暴落は需給の悪化に過ぎない 過度の心配は無用 by yamamoto

止まらない負の連鎖

株式市場の動揺が収まらない。2020年に入って30%以上も主要な株式インデックスが下落。もちろん、その発端はCOVID-19による感染の拡大を阻止しようとしたこと。感染阻止の有効な手段は人の移動を制限すること。ところが移動制限は経済活動に多大な影響を与える。病気の終息の見通しが立たないところで経済活動の一時的な停止が続けば景気が後退し、貸し倒れも多くなる。

このような連想ゲームの結果、1) 市場のボラティリティが高まった。あとはお決まりのコースに乗り、2) ボラティリティの上昇からリスクアセットの削減。キャッシュ比率の高まり。3) アクティブファンドの解約の懸念。そして4) 信用取引の追証。それだけならばよかったが、5) アルゴ取引によるトレンドフォロー型の売り乗せが発生。買い手不在の中でボラティリティのさらなる上昇。再度、2)へ戻る。この負の連鎖を複数回、繰り返した挙句、日経平均はついに17000円を割ってしまった。

火遊びに油を注いだ 無理な運用手法の数々

確かに、大きな材料ではあるが、所詮、政府の決めた外出禁止令。数週間でおしまいになる。長期の投資家は今後数十年間のキャッシュフローを元に投資を継続するから、1年程度経済がダメでもそれによって売却するようなことはしない。売却しなければならないのは制約がある人々であり、信用取引や顧客との運用戦略の取り決めによるものが大きい。たとえば、ヘッジファンドでは当月中にマイナス1.5%に到達したらポジションを縮小しなければならないというファンドレベルのロスカットがある。ファンドによっては、個別株のロスカットルールまで定めている。今回、多くの銘柄が投げ状態だが、こうした機関投資家の事前に定めた運用方針により、ロスカットになった銘柄は多数あるだろう。機関投資家が運用資産を受け入れるときには、顧客に対してどの程度のリスクを想定しどの程度のリターンを狙うのかという戦略を説明している。5%のリスクしか許容できない顧客の場合、通常の株式のボラティリティが20%ならば、株の配分は1/4未満になる。ところがこのボラティリティが今回3倍ぐらいになってしまった。すると株の配分を半分以下に減らすことになる。こうした動きをリスクパリティと呼び、運用手法としては、下手くそな手法ではあるが、運用戦略自体がキャッシュ運用に近いものなので、パッティブと並び馬鹿でかい資金がこういうタイプの運用商品で運用されている。

近年では、債券の金利が安すぎるので、債券に少し似ているディフェンシブやインフラ系企業の配当利回りをあてにして、債券ポートフォリオに株式をブレンドするというへんてこりんな運用がかなり流行っている。最終的な顧客は、「株なんかいれて大丈夫?元本保証してね」などという人々であるから、こうした商品が流行ると、こういう局面で戦略が破綻してしまう。債券と株とキャッシュで受け取り金利や配当で意味のある利回りを出そうと思えば、さらに、ちょっとだけレバレッジをかけることになる。これが今回、悪さをしている。そもそもキャッシュのマーケットは株に比べて馬鹿でかいわけであるから、この馬鹿でかいキャッシュの元本に対して、その一部を株式で構成すると株式の市場には大きな需給の悪さをしてしまう。

リスクパリティ戦略は設計の段階から破綻している。個人投資家にとっても、信用取引は危険が高すぎる。こうした無理な運用スタイルが需給を増幅してしまう。

暴落は需給。深い意味などない

わたしの言いたいことは、こうした暴落は必ず、需給の悪さのせいだということ。最初の小さなほころびであるたった数週間の自宅待機が、よりによって数十%という暴落を生むが、暴落のほとんどは需給によるいたずらであり、あまり深い意味はない。

これを観察した人々が、余計に不安になり、日銀は倒産するのではないか? 金融危機が起こるに違いない。シェールガスへの貸付が飛ぶ。50円の円高になる。日経平均は5000円になる。なぜならば。。。。という後講釈が受ける。受けるのは暴落に見合うものすごく悲惨な状況やとんでもない陰謀説などがほしいからである。しかし、実際にはすべての理由は後講釈に過ぎない。理由はないのである。

