3359 タイセイ 慎重に、しかし大胆に夢を追う会社 by古瀬雄明
株式会社タイセイは、法人向けと個人向けに小ロットの製菓材料、調理器具、包装資材の販売、開発を行う会社である。法人向けは参入障壁が高く、手堅く売上が上がるが、大きな成長は期待できない。反面個人向けは大きく売上が伸びている。慎重かつ手堅く法人向けで売上を上げ、個人向けの事業で大胆に大きな夢の実現を狙っている。
1.祖業
大分県津久見市は石灰岩の産地。株式会社タイセイはもともとはこの石灰を使った乾燥剤の販売会社であった。
創業社長である佐藤成一氏はこの乾燥剤の通信販売から事業をスタートした。営業で顧客訪問を繰り返すうち、あるビジネスチャンスに気がつく。
顧客である中小の菓子店は家族経営のものが多く、倉庫はもちろんない。しかし、いざ材料を買うとなると、問屋は大ロットでしかおろしてくれない。乾燥剤も同様である。材料を買ったはいいがおいておくところがない。しかし買わざるを得ない。仕方がないので自宅の部屋の一部を倉庫で使うような菓子店もあったという。
ここから「街のお菓子屋に小ロット単位の販売する」という事業を思いついた。
タウンページを使って、上から順番に電話をかけるところからはじめ、取引先を徐々に増やしていった。カタログ形式の通販方式で販売を始めたため、顧客を訪問する営業はいらない。はじめは鮮度保持剤や包装材を扱っていたが、小麦粉や砂糖などの製菓材料も取り扱うようになった。
大ロットで問屋から材料を仕入れ、小ロットに小分けして菓子店に売る。事業は順調に成長し、2005年には福証に上場も果たした。競合のないニッチビジネスである。商売は順調に行くかと思われた。
2.街の菓子店の衰退
ところが、2010年ごろになってコンビニエンスストアがデザートを本格的に売り始めるようになった。例えばこの時期ローソンは「ウチカフェスイーツ」ブランドを起こしている。研究開発力と傘下の店舗の広い販売力で、安くておいしいデザートを売り始めたコンビニチェーン。家族経営の菓子屋ではとうていかなわない。
既存の顧客である街の菓子店やパン屋以外の顧客を開拓する必要があった。
3.個人向けECへの注力
2008年。インターネット通販サイトとしてcottaが設立される。2年後の2010年になって佐藤綾希子氏(現株式会社TUKURU取締役)がタイセイに入社する。
cottaを発展させていくべく、佐藤(綾)氏は東京に拠点をおいた。大分では社会のトレンドがわかりづらい、サイト構築に必要な人材も集まりにくい。そんな思いから東京にしたのだという。
はじめはcottaに関わるのは佐藤(綾)氏だけであった。やることはたくさんあるが、一人で全部やっていては何もできない。サイトの構築やコンテンツの拡充は外部に依頼し、佐藤(綾)氏はダイレクションを行うようにしていったという。
3.1.インフルエンサーに注目してコンテンツを充実
モノを売るだけでは人はやってこない。ウェブサイトには記事や動画などの人を寄せるためのコンテンツを充実させることが必要である。
cottaにはお菓子づくり・パンづくりに関するたくさんの動画、レシピや記事が載っている。これらの多くはプロが出演したり、書いたりしたものではなく、俗に「インフルエンサー」と呼ばれるインターネット上で大きな発言力を持つ人々が作ったものである。
もし、こうしたインフルエンサーたちの作ったコンテンツがサイトに増えれば、著者個人が発信することで、自然と記事は広まっていく。サイトに人もやってくる。佐藤(綾)氏はお菓子づくり、パンづくりに関するブログをはじから読んでいき、ブロガーにcottaへの協力を依頼していったという。
インフルエンサーだけでは十分ではない。インフルエンサー達はプロを尊敬する。もしプロが記事を書いてくれれば、拡散力だけでなく、「ああ、あのXXさんが書いているところね」と協力者もさらに集めやすくなる。
閲覧者の多い記事は他のサイトからリンクもされやすい。リンクされやすい情報は検索エンジンが重要な情報と判断してくれやすい。こうした情報は検索エンジンの検索結果でも上の方に表示され、さらに閲覧者を集める。
こうした地道な努力を重ねてcottaの記事は、「バレンタイン」といったメジャーな単語で検索順位上位に表示されるまでになった。
お菓子づくり・パンづくりというのは非常に普遍的なものである。例えば、パンは数千年前のエジプトが発祥と言われているが、小麦に水分を加えて練って、発酵させるプロセスは現代でも変わりない。
(「昔から変わらない老舗の和菓子」などは「古臭い」と思うだろうか?人はむしろ「伝統があって良い」と思うだろう。)
なので、お菓子づくり・パンづくりに関するコンテンツは流行に左右されづらく、なかなか陳腐化しないという。
3.2.補足 検索順位が重要な理由
検索エンジンの順位はなぜ重要なのだろうか?
