2820 やまみ 豆腐業界の常識を変える by Ono

2018年12月27日

”豆腐業界の常識を変えたい”

高い視座で事業展開する やまみ

 

本社が広島の会社だがIRで東京を回るとのことで取材させていただく機会を得た。

山名清社長、お一人で対応いただいた。
静かに淡々と話すが、ところどころ冗談を入れながら
生産設備の話などわかりやすく解説していただいた。

〇日本一の豆腐屋を目指して

”謙虚で控えめ”が社長の第一印象。
しかし、話を聞けば聞くほど社長の魅力が感じられた。

廃業寸前から高収益の企業に立て直した社長の魅力だろう。
トップ営業の成果は大きいだろうと感じた。
(社長本人は否定されるのだが)

質問に対する回答はどれも極めて謙虚だが、
ポロっと言われた一言が印象的だった。
”日本一の豆腐屋になるために・・・”
”今は言っても笑われるかもしれないが・・・”

立て直したがまだ通過点。

ふと、
”豆腐王に俺はなる!!(ワンピースのルフィ風)”
そんなフレーズが頭に浮かんだw

〇積極投資マインドの源泉

 後述するが同社は積極的な先行投資で成長している。
そのマインドは、社長がこれまで苦難の連続を乗り越えてきた経験からくるのだろう。

先代が起こしたのは青果の卸業者だったがほとんど利益が出ない状態が続いた。
地元の豆腐製造業者から事業譲渡を受けたのを機に豆腐製造販売業に進出。

山名清社長は2000年に社長に就任した。
と言っても、
売り上げ4.5億円で
債務超過6億円
という状態の会社を父親から継いで就任したという。
その時の心理状態は私などの想像を絶するものだろうと思う。

会社をたたむことも検討したが、厳しい事業環境が続く中で水害にあい、補助金をもらった。
補助金は営業補償であったため、生産を続けるならばもらえるというもの。
継続するという判断をした。

豆乳事業に15億円かけたが儲からずに2年半でやめるなど立て直しは簡単ではなかった。

豆腐事業を行うも、古い慣習で取引されている地域での事業では限界を感じ、本社移転を決定。
併せて、豆腐の製造ラインに自動化されたラインを導入し
生産システムの再構築に踏み切ったのが現在の積極投資の始まりである。

 

同社を知る前に簡単に、食品業界の現状を俯瞰してみよう。

〇食料品業界が選択した3つの戦略

食品業界は不況に強いと言われる。
・人間は食べることをやめない。
・需要は安定している。
・中食市場が拡大している。
しかし、安定にあぐらをかき、何もしないとゆでガエルになりかねないということも
忘れてはならない。

食品業界のリスクは
・長期的な売上右下がり
 人口減少 食べる人が減る
 少子高齢化 食べる量が減る
・コスト増
 原材料価格の上昇
 人件費の上昇

その結果、現在多くの食料品企業が選択した戦略は主に3つ

①高付加価値品
 健康志向のニーズにつながる商品開発を行い、単価をあげる。
 ニーズはあるが、スーパーやコンビニの棚を見ればわかるとおり多くの企業が
 供給しており競争が激しくなっている。

②見えない値上げ
 デフレが続く中で続けられてきた価格を変えない値上げ(パック当たりの量を減らす)
 目ざとい消費者には通用しない、また、スーパーの特価品にされるため
 本質的な打開策とはならない。
 最近では”見えない値上げ”としてメディアで取り上げられることもあり、
 白日の下にさらされることも増えている。

③種類絞り込みによるコスト削減
 増えすぎてしまった種類を絞り込み生産効率を高めてコスト削減
 コンビニの棚確保のため注力しなければならない為、
 顧客(コンビニ)が要求するままに新商品開発を積極化してきた。
 定番品まで育成するのは難しく、時間を要する。
 種類絞り込みにも難しい判断が迫られる。

〇豆腐業界の市場規模は6000億円

 私はほぼ毎日、納豆と豆腐を食べている。
豆腐は少し脇役感があるが和食にはなくてはならない存在だ。
和食、みそ汁の具として、居酒屋のつまみ冷奴として欠かせない食材の豆腐だが
付加価値をアピールしにくい。

豆腐と油揚げ等の消費量は
1世帯当たりの年間購入金額8,803円 × 5,550万世帯
=約4,800億円
外食・中食の業務用と合わせ、6,000億円程度

単価は下落しているが世帯当たりの購入量は増えており市場規模は横ばい

つぎに同社についてみていきたい。

〇特徴・強み

同社の特徴・強みをあげると次のようなものになろう。
①最先端の生産技術投入で生産能力を高めシェアを確保
 先行投資で生産能力を高め、大手スーパーコンビニなどの量の要望に応える。

