5729 日本精鉱 特許情報の活用方法の具体例 Toyotaの二次電池の事例(1部)、そして、日本精鉱のレポート(2部)より by yamamoto

2018年12月27日

1部  特許情報の活用法

一次情報を読みこなす 特許情報から

投資においては、一次情報というものをわたしは重視している。

一次情報とは、会社のHPからの情報、会社から出している出版物や研究発表など投資対象企業からの情報である。

たとえば、特許情報は社員が書いているものであり会社が出願したものである。よって、特許も一次情報となる。

もちろん、会社側に取材して得た情報についても直接会社から得たという意味で一次情報となる。

このうち、特許についてのノウハウのひとつを提示したい。

疑問を持ったら特許を読む。あるいは解決策が見つかるかもしれない

トヨタ自動車のEV開発はどうなっているのだろうか。

たとえば、トヨタが出願したもので、全文検索をかける。

以下、J-PlatPatのHPの検索画面。

Jplatpatでキーワード検索をかけた

わたしは、EVになったとき、ブレーキの機構がどうなるのかなと興味を持った。

それで、EVとかブレーキとかのキーワードをつけて検索してみた。

JplatPatの無料検索を使ってみた。

ここが難点だが、J-Plat-patは結果を3000件以内まで絞り込む必要がある。

わたしは、2010年以降の登録した権利だけを検索した。2073件まで絞ってみた。

また、キーワードにはセンサー、IoT、ブレーキ、モータなどを適当に並べてみた。

結果は以下の通り。(Python pandasを利用した)

FIなどのタームで整理してもよい。特許から拾ったFIはそのまま検索すればよい。

IPCやFIはそのままgoogleで検索

わたしはPatBase(上のgoogle検索結果の2番目のやつ)でFIを確認しているが、特許庁のページにもエクセルファイルですべてのFIやIPC等の参照はできる。

以下がPatBaseによるIPCやFIの説明。英語が難ならば、Googleの「日本語に翻訳します」の翻訳ボタンを押せばすぐに日本語となる。最近のGoogle翻訳はディープラーニングの効果もあり急速に自然な日本語になっているというものの!!

だが、まだ、バグも多い。

(secondary cells=二次電池。googleはcellを電池とせず、細胞と訳してしまった。が、これは愛嬌、そりゃそう訳すよね、として笑うしかないのだ。)

するとやはりB60KというIPCが多いことがわかる。このコードはHEV。つまり、電動を主体としつつも内燃機関を補助に、ということで、100%EVの分類ではないのであった。ここにトヨタの戦略がよく現れていると思うのだ。大(ハイブリッドHEV)は小(EV)を兼ねるとはいうが、EVになればトヨタの強みが消されるのであろうか。こういうことが一次情報を見るとわかる。実際には、特許の内容をよく吟味しなければならないのだが。

FIによる整理

(上記分類はまだProgramに改良の余地があり、もう少し大分類IPCでやるようにこれからはしたい)

それでは他社はどうなのか。登録特許の数だけでは、2010年以降、トヨタ37000件に対して日産は11000件と確かに少ない。それでは日産とトヨタの年度ごと、あるいはFIの違いを見てみようかなとなる。

Toyota vs. Nissan

トヨタの直近の登録2700件を見ると、燃料電池関連のものがやはり多い。

モータのコントロールに関するものも多い。ただし、決め打ちせず、多くの範囲をカバーしようとしている全方位の姿勢が見えた。

だが、この1年で公開された2700件を分類すると、なんと、二次電池の分類H01M10がかなり増えていることがわかる。この1−2年で相当、研究が加速していることがわかる。

急に多くなった二次電池の公開特許 H01M10

日産は一方で、パワーアシストなどの特許が多かった。二次電池関連も多い。だが、トヨタがこの1年で数千件の公開があるのとくらべると日産のそれは数百件であり圧倒的に少ない。特許の内容もgearingに関するものが多い。日産、二次電池では大丈夫なのか?という疑問も出てくるというわけだ。

いずれにしても、この1年間のマーケットの二次電池関連への物色は研究のフォーカスからも裏付けられた、ということになろう。

このように競合が何を重視しているのかを一次情報から整理することができる。

FIやIPCからの逆引き ー 二次電池の開発動向

そうなると、H01M10/00の二次電池では、どんな企業が最近頑張っているのかをJ-PlatPatで検索してみたくなるだろう。

H01M10/00をIPCに指定。公開日で直近の2700件を分析した。(2018/03/23現在)

