2760 東京エレクトロンデバイス メーカー機能強化へ!!業態変化の片鱗を視た レポートby相川伸夫
会社概要
東京エレクトロンデバイスは、半導体製造装置メーカー世界ランク4位、国内首位の東京エレクトロンの持ち分法適用関連会社であり、半導体商社として1986年に設立された会社です。
半導体商社の主事業は国内外の半導体メーカーから各種部品を仕入れ、半導体を組み込む製品(電子部品や電子機械など)を製造するメーカーに販売するビジネスです。
ピンとこない人は町の電気屋さんをイメージしてもらうといいかもしれません。
電気屋(半導体商社)にはあらゆる家電(半導体、チップやメモリなど)が売られていますが、直接見比べても良くわからない。
そこで店員(営業技術サポート)が説明してくれるのです。
電気屋(半導体商社)によっても取り扱い製品に得意不得意(チップに強いとか)や、このメーカーの製品は取り扱っていない(商権を持っていない)などの特徴があります
東京エレクトロンデバイスの特徴は自社で設計から基板の作成まで一貫して行える高い技術力と製品への知見、最先端かつ世界シェアの高い海外有力メーカー中心に50社以上の半導体製品を扱えるのが強みです。
半導体商社の収益構造上、売り上げ高の数字が大きく(部品の仕入れのため)なり、営業利益率が低くなりがちな特徴があります。
例えば、四季報オンラインのスクリーニング機能を使って『半導体商社』で検索すると12社がヒットします。
その12社で営業利益率の平均値を求めると約1.7%であり、同社の利益率もその平均に位置しています
ちなみに、12社の内、時価総額最大が1181億円、最小で62億円。同社は206億円と半導体商社のなかでも小型に分類されます。
※2018年4月6日時点、半導体商社は↑以外にも存在しますので、一概には言えません。
半導体メーカーは近年、吸収と合併が頻繁に行われるようになり寡占化が進んでいます。
しかし、前述したように高い技術力と半導体メーカーからの信頼も厚い同社は、商権を拡大しつつ、<メーカー機能強化での成長戦略>を計画しています。
その布石として2社をM&A(一社は完了、一社は7月)。
成長への本気度の高さを感じました。
次は、東京エレクトロンデバイスの<成長の可能性>についてスポットを当てます。
■成長の要 自社ブランド『inrevium(インレビアム)』のDMS事業
同社の強みは半導体の組み合わせや設計に関しての高い知見にあります。
自社ブランド『inrevium(インレビアム)』の収益の柱はDMS(デザイン&マニュファクチャリングサービス)という基板の設計・量産受託サービスです。
DMSにはステップ①~③の受注段階があります。
ステップ①はお客様が望む仕様に『基板の設計』をすることです。
どういう回路設計で、どのチップやコンデンサ、メモリを使うのかの設計図を書くという業務です。
ステップ②はその設計図通りに実物の基板を作成してお客様に供給する『評価ボード』の作成、評価業務です。
評価ボードを作成することでお客様は試作商品の産業機器や電子機械のテストプレイをして性能評価をすることができます。
ステップ③は評価ボードの基板の『量産』供給になります。
一度量産までこぎつければ、数年以上仕事を安定的に受注できることになります。
17年3月期のインレビアムの売上は43億1400万円でした。
DMSは設計量産受託になるので、商社ビジネスに比べ利益率も高く①<②<③とステップが進むほど上がっていきます
これまで量産は外部委託していましたが、自社工場を保有し、DMSを強化すべく2017年7月にアバールデータ社子会社であるアバール長崎社をM&A(議決権所有割合74%)しました。基板製造の量産自社工場を手に入れたのです。
アバール長崎の事業内容は<電子機器の開発・設計・製造・販売>を独立して手掛けており、従業員も126名います。
東京エレクトロンデバイスとのシナジーは十分にあるM&Aでしょう。
■産業機械の進化による商機!!
産業機器。例えば油圧で動くシリンダーを作っているメーカーがあったとします。
油圧制御は油の流量だけを制御するだけのシンプルな機構であり、複雑な制御が要りません。
当然制御に使う半導体(基板)も単純なものでいいです。
しかし、時代の変化によりそういった単純な装置は海外の安価な人件費で製造されたものの供給が増え、先進国の産業機器は高機能化へ舵を切ります。
油圧⇒NC制御⇒自動補正プログラムが付属⇒⇒⇒……
高機能化するということは、産業機器がPCのごとく変化することを意味します。
半導体の使用が増え、センサーなども増えます。
センサーが増えればその情報を処理するための基板設計もより複雑になります。
結果、ハイスペック化による半導体の需要がさらに活況になります。
こうした大きな流れから、電子部品に対してノウハウを持っていない会社でも半導体制御を組み入れた製品開発が必要になってきます。
東京エレクトロンデバイスのお客様には産業機器を扱うメーカーも多いのです。
今まで半導体をあまり扱ってこなかったメーカーは半導体制御の製品をどうやって開発するのでしょうか?
A…『研究開発を一から始め、専門のエンジニアを雇い、製造ラインを整備して開発』
or
B…『設計~量産まで半導体についてノウハウを持った会社に製造委託して開発』
おそらくはBを多くの企業が選ぶのではないでしょうか?
