DFR 山本 潤 インタビュー 株式投資とESG  2021年初頭 by yamamoto

DFRの投資助言者として2年半が経った段階で株式投資全般についてのインタビューを受けたのですが、インタビュアは元日経GのTさんです。その書き起こしをそのまま掲載いたします。いつものことながら極論が多くてすみません。冷や汗ものですが、ノーカットです。今思えば間違っているところや表現が悪いところも多々あります。この場を借りてお詫び申し上げます。(山本 潤)

インタビュー (山本潤)

 山本 ……「テレビで見たのですが、あるお菓子メーカが海外で甘くないチョコレート、砂糖が入っていないチョコレートやカロリーが低いお菓子をつくっていますが、これは投資対象としてどう思いますか」というようなESGを意識した質問がお客様から結構来るようになったので、ESGは一般にも分かりやすいといえば分かりやすいのですね。環境や社会性や健康問題をアピールできる。こうしたことは短期の投機では絶対できないことだと思っています。

 ――山本さんの(ポートフォリオの採用基準の)考え方として、投資とESGがうまく結び付いているのがすごくいいと思います。むしろ、それがちゃんと投資に結び付き、世の中もよくなるし、自分の資産もうまく運用できていくのは、すごく満足感があると思うので。そこがうまく結び付くといいと思います。

 山本 世の中にそういうESGの強い流れがだいぶ出てきて、逆に言うと、日本は少々遅れている。特にESGのGはガバナンスですが、相当遅れていて、だからこそ、そこを底上げすると日本株の場合、変化が大きいので、欧州企業は当たり前にやっていることが日本の企業はできていない。でも、投資という観点ではだからこそ、日本株はまだ余力があって面白い部分がある。これから何を買おうかというときに、出来上がった企業を買うよりも、変化が大きい企業を買うほうが、株価としての上値が中長期的にあるぞ。残念ながら、そういう観点で日本株が見直されている、本当にそういう状況があるので、面白い展開になってきているのかなということです。

 ――駄目なものがよくなるほうが、アップサイドがある?

 山本 ええ。駄目な劣等生が優等生にならないまでも、中ぐらいまでいく変化はとれるので。TOPIXなどが、今すごく調子いいのも駄目なものが多いからなので。

――そういう日本株の駄目な部分の象徴的な部分というのは。

 山本 ダイバーシティと言われたら、日本企業は相当弱くて。

 ――多様性ということですね。

 山本 例えば、バイデンさんの閣僚の中にインディアンや黒人がいるような多様性がなく、日本政府の中にアイヌ人の方を入れることはない。

 ――そもそも、日本人、男性、しかも正社員というか、下から上がってきた人。

 山本 もっとひどくて、日本人、男性、年寄りです。日本人、男性、年寄りの交わりだから。(だからダメとは言い切れない。適任者であればよい)

――しかも高額歴で東大ばかりというのもあるかもしれないですね。

 山本 そう。日本人、男性、年寄りで、サラリーマン的なもので。

――学閥のような。

 山本 あとは高学歴で、ダイバーシティが全くない。だから現場の痛みも分からないし、女性の大変さも分からないし、生活保護を受けたことがないから、最終的には生活保護を受ければいいという発言が出たり、女性が入ると会議が長くなるとか、トップが正直だからそのように言ってくれるけど、頭のいい経営者は、思っていても外には出さないです。製造業は10人雇って女性が1人いるかどうかです。

――そうですね、製造。

――その辺が、あまり変化に対応できない日本の企業の典型になっているということですか。

山本 日本の企業の典型になっていて、例えば買い物にも行かない、スーパーで物を見ない人が経営していて、自分の家庭自体もガバナンスできていなくて、仕事一本で来た人だから経営のバランスが悪い。

「ESGもIRもまあ形だけやればいいだろう」と、担当者に、おまえやっておけよという経営者も多い感じです。CSRのときもそうでした。何かつくればいいだろう、おまえやっておけよ。それで経営は別で、コストを聞き、このぐらいの範囲でやっておけ、で終わり、経営がフィードバックをもらっていません。

 それが、いま世界中が大変なときに、のんきなことばかり言っているから、本当にESGそんなに大事なのかとか、そもそも論が分かっていないから、投資家からすると、もう少し勉強したほうがいいよという感じでいます。

――指標みたいなのはありますか。

 山本 ESGスコアというのがあるし、そういうのをホームページで勝手につくっている団体がたくさんあり、企業はそういうものをただでもらったりしているようですが、それを生かすか生かさないかです。取締役会の女性比率は公表するようになっています。見れば女性かどうか分かりますが、少ない。

――その辺と業績の連動性が見えると分かりやすくていいと思います。そんなに単純なものでもないとは思います。

山本 全てを株価で割り切ってしまうと、そんな単純なものではないけれども、確実にそれはあると思います。なぜかというと、ESG投資のウエートを世界中の投資家が増やしています。GPIFという国の年金を運用しているところは、いまTOPIXとかのインデックスからESGインデックスに切り替えを進めているところで、そこに四つぐらいESGインデックスがあるのですが、そのインデックスに採用されると、自動的にGPIFのお金が入ってきます。だから、株価が高くなります。

 世界でもそうです。ESGに関わる運用資産は3000兆円と言われていて、それが大きくなってきているので、ノルウェー、フィンランド、ハーバードと、いろいろな年金は、例えばアルコールをつくっている会社を買わないとか、二酸化炭素を出している業種は買わないようになってきています。だから、株価の格差が。

 ――ますます広がって。

 山本 広がっていたというか、今でも広がっています。

 ――僕は、2年ぐらい前に日経エコロジーにいたときに、それをやっていました。ESGがきだしているので、ブラックロックとかも…?…。それから2~3年たち、今はより進んだところがあればいいのですが。そのころは、投資の人はあまり考えていなくて、もうかっているところがいい感じで。

 ――そういう意味では、ちゃんと自分の中でモラルのようなものの指標を持っていくことと、どういう未来を考え、投資により、どういう社会を実現できるかという視点が大事だということですね。

