9644 タナベコンサルティンググループ 現場主義コンサルティング66年間の歴史 by宇佐見聖果 ※アナリストレポート
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9644タナベコンサルティンググループレポート(2023年9月8日)
はじめに
終戦を迎えた23歳の夏、創業者の田辺昇一氏はそれまで打ち込んでいた航空工学の研究職を失い、町工場で一工員として新たなスタートを切った。懸命に仕事に取り組み、昇進を重ねて経営幹部に就任。しかし、当時の経営者の行動や低い志に強い疑問を抱き、「この経営者では会社が潰れるのではないか」と判断し、退職。結果、1年半後に、その会社は倒産した。かつての部下やその家族、取引先等が路頭に迷う様を目の当たりにした田辺氏は、「会社を潰す権利は誰にもなく、また企業にも命がある。日本にも企業を救う仕事が必要だ」との強い信念を抱くに至り、コンサルタントの道を志す。その後、縁あって経営研究組織である産業能率研究所で経営コンサルタントとしての第一歩を歩みはじめた。国内では「コンサルタント」という言葉すら殆ど認知されていない時代だった。
1957年、田辺氏は田辺経営相談所を創業。その頃世界では、研究開発に源流を持つアーサー・ディ・リトル(米)、会計に源流を持つマッキンゼー(米)、PwC(英)、KPMG(英)、監査に源流を持つアクセンチュア(アイルランド)らが立ち上がっており「経営コンサルティング」の芽が既に生まれつつあった。これら海外コンサルティング企業が日本に上陸を開始した1960年代後半以降、同じ「コンサルティング」のカテゴリーでビジネスを展開してきた同社と彼らであるが、クライアントに対する関与の濃度において両者の間には明確な手法の違いがあった。コンサルティング対象を経営者とし、ストラテジー(戦略)から入って顧客企業と一緒に会社自体の成長へと焦点を定める。伴走型でサポートしていくのが同社の手法である。終戦間もなくからの日本社会の変遷の影響を直に身に受けながら、全国に拠点を展開していく中で経営ノウハウを実地で学び続けてきた同社は、地域密着型のコンサルティング会社として他が太刀打ち難い特徴を持つ。
■創業者の田辺昇一氏(左)、経営理念(右)
出所:同社HP(左)、「チームコンサルティング理論 企業変革と持続的成長のメソッド」(右)
沿革
祖業が進化を繰り返す
1957年10月、個人経営としてスタートした同社は1958年、最初の事業として「第1回重役教室」を開講。この「重役教室」は1959年、経営者のための勉強会組織「イーグルクラブ」として改めて発足。同年に経営戦略セミナーも開講、現在も販売中のビジネス手帳「ブルーダイアリー」も発売した。
1971年までの間に、「イーグルクラブ」の発足に合わせる形で3つの会員情報誌を創刊。その間、大阪、東京、北海道、九州、名古屋、広島に拠点を開設。続く80年代半ばにかけては仙台、新潟、金沢、沖縄に拠点を開設と、20数年をかけて全国へと規模を拡張し、1993年に株式を店頭公開。
祖業第一弾の「重役教室」を引き継いだ「イーグルクラブ」は2018年4月、企業内で人材を育成する企業内大学の設立をサポートする事業「FCC(ファーストコールカンパニー)アカデミー」へと進化、これまで約160社に対して企業内大学の設立を支援してきた。同時期に経営3誌は、業種別・機能別の経営研究会などの活動をメソッド化して発信する実践主義の経営誌へと進化し、2021年8月からは「TCG REVIEW」として新たに発進している。
■初期に発行していた経営3誌(上)、現在発行している「TCG REVIEW」(下)
出所:同社HP
現代表取締役社長、若松孝彦氏の手腕
現代表取締役社長である若松孝彦氏が代表に就いたのは2014年4月。就任後およそ2年半の間に、当時の東証JASDAQから東証第二部へと市場変更、そして東証第一部銘柄指定へと上り詰める。2017年4月には大阪と東京の2本社体制へ移行し、盤石な経営体制を構築。2019年に、現在も継続中のM&A快進撃を開始し、現時点までに4社を子会社化と、ダイナミックな力強さで同社を前進させてきている。
また、それまで同社のビジネスは「経営コンサルティング事業」「マーケティングコンサルティング事業」と2つにセグメント化されていたが、2021年3月期決算開示からは6つの経営コンサルティング領域へ細分化し各分野の取り組みについてポイントを伝えられるようにと表現方法に工夫を加えるなど、各ステークホルダーはじめ一般からも同社のビジネスに対して理解を得られやすくする取り組みを積極的に取り入れてきている。
