の中には地政学リスクを懸念する向きも多いのです。個人投資家のみなさまからよく質問があるのがこの米国と中国の対立による相場への影響です。それに対するわたしの答えは「あまり心配しないでほしい」というものです。いつも同じ返答を繰り返しているのですが、典型的な相場へのご質問ですので、このコラムで書いておこうと思いました。

初代大統領リンカーンの就任演説

米国の初代大統領リンカーンの演説を紹介します。リンカーンといえば1963年のゲディスバーグの演説が有名です。「人民の人民による人民のための政治」ですね。その2年前に大統領就任演説を行っています。南北戦争前夜ともいえる緊張関係の中での大統領就任式となったのですが、敵対する南部の人々に以下の言葉を投げかけました。

「われわれは敵同士ではなく、味方なのだ。われわれは敵同士になるべきではない。感情が高ぶっても、われわれの親愛の絆を断ってはならない。すべての戦場や愛国者の墓からこの広大な国のあらゆる生ける者の心と家庭へとつながる、神秘的な思い出の弦が再び奏でられるとき、それは統一の音を高らかに鳴らすことになるだろう。その音はまこと、われわれの本来の姿なる良き天使の手により鳴り響くことだろう。」(エイブラハム・リンカーン第一期大統領就任演説1861年3月4日)

(原文)

We are not enemies, but friends. We must not be enemies. Though passion may have strained it must not break our bonds of affection. The mystic chords of memory, stretching from every battlefield and patriot grave to every living heart and hearthstone all over this broad land, will yet swell the chorus of the Union, when again touched, as surely they will be, by the better angels of our nature.

株式相場では定期的に地政学リスクを懸念する方々が短期で相場を「仕掛ける」こともあります。人々の不安や恐怖のネタは尽きることがありません。いつも不安であり心配をするのは人間の本質です。その本質的に心配性の人間も、吹っ切れるゾーン状態になれば強い。リンカーンは人々に異なる意見や挑発に反応するのではなく思慮深く慎重に行動するように呼び掛けたのです。誰しも心の中によりよい善を目指す本質(天使)が存在しています。その存在に思いを馳せるとき、社会のベクトルは合致していくのだと連帯を呼びかけました。

偏狭なわたしたちの個々人は常態的にゼロサム的な杞憂や懸念をしているわけです。いまでも中国が攻めてくる、北朝鮮が何かをやらかす、米国と中国とが対立している、という対決の構図を心配する方の方が多数でしょう。

国家間の対立が株価の暴落につながると考える人は異常なほど多いでしょうね。わたしは地政学リスクを懸念しないようにみなさまにはお願いをしたいと思うわけです。それでも何度も中国に対する質問がなされるのですが、何度も同様なお答えをしているわけです。心配は無用だと。

リンカーンの願った通り、人類同胞という視点で見た場合には、どの国家もわれわれは対立する敵同士ではないのです。中国の協力なしに途上国は経済を立て直すことができない。中国なしのグローバル経済は成り立たないのです。あるいは、中国なしでは途上国はワクチンを入手することもできない。わたしたちは中国がワクチンを入手できない途上国の人々を助けることを非難すべきでしょうか。それとも賞賛すべきでしょうか。それでも中国を非難する場合、その非難は人間として正当な美徳に基づいていると思われますか。

グローバル経済は国際的分業経済です。この体制の中で、各国の各企業がそれぞれに持ち場で全力を尽くしています。リンカーンのいう通り、ご先祖様のお墓ひとつひとつがいま偶然生きているわたしたちひとりひとりの家庭とつながっているわけです。日本人と中国人は昔から共通項が多い友人同士です。わたしたちひとりひとりの心の中には天使がいるのです。善良な本質が存在しています。もちろん悪い本質部分も同様に存在しています。常時、善悪は混在しています。だからこそ、人々は協力し、信じあうことでダークサイドの誘惑を断ち切ることができる。そしてダークサイドに飲み込まれない人々だけが困難を乗り越えることができるのです。疑い、恐れ、逃げ、恥じるのではなく、善を信じて祈ることです。相手の出方で態度を変えるのは自分の人生を生きていない証拠です。