 山本 そうです。だから、自分の都合でもうけたいとか、得をしたいという感じでやっていると、みんながみんな自分のことを優先してしまうので、組織や社会がむちゃくちゃになります。そうすると、例えば経営者が自分のことを優先する経営なら、豪華な役員室をつくり、社用車、運転手、秘書を付けてというような感じになり、適当にやっておけとなる。それで、グルメ三昧のような人も実際にいます。

 社員一人一人に向き合い、例えばきょう、あの人は元気がなさそうだけど、どうなっているのかとか、そういうフラットな感じで人間としてちゃんと扱っていると、組織の力が徐々に変わってきます。社員の名前、出身地、家族構成、奥さんに花を贈ったりする企業もありますが、社長にそういうちょっとした気遣いがないと、現場レベルで部門ごとに張り合ったりしているのはいいガバナンスではないので、周りの人も助け合いですから。

 ――取材している中で、具体的にこの会社がいいというところはありますか。

 山本 ストーリーや逸話はたくさんあります。例えば、オービックという会社は国産の情報システムでERPというエンタープライズ会計ソフトなどを統合した、1000人、2000人規模の会社ですが、創業者の野田会長が社員の一人一人を覚えていて、大きなところに社員を集めていたときに1人ふらついた人がいて、壇上から「おまえはきのう寝ていないのか?」。名前やラグビー部だったこととかがポンポンと出てきて、社員も自分との距離がすごく近いことが分かります。

 通勤のときも、隣の喫茶店から社員の様子を一人一人見ている。あいつは元気なやつだな、あいつは○○だったなと、後で直接フォローしたりいろいろなことをして、とにかく心配りをすると、同じ給料でも社員の働き方が変わってきます。

 ――社員のモチベーションが上がりますよね。

 山本 一生懸命働いても意味ないなという組織だと愚痴が出たりしますが、そういう個別の話がたくさんあり、ガバナンスといっても、そういう心遣いがベースにある、フラットな関係がすごく大事です。

 ――昔、愛される会社みたいなのがありました。あちらのほうがイメージに近い感じでしょうか。

 山本 坂本さんの「大切にしたい会社」ですかね。ESGのGといっても、見かけ上のスコアが高い低いも大事ですが、女性がいたら確実によくなります。みんな男だから、それを信じないですが、私は革新的に絶対よくなると思います。なぜなら、男性の役員はイエスマンばかりですから。左遷になったりするのがいやで、物が言えないし、結構忖度もする。女性はそういうことをしないし、そもそもコミュニケーション能力が高いから、何を言われてもなるほどねと。そもそも、男のようには反論しません。

 経営者は何があっても絶対に反論しては駄目で、経営者は与える仕事だから、ギブしかない。そういう根本的なところが分かっていないから。女性のほうが平和主義だし、価格のたたき合いなんてばかなことは絶対しないし、戦争も起こらないでしょう。全部が女性の首相なら、軍事費も削れます。

 男だけだからバランスが悪くなるから駄目なところがたくさんありますが、男女のバランスがいいと、それが圧倒的にいい方向に変わります。まず、企業同士の競合環境が一斉によくなる。それで、思いやりがあるから、この人はこうだといけないよねとなりますが、男にはそういう発想がありません。自分が落ちこぼれたら、こいつらのせいだ。だから、男だとマネジメントが大切にされません。

 僕たちの時代にも短大があり、女性は優秀で短大に行った人がたくさんいましたが、入ってきたら制服を着せられ、全く活用できていなかった。女性社員が少ないのは、そういう人を無駄遣いしてきたところがあると思います。そこは賛否両論ありますが、これからの社会は労働力不足を補っていかなければいけないので、男も女ももう関係なく、対等に扱わないと、採用時にも半数ずつ採らないといけないのではないか。

 女性をうまく使っているところは結構伸びています。SNSの時代、女性から応援されないと企業も損です。数字上と、あとはガバナンス自体の役員一人一人のタスクが明確でなく、一緒に集まって取締役会をやっているだけだったりする。この人はどこの地区の数字の責任者だとか、そういうマネジメントのスキルマトリックスをつくっていないので、部下や組織に対し仕事を下せません。

 ガバナンスは本当に改善の余地が大きい。IRをやっていない、説明会をしないところもあるし、統合報告書をつくらないところも結構あり、環境問題についても、自分たちがどれだけCO2を産出しているかの計算もしていないとか。

例えば、アステラス製薬がCO2を1トン出したら10万円という社内レートをつくりましたが、彼らは10万円のコストで何千トン出しているから、自分たちがいくら環境負荷をかけているかを経営陣が明確に理解しています。そうすると、来年ESGインデックスに採用され、株価が2倍とかになる。そういう流れが見えていません。

 それは10万円を実際払うわけではないですが、会計上はCO2を去年と比べ10%削減したので、経済価値としては10億円、環境負荷を減らしましたと言えるわけです。設備投資や何かをするときにはそういう指標を併記して判断するから、会計上はROEが高いけれども、CO2の処理コストを入れたら、こちらのプロジェクトのほうが劣っているという判断になる。日本企業は、いまガバナンスとしてそういうことができていないわけです。

 そうすると、世界のお金が日本から逃げてしまいます。政府もGPIFもそういうガバナンスのところにものすごく危機感を持っていて、GPIFはいま一生懸命ESG理論、投資理論をつくっているところです。僕たちも協力していろいろ提案したり、幅広く国民から募集したりしています。そういうものをつくらないと、日本がもう相手にされなくなります。

 ――分かりました。世界的な大きな流れに、日本はまだまだ乗っていないということですよね。

 山本 日本が一番遅れてしまった。中国などのほうがよほど進んでいます。例えば、家を建てるときの基準で、日本は家に対し規制がないですが、中国は断熱性能の低い家をつくったら、それだけでCO2でぼろかすにたたかれるから三重窓です。中国の断熱性能は日本の6倍で、それ以下のものをつくると罰せられます。住宅一つとっても、日本は世界一遅れていますが、日本人はそれを知りません。

 ほかにもそういう例がたくさんあり、いま日本は何もやっていないのと一緒です。例えば、中国は自転車専用の高速道路をつくっています。ロンドンもつくっているし、コペンハーゲンやアムステルダムには50年前からあります。そういう自転車専用の高速道路をなぜつくらなければいけないかさえも分かっていない。

