5131 リンカーズ 中小製造業が主役の「日本ものづくり株式会社」実現へ向けて by宇佐見聖果

2023年9月9日

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5131リンカーズレポート(2023年8月30日)

はじめに

同社の創業者であり代表取締役社長の前田佳宏氏が事業を通じて取り組むのは、日本のモノ作りの復権。高い技術力を持ちながらも下請けに甘んじざるを得ない、中小製造業を取り巻く環境を変えること。

目指すのは、商社も大企業も巻き込み世界へ向けた「日本ものづくり株式会社」の育成。
それは見方を変えれば、日本が遅れを取るオープンイノベーションを促進しようという行動でもある。

■代表取締役社長 前田佳宏氏

出所:同社資料

地銀に年間平均1億円の収益をもたらすシステムを開発

現在同社は、「Linkers Sourcing」他、相互に関連し合う6つのサービスを展開しているが、その中で成長著しいのが、地方銀行および信用金庫を対象に提供するSaaSマッチングシステムの「Linkers of BANK」。ここで言うマッチングとは、地銀・信金が各々の商圏に持つ顧客同士のビジネスマッチング。例えば、A銀行B支店のC顧客とD支店のE顧客が、同社が提供するシステムを介して繋がることでC顧客とE顧客の間で商談が成立すると、A銀行に一定の手数料が入る。

地元の中小企業に詳しい地方銀行や信用金庫は元来このようなマッチングが得意ではあったが、その手段はこれまで全て人に依るオペレーション。このシステムを使うことで、アナログという手段ではどうしても限界があったマッチング範囲の拡張が可能に。それに加えて社内業務そのものも飛躍的に効率化できる。

地銀・信金にとってメリットが享受できるこのサービスは2018年1月から提供を開始し、現在、全国で35の地銀・信金が導入している(2023年7月期)。現時点までで、このシステムを使うことで1,000万円/月以上の収益を上げられていない地銀・信金は殆どなく平均収益額は年間1億円を超える。

■「Linkers of BANK」導入数(地域銀行及び信用金庫)

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

■「Linkers of BANK」導入による実績(1機関平均)

出所:ニッキン記事2023年1⽉27⽇号

地銀・信金合わせて350を超える数が日本に存在している中で、商圏内の企業マッチングを促進する同社のシステムは、規模の大きい機関であればある程活用メリットを享受できる。同社がターゲットとして定める20支店以上を持つ機関に絞るとその数はおよそ240。

この市場に対して、サービス開始当初こそ猛プッシュ営業で1件ずつ開拓してきたが今ではインバウンドだけで普及するようになってきた。一定数以上の地銀・信金が同社のシステムを活用している状態が形成されるまでにもうそれ程時間はかからないだろうと踏んだ同社はその先を見据えて既に2つの新たな仕掛けを打ち出している。

同じシステムを一般企業へ向けても提供開始

1つ目の仕掛けが、2021年2月から開始した「Linkers of Business」。「Linkers of BANK」のベースとなる機能はそのままに、保険会社や専業商社といった広い営業網を持つ企業へと提供範囲を拡げた。2023年6月現在で大手事業会社を中心に3社がこのシステムの導入を済ませている。

一般企業が同社のシステムをどのように活用するのか。例えば、成熟化した日本でもはや自社の保険商品を販売するだけでは差別化が難しい保険会社にとって「Linkers of Business」は、元々保有している顧客網を駆使して新しい収益源を獲得していくためのツールになり得る。普段訪れる営業先で、会話に織り交ぜて顧客のビジネスニーズをヒアリングし、システムを使ってマッチング先の候補を見つけて保険商品と一緒に提案。このような使い方ができる。

実例として、太陽光発電を導入したいと漏らしていた顧客のためにシステム内で太陽光システムの募集をかけ、最適な事業者をみつけ出して顧客の希望を叶えたといったケースがある。また、顧客企業が受注者側であった場合には、その企業のデータをシステムへエントリーして発注者側から見つけやすくし、顧客企業が商材を販売する機会を増やす場を提供することも可能。

形態は総合商社に近いビジネスモデルだが、同社のサービスはロットの小さい専門領域が対象となるため自ずと棲み分けができている状態となる。

■LFB(「Linkers of BANK」、「Linkers of Business」)導入数及び商談数

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

2024年7月期より商圏を跨いだ連携を開始

2つ目の仕掛けが、現在は各地銀・信金の商圏内に限られる「Linkers of BANK」におけるマッチングの範囲を全国へ拡げようというもの。つまり、商圏間でのマッチングを可能にする。