少子化、グローバル化、地球温暖化など、企業を取り巻く環境の変化が加速する今、創業時から同社が自らに課す「ビジネスドクター」としての役割を改めて認識し直し、高度先進医療科目を取り揃えた地域密着型のビジネス版総合病院として、進化を繰り返しながら歩み続けていく意思を明確にしている。
■代表取締役社長の若松孝彦氏
出所:同社HP
■業績推移(創業以降)
出所:同社資料「2023年3月期決算説明資料」
オリジナリティの要「チームコンサルティング」
同社は、常にその価値を磨き続けてきた独自のコンサルティングメソッドを「チームコンサルティングブランド」と呼称し、競争力の源泉として位置づけている。
その仕組み
顧客企業からコンサルティングの依頼を受けると同社はまず、統括コンサルタントと専門コンサルタントがトップマネジメントにヒアリングを実施する。ヒアリング結果を基に顧客企業が直面している課題を抽出し、テーマに合わせて3~15人のチームを組成。契約期間を定めてコンサルインした後は、現場主義で顧客企業に寄り添い、統括コンサルタントの指揮のもと、顧客企業が直面する課題の変化に応じて適宜チームが組成し直され、メソッドが提供されていく。
この、チームコンサルティングによる支援により、長期契約(半年以上)での依頼率80%、契約更新率90%、10年以上契約が継続しているクライアントが全体の内15%、5年以上では45%という実績を現在出している。
出所:同社個人投資家説明会資料
コンサルタントの育成
それでは、コンサルタントにはどのような能力が求められるのだろうか。顧客のビジネスに対して常に現場主義で寄り添う同社のコンサルタントは、提案型が基本の大手コンサルティングファームに所属するコンサルタントとは異なる能力が要求されてくる。
採用は、特定の業界に精通した実務経験者(例えば、建設業界の財務経験者等)と新卒社員を採用している。また、同社が全国主要都市10地域に展開する拠点でのIターン・Uターン採用も積極的に実施していることもあり、採用の間口が広く、多種多様な業界経験者が集まる。入社後、独自のプログラムで編成されたビジネススクール「TCGアカデミー」で2~3年をかけて同社のメソッドを学び、各々が築いてきたキャリアにコンサルタントとしてのスキルをプラスしていく。
「TCGアカデミー」を開校したのは2016年。それ以前は人材の戦力化に5年程の時間を要していたが、早期戦力化を目指して誰でもどこでも学べる学習スタイルを模索していった結果、クラウドを中心とした現在の教育システムを構築するに至る。2~3年間の教養課程の後は専門課程へ進級し、各自のキャリアコースに合わせてセッティングされたプログラムを順次受講していく。現在は1,000講座ほどのプログラムが開講されており、社会経済の移り変わりに伴い変化する顧客企業のニーズに合わせて適宜プログラムが追加されていく。
■TCGアカデミーのカリキュラム概要
出所:同社資料「2023年3月期決算説明資料」
常に変化が求められる5つの経営コンサルティング領域
同社は事業を6つの領域にカテゴライズしているが、その内5つが「チームコンサルティング」を提供する領域となる。いずれも、社会経済環境の変化に伴って移り変わる顧客企業の課題に対して同社がオンタイムで関与していく実践の場。ここでは、5つの経営コンサルティング領域それぞれについて現在の状況を、ヒアリングから得た情報を中心に確認していきたい。
ストラテジー&ドメイン領域
同領域は、業界(=ドメイン)×戦略(=ストラテジー)の捉え方で顧客課題を掴む。
近年は円安やインフレ、ESG投資の盛り上がり、東京証券取引所の市場改革やコーポレートガバナンス・コードの強化など、企業が中長期ビジョンの見直しを迫られざるを得ない環境の変化が国内外に複数存在するようになった。そうした状況下で同領域では今、新たな中長期ビジョンの策定やSDGs実装といったニーズが増加しているという。
また、新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行に伴って国内企業が海外進出への意欲を高めており、グローバル戦略の策定ニーズも増加しているという。
■ストラテジー&ドメイン領域の売上高