 いま問題になっているのは医療費とかCO2とか国民の健康とかですが、アメリカなどは依存症がすごくて、ジャンクフードを死ぬほど食べ、安い酒で酔っ払って太り、医療費も払えない状況で死ぬ。欲望を企業、民間に任せると、こういう依存症がすごく増えてしまいます。日本も、売れればいいというストロング系の安くて悪いもので健康をどんどん害する。コロナよりもストロング系で死んでいる人のほうが多いので、そういうのは罰しなければいけません。ヨーロッパだとチョコレートとか甘いものには課税されるのだから。

 自転車ハイウエーをつくり、市内に自動車で入れないようにしたら、まず健康的になり、医療費が下がり、CO2も下がり、一挙両得です。そのみんながやっていることをやめて、依存症になるための自由を選ぶ。日本人はシンガポールのことはなかなか悪く言わないですが、唾を吐いたら逮捕とか、ガムをそのまま捨てたら犯罪なるとか、罰金がすごいとか。

 日本人から見たら、そういうのはひどい社会だと思うかもしれませんが、例えば今の人が1970年ぐらいの日本に行き、あなたたち、もう立ち小便なんかできなくなると言うと、70年の人は、そんな自由のない、ひどい社会になるのかと言うわけです。それどころか、公衆電話もなくなるし、電話は自分で買って費用を払わないとできなくなると言うと、何でそんなに自由を奪うのか。50年後の世界から今を見たら、めちゃくちゃ乱雑な社会に見えているはずです。

 持続可能でないことにベットしているとビジネスが消えてしまい、消えたらまずいので、いま一生懸命そういうことをやっている。今さえよければいいと俺たちのことを見殺しにする気かと、トランプさんのような人が出てくると困ってしまう。そういう意味では、現状認識がたぶん甘いのだと思います。依存症に対し甘い。

 例えば、スマホの依存症で目も悪くなる。スマホを見なければ、目もよくなるし、依存症もなくなるし、前向きなことも言えるけど、テレビやニュースのネットだけ見ているとばかになってしまう、本当に。正直な話、書籍もどんどん内容が軽くなっているでしょう。というか、誰でも分かるようになっている、誰にでも分かるものしか出さなくなったのではないですか。たぶん、もう現代人で昔の岩波文庫とかを読める人などいないでしょう。レベルがどんどん低くなっています。

 そういう低くなっている知能を鍛え直さなければいけないけれど、それが苦しい、厳しい、ひどいとなると本当に終わってしまうので、そこを少しずつ自分のことだけではなく、他人のことを思わないと投資などできません。全体を見て、物を大切にしたり、リサイクルやシェアリングを真剣に考えなければ、持続可能ではなくなってきている。それを最初に考えないと、株式投資といっても、たぶん10年後、20年後を考えたら、うまくいきません。

 例えば、パルは在庫をなくして、サイクルを短くして、売り切れることを目的につくっています。売り切れごめんとすると在庫はなくなる。ファッション業界は在庫ばかりで、つくったものの半分は処分しています、新品が。あのバーバリーがそれを環境問題でたたかれてから、ユニクロとかも一気に変わりました。在庫が少なくて売り切れても、売れる分だけつくればいいと言われ、本当に在庫が劇的に減った。

 今回は、それを食品でもやらなければいけなくなった。ただ、24時間営業でいつも棚に物があるのは将来見直され、10年後には絶対そんなことはないです。そういうことが分からないと、投資しても失敗します。24時間スーパーが開いていて、果物コーナーに行けば絶対に果物が置いてあるということは、これからはもうないです。完全に予約制になり、食べられる分しか注文できなくなるし、そうしていかないと全部捨てられてしまいます。

 食品ロスの問題も全部ESGになり、それを不便で世の中が後退していると思う人がたくさんいるから、それが分かっている人にとってはチャンスですが、そうしないともう立ち行かなくなっていて、どうせやるならそれを楽しくやろうという感じです。

 フィナンシャル・タイムズの論調では、いま全世界の取締役の中で環境問題をちゃんと勉強した人が3%もいなくて、たぶん日本企業の場合は0.1%ぐらいです。99.9%はそういう持続可能性について、しっかりと勉強していません。この1トンの肉をつくるのにどれだけの水を使っているとか、逆算していけば資源がないことはもう明らかで、科学的には何十年も前からずっと言われ続けていることです。それが顕在化するリスクがあり、顕在化してしまってからでは遅いでしょうという話で、だから、みんながこんなに一度に動き始めているわけです。

 ――そうですね。最初のところが少し欲しいですね。今の話だけをつなげてしまうと、トレンドだからと見えてしまう可能性があるので、そうではなく、山本さんの考えに企業の考え方と世界の認識がやっと追いついてきた、それがちゃんと企業の成長に結び付くようになってきた感じの流れのほうがいいかと思います。

 山本 私が好きな考え方は、経済成長と例えば環境問題の二つの対立する軸があっても、両方一遍に解決できる正反合と、言い方はいろいろとありますが、そういう弁証法があります。日本企業は、四日市公害とか足利鉱山の問題とかでもそうですが、そういうのが得意で、汚染物質を浄化する技術とか、省エネルギーはお家芸でした。だからESG的な考えで、トヨタやホンダが世界を席巻したわけです。

 ――もともとはそこが強かった。

 山本 もともと強かった。

 ――Eは得意でしたね。

 ――エコロジーの。

 ――Sのところは意識が低かった。人権とかは日本はあまり関係なかった。

 山本 そうですね、Eはもともと。今でも強いところがある。

 ――そうですね。どこもISO 14000をとり、環境活動を頑張って減らしていたり、リサイクル、あれもちょっと部分最適過ぎて。

 山本 逆に言うと、ある程度まとまり、国民皆保険とかがあり、変な格差社会ではなかったし、Sについて深く考えなくても分断が起きていなかったから、そういうところをあまりやる必要がなかったわけです。みんな一生懸命働いたし、日本人は真面目だから、アメリカのような苦労はしなくてよかった、そういう特殊事情はあります。逆に言うと、欧米のダイバーシティを取り込んだ新しい発想やイノベーションに対する柔軟さに、発想の面でも少し負け始めてしまったわけです。

