6574 コンヴァノ システマチックにネイルサロンを運営 by安田清十郎
■コンヴァノの概要
ネイルサロン業界は、施術するネイリストの裁量が比較的大きい。つまり、品質はネイリストによるばらつきが大きい。また、ネイリストは、本来注力すべきネイルの施術のみではなく、予約受付からレジの対応までおこなっている場合も多い。そして、料金体系は不明瞭で、全て施術が終わった後に料金が確定するという場合も多い。
コンヴァノは、ファストネイルという屋号で、システマチックにネイルサロンを運営している。
具体的には、1.明確で低廉な料金体系、2.安定した品質、3.スピーディな施術、4.ネイリストの高い生産性が特徴である。
ファストネイルの2018年3月末時点の店舗数は、41である。
他に、プレミアムブランドのファストネイル・プラスを4店舗(2018年3月末時点)、ヘアサロン内併設店舗であるファストネイル・ロコを2店舗(2018年3月末時点)運営している。
また、ネイルケア・ハンドケア商品の自社ブランドLegalyを展開している。以上が、同社の核となっているネイル事業である。
同社は、ネイル事業のほか、メディア事業を運営している。ネイル施術中は、スマートフォンを操作したり、雑誌を読むことができない。そこで、同社はネイルサロン内に大型液晶モニタを設置し、広告を流している。
ネイルサロンに行く女性というターゲットは明確で、かつ、視聴率は100%であるから、広告の費用対効果は高い。
■ネイルサロン市場
同社2018年3月期決算説明資料によれば、ネイルサロン市場は1,700億円程度の規模である。
同社は店舗数を24,000程度と推定している。ここから、1店舗あたりの平均年商は700万円程度と考えられ、規模が小さい店舗が乱立している様子がうかがえる。これほどたくさんのネイルサロンがありながら、200店舗を超えるチェーンは存在しない模様である。
勝てる仕組みがあれば、業績を拡大し続けることができる可能性が大きいと考えられる。
■沿革
同社の沿革を理解するためには、旧コンヴァノと現在のコンヴァノの関係を知ることが重要である。
旧コンヴァノは2007年に創業した。アント・キャピタル・パートナーズの支援のもと、現在のコンヴァノ(旧商号CVN)が2013年に設立され、現在のコンヴァノは旧コンヴァノを吸収合併した(旧コンヴァノの創業オーナーは、これを機に引退したようである)。その後、現在のコンヴァノの筆頭株主はアント・キャピタル・パートナーズからインテグラルのファンドとなり、現在のコンヴァノは2018年4月にIPOに至った。
2018年3月期の現在のコンヴァノのBSの総資産は1,643百万円であるが、そのうち650百万円はのれんである。
こののれんは、上記の経緯で生じたものである。なお、同社はIFRSを適用しているので、のれんの定期的な償却は発生しない。
■ネイル事業の詳細
ファストネイルは、上述のとおり、1.明確で低廉な料金体系、2.安定した品質、3.スピーディな施術、4.ネイリストの高い生産性が特徴である。
1について、ファストネイルは、税抜2,990円~7,990円の明確な料金体系を採用している。しかも、料金が事前に明確になっているというのも特徴である。
2018年3月期のネイル事業の売上収益は2,000百万円、年間総来店客数は472千人であるから、客単価は4,200円程度であると考えられる。一般的なネイルサロンの客単価は同社の2倍程度であると考えられ、同社の低廉な料金は、魅力的である。
2について、同社は、各々のネイリストの技量のばらつきを極力抑える工夫をしている。
未経験者を採用した場合でも、最短1か月でネイリストとして店舗に配属できるシステムが構築されている。ネイリストごとの技量のばらつきがないから、指名制を採用せず、ネイリストを効率的に稼働させることができる。
3について、一般的なネイルサロンでは90~120分の施術時間が必要であるが、ファストネイルの施術時間は60分である。
4について、一般的なネイルサロンでは、ネイリストが受付から会計、見送りまで担当するので、1人の客についてネイリストが2時間まるまるかかりきりとなる。しかし、ファストネイルでは、ネイリストは、ネイリストが本来すべき仕事に注力し、ネイリストでなくてもできる仕事(受付や会計等)は、コンサルと呼ばれる店内司令塔がおこなう。
また、ネイリストがすべき仕事についても、その所要時間や労力を減らす工夫が随所にある。
まず、ネイルのデザインは、来店前に、客が自ら自社Webやアプリを通じて決める(店内PCを利用することもできる)。また、ジェルオフ機器を自社開発し、ジェルオフの所要時間を通常の30分から20分に短縮し、ネイリストの関与時間はそのうち5分としている。予約は外部メディアに依存しないので、広告宣伝費率を低く抑えることが可能となっている。
一般的なネイルサロンでは、1人のネイリストが1人の客に2時間かかりきりになる。客単価1万円とすると、ネイリスト1人あたりの1時間の売上は5,000円である。
一方、ファストネイルでは、1人のネイリストが1人の客に対応する時間は30分にすぎない。つまり、客単価は一般的なネイルサロンの半額、5,000円としても、ネイリスト1人あたりの1時間の売上は1万円と、一般的なネイルサロンの倍である。