昼食を探すには「ラーメン屋 中央区」。暑い金曜日、仕事が終わったら「ビアホール 快適」。冷蔵庫の悪くなりそうな野菜を始末するには「なす トマト レシピ」。バレンタインデーに作るお菓子を決めるには「バレンタイン レシピ」・・・
私たちがGoogleに頼らない日はない。
さて、検索した結果をいくつ読むだろうか?普通は検索結果を5個も読まない。下の方にある情報は我々ユーザーにとって、無いも同然なのだ。
ウェブサイトでモノやサービスを提供する会社にとってこの順位は死活問題だ。なんとしてでもこの順位を上げたい。検索結果に出るなら、自分のウェブサイトのページが一つでも上に出てほしい。順位が下であればユーザーにとっては無いも同然。売上もないも同然である。
各ウェブサイトは、こうした順位を上げるためにさまざまな努力をする。検索エンジンは、たくさんの人が自分のウェブサイトに引用している情報を重要な情報とみなす。検索エンジンのアルゴリズムの裏をかくような方法もある。が、結局は良い記事を増やして、たくさんの人に取り上げてもらう、という地道な努力のほうが強い。
こうした努力をSearch Engine Optimization―SEO―と呼ぶ。
4.個人向けでの競合
cottaのターゲットは「週一回以上自宅でお菓子やパンをつくる愛好家」である。こうした人たちは値段には非常に敏感である。また、食材や、調理器具を売る店はたくさんある。 100円ショップ、楽天やアマゾンなどの巨大ECサイト、中小ECサイト、などが競合として考えられる。これらと比べたcottaの優位性はどこにあるのか。
4.1.100円ショップ
お菓子用の型、製菓材料などはセリアなどの100円ショップでも購入できる。ただ100円ショップの製菓材料は量が少ない。週一回作るほどの愛好家にはもの足りない。どちらかといえばクリスマスなどの年中行事に向けて調理をしたいライトユーザー向けと言える。
また、業務用の包装材も扱うcottaと比べると、包装資材の扱いも少ない。
4.2.巨大ECサイト
例えば特定のブランドのこの食材がほしい、と言う場合はアマゾンなどの巨大ECサイトのほうが価格が安い。ただ、お菓子づくり・パンづくり愛好家は食材を固定せず、いろいろなものを試したがる。むしろ食材の種類は多いほうが良い。商品の品揃えではこうしたECショップよりもcotta が勝っている。
4.3.中小ECサイト
製菓材料を専門に扱うECサイトは数が少ないが、その中でも大きいものが富澤商店が運営するTOMIZである。cottaに負けないぐらいの多様な商品を揃えている。直接の競合といえばここであろう。
富澤商店は、1919年創業の製菓・製パン食材店である。有名デパートを中心に、全国に50店舗以上の直営店を有する。
タイセイのルーツは雑貨や包装資材であるが、富澤商店のルーツは食材だ。タイセイは現在、食材も扱っているし、富澤商店は現在、雑貨や包装資材も扱っている。両社ともECに力を入れていて、扱っている商品も重なる部分が多いため、一見、両社は全く同じ土俵に立っているようにも見える。
しかし、おそらく、両社の強みは違う。
タイセイの強みは雑貨や包装資材、富澤商店の強みは食材だ。
また、cottaはSNSやレシピ、動画コンテンツに力を入れている。今後は、ただ物を売る会社ではなく、菓子づくり、パンづくりのプラットフォームになるという野望を持っている。
5.事業の現状と将来
5.1.動画サービスで海外展開を狙う