 中国やインドの才能がすごいので、欧米はシリコンバレーやいろいろなシステムで、その才能をうまく使いました。日本は敵対視して、中国は遅れているとか、中国に盗まれたとか、韓国にまねされたとか言っていましたが、そうではなく、いいものは使わなければいけないし、その使い方がよかった。日本は切ったり張ったりする企業合併や事業売却が嫌いで、全部自前でやろうとしたから、日本人だけで自己完結しようとして、ガバナンスの問題に突き当たってしまった。

 つまり、限られた人数で全てをやろうとしたけど、向こうは水平分業で、いい技術があれば提携したり必要ならベンチャーごと買ってしまえ、いらなくなった技術は売ってしまえという文化です。日本独自の自己完結型のシステムがうまく回らなくなってしまい、日本にもシリコンバレーを買った企業はあったのですが、ガバナンスを任せきれなかった海外企業買収の失敗例が結構あります。最近、ようやく現地に任せてうまくできるようになってきて、ダイキンとかの成功例も出てきました。

 Eでうまくいったけど、その後、社会がほかと比べて平穏すぎて。才能をうまく使ったり、才能のあるやつを抜てきする文化がなく、いま周回遅れになっている状況に見えます。

 ――世界の人がそういう企業はどこですかと話を聞きにいくのは、だいたいユニリーバとかに決まってきます。日本の中小はGがいまひとつのところが多いかもしれませんが、どちらかというと僕は、駄目なものがよくなるというか、EとSに配慮した事業を行い、今後10年、20年単位で伸びていく銘柄、企業、投資先の選び方みたいなところを知りたいと思います。短期の四半期決算がよくてもうけたいのが強いから、ESGは投資家の一番興味のないところだと思いますが、経営サイドは、どこまで真剣にやるかは別として、もちろんそういうことは常に言われています。しかし、会員が集まってくる、ある人もいるし、ない人もいる。ない人は捨て、ある人だけに向いたら振り向くのか、その辺の感覚が、僕も分からないところがあります。

CSRはお金を生み出さず使うだけで、環境指標を達成するだけだったので、経営とは少し分離されていました。世界がこういうESGの動きになっているからやれなければいけないということでだいぶやっていますが、山本さんが言われたように、特にガバナンスとかは全然で。SはいまSDGsになっているので、それに合わせてうちの会社もアピールしようみたいな。

 山本 基本的にESGは業績とものすごく連動している。ESGものすごいプラス、プラスしかないぐらいです。

例えば、パルの例で言うと、在庫がなくなったから在庫ロスがなくなり、粗利が急激によくなった。しかも、リアル店舗でやるよりも一部をECに置き換えたらお客さんの利便性も上がり、固定費が下がり、また利益が出るという、とにかく在庫をなくして環境負荷を大幅に減らすことが、粗利が急上昇した変化の源泉になっています。

 CSRはめちゃくちゃもうかる話だったのが、それに気が付かなかった。ビジネスをスピーディーにやる必要が出てきますが、売れ残ることを前提にたくさんつくるか、売れ残らないことを前提に細かくつくってサイクルを短くするかは、スピードを2サイクルで売っていかなければいけないから、つくっては売り切れ、つくっては売り切れという感じです。

 ラーメン屋でも、きょうは50食しか仕入れないとか、餅屋でもきょうの分はこれだけと、朝並んでパッとなくなるでしょう? それはESGです。ほかの店では、働いている人は24時間客が来なくてもずっと待っているでしょう? どちらがいいですかという話です。だから、ESGはものすごくもうかる話です。働く時間が短くなると人件費がかからないわけだから、人件費がかからずに売り切れれば、利益率は高いわ、社会はよくなるわ、何の損もないです。そういう考え方がいま主流になってきています。

 ――その辺は若い人には響くところがあるかもしれません。おじさんはちょっと、「ええ、そんな」となるけど。

 山本 だから、売れる売れないとか、本が当たるとか当たらないではなく、もうけたいから読むとしても、正直その人はもうからないです。ノウハウはないし、あったとしてもそれは時代により変わっていくので、今はもう無駄なく資源を使ったり、環境を単位としたら、それは投資効率です。互いに投資効率のいいことをやらないと、もうからない。

 そこは、普通のPERが低くてこれから伸びる小さい株を、面白そうだからと妄想をかき立ててあおったりする投資手法もありますが、ちゃんと社会をよくすることは普通の持続的な活動で、ガバナンスがよければ、社員が知恵をどんどん貸してくれるので、そういう双方向性がないと駄目だと思います。

 パルでは、店員さん一人一人がモデルになっていて、一人一人が主人公になっています。言われたことをやっているだけではなく、自分のコーディネートを提案する感じです。日本企業のガバナンスは基本的にマニュアルだったので、そういうものは昔のビジネスモデルの教科書には全く書いていませんでしたが、今はそういうものではありません。とにかく形を整えることで、だいぶ見えてくる。ガバナンスについても可視化できていないから、結局全てを可視化するわけです。

 例えば電気自動車をみんなが一生懸命つくっていて、電気自動車は伸びるから、自分たちも電気自動車関連をやらなければいけないと考えていたとしたら、ESGはそれでは駄目です。

それだと経営資源が無駄になる。企業経営者にも、おまえが考えるなんてとんでもない、そんな資格はないと言ってあげなければいけない。

 そうではなく、すごくとがっている技術があるから、あなたはこういうことができ、この技術を使ったら誰にもできないことができるマーケットをブルーオーシャンといいますが、その自分たちの得意な新しいマーケットをいくつつくるかという話です。そういうことで勝負していく世界だから。そうすると、高い給料を払って人を雇っていても、ほかの人のまねばかりやっている企業がお金を稼げないのは当たり前です。大事な資源を使って在庫を持っても、売れないのだから。在庫を持つなら、その3倍、4倍の値段で売って初めて地球の資源は生かされるわけです。

 差別化できていない事業があり、それをどうにかしようということを考えているから、それはどうにもならないので、やめるべきです。ガバナンスは、一つはやめる判断をさせるということです。それをなぜ続けているかの説明を求めるのが、投資家の一つの役割なので。この企業はやめればすごくよくなると思い、企業の変化を見ていれば、やはり売ろうとしていることを感じることができます。