この構想に対して、「Linkers of BANK」を導入している機関の大半から、商圏内の情報を商圏外へ提供することについて同意を得ている。商圏を跨いだマッチングが成立した際は同社に手数料が入る仕組みも導入し、システム改修を終えた2024年7月期より提供の開始が予定されている。

これが実現すれば、今までは地元企業の活性化を促す局所的な使われ方をしていた「Linkers of BANK」が今後は一挙に日本全体の産業活性化を促すツールへと成長していくことになる。

沿革

同社は現在6つのサービス展開している。まずは、これらを手掛けるようになった背景を探るべく沿革をたどっていきたい。

徐々に育った「日本の産業全体を一気に変えていきたい」思い

代表取締役社長の前田氏は大阪大学工学部を卒業後、京セラへ入社する。前田氏の父は一代で東証一部上場企業を築いた人物であるが、その父に薦められて読み始めた稲盛和夫氏の著書に傾倒し、稲盛フィロソフィーに共鳴したことが京セラを志望した動機の一つであった。

京セラで就いたのは海外営業の職。海外から国内を客観的にみられるポジションで知見を得ていく中で次第に、日本の産業にインパクトを与える仕事をしたいという気持ちが育ち、27歳の時に転職。

転職先の野村総合研究所で携わったのは、国内の大手企業一社一社に深く入り込んでいくコンサルティング職。市場調査からM&A支援まで深く全般的に手掛ける業務は手ごたえのあるものであったが、経験を積む過程で次第に、もっと短期間で一気に日本の産業全体を変える仕事をしたいという気持ちが育っていった。

こうした思いが熟しつつあった2011年3月、東日本大震災が発生。地震で棄損したサプライチェーンを立て直そうとの思いも重なり、このタイミングで創業を決意し2011年9月に同社を設立した。

サプライチェーン毎に横の連携を作っていく

この時前田氏が問題意識を持っていたのは、縦割り社会日本が生む弊害、産業界サプライチェーンにおける横の繋がりの決定的な不足であった。そこで前田氏が取り組んだのは、サプライチェーン毎にSNS環境を構築していくこと。ひとつのサプライチェーンに属する川上から川下に至る全メンバーが参加でき議論しあえる場作りであった。しかし、横との関係において繋がりよりもむしろ競争意識をベースに技術開発に励んできた文化を持つ日本の産業界で、ただ場を用意し提供したところで自発的な議論が始まることは殆どなく、この試みは3ヵ月で頓挫する。

続いて前田氏が取り組んだのが、サプライチェーン毎にコミュニケーションを促進していく基本構想はそのままに、人ではなく企業を主体に置いたウェブ展示会の開催。産業支援機関一つ一つを自ら訪問しプレゼンを重ねていく手段で少しずつ、彼らが持つ知見の中から優れた技術を有する製造中小企業を紹介してもらえるようになり、紹介を得た各社に接触して技術を聞き出しては資料を作成していった。訪問した産業支援機関は40、取材した企業は400社に上った。しかし結論として、接触した企業の殆どから、彼らが保有する技術の核心となる最先端の情報は得ることができなかった。日本の産業界に広がる、情報共有に対する抵抗感の強さを前田氏は身をもって理解していく。

マッチング事業が成功

一方、挫折が続く中でも確実に収穫は得てきた。これまで前田氏が自らの足を使って作り上げてきた産業支援機関との繋がりがその一つ。次なるチャレンジとして前田氏は、この、産業界を取り巻く人的ネットワークを介して企業同士が直接結び付き、商談を成立させるサービスを立ち上げた。

まず、同社が大手を中心とする企業から技術ニーズの受注を獲得する。そしてその情報を、業務委託契約を結んだ各地の「産業コーディネーター」へ一斉配信する。産業コーディネーターはその地に構える中小企業の中から、受注に応えられる技術力や製品を持った企業を推薦。全国から集まった候補となる企業の中から最終的に最適な1社が選定されてマッチングが成立する。

発注側と受注側のニーズをダイレクトに結びつけるというこのサービスは、同社の事業として初めての成功を収め、現在同社が展開する6つの事業の原点を形成することとなる。

システム化、そして、海外を巻き込んだ量産化へ

人脈を介したダイレクトマッチングサービスは「Linkers Sourcing」事業として成長の道を歩みだす。マッチングが成立する毎にその実績が情報として社内に蓄積され、次第に、テーマによってはデータベースを活用することで人を殆ど介さずにマッチングが成立するケースが出てくるようになった。そこで、検索や登録などの作業を組み合わせて使える利便性の高いシステムを社内で開発し、より有効にデータベースを活用できる体制を社内に整えていった。

