7500 西川計測 ― 計測制御のエキスパート集団 インフラ、製造業を影から支える好収益企業

2018年12月27日

1 会社概要

横河電機の代理店。祖業はオシロスコープなどの計測器の仕入れと販売。制御計測システム、産業機器、計測機器の仕入れ、販売を行う。区分は卸売業だが実際やってることは機械を組み合わせて、システムを作るIBMなどのようなソリューションプロバイダー。もちろん機器の卸売、販売もやるが、機器を仕入れて制御計測システムとして組み合わせて売るのがメイン。顧客は工場、プラント、電気設備、通信設備などをもつ国内企業。

派手さはないが、小さなことを長くしっかりと積み重ねていく会社だと思った。それが堅実な業績として現れているのだろう。実際、国内の大企業や公共機関が顧客になるような技術力も、全体の技術力をじょじょに上げてきたからだという。

2 なかなか理解しにくい会社

西川計測は何をやっているのか理解しにくい会社である。

商社ではあるが商社ではないのだ。機械や計測器を売っているが、商社のように右から左に流すだけではない。IBMとか富士通がやるいわゆる「ソリューション」で儲けている。顧客は食品、化学、電気、ガス、自動車、半導体、通信、など様々な業種に分かれている。

筆者も初めてこの会社を四季報で見かけたときに何もわからなかった。「エンジニアが多いのだから何でも作れるだろう。やれるだろう。」そのぐらいだった。

まずはこの会社が何をしているのか理解していくところから始めたい。

3 公開資料を読む

 

3.1 四季報

最新の四季報(2018年10月時点)によると西川計測は

  • 横河電機、アジレントテクノロジーの代理店である
  • 技術者が社員の70%である
  • 天然ガス基地向けの製品を売ったり自動車試験装置を売ったりしている
  • 中計を前倒しで達成した

とある。東証の業種区分は卸売業、要するに機械や計測機を売っている商社だ。しかし、なぜか技術系の社員が多い。天然ガスと自動車となんの関係があるのかもわからない。横河は機械の会社でアジレントは分析機の会社である。これもなんの関連があるのやらわかりにくい。

続いて決算説明会のスライドを見てみよう。

3.2 決算説明会のスライド

2018年8月23日発表の決算説明会資料を見てみよう。顧客のリストとセグメント別の売上を見てみよう。

Figure 1: 西川計測の顧客

公共機関、自動車、エネルギー、プラント、電気、食品、石油、化学など多岐にわたる。続いて製品ごとの売上比率。

Figure 2: 製品ごとの売上比率

制御システムの売上が半分なことがわかる。次に多いのが分析、計測機器だ。計測、制御を行うための製品が売上の大半をしめている。西川計測は制御及び計測技術のエキスパート集団なのだ。

4 制御計測とはなにか

同社の顧客に共通するのは彼らが何らかの生産設備を持っていることである。水道局は浄水場、サントリーはビール工場、住友化学は化学工場だ。これらの工場を毎日稼働させて求める品質の製品を作り出すために制御計測技術が必要になる。

例えば自宅でスープを作ることを考えてみよう。野菜を切って、炒める。水の入った鍋に移す。そして塩や香辛料を入れて、30分煮込むとする。

野菜を切るには大きさが適切か気を配らないといけない、炒めているときは調理時間で炒め具合を判断する、煮込んでいるときも火加減に気をつける、塩や香辛料は適切な量を入れる必要がある。

工場を使って同じようなスープを作ってみよう。作業は全て機械がやるとする。

野菜はカット野菜を機械で炒める。野菜の分量と鍋の火加減と炒め時間を計測しつつ、一定時間炒めたら止める。煮込みは鍋の温度と煮込み時間を監視しよう。鍋の推移をセンサーで監視して、吹きこぼれそうになったら火を止めるようにしたい。塩の量は外気温に応じて変えたい。外気温を監視して、暑い日には塩を多めに、寒い日は少なめにしたい。