 だから、そういう事業の収益性は一つ一つの製品やサービスの強さ弱さに行き着くので、個々の製品やサービスがいくらで売られていて、その内容がどのぐらいか、サービスを受けている人は分かるわけです。それを比較対照するのは投資家として当たり前の話だから、そういうことをやり、このサービスはいいから伸びていくと思うだけです。企業の経営者はそういうことができているのかということです。自分たちは圧倒的に高いぞと、例えば製造では、キーエンスやファナックのようなことができているかということです。

 みんな普通に逆算しています。営業利益率50%で売れるためにはどうしたらいいかを逆算してやっていて、面白そうだからやってみようという感じではやっていません。ネタとして面白そうなネタはたくさんあるけど、たくさんある中から1個を選んでいます。三つぐらい考えた上の1個をやっているのでは駄目です。

 そういうのが対話で、ESG投資は、その前にエンゲージメントや対話がものすごく大事になってくるので、いま企業も投資家も求めているわけです。今までは企業だけで考えていたのが、それではにっちもさっちもいかないので、海外も含め、いろいろな企業を分析している投資家に、自分たちはどう見られているかを真摯に聞いた上で経営判断に生かそうという流れです。

 だから、敵対者ではありません。昔は、アクティビストは敵対者でしたが、今はそうではありません。一緒にベクトルを合わせていかないと間に合わないところがあり、あと10年で本当にいろいろなことを成し遂げようと思ったら、地球環境を守り、国家も、国民も、企業もベクトルを合わせて総動員してやっていかないと、そういう危機感がないと駄目です。

 だから、日本の中でそういうチャンスがあるのは上場企業だけで、中小企業は私利私欲、自分のことばかりで駄目です。グローバルに競争している、グローバルに資源を投入できる企業でないと世の中を変える力がないから、大きな企業がこれから第一に来ると思います。ユニリーバも1個1個努力が積み重なってやっとできた話で、一朝一夕にできる話ではないのですが、そういう努力をしていますかということです。

 ――これまで山本さんが言われてきた、利益が20億ぐらいないと、そういうグローバルな開発ができないとか、日本の国内の成熟産業でも、その中で頑張っているところはいいのと、ESGみたいなものとがうまくつながってくるのであれば、説得力が。ESGという言葉だけだと、すごく上から目線になるところがあるので、投資家の人が興味を持つような、マッチするような。

 山本 投資家ということからいったん離れたほうがいいかと思います。投資家を相手にするのではなく。

 ――投資家というより、投資をしようと。

 山本 投資をしようとする人を相手にするのを忘れたほうがいいのではないですか。そういう何とかノウハウ本のようなものから離れないと。

 ――僕は、それは理解していますが、世間の人が山本さんの肩書を見て、この人からこういう話が聞けそうだと期待することがベースになってくるので。

 山本 そうですね。

 ――そことそこがうまく合わないと。

 山本 そうですね。

 ――人として考えていき、結果的にそこが投資に結び付いていけば、それでいい。

 山本 娘に話す経済の話とか何かありましたが、ああいう感じでいいと思います。正直な話、結局、今は人間として恥ずかしいことばかりやっていて、自分の家庭すらうまく回せていない人がほとんどで、それでコロナでドメスティック・バイオレンスが増えたとか減ったという話になったりして、日本はガバナンスとかではないな。思いやりも足りなければ余裕もない、金銭的な余裕か精神的な余裕か分かりませんが、とても残念なことになっています。

経営にしても、子育てにしても、何でうまくいかないのかな。他人の目を気にし過ぎているというか、下手な生き方をしているというか。簡単な話なのに、それができないのはなぜだろうと思っている人が多いのではないでしょうか。生き方がど下手というか、仲良くなるのは簡単な話なのに、何でけんかばかりしているのかな。

 ――それは家庭内の話ですか。

 山本 いや、家庭内の話だけでなく、隣国の話でもそうです。韓国とか中国とかを必要以上に敵対視して、いいところを学ぼうとしない。だから、中国の断熱性能が圧倒的に高いとか、自転車専用高速道路をつくって偉いという話にはなりません。盗まれたとか、悪いところばかり見る。例えば、Yahoo!ニュースもそうですが、ニュースは全部「週刊文春」のような立場で書かれていて、それが世の中に一番求められているから、みんな書くわけでしょう?

 ――あれは単純に、いまストレスがたまってネットしか見ない状態で、必要悪というか、ああいうのを見たら喜ぶのではないかということで出しているだけで。

 ――メディアがあおっている部分も。

 ――あれはひどいと思う。結局クリックして、それがカウントされているだけで、優秀な人は、あれは見ていません。

 山本 普通に見ていない人が多いです。刺激の多い社会だから、そういう刺激を抑えることが投資に結構結び付くのですが、その前提条件ができていない。僕に対しても、何回も同じことを聞いてくる人がたくさんいますが、それは、最初にそのマインドセットができていないからです。

 例えば、小さい株で妄想みたいなことを言っている経営者は、よく分かっていないから相手にしては駄目だよと言うとする。でも、みんなそういう妄想を引っ張ってきて、この人はすごい、この人はすごいと、小さい企業ばかり取り上げさせようとする個人投資家も多いわけです。俺は固まったとか、小型株しかやらないとか、そういう人も結構多く、そういう生き方も考え方を変えることはできないし、変える必要はない感じです。しかし、そこは違うのではないか。

 もう少ししなやかに、みんなで力を合わせたほうが得に決まっている。勝率8割の人が100人集まったら、全体としての勝率は99%になりますが、1人でそれを目指そうとしているから効率がすごく悪いです。手っ取り早くもうけたいというのと、料理の本のように簡単に手順を踏み、利益率の高い、過去の実績がいいものを選んでやっていけば、それなりにできますが、そうやると、かんき出版で出したのと同じだから、その正直な話を書いてしまいました。

