プロのナンピン、素人は絶対しないで!

👤 プロフィール 山本 潤 株式投資で勝率8割の外資系投資顧問の元日本株式ファンドマネジャー。 1997-2003年年金運用の時代は1000億円の運用でフランク・ラッセル社調べ上位1%の成績を達成しました。 その後、2004年から2017年5月までの14年間、日本株ロング・ショート戦略ファンドマネジャー。 過去20年超の運用戦績は17勝4敗の勝率8割。 また、コロンビア大学大学院修了。哲学・工学・理学の3つの修士号を持っています。

【ナンピン戦略】

あるギャンブラーがこんな戦略で賭けに臨むことになりました。 最大で2回までの賭けることができます。 まず、初回は、黒と赤のルーレットで1000円を賭けます。 勝ったら、その時点でゲームを降ります。 ルーレットは公正であり、勝率は50%とします。 負けたら、2回目に挑戦します。 が、その際は、1回目の倍の掛け金である2000円を賭けます。 2回目の勝負で勝っても、負けても、どちらにせよ、ゲームはこれで終了です。 さて、このシステム売買のメリットとデメリットは何でしょうか。

【勝率、期待値は?】

メリットは、勝率が高いことです。 2回続けて負ける確率は1/4しかありません。 つまり、勝率は75%です。 デメリットは、勝っても1000円しか手に入りませんが、 負けると3000円も失うことです。

期待値は、ゼロです。

期待値=勝った金額×勝率 - 負けた金額×(1-勝率)

=1000円×3/4 - 3000円×1/4

= 0円

となります。

この売買思想は、「ナンピン」といい、投資家に幅広く支持されている人気戦略です。

ナンピンすることで、勝率を高めることができます。 しかし、問題点も明らかです。 まず、期待値を上げることはできません。 そして、負ける確率は小さいものの、負けた場合の損失が莫大になるということです。 負けたときの損失がかなり大きくなるために、勝率がいくら上がっても、期待値が上がらないのです。

株式投資でナンピンとは、つまり、買い下がり戦略です。 買い下がることによって、平均コストを下げていくのです。 ただ、等金額分を何回に分けて買い下がっても、買いコストはなかなか下がりません。 そこで、たとえば、10%下がったら、初回の倍の金額を買うということにすれば、買いコストは、ナンピン時のコストに近づきます。 そして、そのためには、最初の打診買いをほどほどの金額にしておく必要があります。 たとえば、ファンドの1%を打診買いにあて、まさかのナンピン時には、追加で2%を買う。 その後、さらに下落した場合は、4%を買い足す。それ以上のやられるようなことがあれば、損切りするとしましょう。 以上の具体例は、3連敗は許されませんが、連敗なら取り戻すことができるというナンピン戦略です。

【勝つまでやるという戦略】

勝つまでやるという戦略をとったとしましょう。 1回あたりの勝負の勝率をpとします。 勝つまでやるということですから、最初の勝負で勝ったら、その時点でゲームは終わります。 5回目に初めて勝ったとすれば、4連敗後に初勝利を収めたことになります。 平均すると勝つまで何回かかるかは、N回かかるとしましょう。

確率論からは、Eの期待値、E[N]は、1/p回となります。

つまり、勝率が50%なら、平均的に勝つまでに、2回トライすればよいということになります。

E[N]=勝つまでの回数の期待値

を計算すれば、1/pとなります。

勝ちパターンを確立している方は、いわば、高い勝率を達成できる人です。 勝率が40%の方が平均的に勝つまで2-3回は要するのに対して、 勝率が60%の方は、1-2回でよいということがわかります。

