日本株 長期アウトパフォームの条件は整うのか? by yamamoto
DFR向けの有料メルマガから抜粋しています。表題の答えはYES。夫馬賢治さんの「ESG思考」(講談社)がそれを示唆しています。
整うか 日本株の底上げの条件
投資とは本来、長期的なものです。世界120兆ドルの運用が機関投資家に任されているのです。そのうち、ヘッジファンドは3%程度の割合に過ぎません。
世界の個人投資家は機関投資家を凌ぐ180兆ドルを保有しています。その中にはヘッジファンドと同様にトレードを頻繁に繰り返す個人もいます。ですから、日々の相場は短期トレーダーの売買が保有比率を大きく上回る状態となるのです。
個人の富裕層は世界的にはファミリーオフィスと呼ばれていて、多くはスイスなどのプライベートバンクで資産管理されています。一方で機関投資家の多くは年金運用でありGPIFのように長期の視点で保有しています。
短期のトレーダーが相場を短期の需給で動かすのに対して長期の投資家は運用方針を厳格に守ります。
そして「ここぞ」という数年に一度の暴落の場面においても買い出動します。アセットアロケーションと呼ばれますが、暴落した資産の減少分を補うためにキャッシュから株への運用資産の再配分をするのです。ですから長期の投資家の流通市場における買い場はリーマンショックやコロナショックのような相場が暴落した局面です。ショック以外は粛々と方針に従って長期で保有する。私も年金運用の担当でしたので米国の年金では売買の回転は年に1回転を超えてはならないと厳命されていました。ちなみに日本のアクティブタイプの投資信託は回転率が2倍程度もあるものが多く欧米の投資信託はその数分の1の回転です。
リーマンショックは社会現象としては「金融信用のブーストに過度に頼る成長は持続可能ではないこと」を知らしめたものでした。テクロノジーを過度に信頼してはいけない。金融工学を使いすぎてはならない。
物事は「ほどほど」でなければならない。
コストカットに走った日本とコストを意図的に増額した中国と欧米
「このリーマンショックを起点に欧米と日本との大企業としての格差が大きく開いてしまった」と指摘するのがESGコンサルタントの夫馬賢治さんです。彼は著書「ESG思考」(講談社)の中で主張しました。
夫馬さんの著書からのインスピレーションから、このコラムを書いております。
(ご興味がある方は原著をぜひお読みください)
リーマンショックで日本企業が短期の利益の喪失を挽回しようとCSRやR&Dの費用を削ったのですが、欧米のグローバル企業は、全く違うものを見ていたのです。
それは「見えないリスク」。欧米企業は見えないリスクの存在に驚いたのです。
たとえば、クレジットスワップ。社債の元本を保証するものでしたが大元の保険会社が潰れてしまった。つまり保証されたものと思い込んでいてリスクとは考えていなかったクレジットリスクが存在し、ヘッジできていると思い込んでいたものが実はヘッジできてはいなかった。
これを単に、景気が悪い、目先の利益が減る。どうしようと考えたのが日本企業でした。
派遣を大量に解雇し、研究費を削り、CSRの予算や社会貢献の予算をなくし、さらにスポーツ振興や芸術への援助を全て切り捨てた。確かに短期的には利益が出ましたが、長期の戦略では日本企業のこの不味い決断がその後の株価の大きな出遅れを生んだのです。
欧米企業は違ったのです。見えないリスクが他にないかを探したのです。そしてあったのです。重大なリスクが。
(それは兼ねてから私がバリューの計算に入れていたポアソン確率でした)
ポアソン確率と時代のボーナスとペナルティ
リスクの中には、それが生じる確率がわずかであり、普段は気にしないで済むものがあります。例えば宇宙が破滅する。地球が爆発する。こうした想定の確率はとても低い。ですがもし仮に生じてしまったら人類は破綻。何もかもなくなります。
確率は低くても、生じた場合のインパクトが重大なもの。これを欧米の企業は探したのです。DFRではこのリスクをポアソン分布による期待値と分散を計算、バリューに反映する時代のペナルティ/時代のボーナス方式を採用しています。詳しい計算方法は2021年4月18日にリンクスリサーチ(小野社長)主催の有料zoomセミナーで公開する予定です。
企業にとって顕在化する巨大リスクはあります。地球温暖化と人権問題です。温暖化による社会被害は顕在化していることもあって、確率は毎年のように上がっている。年々被害は増大している。これは経営の課題ではないか。そう感じた欧米は前向きな費用を大幅に積み増す決断をしたのです。人権問題に後ろ向きになれば、採用そのものができない。そして業績はガタガタになる。水を大量に使う製造業は、温暖化により将来、水を確保できなければ操業ができない。企業として立ち行かなくなってしまう。
人権問題や環境問題に取り組まなければリスクが顕在化する。そう、リーマンショックのように。
2009年、欧州議会ではESG情報開示の強化方針が採択されます。米国は国家としては遅れていますが、個別のグローバル企業は欧州顧客が多い。そのため、自主的にESGに取り組みました。
環境団体グリーンピースがGAFAを格付け。データセンターが槍玉に上がりました。電力を大量に消費し石炭火力のウエイトが高いとしてアップル1社がGAFAの中で突出してESGスコアが低かったのです。彼らだけ中国でモノを作っている。中国の発電は日本と同様に石化燃料によるものです。アップルは迅速に対応しました。自然エネルギー中心に運用すると方針を決めたのです。
欧州は特に風力発電などの自然エネルギーに国家予算を注ぎ込み、石化発電比率を大幅に下げていきました。そして新しい産業を創出したのです。当然のことながら、自然エネルギー関連の株価パフォーマンスは高く、そしてESGに素早く対応したグローバル企業の株価パフォーマンスも高かったのです。