トヨタグループが圧倒していることがわかる。

H01M10/00 J-PlatPatによる逆引きをPythonで整理

二次電池分野でのトヨタの特許の多さはなにも直近だけではなく、ずっとそうである。

以下は、2014年、2015年、2016年のH01M10/00の逆引きによる出願者の多い順である。

2014年
2015年
2016年

また、もう少し細かい開発の方向性を知りたければ、H01M10をあげつつも、この2700件の特許は他にどのIPCを併用しているかがわかるので、開発のメインストリームを知ることが容易にできる。052はリチウムイオン電池ということで、二次電池の本命はリチウムであることがわかる。部材系、セパレータや浸透膜についての開発が多いこともわかる。また冷やし方、熱を処することに苦労していることがわかる。(613)。液体(566)(電解液)の分野も多い。J-PlatPatには3つのIPCがhtmlにて参照されているので、この3つとも合わせて見ることではっきりと動向がわかる。G01R31/36は100件以上二番目のIPCの最上位として出てくる。電池制御手法である。

H01M10/04というのは構造に関わるものだから、基本特許になりうるかもしれないな、などと考えるならば、H01M10/04を筆頭IPCとして再び検索したのちに、基本的な特許の候補を吟味してみるのも楽しいだろう。

同時に参照されたIPC番号から開発の方向性を見る

リチウム二次電池へ完璧にシフトしたトヨタ

トヨタのH01M10/052(リチウム二次電池)の2001年以降の出願をみると、やはり、というか、2010年以降、急激に増えていることがわかる。

-Toyota H01M8/00 燃料電池 特許公開の件数-

2001-2005 1460件

2006-2010 4800件 (ピーク)

2011-2015 1505件

2016-    571件

-Toyota H01M10/00 リチウム二次電池 特許公開の件数-

2001-2005 571件

2006-2010 1061件

2011-2015 2086件 

2016-    903件 

(2016年からの数字は直近2018年3月20日までの数字)

トヨタが明らかに燃料電池からリチウムに研究人員をシフトしていることがわかる。

注目のトヨタ固体電池の特許公開の推移

市場の注目はトヨタの固体電池であろう。最近、右肩上がりで出願が増えている。2000年以降571件の公開が確認できる。

二次電池の中の固体電池はH01M10/0562であるが、この数年、急速に公開件数が伸びている。

逆にH01M10/0562固体電池のIPCで逆引きすると、同期間2100件程度の公開が確認できる。

そうなると、トヨタはこのIPC H01M10/0562 固体電池では公開特許の実に4分の1以上を抑えていることになる。

ここでのライバル候補が以下の通り。

まだ、内容については吟味していないが、住友電工(この5年間公開がない、諦めたか)や出光(硫化物固体電解質、トヨタと共同出願している)などの意外な?名前が上がる。

ただし、ライバル候補たちに3倍以上の件数の差をつけて圧倒していることがわかり、固体二次電池ではトヨタが権利化では先行しそうだな、と感触を持つことができる。(トヨタ本体と共同出願などを合わせてグループで500件以上とっている。) 出光とトヨタとが共同出願している状況からは、トヨター出光を合わせ、さらに、住友がこの数年諦めている状況をみると、数字以上にトヨタが圧倒しているといえるのではないか。

固体電解質が出光のように硫化物系になるのか、酸化物系か、ガラスセラミック系になるのか、注目されるところである。オハラとトヨタが共同で硫化物固体電解質を前提に正極材の特許を出していることから、トヨタはいまのところ硫化物を本命としているのではないかと思っている。だが、トヨタが登録まで行っているのは、いずれも、制御やシステム周りであり、材料については、とりあず出願を優先し、審査請求までは急いでいないという状況だ。

