4450 パワーソリューションズ エンジニアの特性を生かした組織で長期成長を目指す by Ono
4450 パワーソリューションズ レポート
10月2日に東京勉強会に登壇いただきます。(*終了しました)
ポイント
・創業21年で、安定継続的に成長
・ニッチな業界(金融・資産運用業界)に対する高いプライム比率、取引継続率
・業界を問わず、DXに必要な技術やノウハウを提供
・組織の成長と高い顧客満足度を支えるMD制
・ITエンジニア/コンサルタントの特性を最大限生かし長期的な成長を実現する
<沿革>
前代表取締役で現在子会社の株式会社エグゼクションの代表取締役である佐藤成信氏が2002年に設立。
NRI(野村総合研究所)で金融、投信窓販システムの構築に携わる。大企業であるNRIが採用する従来の人事評価制度と佐藤氏自身が理想とする制度との間にギャップを感じ、成果がよりダイレクトに評価される制度を導入する組織の構築を目指し自ら起業した。
設立当初は知見のある金融機関、資産運用会社向けに業務オペレーションを効率化するサービスを提供した。大手SIerが提供するような基幹システムの構築ではなく、現場に密着した業務効率化に貢献するシステム化を進めた。資産運用会社向けのサービス提供が安定する中で、2018年にはUiPathのRPA事業に着手した。
佐藤氏は2021年3月にパワーソリューションズの社長を現在の高橋氏に交代し、2021年に子会社化した株式会社エグゼクションの代表取締役に就任。同社単独での企業価値向上とパワーソリューションズとのシナジー創出のために経営手腕をふるう。
<事業内容>
金融機関向けの業務効率化コンサルティング・システムの受託開発・運用保守サービス、関連業務のアウトソーシング受託、法人向けRPAライセンス販売「UiPath」と導入サポート。資産運用会社を中心とする金融機関向けシステムインテグレーション(業務コンサルティング、システムの受託開発、運用保守)が主力。
単一セグメントだが、大きく次の4つのサービスに分けられる
・システムインテグレーション
・アウトソーシング
・RPA関連サービス
・インフラエンジニアリング
*売上構成は2021年12月期実績
インフラエンジニアリングは子会社の連結が下期のみだったため年間換算した場合の構成
〇システムインテグレーション(売上構成:60%)
同社の主力サービスで金融機関向けの業務効率化のコンサルティングを提供。特に運用会社のバックオフィスで日々の業務効率化につながるサポートやシステムの受託開発、保守を行う。大手ITベンダーによって導入された汎用パッケージシステムではカバーできない部分を補完するプロセスのシステム化や、複数の汎用パッケージ導入により残ったデータ連携部分の自動化をシステム化する。
〇アウトソーシング(売上構成:9%)
システムを提供している顧客から、システムの導入だけでなく、運用会社の付随業務である運用報告書、目論見書などのレポーティングまでを手がける。システム構築初期の要件定義から携わり、業務を熟知しているため受託が可能である。
〇RPA関連サービス(売上構成:5%)
RPA(Robotic Process Automation)とは主にデスクワークなどで発生する定型業務プロセスを、主にパソコンの中にインストールするソフトウェア型のロボットが代行・自動化する技術。
同社は多数あるRPAソフトウエアの中でも世界で大手企業で導入実績があり、シェアトップの”UiPath RPA Platform”のライセンス販売および導入サポートを行う。
〇インフラエンジニアリング(売上構成:26%)
オンプレミス環境、クラウド環境のサーバー構築、ネットワーク構築などの基盤構築支援、導入サポートを行う。子会社の株式会社エグゼクションが担う。2021年に日本創発グループ傘下でシステムエンジニアリングサービス事業をしていた同社を子会社化した。パワーソリューションズが強みとする金融機関向け業務コンサルティングやシステム受託開発の人材と、エグゼクションのクラウド基盤の人材を相互補完することで、市場・顧客ニーズへの対応力向上につなげることを目指す。現在、パワーソリューションズの創業者である佐藤氏が代表取締役社長に就任。
<強み>
同社は以下の点を強みとしている。
・大手主要顧客との取引基盤と高い取引継続率
・高いプライム案件比率
・RPAソフトウエアでトップシェアのUiPath社認定のダイヤモンドパートナー
〇大手主要顧客との取引基盤と高い取引継続率
・売上高上位企業(2021年12月期)
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社 604百万円(売上高割合 15.9%)
野村アセットマネジメント株式会社 450百万円(同 11.9%)
また、2021年12月期の売上高に占める野村アセットマネジメント株式会社を含む野村グループに対する割合は41.6%となっている。同グループが国内の資産運用金融機関として、また、関連システムにおいて相当程度のシェアを有しており、同社は設立当初から同グループ向けの取引拡大に注力してきた結果である。
〇高いプライム案件比率
SI業界は図にあるように多重下請け構造になっている。下請けになるほど収益性が悪化する。
同社は2021年12月期においてプライム案件の売上高比率は88.8%と高い。
