コラム 6740 ジャパンディスプレイ (東証一部) は、なぜ調査対象にならないのか by yamamoto

2018年8月29日

投資家の投資対象といっても、投資期間や投資スタイルが人によって、それぞれ違う。

わたしが重視するのは、調査の効率であるため、考えてもわからないものとか、不可確定要素が多いもの、については、調査の優先順位が下がってしまい、そのときどきの取材の対象にならない。

短期的なリバウンド狙いならば、ボラティリティの高い株を買って、決算後の今期予想(2019年3月)を待つ、そうした「決算プレー」ができそうなものを仕込む時期である。

そういう株価の「遊び」、投機的なギャンブル的要素の高い株としてジャパンディスプレイ(JD)があるのだろう。友人のひとりでもある、シンガポール在住のヘッジファンドマネジャーが、わたしに調べてみたら?とサジェスションしてきたのだ。

即答でNO!と答えてしまった。確かに、大きく下がって、反発はありそうなのだが、投資の筋が悪い。

次の表を見て欲しい。

  JD  村田製作所
製造装置

液晶装置メーカからの購入

減価償却費用が高止まり

ノウハウは装置メーカに流出

 内作

 減価償却費用の節約

 ノウハウのブラックボックス化

原材料や部品

 液晶材料メーカからの購入

 変動費率が高止まり

 ノウハウは材料メーカに流出

 内作

 変動費の節約

 ノウハウのブラックボックス化

R&D

上記のメーカからの価格の高い最先端装置や材料の試し打ち(購入費)

社員の技能は、他人の装置や他人の材料を評価するのが仕事。つまり、評論家

社員による上記装置や材料の開発努力(人件費)

社員の技能は、新型装置や新材料の開発。つまり、発明家

 

JDと村田製作所との対比である。

装置を人から買い、材料を人から買う。こういう企業で何が問題になるのかといえば、事業が差別化できないことが問題なのである。

スーパーで肉や魚や野菜を買い、ガスコンロや包丁を購入して、家で料理をつくるのに似ている。

つまり、一般消費者と同じで、すこしでも安いスーパーや安売り家電量販店を見つけることが主な付加価値の源泉になる。

これを村田製作所に例えるならば、どうしてそこまでこだわるのか、ということになるが、裏山のある海辺に住み、自分で牛を育て、漁に出かける。そして、炭をつくり、炭焼きで、料理をたくさん試作して、味を毎年追い求める求道者のような人、ということになろうか。

差別化できないと、何が問題になるのか?

これは簡単な問いである。

利益率が低くなる、あるいは赤字になる、である。

過去、どれだけJDが赤字になったかを数えてみるとよいし、過去どれだけ村田製作所が赤字にならなかったかを数えてみればよい。

これを数字に落とすアナリストになれば、製品の平均価格をPとし、製品の単位変動費をVとしたときに、

V/Pを計算し、これが0.5以下でなければ、業績の長期の予想は意味がないので予想そのものをすることがばかばかしくなる。

V/Pがたとえば、0.8ならば、価格不変で変動費が20%上昇しただけで、赤字になってしまう。

一方で、R&Dや人件費というものは、その企業の社員が成長していくためのものである。社員の創意工夫によって企業は差別化し、業績を伸ばしていく。社員にはクリエイトな仕事を、長期に渡り、腰を据えてやってもらう必要がある。社員の仕事が、値切る、節約するという仕事になるならば、会社の発展はないし、差別化なんて夢のまた夢、である。

そういう意味では、村田タイプの企業は、R&Dが膨らみやすいという短所(長い目で見れば長所)がある。

投資効率がもっとも高い対象は、「人」である

人への投資を投資家が許容できるのは、人はよい環境を与えればぐんぐん能力を伸ばすことのできる動物であるからだ。

当然、会社は、社員を大切にすべきである。それは、企業が人道的であるべきだからとかではない。企業は、利益を得るのが目的であり、人権的な組織ではない。

企業が結果として人を大切にした方が得である、と知っているから、企業は社員を大切にするにすぎない。

企業はコストをリターンに変えることを使命にしている。

企業が社員を大切にするのは、本来はぐんぐん能力が伸びる人間に対してのみ。全体の2割程度の会社を支えてる人材がとりわけ大事なのだ。ところが、人間は不思議で、やる気の波があるし、最初から、誰がぐんぐん能力が伸びるのかは、残念だがわからないものだ。どの社員が大きく成長するか、経営トップは決め打ちすることができないのである。それで、トップはというと、全社員に対して、のびているかな?とか、いつも頑張っているね!と、やさしく振舞うのである。

トップが現場を回って、組織のモラルをあげる努力をしなければ、伸びるものも伸びなくなるから、仕方なくやるのである。つまり、社長が現場を精力的に回るのは、彼が現場が好きだからではなくて、せっかくの投資コストをリターンに変える責任が彼にあるからである。

トップが現場を回るから、社長が人間的にすばらしいという人がいるが、そうではない。社員と意見交換するのはトップの最優先の仕事だからやるである。

(それさえわからないトップもいて、社長室で指令を出しているようなトップは、たとえば、東芝のようなトップもいるので、そういう組織は、頭から腐っていく)

企業の投資対象は、ものではない。人である。

人は、出世や昇級やボーナスが公正であると信じてこそ、頑張れるのではないか。

社長が遊んでばかりで、イソギンチャクのような取り巻きばかりを引き連れて偉そうに踏ん反り返っていたら、伸びる社員は転職してしまい、人材が流出してしまう。

(上にいけばいくほど、不自由になる。その代償として社長には大きな権力が与えられている)

一方、先行投資が、最先端のものを他者から購入することならば、それは、長期的には危険な行為となる。

(設備への投資は陳腐化する。機械は自分では自分を直せないが、人は失敗から学び、生産性を自らあげることができる。人は設備の効率をあげることもできる。組織の生産性もあげることができる)

投資家の多くはキャッシュフローを重視するが、減価償却費が大部分を占めるようなキャッシュフローさえも評価するのは考えものである。

危険な火遊びか

でもね、JDは時価総額1000億円を切った。減価償却費と時価総額が同じレベルというのは、さすがにあまり見たことがない。まあ、短期の「決算遊び」(火遊び)ならば、割り切ってもいいんじゃないの、というのがわたしの友人へのアドバイスであった。でも、わたしならばやらないよ、とも伝えた。

 

2018年8月29日コラム, 成長株投資の理論と分析手法

Posted by 山本 潤