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
デジタル・DX領域
今やその他全ての領域を横断するカテゴリーでもあり、最も大きい伸びしろが期待される。同領域の成長に備えて同社は、デジタルマーケティングにノウハウを持つリーディング・ソリューションを2019年10月に、DX戦略にノウハウを持つグローウィン・パートナーズを2021年1月に、CXやMAツールの導入に強みを持つジェイスリーを2021年11月に買収して体制を整えてきた。
同社によれば、現在DXの動きは、近視眼的・局所最適な取り組みに終始している企業と中長期計画的・全体最適で取り組む企業の差が出てきている。中長期視点でDXに取り組む企業では、IT化構想の支援ニーズやレガシーシステムのリプレイスニーズが継続的に多く、併せて、DX人材育成のニーズもリスキリングの潮流と相まって増えてきている。
またデジタルマーケティングの分野では、主に中堅以上の企業で、事業分野や商品を限定してデジタルマーケティングを試み、局所的な成功事例を作った後に横展開を図っていく案件が増えてきているという。
■デジタル・DX領域の売上高
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
HR領域
もはや先進国の中で落ちこぼれとなった生産性を回復すべく国内では今、コストから資本へと人材の捉え方を見直す動きが進んでいる。メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行、副業の解禁やリスキリングの導入に取り組む企業が増えてきている今、同領域も、ストラテジー&ドメイン領域と絡む形で変化の渦中にある。
同社によれば現在は、大手や中堅企業を中心に、エンゲージメント向上も含む人事制度の再構築に対し、継続して高いニーズがある。企業内大学の構築や人事PMIの引き合いもが増加しており、新型コロナウイルス感染症5類移行に伴って次世代経営人材の育成研修のニーズも増加中だという。
■HR領域の売上高
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
ファイナンス・M&A領域
国内M&Aの件数は2021年、2022年と連続して過去最高数を記録、過去10年間で2.5倍に増加した。かつては大企業だけの検討事項だったM&Aに対し、国内マーケットの縮小や後継者不足を背景として規模の小さい企業やスタートアップも抵抗がなくなってきている。
M&Aマーケットの拡大を見込んだ同社は、M&A支援で500件以上の実績を持つグローウィン・パートナーズを2021年2月に買収。グローウィン・パートナーズのノウハウと掛け合わせたメソッドも立ち上げてグループシナジーを高めてきている。
同社によれば現在増えてきているのは、PBR1倍未満企業への改善開示要請に対する対策の一環としてホールディングス・グループ体制への移行を進める上場企業からの引き合い。
また、環境変化に伴う事業構成の見直しに伴い、「戦略設計+M&A+PMI」という一貫M&Aコンサルティングの引き合いも増加中だという。
一方、海外M&Aはインフレや為替の影響で先行き不透明でありつつも、ストラテジー&ドメイン領域におけるグローバル戦略の策定ニーズに伴い、相談件数は増えてきているという。
■ファイナンス・M&A領域の売上高
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
ブランド&PR領域
同領域についても成長を見越し、戦略PR・PRコンサルティングにノウハウを持つカーツメディアワークスを2023年2月に買収したばかりとなる。
同社によると、SNSやWebを活用したリアル×デジタルでのコミュニケーション施策、国内・海外を問わずのPR事案が現在増えてきている。
コンテンツマーケティング案件も堅調である他、リアル展示会やイベントのニーズも増えているとのこと。
また、カーツメディアワークスが運営する「Global PR Wire」(同社独自の海外向けプレスリリース配信サービス)についても、ストラテジー&ドメイン領域におけるグローバル戦略に絡む形で推進強化していく方針であるとのこと。
■ブランド&PR領域の売上高
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
■子会社一覧