こうしたことを実現するのが制御計測の技術である。原材料を投入し、途中のプロセスをセンサーやタイマーなどの計測器を使って監視し、データをフィードバックする、フィードバックに応じて、機械を調整して生産プロセスをコントロールする。これが制御計測技術である。

製造業に限らず、設備(生産設備、通信設備など)があって、そこに何らかのインプット(液体、固体、電気など)を行い、目的のアウトプットを得ようとするにはこの技術が必要になる。水道局は浄水場で水をきれいにして飲用水を作るし、製鉄会社は鉄鉱石を処理して鉄にする、通信会社は一方から来た電気信号を機械に通して他方に送る・・・・制御計測の技術は幅広く需要があるのだ。

5 幅広い顧客基盤

同社には様々な業界の顧客がいる。

5.1 安定した受注があるパブリックインフラ関係

電気、水道、ガスなどのパブリックインフラを運営する企業や公共団体は同社のメインの顧客である。ここからの需要は大きな伸びが期待できないが、定期的な受注がある。

例えば水道。東京都内の9の浄水場に同社のシステムが導入されている。大規模な浄水場には他企業の下請けとして機器やシステムを納入し、小規模な浄水場には直接機器やシステムを納入している。

次にガス業界。同社は日本がLNGの受け入れを開始した1969年からLNG関係の計装工事に関わっている。その実績はLNGタンカーが基地への接岸するときに速度や距離をパイロットに伝える表示装置、接岸後のタンカーの状態を関する装置、LNG基地内の製造設備の監視制御装置、ガスパイプラインの供給監視システムなど多岐に渡る。

5.2 半導体業界・自動車業界はややボラタイル

国内の自動車メーカー、国内の半導体メーカーからの受注は伸びも期待できるが、逆に急激になくなることもある。半導体メーカーにはウェハ検査装置、真空ポンプなど。自動車メーカーには環境試験装置(内燃機関向けである。電気自動車向けではない。)などを納入している。

半導体メーカーからの需要は市況次第である。同社はここからの売上は非常に保守的に見積もっているという。自動車メーカーからの内燃機関向けの試験装置の需要は将来電気自動車が主流になれば減少する懸念もある、が、これは当分は問題ないだろう。

6 利益の源泉

機械を単に売るだけでは儲けることはできない。同じ製品を売る業者がいれば値段の下げ合いになるからだ。機械商社である同社はなぜ幅広い顧客から信頼されているのだろうか?

同社も昔は計測器の卸売りがメインだった。それでも儲かったが、だんだん安くて性能の良い計測器が増えてきた。顧客も知識をつけ、製品の粗利がだいたいいくらぐらいなのか知っているようになった。

同社はただ製品を売るだけではなく、機械をカスタムしたり、それらを組み合わせてシステムを作り出す、「ソリューション」を徐々に広げていった。卸元である横河電機も非常に協力的だったという。横河からしてみれば、代理店が自分たちの商品の新しい売り方を熱心に考えて実行してくれるわけだ。こんなに嬉しいことはない。

6.1 顧客企業の事情

そもそも民間企業や公共機関も自社では制御計測エンジニアをあまり抱えない。大抵の企業では管理職は数年で職場を異動する。このため、彼らには現場の詳細な知識はあまりない。会社も社員にはなるべく上流の工程に集中させたい。

では誰が設備の保守管理を行うのか?同社のような会社の社員である。同社のサービス部門の社員は顧客先に常駐する。毎日機械の保守整備をしつつ、顧客に新しい提案をしている。長く現場にいるので、彼らは新しく異動してきた責任者よりも遥かに設備に詳しいらしい。毎日のやり取りは小さいが長くやれば大きな信用になる。顧客もなかなか外注先を変えづらい。(むしろ変えたいと思わないだろう)

6.2 顧客に頼りにされている

2015年6月期から2017年6月期まで実行された中期計画「Next Nishikawa」ではエンジニアリングのブランド化を掲げていた。「西川計測に聞けばなんとかなる」、「西川計測にまかせれば安心」と顧客に認知してもらうことが目標だった。これが見事にうまくいっている。