プライム案件が獲得できる要因については後述の”注目ポイント”で言及する。
〇RPAソフトウエアでトップシェアのUiPath社認定のダイヤモンドパートナー
UiPathとのライセンス販売契約を締結するパートナー企業の中でも最上位の”ダイヤモンドパートナー”に認定されている。”ダイヤモンドパートナー”は製品の機能や技術について十分な知識を有した技術者を抱え、製品と製品ソリューションの取り扱いでトップレベルと認定されたパートナー。
2022年4月には新規のお客様を最も多く獲得したパートナーに贈られる「Best New Customer Acquisition」を受賞した。
<注目ポイント>
筆者は上記の強みを生み出した要因として次の点に注目した。
・成果がダイレクトに評価につながるMD制
・のれん分けで成長する仕組み
・プライム案件獲得につながる現場主義
〇成果がダイレクトに評価につながるMD制
”成果と評価が連動する組織を作りたい”
創業者である佐藤氏が起業するきっかけとなった想いをMD制によって実現している。
MD制とは担当部署を疑似的な企業とみなし、独立採算方式で業務運営する経営手法。各部署が1つの企業のように運営され、部署の責任者=MD(Managing Director)に権限を委譲する。案件見積もり、社内の飲食交際費、物品購入など、独立した会社の社長のような広い権限が与えられる。あたかも自身で独立して会社を起業したような仕組みを疑似的に運営している。
一方で法務、経理、人事、インフラなどの共通業務は会社が代行することで、MDは担当業務に専念することができ、個人で会社を起業する場合と比較して負担が極端に少なくなる。また半期毎の収支結果に基づき、成果に連動した極めて透明性の高いインセンティブ制度がある。
同社は顧客から直接受注するプライマリー案件が多く、ITスキル以外に顧客と直接コミュニケーションをとるスキルが身に着く。MDとしてマネジメント能力を高めることで個人の市場価値を高めながら、部署としての成果の最大化を目指し、部署の成果に連動した報酬を得る事が可能となる。
また、部署は独立しながらも会社全体で蓄積したノウハウやライブラリを再利用したり、共通インフラを活用することで開発の効率化を図り、顧客にはリーズナブルかつスピード感のあるサービスを提供している。個人の成長と顧客に高い満足度をもたらすことの両立ができ、非常に遣り甲斐が実感できる仕組みになっている。
〇のれん分けで成長する仕組み
部の規模が一定以上となると上級職がMDとなり、新部署を設立する。MDは自分の部署の優秀な部下を引き留めておきたいと考えるが、MDの部下が新MDとなるとのれん分けとして新部署の収益の一部を獲得する仕組みとしている。新MDは、新部署立ち上げの当初は以前に所属していた部署から一部案件を引き受けて実績を重ねて大きくする。
MDは部下を育成し、新しいMDを独立させるインセンティブも仕組化している。
〇プライム案件獲得につながる現場主義
同社は”企業向けITラストワンマイルのパイオニア”を自称する。個々の企業が自社の業種や業務、企業規模に応じて様々な汎用パッケージを導入する。汎用パッケージは多くの企業で共通して使えるソフトウエアのためシステム間のデータ連結や、導入前のワークフローといった企業ごとに異なる部分に手作業が残る。
自動化のためには汎用パッケージ、既存システムの多数の組み合わせに対応する必要があるが、導入ベンダーの対応対象外である。同社はその部分を”ラストワンマイル”と定義し、顧客の現場に密着して各社向けのオーダーメイドの開発を行い、全体の業務プロセスの最適化を実現する”ラストワンマイルを埋めること”を強みとしている。導入企業にとっては細かなところまで任せることができる社内のエンジニア(コーポレートエンジニア)に近い位置にいる。これまで蓄積してきたノウハウを社内で共有していることで早期に適切な対応を実現してきたことで信頼を獲得し、顧客から直接受注するプライム案件獲得を実現している。
<成長シナリオ>
同社は中期経営計画を発表している。
最終年の2024年12月期に売上高62億円、経常利益5.9億円を目指す。
発表当初は今期2022年12月期を大きな成長を目指した基盤固めフェーズとして成長投資を行う減益の計画としていたが増収増益に上方修正した。
(下図は発表当初の計画の図)
後述するが、利益ベースでは2023年12月期の利益計画を1年前倒しで達成する計画である。
2024年12月期は投資成果の発現、子会社エグゼクションののれん償却が2023年で概ね終了し利益率が向上する。
〇セグメント別
セグメント別では以下のような内容となっている。
主力事業であるシステムインテグレーションはこれまで同様に同社の成長を牽引することが期待できる。計画の期間はこれまで以上の成長ができる成長基盤構築を目指す。
特に注目したいのは次の2点についての同社の見方をどう捉えるかだろう。
①RPA関連サービスの高成長の蓋然性
②インフラエンジニアリングの成長率
①RPA関連サービスの高成長の蓋然性
〇RPA導入は新型コロナウイルスの影響一巡後は中小企業の導入が進むステージに
中期経営計画の期間中に年平均成長率24%を計画している。
