8058三菱商事-巧みな投資活動-by yamamoto/usa

この記事は山本 潤が主催する定額運用サービス、[10年で10倍を目指す超成長株投資の真髄]のサロンサービスのうち、過去のライブラリーから、投資判断やバリューエションの部分を全面的に削除した上で、企業研究のレポートとして再編集したものです。メルマガをご覧になりたい方は、以下のURLから無料で会員登録ができます。ぜひ、ご登録をお願いします。

当記事は2019年9月11日に執筆したものを再編集したものです。(yamamotoが前半の部分、usaが後半部分の分析&表を担当しています)

 

その人が投資が上手いか下手かは、いとも簡単にわかります。
下手くそな人は、相場がよいとき、過度に楽観的になります。
そして相場が悪い時に必要以上に悲観的になりなす。
つまり、儲かっている時、調子に乗ってもっと買ってしまうのです。
逆に市況が悪い時に、とても心配になり、ビビって投資を控えてしまうのです。ひどい時は投資そのものから撤退してしまいます。

それでは儲かるものも儲かりません。
投資というものは、淡々とやるものです。
過剰な強気もだめ。
過剰な弱気もだめです。

本日紹介する三菱商事(8058)は、投資が非常に上手い会社です。
どうしてわかるかは、過去、同社を取り巻く環境が天国(2008年の原油140ドル)から地獄(2016年の30ドル割れ)へと転落したからわかるのです。
その時の同社の投資のやり方から、同社はアタマのよい会社であること、そして投資の本質がわかっている人々だとわかるのです。

企業の投資活動を見る場合、キャッシュフロー計算書を見ます。
投資キャッシュフローの状況を時系列に用意をします。
投資が多い年はキャッシュフローがマイナスになります。
同社の場合は、過去15年ぐらい見て、マイナス幅の大きな年(投資の多い年)をピックアップすればよいのです。

同社はいうまでもなく、日本のエネルギー調達を担っている社会インフラ企業です。良質で安価な石炭やLNGなどの燃料は、同社の権益から輸入されます。

同社のビジネスモデルは、主に2つです。
一つは、事業や油田や鉱山などへの直投資からの利益。こちらは投資先の利益の変動の影響を受けます。つまり、鉱山へ投資をすれば、コモディティ市況がよければ鉱山が儲かり、同社も保有持分に応じて利益を得ることができます。

もう一つは、商材の輸入販売による手数料などです。これは同社の権益からの調達も含みます。仕入れ販売で、伝統的な商社ビジネスです。

さて、同社のビジネスのキモは、投資先の選定ばかりではなく、投資のタイミングや投資金額にもあります。コモディティ価格が暴騰していたリーマンショックの前の時点では、同社の投資キャッシュフローは低位でした。同社は非常に儲かっていたのですが、過剰な楽観に陥りません。同社は調子がよい時に調子に乗りませんでした。権益をどんどん拡大しなかったのです。投資が上手い人はこんな感じですよ。ああ、投資がとても上手い人たちだなあと思います。

2008年9月。リーマンショックがありました。
即座に2009年、同社は投資を急拡大します。
投資キャッシュフローは3700億円と前年から4倍にしました。
上手いよねー。

2012年。超円高です。
権益などの海外投資は、円高では有利になります。同社の投資キャッシュフローは3500億円を突破。前年から3倍にしました。
コモディティ市況が活況であった2000年代前半のお金をここで投資をしたのです。続く2013年も2012年並の投資を敢行しました。

そして、2016年。原油価格が30ドルを割れます。2008年高値140ドルから1/4以下です。コモディティ市況が最悪のタイミングで、同社は、過去最大の5000億円を超える投資キャッシュフローを計上しました。前年の5倍規模でした。
やるねー。上手いよねー。

2009年(恐慌)、2012年と2103年(超円高)、2016年(原油最安値)は投資キャッシュフローが非常に大きな年です。
逆に、少ない年は、それ以外の全ての年です。上手いですよ。上手い。
投資家の鏡です。

為替や市況が順調なとき、同社は大きな投資をしていません。
相場がわかっている人、投資が上手い人は、ほとんどがこうなのです。
コツは、暴落したとき、すぐに買う必要はなく、そろそろ準備しようかなぐらい、ゆっくりと構えることです。

暴落。即買う。これは投資が下手くそな人の買い方です。
暴落。やれやれと動き出して、慌てない。
暴落してから数ヶ月の間に買う。
このぐらいのゆったりさが上手い人の感覚です。投資と車の運転は急ぐ必要は全くありません。投資も車の運転も急げば危ないだけです。

多くの投資家は会社訪問しても最初の訪問で買うことは普通はしません。
じっくりと2年間調べて5年後に買うぐらいの感覚です。
多くの方には何を言っているのかわからないでしょうね。残念ですけど。

さて、皆様は商社と聞くと、モノを動かすだけだと思う人がいるかもしれませんが、そうではありません。油田や鉱山などの権益には、海外メジャーとの人脈がなければなりません。外国政府との繋がりもなければなりません。有利な投資案件は、よい人脈からの紹介によるものです。新興企業が権益に投資などできません。同社のような過去の大きな実績がなければ相手にもされないでしょう。