投資家としてみるべき特許は、このH01M10/0562の中で、登録されたもの、そして、被引用回数が多いものを優先して読んでみると時間が節約できる。

出光などのバリュー株がどんな特許を取っているかも参考にしてみるとよいだろう。

これらは表面的なことであり、実際は、特許の請求項を読まなければならない。

具体的な固体電解質

これらは、トヨタの製造特許をみると網羅的に書いてある。本命はふたつかひとつにすでに絞られていると思うが、特許とは網羅的に書くものである。

酸化物系非晶質固体電解質として、例えば、LiO-B-P、LiO-SiO等を;
  硫化物系非晶質固体電解質として、例えば、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P等を;
  ハロゲン系固体電解質として、例えば、LiI等を;
  結晶質酸化物又は酸窒化物系固体電解質として、例えば、LiN、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li-PO(4-(3/2)w)(wは0を超え1未満の数である。)、Li3.6Si0.60.4等を;
  ガラスセラミックス系固体電解質として、例えば、Li7P3S11、Li3.250.75等を;
  硫化物系結晶質固体電解質として、例えば、Li3.240.24Ge0.76等を;
それぞれ挙げることができる。

 

IPCやFタームについて

特許庁に詳しい説明がある。

エクセルベースでAからGまでIPC分類の参照がある。

たとえば、H(=電気)を見てみると、以下のように分類されていて、H01M10が二次電池であり、そのサブクラスにリチウムイオン二次電池(H01M10/052)があることがわかる。

今回のコラムの冒頭でやったように、IPCやFタームを特許から見て、それをGoogleで検索する、というやり方でもよい。

だが、特許庁HPにはIPC分類がきちんと整理されている。こちらのIPC表をざっと目を通しておくべきだろう。

そこには、検索がしやすいようにとの配慮からか、エクセルで分類ごとにファイルがある。直近の更新は2018年1月である。

 

2部 訪問取材の前にやるべきこと

日本アトマイズ加工について

会社側の出願した特許を読むことで実際の製品の内容や用途が理解できるのだが、ここでは、多少、趣を変えた面白いやり方を載せる。

特許情報全体のテキスト(全文)を特定の製品名や会社名で検索するのだ。

たとえば、「日本アトマイズ」と検索すると、日本アトマイズ加工が出願した特許だけではなく、全特許の全文検索であるから、そこからは、日本アトマイズの製品を研究開発用途で使用している企業群の情報がわかる。

また、それらの企業がどんな用途でアトマイズ製品を応用しようとしているのかがわかるのだ。

つまり、最新の動向や新アプリケーションがわかる、というわけだ。

たとえば、Googleで「日本アトマイズ」で特許全文を検索すると、以下のような結果になった。

Google Patentsの検索結果

ここで、日立化成などは、太陽電池をフィルムのように使う用途として導電性ペーストにアトマイズ粒子を使いたいとしている。太陽誘電は積層インダクタで鉄粉を使いたい。村田製作所は電極としてプリント基板に使いたいなどの用途が見えるわけだ。これを細かく見ていけば、アトマイズ製品の今後の用途開発の方向性が見えてくる。

ここで重要なのは技術的な課題を把握することだ。技術には必ずトレードオフがある。あるよい特徴はある悪い特徴と同居している。鉄粒子や銅粒子で伸びている日本アトマイズ加工であるが、それらは酸化しやすいという欠点を持つ。その欠点を上記各社がどう克服しようとしているかを読み取るのだ。錆びない貴金属の薄膜をコーティングするというやり方が一般的だということが特許を読むだけでわかる。

このように実際の開発の現場の声を一次情報から拾ってみてはどうか。非常に物事の理解に役立つはずである。

同様に、技術分野を知りたければIPCで整理する。

Google Patents検索
Google Patents検索による

Hで始まるIPCは金属粒子に関するものである。B22とあるのは、その加工ノウハウに関するものである。IT企業の場合、押し並べて導電性やインダクタンスに関する特性を向上させるためのものだ。フィルムに導電性を付与して曲面に太陽電池を貼り付けるようなことも想定されている。

また、この分野での発明者順にソートする。すると、金属微粒子の用途開発の開発者がわかる。IRを通して、この方々に話を聞きに行ったりすることができる。また、彼らの特許や論文を読むことができる。また、著作もある場合もある。

これらはgoogle patentsで「日本アトマイズ」と打ち込むだけで出てくる。無料サービスだ。

Googleはdownloadも無料であり、pandasでread_csv機能で一発でDataFrameに取り込むことができる。

Jplat-patのサービスも無料であり、html形式を読み込むことができるbeautifulsoupなどを使わなくてもpandasで情報を簡単に整理することができる。

 