 ――今の段階では、その辺りの話は別に気にする必要はないと思います。大本の山本さんの今の問題意識とかをどんどんしゃべっていただいてもいいです。

 山本 個人投資家も機関投資家も短期になっています。例えば、ダイアリーは1年ごとになっていますが、何かをやろうとしたら1年では何もできない。10年計画で自分を高めていくような人は非常に少ないので、ナポレオン何とかの。

 ――ナポレオン・ヒルですか。

 山本 ああいうことができている人がどのぐらいいるのか。自分がもう少し長い期間、5年先、10年先にこうなっているだろうという発想ができないと、企業を見ても分からないと思います。何かを長期でデザインするのは、こつこつやれば誰でもできることですが、なかなかそれがされていないので、やってもらいたい。いろいろなことに興味があるけど、結局何がやりたいのか分からないのが現代社会の。

 ――これは投資家というよりも、人としてということですよね。

 山本 人としてです。食べ物でも、今はおいしくて種類がたくさんあるから、毎日違うものを食べないと気が済まないわけでしょう。それと同じで、やるべきことがたくさんあり過ぎて分からなくなっています。一つを選んでそれをずっとやれば一流になれて、その筋の企業の分析ができるようになるのに、きょうは剣道、あしたは水泳、あさっては野球と、ずっとそれを繰り返しているとプロになれないです。将棋をやり、将棋をやり、将棋をやってとすると、将棋がうまくなるかもしれないけど。ことしは将棋をやったけど飽きてきたから、来年は登山にチャレンジするような人が多いです。

 ――1万時間やると、みたいなのがありましたね。

 山本 そこは何でやらないのかという感じです。

――逆に、選択肢が広い時代になっているので。

 山本 多すぎて。

 ――情報も過多になっているので、しかも自分が何に向いているかも分からないようなところもあり、どんどん中途半端になっているところがあるかもしれないですね。

 山本 そうです。面白いこと、例えばゲームのこれがはやって、1年後に違うゲームがはやって、またやる。モンストをやって、…?…ありましたよね。そのようにやっていくと、何が残るのかという話になります。それなら最初から囲碁をずっとやっていたほうがいいと、僕なんかは思いますが、そういうものではないと言う。その時代にはやっているもののよさがある。そのときにスマホで…?…できるよさがあるというけど、結局のところは依存ビジネスです。

 例えばゲームも刺激をどんどん強くして、ステージをどんどん上げて、?褒賞をどんどん出し、課金させてということです。今はそういう非常に極端な依存症社会です。アマゾンもクリックさせようとするし、新聞社の記事を読もうと思っても、ここから先は無料登録しろとかいうのがポッポポッポ出てきます。今の社会が何でああなってしまったかということです。

 ――難しいところですが、依存症ビジネスというのはよく分かります。そこばかりを目指しているのは確かですね。

 山本 問題は、本人たちが依存症だと自覚していない。1億人の日本人が自覚していません。1億人以上自覚していない。それが当たり前と思っているから。

 ――自分の意志で選んでいる感じはしませんね。何か勝手に依存漬けにされ、消費させられている感じはしますよね。

 山本 例えば宗教は欲望を戒めるものだから、戒めがいい結果につながるのは当たり前の話ですけど、モーゼの十戒とか、これをすることなかれと言いますが、大体、してはいけないことはそんなにたくさんはなく、普通に考えたら、してはいけないことが六つか七つあれば幸せに生きられるのに、現代人はそれを全部破り、してはいけないことばかりやっています。

 宗教が教えていたのはそういう依存症から離れなさいということでしたが、依存症にさせないと物が売れなくなってしまったわけです。あとは、自分が楽しいことをフェイクニュースで正当化する。そうしたら、自分は依存症のままで変わらなくていいわけです。勉強せずに、例えばラストベルトのような自動車工場の労働者になり、落ちこぼれて失業者になっても、自分は悪くないと思う。だから、トランプさんを応援したりするわけでしょう。そういう自分を正当化しようと思えばいくらでもできる世の中になっているわけです。

 それだと、投資家としてはちょっとやっていけない。投資家は全ての人をうまく稼働させて結果を出せないとうまくいきません。全てのステークホルダーを回していかないといけないけれど、回されている感があると駄目だから、一緒になって回っていこう、さあ一緒にやるぞとリーダーシップをとってやっていかないと、投資はうまくいきません。そういう心持ちで自分が主役になり、どんどん他人の立場に立てる人が投資家です。自分のことはまずいいとして、社員の立場に立って考えたらどうなの、取引先の立場に立ったらどうなの。それは確かにもうかるけど、やめておこうという話になりますよね。

 現代人はそういう他人の立場に立つことができていなくて、極端に自己中です。きょう電車に横に乗っていた若い女が荷物をこんなふうに置いて、立っている人がいるのに、足を組んで座ってスマホをやって、人が入ってきたことすら全然気が付かない。そういう人間を大量生産していて、それは大人の責任です。だから、投資がうまくいかないようになっているわけ。そういう人が投資をやっても絶対うまくいきません。

 これはどうなのか、あれはどうなのか、この人の立場に立つとまずくないですかと、全てのステークホルダーの立場に立って1周するのが投資家の基本的な作法なので、それができないと、投資家としての分析ができません。こういう自己中なやつはいつからこんなに多くなったかな。スマホからかな。

 ――僕もそう思いますが、批判ばかりしていてもあれなので、逆にどうしたらいいかというところが知りたくなります。

 山本 本当に身近な例ですが、うちの4番目の子どもが中3で、1週間後に高校受験です。クラスに行ったら、○○君と○○君は学校に来て授業を受けずに、家で勉強している。受験が大変だから、ボーダーラインの子はそうやって家で勉強しているのに、何でうちはそれを許さないのかと言うわけです。学校に行くのは当たり前でしょうと言っても、今どきの子どもは納得しません。

 何かあったときに、いつも自分の都合を優先させて行動してしまうと自分中心の人間になってしまうから、後々そうなってほしくないから、お父さんとお母さんは学校に行ってほしいと思う。5人の先生が長い時間をかけて授業の準備を一生懸命してくださっているのに申し訳ない。そういう他人に対する配慮ができない人間は何をやってもうまくないし、そういう人間をつくるのは親としてよくないと思い、そういうことを言っているのだ。今の子どもは、そういう当たり前のことを説明しないと分かりません。