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
※「従業員数」は2023年3月期有価証券報告書に基づいた数値
業績
■売上高及び営業利益率(通期)(上)■事業領域毎の売上高(下)
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
●中期経営計画は現時点で据え置き
デジタル・DX領域及びその他領域を除く4つの領域(ストラテジー&ドメイン領域、HR領域、ファイナンス・M&A領域、ブランド&PR領域)については、2021年3月期から2023年3月期の上昇率と比べ、2023年3月期から2026年3月期の上昇率を控えめに設定している印象となっている。この理由について同社は、現在順調に推移してはいるものの、国内外の景気の先行きが不透明であることを鑑み、中期経営計画最終年度の計画値を現時点で据え置いているためであるとしている。
●M&Aに対する積極姿勢は継続
同社はM&Aについて、今期以降も積極的に行っていく意思を表明しており、2026年3月期に計画している売上高150億円の内、M&Aによる増分を20億円と見込んでいる。
●行政・公共サービスの領域へ本格参入
2023年3月期より同社は、政府や地方自治体に対するコンサルティングの提供を強化している。人員数が限られているにも関わらず地域創生をはじめDX、SDGsと取り組むべき課題が年々増大かつ複雑化してきている行政・公共サービスの実態を受けて踏み切った。この取り組みについて同社は、長年にわたり全国地域密着の経営コンサルティングを提供してきた自社であるからこそ行政・公共とタッグを組むことで地域課題に最も寄与できるとの自負を持つと同時に、大きなビジネスチャンスとしても捉えている。2024年3月期からは専門チームを立ち上げて本格的に注力を開始。各領域で引き合いも順調に増加しており、中期経営計画の最終年度である2026年3月期までに、行政・公共サービスに対する売上高を全体の3%程度までに上げていく目標としている。
●大企業に対する大型契約が増加
チームコンサルティング1件あたりの売上高が2021年3月期より上昇の傾向にあることが確認できる。この理由について同社は、上場企業を含む大企業に対する大型契約が増加しているためとしている。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
2024年3月期第1四半期決算総括
■売上高及び営業利益率(四半期)
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
●2024年3月期は好調な滑り出し
2024年3月期第1四半期は、通期の売上高目標12,500百万円に対する進捗率が23.35%、営業利益目標1,230百万円に対する進捗率が22.27%。この結果について同社は、全ての領域において好調なスタートとなったと捉えている。
■領域毎の売上高(四半期)
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
●各領域で好調な進捗
前年同期に対する売上高はいずれの領域も伸長。特に伸長率が高かった「ブランド&PR領域」については、2023年2月に買収したカーツメディアワークスの増分も寄与している。
株主還元策
同社は、中期経営計画最終年度の2026年3月期までにROE10%を確実に達成する計画としており、その一環として、増配および自己株式取得を組み合わせた総還元性向の向上を掲げている。
また、ROE向上と並行して取り組んできた、同じく企業価値向上のための施策のひとつである、プライム市場上場維持への取り組みについては、2023年3月末時点で測定が可能なものについては全て基準をクリアしている。
■ROE(上)■1株当たり年間配当金(下)
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
※2021年10月1日を効力発生日として普通株式1株を2株に分割しており、分割後ベースで記載
バリュエーション
時価総額 198億円
株価 1,134円(2023年9月7日終値)
会社予想EPS 44.7円
会社予想PER 25.4倍
実績PBR 1.77倍
以上
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