勝つまでやり、それぞれ、一回の勝負が独立しているとすれば、これを確率モデルでは、 GEOMETRIC、ジオメトリックといいます。

勝つまでの回数をN回とします。

すると、その分散を計算してみると、計算過程は省きますが、 (1-p)/(p^2)となります。

分散が、負け率(1-p)を勝率pの2乗(=p^2)で除したものになるということは、何を意味しているのでしょうか。

それは、勝率が高い人は、勝つまでに要する回数が少ないばかりではなく、そのブレ(分散)が驚異的に小さいことを意味します。

勝率40%の人のNの分散は、

V[N]=0.6÷0.16=3.75

でおよそ4回となります。

勝率の低い方は、2-3回目で初めて勝利することが見込まれます。 しかし、分散が大きく、4連敗、5連敗することも多いのです。

一方で、勝率が60%の人のNの分散はどうでしょうか。

同様に、V[N]=0.4÷0.36=1.1~わずか1回です。

勝率60%の人は、初めて勝利するまでに要する回数が1-2回と短いだけではないのです。 その分散がわずか1回ということは、3連敗することが珍しいといえるのです。

このことから、株式投資が下手な人が、ナンピン戦略をとると、非常に危険であるということがわかると思います。 また、投資が上手な人にとっては、ナンピンは、極めて有効なツールだといえるのです。

上手な人にとっては、勝利を確実にする戦略、それがナンピンなのです。 投資の本質的な部分は、勝率です。 ナンピンに頼ることなしに、勝てる高質のトレードをすることが分散を抑え、期待値を上げることになります。 勝率の高いトレードができるようになって、はじめて、ナンピンが使えるようになるのです。 ですから、個人投資家の大多数を占める投資の初心者は、売買の基本が定まらずに投資判断がぶれるうちは、ナンピンを使うべきではないと考えています。

もうひとつ。ベストプライス問題を紹介しましょう。

【The Best Prize Problem 最優秀賞問題】

「最優秀賞問題」という確率の問題があります。 n個の賞品があります。 その1つづつにランクがつけてあります。 つまり、最優秀賞(1位)、2番目に高価な賞品、3番目に高価な賞品… そして、ブービー賞は、(n-1)番目に高価な賞品、最後にn番目に高価な賞品という具合です。

この賞品は、ランダムに時系列にひとつづつ展示される予定です。 わたしたちは、そして一つ一つ順番に見ることができます。 (もちろん、何が最優秀賞かは事前にはわかりません。高級車かもしれません。) 最短で1番目の賞品を選んで終わる人もいるでしょう。 最長でn番目の最後の賞品まで見る人もいるでしょう。

1つを見たら、その賞品をもらうか、もしくは、拒否することができます。 賞品を選んだ時点でゲームは終わりです。 賞品を拒否した場合、次の賞品を見ることができます。 そして、次の賞品が気に入れば、それを頂くことが可能です。

気に入らなければ、再度、拒否をして、そのまた次の賞品を見ることができます。 最優秀賞をとれる確率がもっとも高くなる戦略を考えましょう。

【最優秀問題 回答】

考え方、計算過程は省きます。

答えは、

1)nを黄金分割(自然対数で除す)する。n/e。

2)n/e個の賞品を最初に拒否する。

3)最初の拒否した賞品(n/e個)の中で最も高価な賞品(賞品bとします)を覚えておく。

4)残りの賞品をひとつひとつ見ていく中で、賞品bよりもよい賞品に出くわしたらすぐに、その賞品を選ぶ。

これが戦略です。

【戦略のまとめ】

最初は静観します。 次に、静観した中でのベストな賞品を特定し、 それを超えるようなよい賞品が出たら、それを選ぶのです。 この戦略がn個の賞品の中でもっともベストな賞品である確率が一番高いのです。 その確率は37%程度あります。

【応用例 株式投資のトレーディング】

この問題を日々のトレードに活用することはできるでしょう。 まず、自分がトレードする時間をnとします。 前場だけでトレードをするなら、n=2時間とするわけです。 1分ごとの株価をP(ランダム変数)とします。 2時間ですから、p(個別の確定数字)は120個並んでいます。 中には同等の「賞品」=同値の株価も多数あるでしょう。 2時間を黄金分割します。自然対数eで割るわけです。 eは約2.72ですから、120分を2.72で除すと、44分になります。 9時00分から9時44分まである銘柄の値動きを見ます。 その値動きの中でもっともベストなプライス(最安値)をマークします。 9時44分以降で、その最安値を下回ったら、すぐに買います。

その後11時まで買値を上回る状態を待ち、売り抜けます。 よく、テクニカル分析でも、第3波、第5波という黄金分割を用いた分析がありますよね。 こうした黄金分割は、確率の問題でも回答になることが多いのです。 テクニカル分析も、数学的、確率的な最良の戦略として、その効果は、証明されているわけです。

数学・プログラミング

Posted by 山本 潤