6.3 分析機も「売る」だけではない

同社はアジレント・テクノロジー社の分析機器の代理店でもある。国内でのアジレントのシェアは低くはないとはいえ、競合は多い。アジレントの製品を売る代理店も同社だけではない。

分析機器はスポーツカーのように使いこなすための知識と技術が必要である。そこで同社はサービスセンターで顧客に知識や技術を教えている。アジレント製品を扱う代理店でも、研修までやるところは同社だけのようである。

7 組織

同社の人員の七割はエンジニア。三割は営業と間接部門スタッフだ。エンジニアたちは大きく3つの職分に分かれている。開発、ソフト、サービスである。

「開発」はプロジェクト・マネジャーである。営業と協力して、顧客とコミュニケーションを取りながら案件の進捗を見る。

「ソフト」に属するのは製品を制御するソフトウェアを作るプログラマーたちである。「サービス」の人々は顧客先に常駐して、研修、メンテ、保守などを行う。

「開発」と「サービス」はどちらも顧客の業務を理解できるだけの科学知識が求められる。

社員は特定の分野に集中させるという。電気なら特定の顧客の電気分野をずっと担当する。ガスなら特定の顧客のガス分野だ。いろいろと部署を異動させたりはしない。そうすることで各分野の専門家が育つ。

同社では部門間の会議で、プロジェクトの失敗事例を共有している。これは、失敗した人を吊るし上げるのではなく、原因を究明して次にいかすためにやっている。他の社員が同じ失敗をせずに学べるよい機会にもなる。様々な事例を蓄積していくことで、技術の底上げにもつながる。こうした地道な努力がよい業績につながっているのだろう。

8 財務分析

 

8.1 資産

現金が多く、固定資産は殆ど無い。棚卸資産と売掛金が多い。

Figure 5: 資産の詳細

8.2 負債

買掛金、前受金などが多い。社債や借り入れなどの固定負債はない。(リース負債があるがこれは借り入れと考えないことにする)

Figure 6: 負債の詳細

8.3 キャッシュフロー

営業CFの上下が大きい。

Figure 7: キャッシュフローの概要

これは棚卸資産の上下が営業CFに大きく影響しているからだ。大型案件が進行すると仕掛品として棚卸資産が増えていく。これは営業CFを減少させる。案件が終わるとこれが一気になくなるので営業CFが改善する。特段大きな問題はないとおもわれる。

9 西川計測の将来

 

9.1 ソリューションで付加価値の向上

横河電機の国内売上はここ数年増えも減りもしていない。ほうっておけば、いずれは同社の売上も成長をやめてしまうだろう。ソリューション提案を行えば、製品代金だけでなく、開発費などの技術料を顧客に請求できる。こうした付加価値の割合を大きくすることで、特定の製品の売上への依存を減らしていきたいと考えている。

9.2 業界の区別なく案件を取る

インフラ企業からの受注は安定的だが、自動車や半導体業界からの受注は景気に左右される。同社は業界の区別なく需要を開拓していきたいと考えている。「機械があって、それを自動制御して何かを作りたい」と思っている会社は製造業だけではない。実際同社は国内の通信企業向けに通信インフラの制御システムも制作している。

同社には幅広い顧客がいて、それぞれの分野の専門家がいる。「機械を継続的に監視して制御する」という需要であれば業界を問わずだいたい叶えることができるという

9.3 開発と投資

様々な機器からデータを取得して、それをもとに機械を制御する。それが制御技術である。この分野は機械学習と親和性が高い。人間がデータを分析して機械の制御を変更していくのではなく、機械が自分で考えて、自分で自分を制御してくれないかと思うのは自然なことである。自動運転や機械学習に関する開発も行っていくという。

同社には現金が潤沢にある。需要も潤沢にあるので、人を増やしたい。また、新卒も採用枠を増やしている。しかし、昨今の人手不足でなかなか人が集まらないという。また、 M&Aなども検討していくという。

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by 古瀬雄明