これだけ部品も複雑化した社会で一からスタートするのは大変な困難とコストでしょう。
今、そうしたニーズは確実に高まっており、それに向けてDMS事業を急速に拡大させるためにM&Aをしたのです。
■自社ブランド『インレビアム』での新規需要開拓
現在の売り上げへの寄与度はわずかではありますが、今後大きく伸びるかもしれない事業を数多く開発しているので、その一部を紹介します
・世界最速レベルの高速プロジェクター『DynaFlash』
フレームレート最大1,000fps/8bit
東京大学の石川 渡辺研究室との共同研究で開発された画期的な超高速プロジェクター
※2015年WBSトレたま『大江・大浜賞』も受賞している。
※番組放映は2015年11月17日
この技術は、自動車の前方を1000分の1秒で3次元計測できるようになったり、ベルトコンベヤでの物流仕分け、ロボットの更なる高速化、安全検知、エンターテイメントなどあらゆる分野での利用価値が期待される技術です
また、現在はDynaFlash v2が開発中であり、これがどう凄いのかは実際に動画を見てもらった方がよくわかるのでぜひURLをご参照ください
・DynaFlash v2とポストリアリティ
http://www.k2.t.u-tokyo.ac.jp/vision/dynaflashv2/index-j.html
物体の伸び縮みにも瞬時に対応し、高精細、カラー化にも対応しています
また、2018年3月29日に公表し、7月2日M&A(100%連結子会社化)予定のファースト社は独自の優れた画像処理技術を持った会社です。
ファースト社も画像関連に優れた技術を持つ会社なので、今後さらに素晴らしい製品やサービスが完成することも期待できます。
・TED REAL IoT(IoTに必要な製品・技術・サービスをトータルサポート)
これから盛り上がるIoTセンサーを活用するビジネス提案。
製品例にはConnecTED TH(温湿度センサー)などがあります。
接続はとても簡単で、50個のセンサーを配置可能になり、IoTセンサーでの情報収集、活用を可能にします
TED REAL IoTを推進し、IoTのノウハウを積み顧客を開拓することで、将来的には利益の源泉になるでしょう。
■東京エレクトロンデバイスの投資指標
※2018/4/6現在
終値 1970円
時価総額 206億円
※18年3月期会社予想
売上 1590.0億円
経常利益 25.0億円
純利益 15.0億円
配当 66.0 円
配当利回 3.35%
PER 13.27
PBR 0.87
ROE 6.5%
自己資本比率26.7%
※冒頭の半導体商社12社の平均配当利回りは2.78%。
今期予想PERの12社平均は36
来期予想PERの12社平均は25
■今後の成長について
同社は2016年に中期経営計画として『VISION2020』を掲げています
2021年3月期の売上高2000億~2200億
ROE10%以上という数字が目標です
現在の見通しとして、売り上げの2000億は狙える位置に来ていると考えます。
しかし、ROE10%以上を実現するためには自社ブランドの『インレビアム』が目標達成のカギになるでしょう。
19年3月期にはM&Aした2社がインレビアム事業として計上される予定です。
・アバール長崎 売上30億の利益3億円⇒純利益は4分の3計上
・ファースト 売上30億利益3億円(17年3月期の業績は大変悪いが、のれん償却費から想定するとこれくらいの利益を出してくるのではないか?)
従来のインレビアムが昨年+20%で売り上げ50億だとして合計110億円
21年にインレビアムでの売り上げが200億まで行ければ、営業利益率10%でも20億円
そうなれば中期経営計画もクリア出来、かつ、量産受託は一定期間仕事が継続するので業績も安定して積み上げれるのではないでしょうか。
そこに新規技術やシステムの話もまだまだあるので、非常に面白いと思います。
半導体商社なので在庫リスクも考えられますが、驚くべきことに東京エレクトロンデバイスは2003年上場以降もただの一度も赤字を出していない超優良企業なのです。
適切なリスク管理をされているようです。
現在3%を超えた配当利回りがあり、今後の成長シナリオがあり、夢を見れる製品を持っている
今後も同社の成長に注目していきたいです!!
ディスカッション
コメント一覧
初めまして。
素人なのですみません。財務情報を見ており、わからなかった点がございます。
BS、PLは良さそうに見えるのですが、営業キャッシュフローが赤で、借り入りにて補っているように見える点は、
どういう解釈をすべきものなのでしょうか。貸してくれない状況が出た時は危険ではないものでしょうか。
教えていただけると幸いです。
コメントありがとうございます。
とても大事なポイントへの質問ありがとうございます!
営業CFは+が好ましいのは間違いありません。
しかし、現状、東京エレクトロンデバイスに関しては業績は堅調であると評価しています。
説明をするにあたり、一般的なサービスや製品を自社で生み出して供給する場合と、供給する製品を外部から仕入れる商社では営業CF、財務CF、また有利子負債についての捉え方が少々異なると思って頂くと分かりやすいかもしれません。
営業CFが-な理由は売上債権の増加と棚卸資産の増加が一番の要因です。
2018年3月期は前年より売り上げが280億円もの増収で着地しています。増収率が高いということは前年に比べて多くの製品を仕入れて顧客に納入した事になります。
それらはPLに利益として計上されていますが、営業CFとしては商品の代金がまだ回収できていないという意味の『売上債権の増加』
需要に対応するために会社内で製品を持って備える目的の『棚卸資産の増加』
この二つが原因で営業CFは約80億の大幅-であり、その資金は財務CFの増加、つまりは有利子負債の増加という形に表れています。
現在2019年3月期3Qの決算が先日開示されましたが、営業CFは105億の大幅+です。先ほどの売上債権の回収が進んだのが主な理由です。
ちなみに半導体商社15社を2014年~2018年までの五年間で営業CFのプラスとマイナスの回数を数えると、-が25回、+が33回となります。
半導体商社の企業努力で営業CFが制御できたりすることはなさそうに感じました。
またたけしさんの心配されている『貸してくれない』又は『売掛金が回収できない』という事に関してリスクが無いとは言えません。
それは東京エレクトロンデバイスに限らずすべての会社に共通していると思います。
私が話を聞いた印象としては借入にはまだ枠に余裕があると感じました。また、アナデバとの契約がなくなったので今期が減収増益になっていますので、有利子負債も多少減ることと思っています