6722 エイアンドティー ―血液検査を効率化する会社―
1. 事業の概要
血液検査を行う検体検査装置(以下血液検査機という)、検査機同士をつないで検査データを扱う検査室用のITシステムである臨床検査情報システム(以下LIS)、検査機同士を物理的に接続して、血液サンプル(検体という)を自動的に機械に投入するベルトコンベアのような機械である検体検査自動化システム(以下LASという)を販売する。
売上は血液検査機用の試薬と消耗品で売上の半分弱、もう半分弱がLISとLASの売上、のこり15%ぐらいが検査機とそれ以外の製品の販売である。
最新の会社四季報の紹介には「病院向け臨床検査機器システムメーカー」とあり、シスメックスのような「血液検査機の会社」と思いがちだが実はそうではない。むしろ「血液検査を効率化する会社」と思っていただきたい。
2. 注目点
ここ2-3年、新規工場建設のための設備投資や、検査機のOEM先の開拓が不調で、業績が冴えなかった。が、回復の兆しを見せている。後述するが、中国で強力な販売パートナーがみつかり、その会社を通してLASを積極的に販売することができるようになったことが大きい。LASは海外の展示会での評判もよく、売上の拡大が期待できる。
3. 事業詳細
3.1. 血液検査機
まずは一番わかり易い検査機から。これは「プリンターとインク」や「ひげ剃りと替刃」的なビジネスである。プリンター本体は安く、インクなどの消耗品は意外に高い。検査機も同様で、機械自体の価格はそれほどでもないが、検査機のセンサーや試薬などで稼いでいる。
(試薬は検査のたびに、センサーは一定回数使うと交換が必要になる。)
検査機メーカーは多々あるが、それぞれ検査できる物質別にすみ分けている。例えばシスメックスが得意なのは血球の数を数える機械だが、A&Tが得意なのはグルコース(血糖)や電解質(Na、K、Cl)を計測する装置である。
グルコースは糖尿病の発見。電解質は腎臓病の発見などで日常的に検査される。
また、単に検査機を売るだけではなく。機械の一部機能をモジュールとして他社にも提供している。
3.2. LIS
血液検査の結果は古くは紙で出力されていた(今でもそうしているところはあるが)。が、これでは検査数が多い大病院などではカルテが紙管理になってしまい大変効率が悪い。検査機同士を接続して検査データを集めたり、検査機の稼働を見張るのがLIS。
これは価格帯と機能でさまざまな種類がある。同社のそれは高機能で価格も高い(たとえば集めたデータの解析ができる機能が搭載されている)。国内での同等の機能のシステムをつくる会社は一社(非上場)ある。
3.3. LAS
検査データを電子化しても結局検体を検査機に投入するのは人間の仕事。血液の入った容器を開けて、小さな容器に移し替えるなどの前処理をする。前処理が住んだら検査機にそれぞれ手で投入していく。
病院で血液検査は日常的にするもの。結果が早く出たほうが医者はたくさん診察ができるし、患者の待ち時間も減る。検体の前処理をして、検査機へ自動で投入してくれるベルトコンベアのようなものが、LASである。
同様の機械はベックマン、ロシュ、アボット、シーメンス、日立等の大手医療メーカーも出しているが、同社のLASは大きな特徴がある。
3.3.1. LASの戦略
1 他社はクローズドなLAS
通常LASを構築する場合、接続できる検査機はLASを作っているメーカーのものだけである。考えてみれば当然で、他社の製品も接続できるようにしてしまえば、自社の売上が減るだけである。こうして他社の機械に対してクローズドなLASにすることで逆に言えば顧客を囲い込めるわけだ。
2 エイアンドティーのLASはオープン
しかし、現場ではすべての機械を同じ会社でそろえているわけではない。検査機が違えば使い方も違う。正常に動いているかテストする方法も違えば、結果の表示方法も違う(高級カメラのようなものである。同じことをしているようでもインターフェイスがいろいろ違うので、いきなり違うカメラで写真をとれと言われても困る)。効率化のために同じ会社の検査機を使いたい、とマネジメントが言っても、現場が反対することは大いにある。