 他社が1時間当たり5,000個に対して1時間当たり12,000個圧倒的な生産能力を実現。
 まとまった需要に応えられる企業は一部の大手に限定される。
 今後は一層スーパー、コンビニなどの寡占化が進むため、その傾向は進行すると見込まれる。

 厚揚げ・油揚げ等の売り上げ割合が高い(全体の3割程度 他社は数%ではないか)のも同社の特徴で利益率を押し上げている。

 厚揚げ・油揚げ等の大量生産で対応できる企業は少ない

②自動化でコスト削減し低価格でも利益を出す
 生産能力向上は1個当たりのコスト削減にもつながる。

 製造ラインの自動化を積極的に進め、低価格でも卸価格を抑え、
 スーパーにも儲けさせる。 
 低価格品はスーパーにとって重要な商品である。

 低価格品は安定的に大量の需要がありロスリスクが低い。
 *高価格品は販売量に波があり、ロスリスクは高まるため作らない。

 140種類程度の商品ラインナップだが、豆腐の場合、

 顧客によってパッケージを変えるが中身が同じという場合もあり、同じ製造ラインでながすことができ、

 種類の増加=コスト増 とはならない。

 自動化を進めることが可能だ。

③顧客のニーズを捉えた商品
 一般消費者、中食・外食の業者の
 半加工(切れてる)されている商品に対する”手間を省く”ニーズを捉えた。
 

〇成長戦略は3つ 価格アップと地域拡大と業務用市場のシェア拡大

今後の成長戦略は次の3つ
①価格アップ

 2018年秋から北海道大豆の豆腐を供給開始。
 高品質の北海道大豆を使った中価格帯の豆腐を売り出す。
 今後関東圏に進出するうえでは重要な戦略商品である。
 広島や関西のスーパーは低価格品の品ぞろえが多いが、
 関東圏、首都圏は商品バリエーションがあり、中価格帯を受け入れる市場がある。
 価格アップは利益率向上に直結する。

 加えて、過剰に下げていた価格を維持することも戦略の一つ。

 これまで同じブランドで出していたディスカウントストアとスーパーを別ブランドに分けて、良い商品を開発したらスーパー専用として供給する。

②地域拡大-関東圏へ進出
 現在2つの工場から、広島中心の中国地方、関西圏を中心に展開するにとどまっているが、
 これから関東圏に進出するために富士山麓工場<仮称>(以下、新工場)を建設する。
 新工場の竣工、生産開始を待たずに関東圏の一部スーパーに納入を開始する。

③業務用市場のシェア拡大
 外食・中食市場は拡大を続けている。

 業務用市場はまとまった量が求められる。
 総菜や食品工場等への大量投入が可能な大容量の業務用商品を業界で初めて開発し、今後の普及を図る。

 今後スーパー、コンビニなど供給企業は寡占化がすすみ、同様の供給が増えるだろう。
 そこに供給できる企業は生産能力がある大手に限られ、
 供給できる企業は交渉力を高めることができる。

 加えて、外食・中食市場の企業における課題はやはり人手不足。
 製造の手間を削減することが求められている。
 同社は”切れている”豆腐、焼き豆腐など手間を省く商品を供給している。

 *”業務スーパー”を展開する神戸物産もこの課題解決で成長している企業の一つだ。

〇将来を見据えて先行投資

同社は現在2つの工場を保有している
本社工場(広島県)と 関西工場(滋賀県)
加えて、富士山麓工場(仮)の建設を計画中で2019年9月着工、2020年生産開始予定。

新工場は15,000坪と既存の2つの工場を合わせた敷地面積以上の規模である。
生産規模は単価アップ効果も加わえ最大200億円以上を目指している。

進出地区は特区となっており、様々な優遇条件がそろっている。

加えて、きれいな水が得られる点も豆腐の製造には欠かせない。

新工場は首都圏への進出を視野に入れて計画された工場。
首都圏へは向上の生産開始を待たずに2018年秋から一部スーパーへの供給が始まる。

商品は関西工場から納品する。
将来的に新工場から納品することを前提で卸価格を設定。
物流費はやまみが負担をする。

長距離になるため、物流コストの負担により少し赤字か、収支均衡くらいになるとのこと。

新工場からの出荷が始まるまで出荷量を増やしつつ、様々なアイディアでコスト削減を続け、
ノウハウを蓄積させるだろう。出荷が始まった時には収益を大きく改善してくれることを期待させてくれる。

〇高い視座で判断することが将来の成功を引き寄せる

山名清社長は
”豆腐業界は儲からない”
と言う状況を変えたいと考えている。

以前は社員自身が”豆腐店”や”やまみ”で働いていることをごまかし、
社員が誇りを持って働ける環境ではなかったという

まず2016年6月にJASDAQ上場を果たした。

古い考えにとらわれず、新しいものをどんどん取り入れる。
最新の生産設備で高収益を達成し、働いている社員が誇れる業界にしたいという考えがあるのだと思う。

自社の利益にとどまらず、業界全体の将来を見据えた、
高い視座で行う経営判断は長期的に成功の確度を高めると私は考えている。

*ニュースから流れてくる聞きなれたコメント
”XXXの先行き不透明感が高まり、設備投資が控えられている”

