3221 ヨシックス 「あたりまえやを当たり前に」ー 外食産業の中のホワイト企業 by yamamoto

2018年12月27日

このレポートの趣旨

読者へ

レポートに書かれている内容については、アナリストである山本の考えや主観に基づくものであり、ヨシックスのIRが述べた内容ではないことに注意してほしい。

このレポートの趣旨は、外食産業における成長株の筆者なりの定義や成長株投資の考え方を当該企業を通して述べた投資の教材としての位置づけであり、投資を推奨するものではない。

外食: 参入障壁の低さと競争の厳しさの中で

外食は事業としてはなかなか厳しいものなのです。

みなさんの中にはいつか脱サラして自分の店を持つんだ、という夢を持つ人もいるでしょう。

夢は大事ですね。水を指すようで申し訳ないですが、失敗する確率は高いんですよね。個人の出店は。

こういう言い方はよくないかもしれないのですが、「誰でもやろうと思えばできないことはない」のが飲食店の出店ともいえるので差別化が難しいのです。

逆にいえば、独立を夢見る人にとって、逆立ちしたって、とてもじゃないができそうにない事業もあります。たとえば、飛行機をつくる会社を設立するには膨大な人々の協力や相応の資金力がなければならないのです。

誰でもやろうと思えばできる事業を「参入障壁が低い」事業といいます。

参入が容易という意味です。飲食業はそうした産業のひとつです。

参入障壁が低いことは、一般的には悪いことなのです。なぜならば、差別化ができない、競争が厳しい、結果として利益率が低迷してしまうからです。

ただ、成功と失敗を分けるのは単純な要素です。立地。そしてとそれにみあった値段店の接客などでしょう。あるいは原価率の低い商材、たとえば、うどんやそばなどは成功の確率はすこしは高いと思われます。

個人が経営するパパママ飲食店の中には何年も頑張れる繁盛店もあれば、立地が悪く評判もいまひとつな店は1年もしないうちに退店に追い込まれるというのが飲食業界の厳しさではないでしょうか。繁盛店のメニューは少なく、看板メニューで一本勝負、しかも店は狭い!という共通の姿があります。そういう店は長い行列ができるというのが東京での常態です。

さて、上場企業の中には、この厳しい業界において、確固たる地位を築いた企業が多数あります。

回転寿しのチェーン、ファミレスの大手、大手の牛丼屋など。

昔は地域のお店がほとんどでしたが、この30年でチェーンばかりになりました。どの県のどの駅前も景色は似たものになってしまいました。逆にいえば、それだけ、大手チェーンの経営効率が高く、パパママや個人資本を淘汰してきたといえるのでしょう。

全国で幅をきかせる大手チェーンにも良いところと悪いところがあります。それらを少しまとめてみます。

大手飲食チェーンのよいところ 悪いところ

品質が一定

信頼できる

オペレーションが優れている

コストパフォーマンスがよい

開業時間が長い(24時間営業)

店ごとの個性がない

接客に感動がない

アルバイトの接客態度がいまひとつ

美味しくない

 

外食産業の中での有望企業の発掘の方法

いきなりステーキなどの成功やたこ焼きの銀だこなど、投資先として企業を選定する場合のポイントはいたって単純です。

投資先の選定基準

  1. 出店余地が大きいこと(自社の成長戦略)
  2. 競合との差別化(他社との差別化戦略)

計画的かつ野心的な出店計画を持つことで、投資家は将来の業況拡大に期待が持てます。

そして、他社との差別化戦略が納得のいくものであれば、将来業績の予想が可能になります。

よいパターンは、地方のお店が、関東圏に進出しはじめた局面。そこで成功を見せはじめるとき、でしょうか。

もうすでに飽和して出店と退店を繰り返しているチェーン店も多いので、そういうパターンはダメです。

まだまだ出店余地が大きいと思えるかどうかは、投資家として最重要な基準になると考えます。

3221 ヨシックスのこと

名古屋に本社のある3221 ヨシックスは、創業者である吉岡昌成が会長を務める居酒屋チェーンです。

わたしがレポートを書く対象は、「長期で保有ができるか」という観点のみです。特に成長株は大化けする可能性がある。

成長株の条件

  1. 長期保有の第一条件は、売上高営業利益率の高さです。この会社は二桁あるので合格です。利益率が高い企業はたとえ売上が横ばいだとしても利益を毎年積み上げることができます。
  2. 長期保有の第二の条件は増収です。拡大均衡をとる会社では投資家の利益が再投資されるため複利効果が望めます。