日本企業が「ESGに出遅れた」した理由はいくつか指摘があります。
夫馬賢治氏の「ESG思考」(講談社) (132-135ページ)によれば、
- 伊藤レポートによる8%ROE提言がESGより自社株買いにフォーカスを誘導したこと、
- 四半期決算に対応するために日本企業の経営者は目先の収益に固執したこと、
- 研究開発をショックで削ったことなどを指摘しています。
例えば、中国はリーマンショック時と比べて企業の研究開発を4.7倍にした。
韓国は2.5倍にした。欧州は1.6倍にした。米国は1.4倍にした。
残念ながら日本は研究開発費を削ってしまった。
いまだけのROEを考えるならば自社株買いは効果があるのです。ところが投資家にとって重要なことは、今のROEではなくて、将来のROEの展望です。そのためには事業群や商品群を仕分けし、企業の長期戦略を策定する必要があります。
年度計画や3年程度の中計のような手法で10-20年の長期計画を考えることは不可能です。
例えば炭素税は日本ではわずかに289円/tonです。これを前提に10年後を考えることは本当に正しいのか。スウェーデンでは炭素税は15000円/ton程度です。しかし、経営者はそれを知るだけではダメです。
実際にテクノロジーの現場では、炭素を還元する装置がある。そのコストは汎用品では60000円/tonです。(送風機、吸着触媒、接触液体の循環配管などで構成)将来、10000円ぐらいの汎用品が出てくる可能性はありますが、289円ではない。
長期経営とは、例えば、炭素税が10000円/tonになれば我が社の経営はどうなるのかを考えることです。欧米や中国は考えた。日本は考えなかった。
なぜだろうか。
日本に長期投資家が存在していなかったからではないかと私は悔やんでいるのです。欧米の投資家はアクティブが中心。日本は手数料ばかり気にするパッシブ投資家が中心。投資家の役割が欧米では高く、日本は文字通り投資家が受け身で何もできなかった。
これで、欧米に対する日本の劣後がはっきりしてしまったのです。アベノミクスで外人は日本にも同様の動きを期待したのですが、ESG思考を日本企業は拒絶したのです。
日本株を絶えず米株に劣後する冴えないアセットであるとする考えがあります。
確かに、この10年の日本の戦略は不味かった。そしてその考え通りになった。パッシブに生きるならば、欧米や中国の投資家を当てにして日本が変わることを夢見ればよい。しかし、他力本願が過ぎる。これではあまりにも情けないではないか。これをオントラックに乗せることが日本の投資家の重大な仕事の一つになったのだ、と私は考えたのです。
日本株 アウトパフォームの条件が整うか
DFRでは夫馬さんのような「ESG思考」を未来志向の投資のあり方として当然のこととして受け入れ、日本企業へのガバナンスの強化に注力し取り組む所存です。まずは私も含めての意識改革として、この世界が直面する問題を直視しなければならないでしょう。日本においては、企業がようやくESGに目を開いた状況です。GPIFのESGインデックスの登用が起爆剤になったのです。
日本企業は変化が遅いが、変化を起こせば後は一直線です。横並びで改革する。それはよいことなのです(笑)!!!
TOPIXなどのインデックスが元気なのは、日本株がこのようなESG底上げへの期待ステージにあるからなのかもしれません。この機会を逃さずに、ESGの方向性で一挙にバリューが高まると想定される投資対象を探す必要があるのです。
電源。断熱材。蓄電池。DXなどの分野でしょうか。さまざまな調査領域で有望な企業を発掘・再定義していくことが求められます。そして ESGに積極的ではない企業で変化が大きそうなものも魅力的な投資になるでしょう。
ガバナンスをよくすることで日本企業の株価のアップサイドは大きいのです。
識者であり、技術の目利きであり、私のよき相談者でもある発明塾の楠浦塾長は「出遅れの挽回だからチャンスです。日本のお家芸は追いつけ追い越せであったことを思い出しました」と指摘くださりました。会員のIさんは知り合いの起業家が語ってくれたことを思い出してくださいました。
「日本の企業は動きが遅い、遅いと、皆、批判するけれど、だから自分はここまでやってこられた。実はとても感謝している」としみじみ語ったのが今も忘れられませんと。
一人たりも落ちこぼれをださないこと。
No One Left BehindはESG投資の基本原則です。
そして、思い起こせば、これが我が国の強みだったのです。全員で底上げを目指し未来を変えていきましょう。
私はかつてないほど、日本株アウトパフォームの前提は揃っていると確信しています。
P.S. 私ごとで恐縮ですが、断酒25日目です。体重は8キロ減少。これからの個人はそれぞれライフスタイルにおいても否応がなく社会的責任を背負うことになります。依存症ビジネスを根絶し、一人一人がwell-beingな存在を目指す。いや、俺は違う。好き勝手に消費を楽しむのだという方もいらっしゃいますが、この時代にはそのような余裕は徐々になくなっていくと思われます。責任ある自由へ。一人一人の貢献が新しい未来を作ります。この20年の日本企業の環境への取組には頭が下がります。産業からのC02排出は漸減的に低下中です。高い電気代、高い運送費、高い土地代。高い法人税。このような「悪い」条件が重なる日本企業です。だからこそ、企業現場の環境負荷低減の工夫が積み上がったのでしょう。環境への配慮は1970年代には単なるコストアップと見なされました。そうではありませんでした。環境規制は長期では企業の競争力を向上させたのです。
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