自分の対応が相手次第で急変していくなんて、あってはならない人生の凡ミスです。相手がどう出てこようが、こちらはやるべきことはひとつ。粛々と人生の目的を遂行していくことだけです。よき存在になり、よき世界になるように自分を律することです。生きていることを楽しみ、感謝して生きることで相手への恐れを感謝の念に変えていくことができます。対立を煽って空売りを仕掛けるのではなく、協調を目指して長期で社会の付加価値を上げていくのが投資家の社会的な役割ではないかと考える今日この頃です。

事実、フィナンシャルタイムズ(FT)によればグローバル投資家は中国株式に殺到しているといいます。以下FTのコラムです。

中国資本市場へ国際投資家が殺到

企業の会計監査から、米政府がジェノサイド(民族大量虐殺)とする中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害に至るまで、様々な問題で米中間の緊張が高まっているが、世界の投資家は中国市場に殺到している。

 中国政府が自国企業による米資本市場への上場に対する規制を強化しているさなかでもある。中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)のデータ保護に関する調査もその一つで、同社が44億ドル規模のニューヨーク上場を果たした数日後に調査開始が発表された。

 米ブルームバーグのデータに基づくフィナンシャル・タイムズ(FT)紙の集計によると、香港と上海、深センの証券取引所の相互取引を通じて、海外投資家はこの1年間に中国株を353億ドル買い越している。前年と比べ約49%の増加だ。

 仏クレディ・アグリコルのデータによると、海外投資家は過去1年間に中国国債も750億ドル以上購入している。前年比50%の増加だ。

 国際指数入りで資金流入加速

 海外投資家の中国株・国債購入は前年同期比で過去最速ペースで増加している。対中投資熱は中国のコロナ禍からの素早い回復にあおられている面があるが、経済成長の減速に対する懸念も出てきている。

 中国の投資銀行、華興資本(チャイナ・ルネサンス)のトレーダーであるアンディ・メイナード氏は「地政学的に言われていることとは裏腹に、資産運用の観点からは中国市場に目を向けざるをえない」と話す。

 近年、中国市場への資金流入は急増している。理由の一つは、数兆ドル規模の資産運用で目安にされる株・債券の国際指数に人民元資産が加えられたことだ。

 最新の動きでは英指数算出会社FTSEラッセルが3月、自社の国際債券指数に中国国債を組み入れる計画であることを認めた。野村グループの予測では、これにより1300億ドル以上が中国に流れ込むことになる。

 クレディ・アグリコルと海外投資家が中国本土の債券を売買するのに利用する香港の「債券通(ボンドコネクト)」のデータを基にしたFTの集計では、年初からの買い越しで海外投資家の中国債券保有高は3兆7000億元(約63兆円)に達している。

 14日現在、香港経由の相互取引制度(他の外国投資プログラムは除く)による海外投資家の中国株保有高は1兆4000億元強だ。

 こうした制度を通じた海外投資家の中国株・債券保有高は約8060億ドルで、1年前の約5700億ドルから増えている。

 米国債より高い利回り

 高値になったテクノロジー株から離れる年初以降の世界的な流れも、中国本土の市場の追い風になっている。中国株は工業などテック業種以外への投資がしやすいとアナリストらは言う。

 「テック株人気が冷め、人々は他の業種を求めている。そうした業種のほとんどで粒がそろっているのが中国株だ」と香港の調査会社ギャブカル・ドラゴノミクスのアナリスト、トーマス・ガトリー氏は説明する。

 ―中略―

 中国債券市場への資金流入は人民元の上昇も伴っている。対ドルでは5月に3年ぶりの高値を付けた。

 「今後も金利差が(人民元を)支え続けると見込んでいる」とモヒウディン氏は言う。それが2021年後半も中国株・債券への資金流入を後押しするという。

 ―後略―

By Hudson Lockett

 (2021年7月14日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

参考文献:

1)ポジティブ心理学が教えてくれる「ほんものの幸」せの見つけ方 マーティン・セリグマン (パンローリング社)

2)2021年7月14日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/