たとえば、1.2の10乗は6を超えます。企業規模が10年で6倍になれば、いまのPERが20-30倍ならば10年後には一桁になっているわけで現状の株価は極めて割安となるからです。

(成長株の条件) コメント

第一条件 収益率の高さ

(利益率の高さ。競争のゆるさ)

保有期間に比例して株式の持分は増える

例:10%の10年保有で100%(10%の10倍)の利益の積み上げ

第二条件 増収率の高さ (第一条件を満たした上で)

(拡大再生産が可能な事業プラン)

保有期間の指数関数的な株主資本の増加が見込まれる。

例:20%の10年保有は6倍以上 (1.2の10乗)

 

ちなみに、ヨシックスの営業利益率は10%程度でこれは成長株の第一条件を満たしています。

さらに近年、増収を続けていることから成長株の第二条件をも満たしています。

長期の複利の効果は爆発的です。二つの条件を両方同時に満たすヨシックスは成長株であり、長期の保有に適していると考えます。大化け候補なのです。

3221 ヨシックスを取材しようと思ったきっかけ

ヨシックスはIRに力をいれている会社であることがわかります。

  • 社長がHPで動画に登場し、戦略や業績を説明していること

http://www.bridge-salon.jp/movie/3221_180525_0z7MqAug/

  • IR資料が充実。戦略をわかりやすく説明していること。説明会資料があること

http://contents.xjstorage.jp/xcontents/AS08754/bd515f4f/56a2/48ee/a2bf/f4c7d707f649/140120180508429202.pdf

吉岡代表の動画を見て、人間的な魅力を感じました。とても真面目で、とても真っ当な考えであり、彼らの企業理念に共感したことで取材を申し込みました。

もちろん、企業として前述の条件を満たしていること、外食株としてに勝利の方程式(出店余地と差別化要因)を満たしていることも魅力でした。

取材ではどんな会社なのか、どんな社風なのか、具体的な差別化戦略について伺うことにしました。

取材の風景

2018年6月のとあるよく晴れた日でした。

名古屋市の徳川町に本社があるヨシックスを訪問しました。

本社の第一印象は….ボロイ!!! (すみません)

嫌いではないのです。こういう会社は。ボロい本社にとても好い印象を持ちました。受付は狭く二人が入れるかどうかのスペースしかありません。エレベーターも狭い。本業以外にはお金をかけない、という姿勢です。ボロい本社の株はよく上がります。ホンハイという世界的な製造業がありますが、わたしが20年前に台湾の本社を訪れたときは掘建小屋でした。人も企業も外見や見かけじゃないのです。中身が重要なのです。

応接室で1時間ほどの取材をさせていただきました。

応接室には社是があります。

あたりまえやを当たり前に ー

なるほど、と思いました。自分も、なかなか、それはできそうでできない。できたと思っても不十分です。

あたりまえを日々継続することが難しいのです。

最初に社員のことを伺いました。

HPにも紹介されていますが、全社員が携帯するガイドブックがあるんです。

内容を見せていただきました。

しっかりしています。

幹部社員やベテラン社員たちが年末12月から年度末の3月まで議論を続けて、合宿なども行いながら、ひとつひとつのページを改定していくそうです。「なぜ?から始まる組織作り」を実行します。会社として社員たちにどうしても伝えたいことを書き落としていくのだそうです。

そしてスローガンは毎年改定されていきます。会長の吉岡さんの普段の言動を現在の社長の瀬川さんがコツコツを書き足していったものがこのガイドラインの原型なのだとか。同社の30年の組織運営ノウハウを助けるものとなっています。ガイドラインそのものというよりも、その作り方にわたしは感銘を受けたのです。

(年々分厚くなるそうです。いま200ページほどです。)

キーワードは言語化です。

言語で統治をする 

大切なこと、理念や理想を言語として社員間で共有するといえばそれまでですが。言語化ができる組織は強いのです。

ある若手女性社員の言葉が載っていました。「できた」と思ってこれまできたが、「できた」では不十分で、「できた」を毎日実行することが本当の「できた」なんだとわかったと。

すごい成長ですね。社員の成長とは一言でいえば、当事者意識を育むことです。社員は経営者ではないのですからそこまでやる義務はありません。ですが、ヨシックスでは社員まで当事者意識をもたせてくれる。当事者意識を持てることは、社員の今後の長い人生にとって大きな意味を持つとわたしは考えるから。