ボラが上がった。だから株を売った。それが本当の理由。

ただ、待て。さすれば救われん

今後を考えると、戦略は単純でよいということになる。それは、「待ち」。何もしなくてもよい。そのうち、恐怖が収まる。ボラが収まる。1日に10%も変動を繰り返したインデックスが、今日なんかは極めておとなしく数%近辺で動いた。これがすでに明るい兆候であり、ボラは下がりつつあるわけだ。

ボラといっても魚のぼらではなく、株価の変動率の標準偏差のことだが、これは恐怖というものの本質から必ず下がる。恐怖は長くは続かず、人間は悲しい動物なので、怖いことも忘れてしまうのである。人間は怖さに慣れてしまう。いい加減な動物だ。これが昆虫だと慣れないのだが。

そういうことで、北海道が頑張って感染者を増やさなかった。中国は強権的に感染者を抑えた。日本もパニックを避けている。韓国も大丈夫そうだ。中国深センの生産が急に戻ってサプライチェインが復旧した。アジアでもできたのだから、白人さまたちができないはずはない。あとは新しいルール(手洗い+体温チェック)を規律正しく運営し、自粛をやめていく。そうすれば、この騒ぎは終わりである。

株式市場だけは、他の学問領域や文芸領域と違って、くだらない連想ゲームが許される場所だ。わたしは市場における連想ゲームに組しない。いわゆる、トランプが陽性だったらうんちゃら、ドドイツ銀銀ちゃんがどっかいっちゃたら、うんちゃらかんちゃら、という過激?な連想だ。株式投資家のこうした過激な連想にはほとほと嫌気がさすものです。本当にそういうことで相場が動くなら、連想ゲームはもっと洗練された技術になっているだろうに。巷でいわれている経済危機云々の議論は長期の運用の役には立たない。市場は需給の支配するところで連想ゲームで動くものではない。勝手に買いすぎて勝手に失望して勝手に手仕舞う人がいるというだけではないか。市場でついている株価は、長期的にはなんの参考にもならない。企業の価値と株価とは全然違うものだ。株価だって1年後にはまったく違うものになっているだろう。ボラティリティが下がるのを見ていればよい。それだけで資本コストが下がり、資本コストが下がると株価はまた上がる。いつ、どのタイミングでボラが下がるかは、COVID-19の感染ペースが参考になるだろう。

恐怖に煽られて、動いているものを追いかけていては、日々の地道な鍛錬はできないでしょう。特許のひとつでも資料の1ページでも読んで、市場を観察するのではなく、世の中を観察してもらいたい。

そもそも、政府が自ら決めたタイムリミット付きの人の移動制限である。このためにスポーツ選手や音楽家や芸人やレストランのシェフの生活を破壊して、文化や産業そのものを壊してしまっては本末転倒ではないか。

過度の心配は無用である。

COVID-19の終息は

人の移動の制限の徹底の度合い、そして、人々の防衛意識の高さに国民差があるが、中国の場合は、移動の制限をかけて12日でピークを迎え、一ヶ月内に終息というパターンでであり、これがモデルケースのひとつとなる。北海道の外出禁止から二週間経ったがやはり数日前が感染者数のピークであった。東京もイベント自粛から2週間でピークを打った。また韓国もそうなった。これをイタリアに当てはめると3月9日の営業停止から数えると感染者増加ピークは3月20日にあたり、ピークを迎え、その後トーンダウンをしていき4月初旬までに終息する(下火になるという意味での終息)可能性が高い。他の欧州もどうようでスペインが数日遅れであろう。欧米が4月からの自粛からの正常化ということになり、そうなると、今回の大危機はV字回復になる公算も残されている。

人の移動制限はタイムリミットを設定し、影響額を需要創出で政府が穴埋めし、金融当局による金融緩和により資金繰りを助ける絵がすでに描けている。自粛による損害は目に見える危機であり、どの国の国民も団結しているように見える。どの国も、国民と政府と企業で力を合わせてこの難局を乗り越えていくことができるだろう。