 キリストさんが、人にされていやなことはしないようにと言ってから、かなりの時間がたっていますが、そういう当たり前のことが普通に実践できていません。

人の立場に立って考えるだけの簡単なことなのにできずに、自分の欲望を満たすわけです。そういう身近な例を一つ一つ取り上げ、自分もいつもそうではないし、たまにはそういうことがあってもいいけど、10回のうち8回ぐらいは他人のことを考え、1~2回は自分のことを考えてもいい。

 僕はそういうコラムをずっと書き続けています。だから、いつも同じことを書いています。もう何回も何回も。同じことをずっと言い続けないと駄目だと思い、そうしています。だから、投資をやる上でも、他人の立場に立って考えることができないのは問題だということです。全てのステークホルダーが回らないと最終的な利益は残らないので。

 投資家は最後のとりでになっているという話もたくさんしていますが、日々の自分の行動が、投資家になったことによって変わらないと、社会もよくならない。それらがリンクしていないとおかしいと思います。投資をするときだけ他人の立場に立ち、日常生活で家族に八つ当たりでは情けないですから、そういうことをきちんとやってもらいたいと思います。上から目線になるかもしれませんが、できていないことはできていないと言いたくなります。

 ――会員さんは、サイトに入るとき「資産10年で10倍」と書いてあるので、自分の資産を10倍にしたいからと入ってくるわけですが、入ってから、山本さんにいろいろ聞いて、何か会員さんの考えが変わったのを聞かれた例はありますか。

 山本 たくさんあります。

 ――そこの接続は前に言った快適さとは少し違う感じだし、でも、そういうのに響いている人もいるし、その違いはどうでしょうか。入り口は、みんなそれなりにお金を増やしたい感じで。

 山本 入り口の、あの派手な感じのものも本当はやめてほしいです。やるべきではなかったのかと、いま思います。しかし、毎日すごく元気をもらっていますというメールが多いです。投資が社会をよくすることにつながっているとは考えたことがなかったとか、正しいと思うことをやるのが投資につながるのは爽快な気分ですとか、そういうメールが結構来ます。

 だから、投資についての考え方がとても変わり、視座が高いという言い方をする方も多いですが、俯瞰できるようになると言うわけです。結局、自分が何をやっているか分かっていないと目線が低くなりますが、世の中を俯瞰するぐらい高くなると、より投資が分かるようになると言う人は多いです。

 ――そこは僕も分かります。企業の見方すらも全部そうですし、どんどん広くなり、全部覚えていけばすごく広い見方だ。

 山本 短期的に得をしても長期的に損をしたら元も子もないのは当たり前の話で、例えば先ほどの受験の話でも、家にいて学校に行かずに勉強したら短期的には得ですが、長期的にはその子の人生を台無しにします。他人のことを考えられないやつは出世したり、トップの地位に立たされることはない。自分のことを犠牲にしても他人のことを考えるやつがリーダーになっていくから、そういう意味では、こいつはもうリーダーにできないと、親が学校を休ませてそう育てているということです。

 ただ、そういう短期的に得をさせて、長期的に大損させていることが分かっていません。めちゃくちゃ損をさせている。中学受験でも、自分のところは金があるからと受験させてストレートにどんどん上がっていけば、とんでもない人間をつくるに決まっています。えらく損をさせていることが、人間を壊しているのが分からない。そういう当たり前のことが分かっていないわけです。

 日本の家も同じで、建てるときにできるだけ安くつくり、光熱費がばかみたいに高い。30年たつと1000万の光熱費を払っていて、家の値段と変わらなかったというようなことが起こっているわけ。最初にじっくり考え、光熱費をゼロにするような住宅にできるのに、それをやらないから、これをつくったら最初の10年は元が取れないけど、30年使えば圧倒的に得になり、30年ではなく100年使えるように設計するのが一番いいわけです。

 企業の統治もスタイルもみんなそうで、最初にお金をかけるからうまくいくようになっているわけです。その場その場でお金をかけずにやっているのが個人の事業者で、そういうのは競争力をどんどんなくしていきます。最初のフロントのデザインにガーンと金をかけられるかどうかが差別化要因になる。長い目で見て、何がその人にとって一番いいかを考え、短期的には少し厳しいことを言わないと勉強もしない。勉強しないのは勝手だけど、何で勉強するのかも含め、うちでは結構丁寧に話すようにしています。

 そういう言語能力というか、説明責任というか、人間同士だから説明してあげることが大事で、企業と投資家の対話も、言葉でしっかりと対話をすればいいけれども、そういう機会すらもつくらない企業があるわけです。それでは話にならない、文字どおり話にならない。それが変わってきつつあるので、少しは希望が持てるのではないかと思います。

 ――勉強してから株を買えということですか。

 ――おっしゃっていた、投資家である前に人としてまともであれという部分はすごくあると思います。

 山本 いま言ったことは勉強というほどの勉強ではなく、最初の段階の発想というか、人のことを考えなさいというのは。

 ――勉強ではないですね。人として。

 山本 もっと手前のことだから、人としてまともなことをまともに考え、企業の事業がまともかどうかと考える。まともかどうかはESGで判断するしかないです。個人投資家で、「この企業はすごくいい。どうですか、山本さん」と言われ、見て一瞬でこれは駄目だと思う。例えば、日本だとサラ金が規制され、金利は高くできないですが、この企業はカンボジアで金貸しをやっていて、金利が50%だ。投資収益率が高いから、こんな素晴らしい事業はないと言っているわけです。

 ――それはどうなのかという話ですよね。

 山本 それを素晴らしい事業と思うことが人としてどうなの。その社会を、自分とは関係ないと切り離しているわけです。しかし、社会と人間を切り離して考えたら、ろくな人間にならないです。こういうことを言うと問題があるけど、ろくな人間でないからそうなったのか、そうなったからろくでもない人間になったのか、分かりませんが、結局、格差社会で機会均等とかチャンスが与えられていないことが問題なわけです。今は、そういう全てをいったん平等にして、そこからやり直したほうがいいかもしれない状況だと思います。