RPAは2016年のブームで大企業への導入が進んだ。引き続き大企業への導入が進む中で、中小企業への導入が広がることが期待されたタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大により、企業のIT投資はWeb会議、グループウェア、ネットワーク再構築、セキュリティなど在宅勤務の環境構築に振り向けられた。その影響によりRPAの新規導入の伸びが鈍化した。
ICT市場調査コンサルティングのMM総研の調査によれば、2021年1月時点の導入率は年商50億円以上の大手・中堅企業ではRPA導入率は37%、2022年度には50%まで拡大することが予想される。
年商50億円未満の中小企業ではRPA導入率10%と、大手・中堅企業と大きな格差がある。また、準備中・検討中企業は25%、未検討の企業が64%となった。同レポートはこの構成は年商50億円以上の企業における2017年の中頃の状況と酷似しており、RPAの認知やユースケースが広まれば、導入率も大きく伸びる可能性があると見方を示した。
中小企業への導入が進むなかで大企業、中堅企業での導入ノウハウを持つ優位性が生きることが期待できる。
*2022年度までの導入率を予測した。2022年度末時点での導入率は、年商50億円以上の企業で50%、年商50億円未満では28%とみる
RPA導入企業が活用を本格化、AI-OCR導入も約2割 「RPA国内利用動向調査 2021」(2021年1月時点)
②インフラエンジニアリングの成長率
・事業領域、顧客基盤の拡大
「AWS」「Azure」等のクラウド基盤、インフラストラクチャー基盤の構築・運用・保守のノウハウを持つことにより、パワーソリューションズ単体のシステムインテグレーション事業で提案できるカバー範囲が広がり案件規模の拡大につながる。また、大手SIer、大手事業会社など従来のパワーソリューションズの顧客基盤とは異なる領域へ拡大することが可能となる
・リソース不足の解消によるシナジー効果の発現
エグゼクションが得意とするクラウド環境の構築案件をはじめとしたインフラ整備関連の案件は豊富にある。リソース不足が成長の阻害要因となっていたがパワーソリューションズの創業者の佐藤氏が代表取締役社長に就任し、パワーソリューションズで作り上げた、採用・育成ノウハウの活用、協力会社の要員調達により獲得する案件を拡大させ成長スピードを高める。
<エンジニアの特性を生かすことで長期的な成長を可能とする組織作り>
〇エンジニアの特性を最大限生かす
企業が長期的な成長を実現するためには社員の特性を尊重したうえで成長を促す仕組みと、社員同士が励ましあい高めあう組織を作り上げることが不可欠である。
筆者は10年以上の金融系のシステムエンジニアの経験がある。その中でエンジニアは共通して次のような特性があると理解している。
・得られた知識を惜しみなく共有する
・探究心、知識獲得欲求が強い
・必要とされると期待に応えようとする
様々なところでエンジニア同士のコミュニティが立ち上がり、自身が得た知識が惜しみなく共有されている。エンジニア同士で助け合いの関係が構築されている。そこでは見返りとして報酬がほとんど期待されていない。自分が得られた知識は他のエンジニアが提供してくれた情報によって獲得したものだという意識があると思われる。
半面、報酬を得ることを後回しにすることで、十分評価されないままに人材不足から過剰な労働を強いられることも少なくない。言い方は悪いが、エンジニア業界の一部ではエンジニアのマインドを利用したやりがいの搾取がある。
同社はエンジニアのマインドを最大限生かして評価する、エンジニアにとって理想的な環境を提供する仕組みを構築している。
〇離職率が低水準
IT業界の平均離職率は10~15%だが、同社の2022年1月~7月の累計実績では4.8%。
エンジニアにとって理想的な環境を提供することで低水準の離職率を実現している。
<業績>
〇過去実績
2020年12月期は新型コロナウイルス感染拡大の影響による顧客企業のシステム投資が一時的に抑制されたこと、本社移転費用の発生による一時的な費用が発生したことで減収減益となった。
2021年12月期は第3四半期より株式会社エグゼクションを損益を連結対象とし、パワーソリューションズ単体も10%増収、営業利益率約10%を達成しV字回復となった。
〇2022年12月期会社計画を上方修正し利益ベースで中期経営計画を1年前倒し達成
2022年12月期は単体の増収に加え、株式会社エグゼクションの業績が通期寄与となる。
2022年8月12日に第2四半期累計期間の計画、通期計画の上方修正を発表した。
修正後の計画は
売上高 5,307百万円(前期比+39.6%)
営業利益 454百万円(同+26.1%)
期初に発表した計画に対して、売上高は+5.9%、営業利益は+21.2%の計画。
中期経営計画の2023年12月期の利益を1年前倒しで達成する。
システムインテグレーション、RPA関連サービス、インフラエンジニアリングが期初計画を上回ることが見込まれるため。顧客企業のIT投資需要が旺盛な状況に対応し、人材採用の強化、研究開発費など成長投資を行うが前期比増益を確保する。
<バリュエーション>
時価総額 36億円
株価 2,575円(2022年9月16日終値)
会社予想PER 11.9倍
無配
ROE 13.2%
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