ネイルサロン業界の参入障壁は低い。
ファストネイルの競争優位性は、これらのこまかいファクターの組み合わせであると考えられる。1つ1つに分解してみると、難しい話ではなく、簡単に真似できそうに思えなくもない。しかし、これらを組み合わせて、全店舗で一律のクオリティを保つことは簡単ではないだろう。
■2018年3月期通期決算と2019年3月期業績予想
2018年3月期通期の着地は、以下のとおりであった。
売上収益 2,009百万円(前年比12.4%増)
営業利益 144百万円(前年比33.3%増)
親会社の所有者に帰属する当期利益 91百万円(前年比42.9%増)
2018年4月11日に上場した際の業績予想は、以下のとおりであり、すべての項目で上振れた着地となった。
売上収益 2,000百万円
営業利益 140百万円
親会社の所有者に帰属する当期利益 84百万円
新規上場企業については、業績予想と着地とのブレについての傾向、業績予想の信頼性についての資料が少ないが、少なくとも上場後はじめての決算を見る限り、これらの点についての心配はなさそうである。
2018年3月期の売上原価率は58.5%(前年は60.9%)に低下、販管費率は33.9%(前年は32.7%)に上昇した。
同社の売上原価は、ネイルサービスに使われるカラージェルやトップコート等のほか、ネイリストの人件費、店舗の家賃や水道光熱費である。2018年3月期は販管比率が上昇しているが、これは上場にともなう一過性の費用の増加のインパクトが大きい。同社は、今後の販管比率は減少傾向の予定であるとしている。
2019年3月期の業績予想は、以下のとおりである。
売上収益 2,330百万円(前年比16%増)
営業利益 230百万円(前年比59.7%増)
親会社の所有者に帰属する当期利益 140百万円(前年比54.6%増)
同社の費用は、固定費の割合が大きいと考えられる。つまり限界利益率が高い。それゆえ、損益分岐点を超えてしまえば、利益率が急激に上昇する構造である。
■1店舗あたりの収益構造
上場時の有価証券届出書によれば、ファストネイル1店舗あたりの座席数は、おおむね9席程度の模様である。
1日の営業時間は10時間程度、定休日はない店舗が多い。
上述のとおり、客の施術時間を1時間、客単価4,200円とすると、
1日の売上キャパシティは9席×10時間÷1時間×4,200円=378,000円、
1か月30日とすると11,340千円、
1年365日とすると137,970千円である。
2018年3月末におけるファストネイル、ファストネイル・プラスおよびファストネイル・ロコの店舗数は合計で47店舗。
2018年3月期の同社の売上収益は2,009百万円、売上原価は1,176百万円、販管費は682百万円である。
ここから、1店舗あたりの年間売上は42,745千円、売上原価は25,021千円、販管費は14,511千円となる(売上原価+販管費は39,532千円、営業利益は3,213千円)。
この計算から、損益分岐点の稼働率はおおむね30%程度(39,532÷137,970)、かなり保守的に見ても50%未満であると考えられる。
同社のネイルサロンの限界利益率はかなり高いと思われるから、損益分岐点の稼働率を超えることができれば、利益は大きく伸びてくる。
平均客単価の上昇、平均サービスタイムの減少、ネイリスト1名あたりの平均月商の上昇も、利益に直結する。同社ではこれらの数字を意識しており、毎年着実に改善している(2018年3月期決算説明資料参照)。
なお、上記試算では、店舗ブランドごとの特色、直営とFCの区別、ネイル事業とメディア事業の区別、新店と既存店の区別はしていない。試算の目的は、ざっくりとした収益構造を把握するためでる。ここでは、精度を求めてややこしい計算をする必要はなく、むしろ直感的な把握のしやすさを重視している。
■今後の出店戦略
同社の新規出店コストは、1店舗あたりおおむね9,000千円であり、最短6か月で投資回収が可能であるとのことである。
同社は、2018年5月25日時点で、2019年3月期に5店舗、2020年3月期に5店舗の出店を計画している。
1店舗あたりの投資額は9,000千円だから、5店舗出店してもたった45,000千円にしかならない。
これほど短期間に投資が回収できるビジネスであれば、もっと出店を加速すればよいと考えてもおかしくないが、話はそう簡単ではない。
現在、同社は関東に38店舗、関西に5店舗、東海に4店舗を展開している。地域による偏りが非常に大きい。これはなぜか?出店の一番のネックは人材育成である。
同社の特徴の一つに、ネイリストの技量のばらつきが小さいことがある。これを実現するためには、人材育成が重要であり、地理的な制約がつきまとう。このため、現在は関東、関西、東海の3地域のみの展開となっている。
ただし、この3地域だけでも、まだまだ店舗を増やす余地は大きいし、まだ進出していない地域もたくさんある。今後の出店余地は莫大である。
なお、2018年1月31日時点では、FC店舗はファストネイルの1店舗のみである。同社は、今後も、直営店を中心に出店していく模様である。
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