同社のLASはこれと正反対のオープンなLASである。要するに様々なメーカーの検査機器を接続することができる(接続実績があれば。なければ開発が必要)。さらに作業動線や部屋の大きさに応じて、柔軟に形を変えることができる。クローズドなLASはすでに形や寸法が決まっているので、むしろ作業者や部屋を機械に合わせないといけない。
(下の画像を見ていただきたい。顧客によってLASの形状も接続されている機器も違う)
3. 中国ではパッケージとして販売
中国でLASを売るに当たって同社が取っているのがクローズとオープンの中間に当たる「パッケージ」という戦略。ある程度連携できる機械の選択肢と連携方法を用意して、その中から顧客にえらんでもらう形式だ。同社が国内でLASを設置する場合、何度も顧客のもとに通って配置を決めたり、寸法を測ったりいけない。海外ではこうするわけにはいかない。
そこである程度の接続パターンを決めておいて、そのパターンを組み合わせて提案をする。多少はレイアウトの変更もできる。これがパッケージである。
(クローズドなLASはちょうどできあいの家具のようなものである。部屋に合う家具を見つけてこないといけない。オープンなLASは注文家具。注文者の思いのままに変更がきく。パッケージはその中間のようなもの。ワイヤーラックのようにパーツを組み合わせてある程度ならカスタムがきく。)
4. 市場
同社の開示資料にもあるとおり、国内では競争は均衡状態にある。一度導入すれば、次回更新時も採用されやすい。これは同社にも競合にも当てはまる。守りやすいが、攻めづらい。
さらなる成長を目指すべく同社が注目しているのが海外市場(特に中国)である。7年前の 2012年度は3.3%であった海外売上高比率をじょじょに上げて、2018年度では12%(今期は少し下がる予定である)までのせてきた。
4.1. 何を売るか?
過去には検査機を売るために中国で合弁会社を作ったこともあった。しかしこれは合弁先が試薬の調達ができず、結局うまく行かなかった。その後同社が別のパートナーとして組んだのがRunda Medicalである。Rundaは中国の上場企業であり、1000社程度の医療機関と付き合いがある商社だ。同社はLASをOEMとしてRundaに提供し、Rundaブランドをつけて中国内で販売を行っている。
4.2. 海外拡大の課題
OEMだからと行って利益率を下げるような卸し方はしていないという。なので海外売が増えることで、利益率が低下するとは考えにくい。
課題は営業である。同社のLASは中国内の展示会でも顧客の興味が非常に高いという。潜在需要はあるのだが、うまく売れるかどうかは営業次第。同社は中国内の現地法人に敏腕営業マンを送り込んで、Runda社の営業にLAS営業のノウハウをトレーニングしている。
4.3. 顧客
中国での顧客は三級というクラスに属する病院に絞っている(中国では病院が等級に別れている)。中国内では最も等級が上の病院で、病床が500床以上あり、MRTやCTなどを持っている大規模な病院である。三級病院には中国内の50%の患者が来院しているが、病院数全体からすると三級の病院は7.7%(2418病院)しかない。(1)
中国内での病院数だけ見れば5%しかない三級病院に様々な会社が営業をしていくのであるから、競争は熾烈である。見通しは暗い。ただ、日本国内の状況と比較してみると、日本は500床以上の病院は456病院。一気に5倍の顧客にアプローチできるようになったわけだ。こう考えると見通しは明るい。
(1) 日本総研 中国医療施設概況 2018年3月
4.4. 見通し
LISやLASはだいたい7-10年、5-10年スパンで更新が入る。ファーストコンタクトから納入までのスパンは非常に長い。営業マンは顧客に足繁く通い、更新の需要を絶えず掴んでいる。同社もだいたい2年ぐらい先までは案件の動向を掴んでいるという。その上で、同社は中国での拡大に期待しているという。
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