未来はがわからないのは誰にとっても同じだ。
先行き不透明だからこそ投資をするのだ。

本業へ!自信のある事業へ!目指すべき未来の実現に向かって積極投資をする企業が将来の高いリターンを引き寄せる。

株式投資も同じだ。
先行き不透明で株価が下落しているときこそ
自信のある企業に投資することが成功の必須条件だ。

〇高水準の設備投資が続く

 同社の投資についていくつかの食料品企業と比較してみよう。

①売上高設備投資比率が高い

売上高に対する設備投資額の比率

やまみ 2015期~2018期の推移

  9%→20%→11%→15%(2018年6月期は見込み)

他社は10%に満たない。5%程度まで。

来期以降は新工場の新設も発生するため、
15%以上の設備投資を継続する。

*マルサンアイも増収を続けながら積極投資を続けており気になるところだ

②減価償却費を上回る設備投資額
 同社は減価償却費を大きく上回る投資を続けている。
新工場への投資も含め、この状況は続く見通し。

*以下の表は設備投資額から減価償却費を引いた金額

設備投資金額が多い場合、黒数字で表示されている

*設備投資金額と投資スタンスのについて基本的な考え方のおさらい
減価償却費と比較して、設備投資に対する企業のスタンスを判断するという見方がある。
積極的な投資:減価償却費 < 設備投資
 将来的に減価償却費が大きく成るため、利益を高める必要がある
現状維持のための投資:減価償却費 >= 設備投資
 将来利益への影響を最小限に、設備の価値減少分を投資する
という見方である。

〇顧客企業にもメリットをもたらした自動化投資

 同社は2012年ごろ、自動化に向けて積極投資に踏み切った。
2000年頃は、まだロボットやカメラ、センサーなど製造設備の自動化コストは高かったが、
設備投資コストは急激に低下。
例えば、2000年ごろ200万円だった設備が20万円以下、10分の1になった。

自動化は自社だけでなく、顧客企業にもメリットをもたらすものだったのは”特徴・強み”で記述の通り。
・人の手を使わず無菌状態で製造から梱包まで行うため、長持ちする
 消費期限3日程度だったものを10日~2週間になり、廃棄ロスが減る。
 スーパーなどの売り場においてはメリットは非常に大きい。
・1個当たりの製造原価を下げることで卸価格を抑え、同じ価格帯の商品でも儲けを出せる。

〇業績動向

足元の業績と通期見通しを確認する

(6月決算 単位:百万円)

・2018年6月期3Q
売上高 7,928(前年同期比 +7.1%)
営業利益 743(同 +0.3%)
営業利益率 9.4%

 設備投資に伴う減価償却費増、従業員の待遇改善によるコスト増で
利益は横ばいにとどまった。

・2018年6月期 通期見通し
売上高 10,200(前期比 +4.2%)
営業利益 984(同 +4.4%)
営業利益率 9.6%

営業利益率は
2015年6月期 4.7%
2016年6月期 10.1%
2017年6月期 9.6%
に続き高い利益率を達成する見通し。

*2016年6月期に利益率改善したのは国産大豆比率を下げたり、取引関係を見直したのが主要因。
価格交渉力が高まっていることを示唆している。

〇長期的な将来見通し

 同社が考える事業環境の将来見通しは
 ”将来的には市場規模が変わらないまま製パン業界のように全国規模企業による寡占化
 地域大手による地元の市場、個人ベーカリーのようになる”
 というもの。
 同社の成長は、その動きを先取りしていることを示唆しているのではないか。

〇食品の基本は美味しいと安全

同社は質にもこだわる。
”安い=質が劣る”とは言わせない

という思いをもっている。

安価な豆腐に使われる大豆はタンパク質35%程度だが
同社は良質な大豆に拘り、たんぱく40%以上を基準としている。
厚揚げ等を作る油の酸化度もしっかり管理している。
安くても良質な大豆を使い、よいものを作る。

〇勉強を続ける社長

 趣味が読書だという社長。
取材を終え、帰り際のちょっとした会話。
私:”今日広島へお帰りですか?”
社長:”はい、八重洲ブックセンターに寄って本を買って帰ります。”
私:”どんな本を読まれるんですか?”
社長:”2階が経営、3階が設備・生産関連の本があるのでその辺で選んでます。”

社長自らが勉強を続ける。

上を向いて学び続ける社長
成長企業に必要な条件の一つである。

 

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by ono