そして、なによりも、株主にとって、言語化できる会社は、事業継承がスムーズになります。ワンマンではない、つまり、「法治国家」として言語で組織が治められるからです。フェアなルールの下でフラットな組織で運営するというのがいまのグローバル企業のスタンダードです。組織が自由闊達でフラットであるかどうかは重要なポイントなのです。

事実、吉岡代表は、100年企業を目指しているのだから、300店舗体制が見えた今期からは社長を瀬川さんに任せるということを決断しました。

理念が言語化されているので、こういうことがすんなりとできるのではないかと思います。吉岡さんもまだまだ若いのですよ。

ブラックどろどろの中のホワイト ー経営者と社員との対話がある組織ー

見出しの表現としては不適切かもしれません。

外食で問題になった事件にワタミの社員の自殺がありました。過酷な時間外労働による被害者が存在しているのです。また、牛丼チェーンの深夜のワンオペ、名ばかり店長という社会問題も生じました。外食の現場はブラックに陥りがちなのです。

まず居酒屋の勤務は昼夜逆転になりがちです。そして土日の週末が稼ぎどきでもある。友達と日程が合わなくなったりして、外食産業の離職率は高止まりしています。有価証券報告書には同社の社員の平均勤続年数も記載されていますが長くはないのです。なんとかもっと長く働いて欲しいというのがヨシックスの経営者の思いなのです。

資本の論理だけではない同社の努力を見出したので書きます。

ひとつはランチをやらない、ということ。多くの居酒屋は少しでも固定費をまかなうためにランチを提供しています。ところがヨシックスのや台ずしではランチはやりません。午後4時スタートで深夜3時までが標準でしょうか。夜はもう少し早く上がれるとよいのでしょうが、ランチを行わないことで社員を少しでも休ませたいという心遣いなのです。

将来は、昼間だけで回せる業態も開発したいとのこと。昼夜逆転が受け入れられない社員がいれば新業態を開発してそういうところで働いて欲しいとのこと。

社員の将来の人生設計も考えてくれています。やる気のある社員にはFCをやってもらっています。

このように、同社では、現場のホワイト化を目指しています。

居酒屋業界のイメージを変えたいという気概があると、わたしは感じました。

一言でいえば、社員のことを考える企業なのです。

社員の立場にすれば代わりの人がいなくて「やめたくてもやめられない」という袋小路がブラック企業の実態だと思います。ヨシックスでは、それを避けるために人が採用できる地域しか出店しません。採用ができるかどうかが重要な出店基準なのです。また、人員を融通するための工夫として「三角形で出店する」ということをしています。

たとえば、わたしが住む、東京江戸川区の「や台ずし」の出店です。

3つの店をひとつのチームにするのです。

ちなみに千葉の松戸の出店も三角形です。

3つの店でひとつのチームですから、人員を個店のみで確保するよりも柔軟に人が確保できます。

社員とパートの比率も社員比率が高いです。

有価証券報告書には社員数と臨時社員の数が記載されています。他の外食と比べてみるとよいでしょう。

ピーク時のオペレーションは社員2人に対してパート3人という構成です。

どうでしょうか。すべてパートで回そうとする姑息な経営が横行するこの国で、同社は立派なホワイトだとわたしは思うのです。

運営で無理しないのが同社なのです。

まとめ

 

や台ずし

(ヨシックス)

ブラック 他社
労働時間 ランチやらない。就労時間短い 24時間営業
人の確保

3店でチーム。正社員の比率が高い

採用ができる地域で出店する

個店で人集め。正社員が極端に少ない

お客さんがたくさん入りそうな地域で出店する

 

同社は業界の中で最高の給料にしたいと思っています。そして、そうなるように経営者は努力している、とわたしは感じました。これを聞いたとき、わたしはぐっときました。

社員と経営者との対話の重要性についても書きたいと思います。

毎年2回、経営者が全国を回り社員と対話するそうです。

昔は本社(名古屋)に全社員とパートさんを集めたそうですが、いまは、全国規模になったので、経営陣の方から全国を訪れるようにして社員との対話を確保しているそうです。

社長が全国の社員と話す企業を、わたしは信頼します。

社長や会長の顔が見える組織、社員と会長が気軽に話せる組織が理想です。社員に、なにか不満や要望があれば直談判すればよいのです。

やる気のある人が報われるように、人事は立候補制度となっています。また、評価は周りの推薦がなければならないのです。メニューについても現場にメニューを開発する権限があります。