 ストロング系を飲み、子どもを放置して、7人に1人ぐらいが相対的な貧困と言われていて、学習塾にも行けないで、エリート層が政治家の2世、3世のように固定化される。それは損失だと思います。本来すごい才能があったのに、その人たちが捨てられているので。そういうことがないようにしましょうというのは当たり前の話だし、それがESGです。当たり前の話だけれど、それがESGにつながっているわけです。

 僕が社会人になったときにがくぜんとしたのが、小・中・高・大学と男女平等で来ていたのが、社会人になった途端に、女性は制服を着てコピーを取らされたり、お茶くみをさせられたり。何だ、この社会はと、普通に疑問に思うけど、慣れてしまうと、それが当たり前になり、誰も疑問に思わなくなってしまうわけです。それで、大したことのできない男性社員が一般職に命令したり、偉そうな態度をとったりしている。そういう会社だから、うちの和光証券はつぶれました。合併吸収されましたが、それはつぶれるわなと思います。

 今の製造業も、このままでいくとつぶれると思います。いまだに制服着せていますが、あんなのはやめたほうがいいです。制服を着ることは帰属意識だといいますが、それは外から与えられるものではないから、そういうことはやめなさいと言わないといけないと思います。海外にはそんなものはないから。どうですか。だから、普通の人、ちゃんとした人がいなくなった。

 ――もともとはいたということですか。

 山本 分かりません。戦前の日本の子どもたちは、軍国主義だったのもありますが、ベクトルはそろっていたと思います。社会が貧しかったからかもしれないけれど、助け合っていたでしょう。江戸時代の長屋でも。身分制度があって。

 ――自分だけよければということではないかもしれないですね。

 山本 あとは責任。迷惑をかけることは許されなかった。今でもそうですが、琵琶湖があり、滋賀県があり、京都があり、大阪があり、その水を使い回してどんどん下流に行く。大阪はすごく汚い水を使って。それを、京都や滋賀の人は権利だと言いますが、大阪の人はおまえたちの責任だと言う。ほかの人が後でまたこの水を使うのだから、汚いまま戻してはいけないのは当たり前の話でした。それが、金を払っているからいいだろうというわけです。マーケットができてきて、サービスになってしまった。俺は客だぞと言う感じです。

  ――投資家こそ変わらなければいけないという話ですよね。

 山本 そうなるかもしれません。投資家というとデイトレーダーのような人を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、そういう投資家は、辞めてしまって自分でやるしかないという少しとがった人が多く、それでうまくいった人が億トレとかになっているわけです。社会性のなさが少しあるかもしれない。うちの会員は兼業の人がほとんどで、忙しくてできない人も多いです。お医者さんとか、コンサルの人とか。

 ――本来的には、お金をいろいろな企業に投資して差配できる立場にいるのだから、モラルを持ち、どういう社会をつくるかを考え、投資するのは非常に大事なことですよね。

 山本 本当にそうです。お金をどこに置くかということで。

 ――それを変えられるということですね。

 山本 例えばサラ金に置いたら、社会は持続可能ではないので、どんどん破産する人が。

 山本 だからESGが出てきた。ノルウェーの人は石炭を掘る会社にお金を預けたら、自分たち国民がそういうことをやってほしくないと思っているから、お金を引かざるを得ないという説明です。だから、お金を差配する立場にあるわけです。

 ――投資家としてそれを選べるのが今の社会のよさであるとは言えますね。

 ――そうですね。そういう自己中がまん延している世界だからこそ、そうではない、山本さんのおっしゃった少数派を選んで時間軸を長くしていく。

 山本 少数派と多数派なら、少数派に付いたほうがいいというのがマーケットの鉄則ですが、よくよく考えたら理性と本能です。理性的に考えるのは簡単なようで実は難しく、みんな本能のほうに行ってしまいます。恐怖と欲が本能で、理性はそれと闘わなければいけないし、人間は少数であることを心地よく思わず、みんなと同じだと安心します。

 少数対多数の闘いと、理性的か本能的かという対立軸があり、例えばお酒を飲んで酔っ払いたいとか、もう1軒行くぞとなるのは、結構本能、本能、本能となっているわけです。理性的に生きろ、それをやってはいけないというのが例えば宗教の教えです。本能、欲望、百八つの煩悩とか言いますし、十戒とかもみんな同じです。たくさん欲はあるけれど、その一つ一つに関わっていたら幸せな人生を送れないですよと言って、他人の立場を考えたり、恐怖と欲からいかに逃れるか。マーケットをドライブしているのは欲と恐怖だから、株価を見ないことは大事ですが、心配だからずっと株価を見てしまうわけです。

 ――そうですね。掲示板の書き込みを見ていると、コロナショックのときにはどうしようと。上がっているときは、この株は上がっているのに何で買わないのだ。あれがまさに恐怖と欲に執着している状況で、今はまさにそういうところなので、少し距離を置き、その中でESGの観点で。

 山本 本当は欲と恐怖から離れ、事業、サービス、製品そのものをしっかりとみんなの立場で見てあげるのが大事で、みんなの立場でその会社を見ると、社員を犠牲にして業績拡大しているのは駄目です。ブラック企業はそうで、例えばワンオペとか、名ばかり店長とか、そういう問題がありました。それでもどんどん拡大していたときはいいですが、最終的にやはり駄目じゃないですか。人を物のように扱うやり方をして、派遣の業態も駄目になりましたよね。

 では、どうしたらいいのかを対話するのが投資家の役割で、急にやめられないなら、段階的にこうしていけばいいのではという相談相手になるためには、みんなのことを考え、いろいろ見たけど、ここが少し犠牲になっているよと言ってあげるのが重要だ。ワンオペも、何で外食が夜中の2時、3時に開いている必要があるのかというそもそも論からスタートすると、家賃が少しでも楽になるようにとか、もうけが多くなるようにということだけなら、人間を夜中に働かせるのはまずいということのほうが本来重要なはずですが、増益増益のプレッシャーで短期業績を投資家が求めると、企業もブラック化します。だから、投資家が短期業績を求めたら、社会がめちゃくちゃになる。

 ――理性とか俯瞰は山本さんの講座に入り、いろいろな観点から見ていくところはそうですね。

(2021年初頭)

 

成長株投資の哲学  

Posted by 山本 潤