皆様は、エリートと聞くと、高給取りで苦労なし、と思うかもしれませんが、エリートほど頭脳をフル回転し集中して働く人は他にいません。
エリートならモーレツは当たり前のことです。
国民の期待を背負っているんですからね。
そうしないと気が済まないからエリートなんですよ。
昨今、エリートをバッシングする風潮があり、百害あって一利なしです。
三菱商事の社員はエリート中のエリートです。
日本を支えてくれています。彼らをぜひ、ご尊敬ください。

投資なんて本で勉強するものではないです。周りが総悲観で、大恐慌で超円高で業績がガタガタの時に投資をすれば誰だって儲かります。それ以外の要素は普段のちょっとした差です。例えば、銘柄選びが上手い下手の差は大きいです。でも、これは年間で10%程度の差にしかなりません。

逆に、投資に向かない時期はこうです。
アパレルショップの店員さんやレストランのボーイが株の話をするようになったら、投資は控えてください。ピークです。後、株主のオフ会が申し込みから3分で100人以上が埋まれば、もちろん、そんな時期は投資環境ではないです。彼らが話している銘柄には手を出してはいけません。

さて、三菱商事のリスクは、コモディティ市況の悪化などです。昨今は、事業投資も手がけていますが、将来のためです。超短期の売買に明け暮れる機関投資家よりも同社はずっと長い将来を考えて投資をしていると私は思います。例えば、カーシェア事業であるとか、スマートシティであるとか、成長分野への投資は腰が入っていますね。

配当利回りが高いですね。そして、100年後もきっとあるでしょう。
あまり株価を気にしないで配当狙いで長期で保有するにはもってこいの株でしょう。

お金は賢い人に預けた方がよいのです。相場が下がってオタオタしているような人は、最初から、株投資をしてはいけません。
暴落を恐れるビビリのお子ちゃま投資家は一生、株などやってはいけません。しっかりと年率0.01%の預金で確実に1円ずつ増やしてください。
(もはや投資家になろうなどとは思わず、利殖は諦めてください)

相場が悪い時に買う一人前の投資家の方々は、一度同社を買ったら、最低30年間は株価を見ないようにしてください。30年後は、投じたキャッシュの何十倍になっているでしょう。だって、同社は機関投資家よりも何十倍も投資が上手いのですから。

 

■■■ここからはusaが担当します■■■

「投資活動によるキャッシュフロー」を基準にして数社を比較してみたい。

上は、過去10年間において「投資活動によるCF」の上位10位以内にほぼランクインし続けた3社ソニー・トヨタ・NTTに、三菱商事を加えた4社の「投資活動によるCF」の推移を表したグラフ。
不況まっただ中の2010~2011年に増資を実行している三菱商事とソニーは折れ線の形状が全体的にどことなく似通っている。
反してトヨタは2社とは逆の方向へ動いているように伺える。
毎年投資額が乱高下せず安定を保っているのはNTTだろうか。
有報からは、トヨタとソニーは金銭債権への投資が主で、三菱商事とNTTは有形固定資産への投資比重が重いようだ。2つ目のグラフは、投資規模の大きい常連3社+三菱商事に、過去6年間において概ねトップ5にランクインしていた、第一生命HDとソフトバンクGの2社を加えたもの。
ここ数年の第一生命の躍進は同社が有価証券の取扱額を高めているところにあるようだ。
投資額が毎年安定している企業と乱高下している企業との差も明確。

投資活動に対する各企業の姿勢の違いや企業ごとの個性が垣間見えてくる。

 

筆者について

山本 潤 (やまもと じゅん)  

DFR投資助言者 投資判断者。

自己紹介等ははるラジにて。

Podcast「中野晴啓のはるラジ」|積立投資・つみたてNISA(積立NISA)ならセゾン投信

Podcast「中野晴啓のはるラジ」|積立投資・つみたてNISA(積立NISA)ならセゾン投信

積立投資・つみたてNISA(積立NISA)ならセゾン投信。月々5,000円からの積立投資やお子さま向け口座、 …

Vol 94 Vol 95をご参照ください。

セゾン投信HPより

財務分析者について

客員アナリスト 宇佐 聖(うさ ひじり)

興味の幅が広くて影響を受けやすい性格から、複数の世界に首を突っ込んでいたが、子供が生まれてからようやくスイッチが入る。
「我が子に対して堂々と背中を見せられる仕事をしなければ」という意識の芽生えのもと、働き方や生き方の道筋作りを模索。
そのような中、常々から興味を抱いていた企業研究や株式投資の世界にのめり込むようになっていく。
拘束されるのが大の苦手のため働き方はフリー志向。
客員アナリストという肩書きでつたない執筆をさせていただく傍らで秘密の調査業も行っているが、片方にのみ歪なメリットが生じる調査業界には常々疑問を感じるところもあり、業界の変革を起こすチャンスの到来に目を光らせている。
描く夢は、好きな企業研究と、子供達との独自ライフを満喫すること。

成長株投資

Posted by 山本 潤