cottaではレシピや、お菓子づくり・パンづくりの様子を解説した動画を公開している。
これを海外向けに展開する計画があるという。
ターゲットは中国。中国ではお菓子づくり・パンづくりが流行っている。実際Youtube上で「蛋糕 食谱」(ケーキ レシピ) と検索すると、中国語の抹茶ケーキやスポンジケーキのレシピ動画が出てくる。閲覧も10万単位のものが多く、万単位の購読者を抱えるYoutube Channelもある。
ある抹茶ケーキのレシピ動画。閲覧は300万。チャンネルの購読者は70万とかなりの人気
ケーキレシピ。Viewsが非常に多いものがある。
現地の愛好家たちは日本に憧れを持っている。メディアとして、参入し、愛好家たちに有料で動画やレシピを販売する。
5.2.「おうちパンマスター」でパンづくりのファンを増やす
cottaでは「おうちパンマスター」という独自資格の認定を行っている。
課題の9レシピを作成し、納得の行くものが出来上がったら写真を送り、認定を受ける。その後ウェブ上で試験を受けて合格すれば認定されるというもの。初心者でも努力すれば合格できるそうである。
筆者も料理をする。同じレシピを何度もつくるほど上達するし、基礎的なレシピを覚えて、味とできばえが安定してくれば、別のレシピへの応用もわりと簡単にできる。
チャレンジしようと何かを始めてもなかなか努力を持続させるのは難しい。上達のために何をしたらいいのかもわかりづらい。こうした資格制度に挑戦してもらうことで、パンづくり好きを増やしていく努力をしている。
この独自資格は更に拡大していくことを考えているという。
5.3.法人向けは手堅く稼ぐ
街の菓子屋は減っている。そのため問屋も顧客である菓子屋をあまり訪問しなくなっている。顧客と問屋の関係構築が難しくなっている。加えて、問屋からは小ロットでオーダーできないため、タイセイのような業者が求められている。
小ロットオーダーをするということは顧客の在庫リスクを引き受けるということである。さらに、仕入れた食材を小分けにしなくてはならないので、手間もかかる。加えて業界はダウントレンドにある。新規参入者が現れるのは考えにくい。
減ったと言っても全国には約3万軒程度の中小の菓子屋があるという。これらはコンビニによる淘汰の時代を生き残っている。そうそう簡単にはなくならないと思われる。
これらの菓子店が、仮に一軒が年間300万円程度の購買を行うとすれば、資材飯場の市場規模はざっと見積もっても900億円。タイセイの法人向け売上は2017年9月期で、約23億円。市場が縮小していくと見ても、まだまだ余裕はある。
5.4.M&Aでの成長
2017年9月期の売上高は39億円。うちグループ会社のヒラカワの売上が約9億、周陽商事の売上が約7億である。タイセイはM&Aを通じて成長してきたと言える。これは自社に足りないところを補っていく意味があったという。(例えばヒラカワは家庭用雑貨の企画、製造などに長けている。)
実際中小企業は後継者のいない会社が多い。会社を立ち上げるぐらいなら、買ってしまったほうが時間の節約になる。今後も会社の成長のために、M&Aを検討していくという。
業績
(2017年9月期時点)
売上高: 6,034百万円
営業利益: 291百万円
純利益: 239百万円
従業員数: 82人(臨時雇用者120人)
平均従業員給与: 525万円
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