JPlatPatのソースコードをpnadasで読み込んだもの
JplatpatからFIを読み込んだもの

あるいはよく出てくる単語で整理をする。特定の技術分野であるので、その周辺の技術用語を抑えることはアナリストには重要だ。会社側と同一な言語で話さなければコミュニケーションができない。これは有料サービスであるがcksweb月額8000円で使うことができる。cksでは5000件までcsvファイルへの出力をダウンロードできるなど、有料サービスならではの機能が満載である。

アトマイズを含む特許テキストの語彙 ckswebによる

表面、被覆、銅粉、平均粒径、ミクロンなどの言葉が並ぶ。会社側へのヒヤリングの際の参考にする。

 

特許の中身を読むことで投資対象への理解が深まる

これらは表面的な分析だったが、もう少し、特許自体を読むことまでやればもっとよい情報が得られる。

たとえば、鉄粉に関するコンペティターなどがわかる。

コンペティターや製品名もわかる

エプソンアトミックスもアトマイズ法で粒子を販売している。彼らのHPには新工場が2017年の末に稼働していることがわかる。これらはリスク要因である。IRにおける重要な質問がひとつできたことになる。

このように、特許情報から多くのことがわかる。

1)製品がどのように使われるのか。潜在的な顧客や潜在的な用途。

2)ライバル名

3)ライバルの製品名

4)技術用語

その他、発明者順にも分類できる。だれが開発のキーパーソンなのかがわかれば、勉強した後に、面談を申し込むことができる。その方がどんなところで苦労されたのか、どんなブレイクスルーをなしたのかを、10年ぐらいしたら、公にして彼らの功績を個人的に讃えたいというのがわたしのモチベーションになっている。

二次情報

会社四季報というものがあるが、その中で業績予想については、これは東洋経済の記者の予想であり、会社からの情報ではない。こうした第三者からの情報を二次情報といって一次情報と区別している。証券会社のレポートやわたしの書いたもの、あるいは、ブログに書かれているようなものはすべて二次情報である。

一次情報 企業のHP、有価証券報告書、決算短信、決算説明会資料、特許情報、取材により得られた情報
二次情報  上記以外の第三者が介在した情報。ブログ、twitter, 投資家向けサイト、アナリストレポート、四季報

 

二次情報の中には間違ったものも多い。

たとえば、wekipediaは間違いだらけである。記者の書くもの、わたしの書くもの、これは自省を兼ねて、間違いが多い。つまり、二次情報は、書く人が書きたいことを書いているのである。バイアスが大きくなってしまう。分析記事、解説記事、これらはわかりやすければわかりやすいほど、間違っている情報となる。

一次情報として分類したが企業訪問の取材の内容。これについても、こちら側の早とちりというものがあり、そうなってしまったら、せっかくの一次情報が歪められて市場に伝わってしまう。そうなれば、アナリストのレポートは公共の福祉を害するものになってしまう。市場を惑わす悪質な情報へと堕落してしまう。

アナリストたるもの、情報には正確性を記し、記述には客観性を持たせなければならない。

一方で、どの企業にもどんな人間にもよいところはある。そのよいところを見出すのもアナリストの仕事のひとつである。アナリストには企業と投資家の間を結ぶ重要な役割がある。だからこそ、企業もアナリストには会ってくれるのである。

個人投資家が自立し、自ら取材できる力量があったとしても、企業のIRは公共の仕事であるから、情報を独り占めにしては会ってくれない。自らが個人投資家の代表であるという自負を持ち、堂々と個人投資家として取材ができる時代が当然のごとく、これからやってくる。そのとき、得られた情報は正しく公表されるべきだし、長期の立場で物事の本質を記す態度を持つ個人投資家が一人でも増えていくことが市場の健全化に繋がると考えたい。そのようなプラットフォームを作りたいと思うが、時間はかかりそうである。リテラシーは高ければたかいほどよい。リンクスリサーチが、Python教室や数学教室などを主催しているのは、上記のような分析が簡単にできるから、でもある。

取材内容や取材結果の公表についても、一種の指針が必要ではある。

だからといって、杓子上記なルールはそぐわない。書けば書いただけの社会的責任が生じる。その責任を全うしようとするしかない。つまり、書いた後、自省し、何度も書き直すこと。そして、時間が経ち、間違いに気がついたら訂正すること。理解を深めるためには、こうしたエラーの積み重ねが重要だと思う。

エラーを積み重ね、失敗を積み上げていき、少しでも本質や心理に迫り、世界や社会や人類への理解を深めていくことが求められていると思う。

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by 山本 潤