こうしたタイミングである時、「産業コーディネーター」を介して深い繋がりのあった地銀から、商圏内でのマッチングのために同社が使うマッチングシステムの機能を使わせてほしいとの話が舞い込む。そこで同社は、社内で使っていたシステムに地銀・信金が必要とするプロセスやトレンドを組み込み、1年半をかけて地銀・信金向けのシステムを作り上げていった。こうして2018年1月、地銀・信金を対象にしたSaaSサービス「Linkers for BANK」事業がスタートする。

同社は今、国内でのビジネスマッチングのその先、海外を巻き込んだ量産化も視野に入れている。優れた技術を持つ企業1社1社が主体となって横に繋がり形成される国内サプライチェーン、これをもって海外へ挑んでいくためには同社だけの努力では叶わない。あらゆる規模の企業、商社、機関を巻き込んで展開していく、関係者全員の利益を最大化させる形で。2020年6月からスタートした事業、「Linkers Trading」を通してこの構想が少しずつ実現している。

6つのビジネス

現在同社が展開している各事業について、収益化の仕組みを確認していく。

Linkers Sourcing」「Linkers Marketing

「Linkers Sourcing」は、例えば、新しい製品の開発を試みる大企業が、それに必要な技術を備えた中小企業を探し出して発注を行う、それを手助けするサービス。祖業に位置付くこの事業、発注の頻度やタイミングは様々であるがオープンイノベーションに対して積極的に取り組む企業ほど上手に活用しているという。2019年6月にスタートした「Linkers Marketing」は、受注側の企業が発注先を探すためのサービス。「Linkers Sourcing」とは逆のアプローチとなる。

両事業共に探索を開始したタイミングで着手金、面談に至ったタイミングで成果報酬が発生し同社の収益となる他、Sourcingについては成約に至ったタイミングでも成果報酬が発生し収益となる。

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

LFB」(「Linkers for BANK」、「Linkers for Business」)

「Linkers for BANK」は銀行向けに、「Linkers for Business」は一般企業向けに、同社が「Linkers Sourcing」事業を通して当初は自社で利用するために開発したシステムを金融機関向けにカスタマイズして開発し貸し出しているストック収益型ビジネス。地銀などがこのシステムを使って、商圏内のマッチングをサポートする。システムの利便性をより高めるべく、顧客からのフィードバックを得ながら同社のエンジニアチームが日々インターフェース等の改修に取り組んでいる。


出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

Linkers Research

顧客企業から依頼されたテーマに基づき調査レポートを納める事業。業務委託締結を結んだレポーターと、社員であるプロジェクトマネージャーとの共同で作成する。レポーターとして各業界に知見のある人材を適宜募集しているが、副業解禁の時流もあり希望者は多いという。技術テーマが次々刷新していく近年、企業からの受注は増加の傾向にある。

別の事業へ顧客をリードするためのフックにもなり得るこの事業は同社のビジネスの中でも売上高、利益率共に高く、同社の業績を支える柱として役割を果たしている。


出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

「Linkers Trading」

これまで国内で行ってきたマッチングビジネスのマッチング先を海外にも求め、量産化を目指していくサービス。コロナ禍の2020年6月にスタートし、直後に手掛けたのが医療用ガウンのプロジェクト。大手材料メーカーから調達した不織布を日本国内の縫製メーカー数十社に裁断・縫製してもらい、別の販売会社へ売るというマッチングビジネス。中国が医療用ガウンの輸出を急遽停止したことで発生した半年間の突発型プロジェクトであった。

現在は、当社がネットワークを持つ海外のサプライヤーから輸入した再生アルミを大手メーカーへ納めるプロジェクトが開始している。2023年7月期中はスキームの多言語化等、事前準備を重ねてきたがようやくキャパシティが拡がってきており、本格的な収益化は来期からを見込んでいる。


出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

■各事業の売上高

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

業績

■売上高および営業利益率(通期)

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

コロナ禍での特需は剥落

「Linkers Trading」事業における「医療用ガウン売上高」の影響により2020年7月期、2021年7月期は想定を超えた売上高及び利益率となった。プロジェクト終了後の2022年7月期以降はいずれも平常化している。

下方修正も成長軌道は変わらず

2023年6月13日、同社は、2023年7月期3Qの決算発表の場で下方修正を行ったが、成長軌道にあることには依然として変わらない。

■売上高および経常利益(通期)

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

安定した黒字化

2019年7月期はシステム開発へ積極的な投資を行ったため赤字が拡大したが、売上高が損益分岐点を超えるようになった2020年7月期以降は黒字へ転換している。

バリュエーション

時価総額     44.7億円
株価       328円(2023年8月29日終値)
会社予想EPS   9.2円
会社予想PER   36.0倍
実績PBR     2.46倍

                                                          以上

2023年9月9日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira