7061 日本ホスピスホールディングス 看護師が主体となって終末期ケアをサポート(フォローレポート) by Ono
7061 日本ホスピスホールディングス
2021年9月26日 同社の説明会(オンライン)が開催されます。
以下のリンクから申し込んでください!
多数の参加をお待ちしております。
*終了しました
ポイント
・入居が順調に進み増収増益
・木材需給のひっ迫で新規開設が一部先送り
・長期でニーズが拡大する三大都市圏で成長
・看護師が主体となってチームで”達成”の積み上げに取り組む
・施設開設が加速するほど施設開設コストが嵩むため短期的な利益の変動に注意
・中期経営戦略は見直し中も成長シナリオは変わらず
以前書いたレポートはこちら (後半にも記述)。
<業績>
2021年12月期第2四半期は売上高2,810百万円(前年同期比+23.4%)、営業利益190百万円(同+89.7%)と増収増益。
前期はコロナ禍の影響により病院からの受け入れが想定より遅れたが、今期は順調に入居が進み稼働率が高まったことで増収増益となった。
<施設数・部屋数>
〇施設数は20施設・617室
第2四半期までに2施設を新規開設。65室を追加。
合計20施設617室
ホスピス施設へのニーズは強く、施設数、部屋数ともに高い成長を維持している。
〇木材需給のひっ迫で施設開設予定が一部先送り
2021年8月13日、同社の子会社であるファミリーホスピス株式会社が開設予定の5施設について
開設時期を延期することを決定したと発表。
5つのうち1施設は9月末予定が10月初旬へと1カ月未満の先送りだが、
他の4施設は2021年第4四半期開設予定から2022年第1四半期へ、次期に先送りとなった。
主な要因は世界的な建築資材の需給ひっ迫(ウッドショック)によるもの。
<成長シナリオ>
ウッドショックの影響で施設開設が先送りになったため、
発表済みの中期経営戦略については見直しを検討しているが、基本的な成長戦略は変わらない。
同社が発表済みの中期経営戦略は次期2022年12月期が最終期
当初発表時は
2022年12月期
売上高 10,000百万円
経常利益 1,000百万円
部屋数1,050
であったが、2020年12月期末時点では下図の通り
施設数1,050室 → 1,128室
と施設開設予定が計画を上回る一方で、施設開設コストが嵩み、
利益が計画策定時よりも下回る見通しを発表していた。
*(前期)2020年12月期決算説明会資料より
前述の通りウッドショックの影響で新規開設が先送りとなり、
短期的な施設開設や業績の計上時期はずれるが、
事業環境及び長期的な成長シナリオに変化はない。
〇長期でニーズが拡大する三大都市圏で成長
全国に施設を展開する余地は大きいと認識しているが、
当面は三大都市圏におけるドミナント開設を継続する。
高齢者人口の増加は人口が集中する都市圏で増加が集中するという地域差がある。
また、大型病院を含め医療施設が多数あることも、成長を継続する上で重要なポイントでもある。
中期経営戦略以降の数値計画は開示していないが、
これまで同様の成長ペース(部屋数ベースで30%程度)を継続したいと考えている。
〇長期成長の足場固めとして取り組んできたこと
特に注力してきたことは大きく2つ
①組織文化を作ること
②DX
①組織文化を作ること
”専門職人材への経営マネジメントセンスの教育”
それぞれの施設単位では施設長(ホーム長=看護師)に事業部門の責任者を担ってもらわなければならないが、
看護師としての知識・経験は蓄積してきたが経営的なことを学んでこなかった。
施設長は看護師、介護士、などヘルスケア部門の国家資格ライセンサーをマネジメントしなければならない。
患者に寄り添い、利益を求めてはいけないという思いが醸成されている人材に単純にKPIを与えるのではなく、
その意味することを理解させることによって育成してきた。
例えば、稼働率を上げるということについて
”稼働は地域の信頼の貯蓄である”
”信頼を得ることで稼働が上がる”
”稼働は地域の評価であり、高ければ高いほどいい”
と伝える。
教育に当たっては、役員に看護系大学の教授を招聘し意識改革に注力してきた。
同社の取り組みが看護師の社会的地位を高めることにつながると評価していただき、役員に就任していただいた。
医療機関では看護師は常に従属的な働き方が当たり前であった。
病院では医師のサポート、介護施設でも介護士が施設長であったり、
重要な役割は担っているが意思決定には関わっていないのが通常である。
看護師の活躍する場を作り出し、社会的な評価を得るというビジョンを作り、組織文化の構築に投資をしてきた。
②DX
情報をスムーズに共有するためにデジタル技術(kintone、Zoomなど)の活用をすすめてきた。
Zoomはミーティングや職員の研修に利用するだけでなく、
地域の外部連携先に対して、研修を公開して参加してもらい、
同社がどんなことを目指しているのかを理解してもらうことにも積極的に活用した。
研修時では
会社のビジョン、理念の定着のためといった研修はもちろん、
米国エルネック(看護大学系の協会が作ったエンドオブライフケアの研修プログラム)
=エルネックジェイ(日本版)を日本において早期に取り入れ、オンライン開催を開始。
他の病院の看護師にも参加してもらえる仕組みとした。
遠隔地からの参加も可能であり、参加をきっかけに転職してきた方や、
同社から参加者にアプローチすることで採用につながった例もあるとのこと。
長期的な成長において看護師の継続的な採用を実現するのが重要な課題である。
〇看護師が主体となってチームで患者の”達成”を積み上げる
経験者を中心に採用しており、病院から転職する方が多い。
従業員による紹介も増えているとのこと。
看護師にとって病院とホスピス施設の違いは何か。
病院は
看護師自身は常に目の前の患者に寄り添いたいと考えていながらも、
医師のサポートのために走り回り、医療制度改革、医療費適正化政策により入院期間は短縮する方向で対応がすすめられる。
看護師にとっては自分自身の思いと現実とのギャップに対して
受け入れがたく思う場面も多いことが予想される。
一方、ホスピス施設は
余命が短い方が残された時間を使って家族との時間を大切に過ごしたいと考えて入所する施設であり、
家族と一緒の時間を過ごす時間を増やし家族に感謝を伝えたり、孫の結婚式、お寿司を食べたいなど、
行くのをあきらめていた場所に行くことができたり、患者に個別の希望を叶えるためにサポートするのが仕事である。
看護師にとっては、患者に寄り添い、希望に応えて患者の”達成”をサポートする。
病院の勤務とは違ったやりがいを感じられる職場であろう。
<通期業績見通し>
2021年12月期の通期業績見通しは売上高6,400百万円(前期比+30.2%)、営業利益590(同+64.6%)と増収増益の見通し。
コロナ禍の影響は軽微だが、施設の開設が延期された影響については売上、費用共に現在精査中であり、織り込んでいない。
<バリュエーション>
時価総額 147億円
株価 1846円(9月22日終値)
会社予想EPS 27.76円
会社予想PER 66.5倍
実績BPS 157.81円
実績PBR 11.7倍
無配
*********** 前回レポート ***************
企業は課題解決のために存在している。
長期投資を考えるとき、その企業が
“社会においてどんな課題の解決に取り組んでいるのか”
“社会にどのような付加価値を提供しているのか”
ということに注目することが重要である。
課題解決のビジネスモデルがユニークで市場が大きければ長期的な成長が期待できる。
社会の価値を搾取して成長している企業の成長には継続性がない。
長期投資・長期保有の対象とはなりえない。
長期投資を考えるとき、短期的な四半期の業績の動き、通期計画に対する進捗率、
そんなことはその企業のほんの一部分を表しているに過ぎない。
投資家はその企業に投資することで、その企業の課題解決にかかわることになる。
社会の課題に対峙したとき、一人の投資家ができることなど、ほとんどない。
その企業に投資することでその社会課題にかかわることができる。
応援したいから応援する
関わりたいたいから関わる
7061 日本ホスピスホールディングス株式会社
レポートのポイント
・終末期緩和ケアを提供するホスピス住宅を提供
・都市部のドミナント出店で質とスピードを確保
・“ホスピスチーム”を作り、看護師を中心としたスタッフのやりがい向上、レベル向上によって患者へのサービスの質を高める
・中期経営戦略を発表 2022年12月期 売上高100億円 経常利益10億円を目指す
<企業理念>
日本ホスピスグループ理念
ミッション:在宅ホスピスの研究と普及
ビジョン:年間一万人在宅看取り支援
スローガン:すべての笑顔のために
<事業内容>
グループ会社2社 ナースコール株式会社 と カイロス・アンド・カンパニー株式会社を傘下として在宅ホスピス事業を手掛ける。
会計上のセグメントは在宅ホスピス事業のみだが、提供する事業は次の3つである。
・ホスピス住宅事業:https://www.jhospice.co.jp/ja/business/hospice.html
入居者を専門的な緩和ケアを必要とする“末期がん患者”や“難病患者等”に限定してホスピス住宅にてケアサービスを提供する。
・訪問看護事業:https://www.jhospice.co.jp/ja/business/visit.html
在宅医と連携・協力し、利用者やその家族の希望に沿い、安心して「おうち」で暮らすことができるように看護師による訪問介護サービスを提供する。
・在宅介護事業:https://www.jhospice.co.jp/ja/business/care.html
訪問看護と併設することで医療的ケアに対応し、「通い」 「泊り」 「訪問」の3つのサービスを組み合わせて包括的なケアサービスを提供する。
*ホスピスとは:ターミナルケア(終末期ケア)を行う施設のことで同社は住宅の形で提供する。訪問看護と訪問介護事業所を併設又は近設もしている。
*「おうち」とは:物理的な施設であるホスピス住宅を指すのではなく、自由(自己決定)とコミュニティの中で生きるという「コト」として捉え、医療や福祉先進国である現代の日本に必要な新しい住宅、と同社は定義している。訪問看護師、訪問療法士、訪問介護士が常駐して、いつでも看護介護サービスを受けることができる。患者自らの“自己決定”をサポートすることができる環境を提供している。
訪問看護サービスと連携してサービスを提供する。
*同社サービスのイメージ図(WEBサイトより)
https://www.jhospice.co.jp/ja/business/hospice.html
<特徴>
主な特徴は4つ
・看護師を中心とした多職種チームにより質の高い緩和ケアサービスを提供
・公的制度の利用により患者の自己負担を抑え、売り上げを確保
・都市圏にドミナント展開
・開発要件が厳しくないため開発が比較的容易である
看護師を中心とした多職種チームにより質の高い緩和ケアサービスを提供
看護師(専門看護師、認定看護師を含む)を多数配置し、手厚い看護ケアサービスを提供。
人数を潤沢に配置することで、質の高いサービスを提供するだけでなく、看護師は業務に集中し、やりがいを感じることができる。
やりがいのある職場として認知されることは人材採用においても優位になる。現在も募集の3倍から5倍の応募があるとのこと。
公的制度の利用により患者の自己負担を抑え、売り上げを確保
介護保険、医療保険、障碍者総合支援の3つの制度を活用することができるため、一人あたり売り上げが介護施設に比べて2から3倍となる。
一方で利用者は自己負担(上記モデルケースでは約20万円/月)を抑えつつ、質の高いサービスを受けることができる。
都市圏にドミナント展開
2019年12月末時点でホスピス住宅を14施設、429部屋運営している。
医療ニーズが高く、看護師の採用がしやすい都市部でドミナント展開をしている。
ホスピス住宅を展開するうえで高い医療ニーズの存在、優秀な看護師の採用・育成、かつ連携できる医師がいることが必要不可欠な条件となる。都市圏はその条件を満たす地域が多く存在すると考えられる。
開発要件が厳しくないため開発が比較的容易である
上記の通り、
・一般的な老人ホームに比べて、小規模であり、建築投資額が少なくて済む
・立地の条件が厳しくない
といったことから開発が比較亭容易であることがわかる。
また、土地オーナーの土地活用の選択肢として一般のアパート経営などと比較した場合、一般のアパートは建築物の経年劣化や賃料低下による資産価値の低下といったリスクにおいて、ホスピス=緩和ケアを受ける施設という位置づけであることから、それらのリスクは小さいといえるだろう。
なお、上記の注釈にもある通り、同社は土地オーナーが建築したホスピス住宅に対して賃貸借契約を締結する方式としているため、用地取得費や建築費は初期投資には含まれない。
<市場環境>
・厚生省が進める“地域包括ケアシステム”の推進は同社のビジネス展開の後押しとなる
厚生労働省は急速に高齢化が進む日本において、2025年を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進する。推進策として地域医療再生基金が投入され、地域医療連携は急速に増加している。
・死亡人口の増加
年間の死亡者数は2017年の134万人からピーク時の2039年には167万人に達し、65歳以上の割合が約35%になると予想されている。そのために増加し続ける社会保障費の抑制のため、病床機能が見直され、在宅を中心とした医療への転換が求められる。
・高齢者人口増加の偏在
高齢者人口の増加については人口が集中する都市圏に増加が集中するという地域差がある。高齢者人口の増加とともに都市圏における緩和ケアニーズも高まると考えられる。
在宅への転換の動きは都市圏でドミナント展開をしている同社にとっては後押し材料となるものと考えられる。
<成長戦略>
〇経営目標
“2022年12月期において 売上高100億円、経常利益10億円を目指す“
2019年12月期実績(百万円)
売上高 41.9億円 経常利益 3.9億円 経常利益率9.2%
に対して
売上高2.4倍
経常利益2.5倍
の計画
経営目標達成のための施設数の前提は次の通り
2019年12月期末時点に対して施設数の増加は
関東8 → +11
東海6 → +6
関西0 → +5
となっている。
関西地区は今期初めて神戸に進出する。初めて進出する地域であり、まずは質を重視した展開をすることが前提となる。
ホスピスチーム作りを進め、ドミナントで質を維持しながら展開する。その後、運営が安定してくれば中計期間の後には関西における施設数の増加は加速するシナリオが見えてくると考えられる。
〇中期経営戦略
決算説明会に先駆けて中期経営戦略を発表
中期経営方針として次の3点を掲げた
- 質を確保した施設展開を加速
- 欠かせないホスピスチーム作り
- チーム作りの「仕組化」へ積極投資
同社のミッションの“在宅ホスピスの研究と普及”とは
研究:ホスピス事業は重要かつ難しい事業であり、
多死社会の中で、エンディングの質を変えていきたい。
質を確保することが同社のアイデンティティと考える。
普及:開設を加速させる=ホスピスチームを作る
ということ。
同社の特徴の1つ目にかかげたのは
“看護師を中心とした多職種チームにより質の高い緩和ケアサービスを提供”
同社の質の高いサービスを実現しているのは看護師を中心としたスタッフである。
質を維持しながら高い成長を実現するにはスタッフの育成が不可欠であることから、
中期経営戦略においてスタッフ育成にフォーカスを当てた。
“ホスピスチーム作りの仕組み化”
を掲げ、積極的に投資をする。
〇開設を加速させるため、“ホスピスチーム作り”を仕組化する
”ホスピスチーム”において必要なことを次のように考え、ホスピスチーム作りを進める
・理念の共有
ホスピスの理念をチームメンバーが共有してくれるのが大事。
OJTでやればいいという簡単なものではなく、教育研修制度として確立する。
・経営マネジメント力
質の高いサービスを継続するには専門多職種連携を行う施設運営において、経営マネジメントが不可欠である
利用者はサービスを提供するスタッフの目の前にいる。提供するサービスに課題が見つかれば、その場で課題解決の判断をしなければならない。
・自分たちが提供する価値を定義
アクシデントが起こったときに価値が何か理解していれば即座に動くことができる。
看護師も介護士でもマネジメントとして考えることができるスキルを身に着ける必要がある
・チームをまとめる施設長の育成
チームをまとめる施設長の運営によって地域の信頼を積み上げることが稼働率をあげることにもつながる。
<リスク>
保険制度の変更
医療保険、介護保険、障碍者総合支援制度を利用することにより月20万円程度で利用できる。
将来的に国の医療費の負担増により個人の負担増が懸念される。
<バリュエーション>
時価総額 167億円
株価 2,198円 (2月19日終値)
EPS 31.28円 (会社予想)
PER 70.2倍 (会社予想)
PBR 16倍
配当 無配
< 基本情報 >
〇会社沿革
2005年 訪問介護を目的として有限会社ナースコール在宅センター訪問サービス(現ナースコール株式会社)を設立
2011年 高齢者向け住宅の企画・設計を目的としてオン・アンド・オン株式会社(現カイロス・アンド・カンパニー株式会社)を設立
2012年 オン・アンド・オン株式会社をカイロス・アンド・カンパニー株式会社に変更し、訪問介護を開始
2015年 ナースコール株式会社がカイロス・アンド・カンパニー株式会社の株式を100%取得。
2017年 ナースコール株式会社とカイロス・アンド・カンパニー株式会社を傘下とする日本ホスピスホールディングス株式会社を設立
〇高橋正社長 経歴
同社以前:医療・福祉施設や公共施設の建設設計に携わる
2000年 介護保険制度スタートを機に高齢者住宅の運営にかかわる
2008年 ユーミーケア(現 学研ココファン)代表取締役社長に就任 27棟の高齢者住宅を運営
2012年 ユーミーケアを学研に売却 同年カイロス・アンド・カンパニー株式会社を創業
訪問看護ステーションとホスピス型高齢者住宅の組合せによる在宅看取りをコア事業に位置づけ展開開始
2017年 日本ホスピスホールディングス株式会社を設立し、代表取締役社長に就任
〇事業系統図(同社の有価証券報告書より)
非常にわかりやすい図となっている。
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