やる気がある社員が店長に立候補し、ヒットメニューを開発したという話も取材で聞くことができました。

や台ずしの差別化戦略

同社の差別化戦略は、説明会資料などで十分に説明されています。

ここでは、同社がなぜ好調に業況を拡大しているのか、その要因について触れたいと思います。

  個人経営の寿司屋 大手居酒屋チェーン や台ずし
広さ 狭い 広すぎる ちょうどよい
値段 不明瞭 時価 安い

大手チェーンと同等の単価

明朗会計

まちまち セントラルキッチンで画一的 個店ごとの個性がある

 

や台ずしでは、狭い店舗を基準にすることで、出店余地を大きくすることができました。また、郊外に出すことで出店コストを引き下げています。さらに建設部門を内製しているため他社よりも安く出店できるのです。たとえば、ドアの形状なども、それほどこだわりをもたないならば安い材料で設計することができます。斜めに材木を切らずに標準木材だけをつかうだけで建築コストは下げることができます。

居酒屋大手は立地のよい都心部に出し、広さを確保するために、稼働が落ちると一気に利益が吹き飛んでしまいます。大手との経営思想の違いが際立っているのです。

  大手居酒屋 や台ずし
広さ 100坪。広すぎて店員の移動距離が膨大になり生産性が低い 30坪。料理を運ぶ距離が半分以下で生産性が大幅に改善する
セントラルキッチンで個性がなく、あえて食べたいとは思わない 気合をいれて、今日はすしを食べに行くぞーとなる
コスト 内装コストが高い 建築を自分でやるため出店コストが低い

 

物事の本質として、大型店舗が意味を持つのは、陳列する在庫が多いことが集客に繋がる専門店だけです。ドンキのような品揃え、靴屋さんとかも大型の方が集客できるでしょう。大型専門店では顧客が移動してくれるのでよいのです。

居酒屋の場合、顧客は移動しないので、広くすれば、調理場から各テーブルまでの距離は広ければ広いほど長距離になります。その距離を料理を運ぶのは社員の負担になります。

机が8こあって、上の図ですが、調理場が赤の線では一箇所右中央にあるとすれば、赤線だけ社員は移動しなければならないのです。これが外食でなければ、移動するのはお客さんです。ところが外食は移動するのは社員です。顧客は移動しません。なので、理想は席数を半分にしてメニューを得意なものだけにして、調理場は4つの机の中央に配置をすれば、社員の移動距離は4分の1以下になります。黒い線の長さと赤い線の長さの違いだけ効率が違うのです。メニューを減らせば、さらに効率は上がります。

外食で一番もうかるのは、単品が大ヒットする小さい店です。

  や台ずし 個人の寿司屋さん
職人の数

1人で十分

居酒屋メニューは職人でなくてもできるので、居酒屋メニューとすしを並存させる工夫で職人の数を減らすことができる

複数の人数が必要

職人がカウンターの人々対応するために4人程度の職人がいないと店が回らない。

値段 居酒屋メニューがある分、寿司屋としては破格の安さとなる。明朗会計。一人数千円。 時価で値段がわからない。一回行けば数万円。結果として、安心して食べることができない。

 

すしで、思い切り、値段を気にしないでというのならば、回転寿しもあります。ところが回転寿しは宴会には向きません。や台ずしは、家族、サラリーマン、近隣住民のすべてをターゲットにして、赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんまでの幅広い客層を相手にしています。

出店余地は膨大です。同社ではいまの10倍ぐらいの出店が可能であるとしています。3000店舗です。

同社の戦略は、田舎戦略と老舗理論として詳しくHPの説明会資料で解説があります。

上の地図はや台ずしの店舗をプロットしたものです。

太平洋ベルト地帯の出店となっています。

雪国は効率が悪いので外食には向かないという判断で降雪地域には出していません。雪の降らない、かつ、人口移動が大きな太平洋ベルト地域での出店となっているのです。ただ、四国にも出店していることからわかるように、人口が比較的少ない地方都市の郊外であっても、採算に乗るビジネスと考えられます。

1日の乗降客が2000人程度の駅であれば出店は可能であり、3000店舗は夢の数字ではないとわたしは思っています。

人が雇用できる地域で出店するというのが戦略です。近年の人手不足には同社も苦労していますが、比較優位性があるので、同社は大手のシェアを徐々に食っていくでしょう。結果として、10年後には外食産業の大手になる可能性を十分に秘めていると感じています。

一之江店での試食

実際に、お寿司を食べてみました。平日の午後5時前でしたが、安くて美味しいかったです。

店員さんはとても親切でした。スマホが電池がないと告げるとコンセントをつかってくださいといってくれました。ありがとうございます。ラインの会員になって割引サービスをいただきました。

店内の様子

(文責 やまもと)

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by 山本 潤