9557 エアークローゼット 日本で初めての洋服シェアリングビジネス by宇佐見聖果 ※アナリストレポート

2023年11月12日

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エアークローゼット(9557)レポート_20231111

目次                                                                                      コンセプトとビジョン 
事業紹介 
 ■基本的なサービス内容 
  1.サービス利用の流れ 
  2.顧客の属性 
  3.洋服の仕入れ 
競争環境 
競争力 
 ■独自に作り上げた「循環型物流」の仕組み 
  1.特許を取得、洗えるRFIDタグを活用した管理手法 
  2.業者との共同作業で効率性を追求 
  3.UXを極めた配送および返却方法の追求 
 ■スタイリスト×AI 
  1.プロのスタイリストがオンラインで顧客と繋がる 
  2.「スタイリングサポートAI」を高精度化 
 ■データサイエンスチーム 
今後の戦略 
 ■最も有効的な施策は会員数増加のための広告宣伝 
  1.外出自粛やリモートの影響で成長にブレーキ 
  2.2024年6月期は、投下する広告の効率性を高めて土台を固める1年 
 ■価格改定は今後も随時実施の予定 
 ■廃棄ゼロへ向けた取り組み 
 ■新規のサービス等 
  1.20代を対象とした「Disney FASHION CLOSET」をリリース 
  2.循環型物流の外販 
  3.規格外サイズレンタルの展開 
  4.コラボレーションによるブランド開発 
業績 
 ■下方修正の要因、今期予想の根拠、中長期の見通し 
  1.リアル回帰による回復時期はやや不透明 
  2.来期予想には達成確度の高い目標を置く 
  3.口コミ効果に期待、中長期は増収の加速を見込む 
 ■指標から伺える、黒字化への準備 
  1.減損損失が減少し安定へ向かう 
  2.倉庫検品料も一定水準を達成、これからは緩やかに減少 
  3.月額会員1人あたり仕入高も一定水準を達成、これからは緩やかに減少 
 ■業績推移
                                    

コンセプトとビジョン 

同社の代表取締役社長兼CEOである天沼聰氏が起業の際に掲げたコンセプトは、使い方や感じ方によって1人1人の体験価値が異なる時間に対してコミットする事業。時間の使い方の工夫を手助けすることで豊かなライフスタイル作りをサポートするサービスであった。

ターゲットは、仕事と子育てを両立する30~40代の女性。男性よりもライフステージの変化が多く時間の使い方について考えるきっかけが多いであろうこと、全世代の中で最も自分の時間を犠牲にしがちな年齢層であることが根拠にあった。

選んだ業界はファッション。かつてのファッション業界は、ヒエラルキーのトップにある雑誌が発信源となってトレンドを作るマスマーケティングで大量生産の方法が通用した。しかしインスタグラムをはじめとするSNSの登場でこの手法が時代にそぐわないものになった。今、ブランドは、顧客にアピールする場を模索している。

忙しくてショッピングへ行く時間がなく新しいブランドに出会う機会を作れない顧客と、顧客に出会う方法を見失ったブランドとが時間を要さずに出会える場の提供。細分化されたニーズに対して個別にアプローチするマーケティング手法でこれを実現しようと志した。  

ファッション業界への参入を後押ししたもう一つの理由は、サステナビリティに対する世の中の意識の高まり。大量消費大量廃棄の見直しを迫られているファッションアパレル業界に対し、自社のビジネスモデルを導入していくことによって循環型経済の仕組みを提供していけると考えた。

このようなコンセプトを持つ同社のビジネスをイメージして出てくるキーワードは、パーソナライゼーション、シェアリングエコノミー、サブスクリプション、サステナビリティ。いずれも現代の社会が目指す方向性とマッチする。

ライフサイクルを変えることなくワクワクする時間を創出することで、顧客の時間価値を高めたい。スタイリストにセレクトしてもらった自分では選ばないような新しいコーディネートを体験し、それまで気付かなかった自分に似合う服、その先に新たな自分に出会う機会を広げていきたいとビジョンを掲げる。

■代表取締役社長兼CEO天沼 聰氏

出所:同社HP

■本社社内

出所:筆者撮影(2022年11月11日)

事業紹介 

基本的なサービス内容 

ここでは、同社が営む洋服のレンタル事業「airCloset」について基本的な構造を解説する。

1.サービス利用の流れ 

会員登録をした顧客はまず、自身の服の好みやサイズなどを登録する。登録した情報はデジタル連携されて顧客1人1人のカルテが作成され、毎回の洋服選定の際にスタイリストが参照する。プランに応じた枚数を顧客の自宅に届ける。返却期限はなく、自由に楽しんだ後は同封の袋に入れて返品。気に入った場合は買い取りもできる。

コースおよびオプションは下表のとおりとなっている(2023年11月時点)。

出所:同社資料(2023年6月期決算資料)

2.顧客の属性 

月額会員の内、子供を持つユーザーが50%以上、仕事を持つユーザーが94%とワーキングマザーが多く同社のターゲット層と一致する。同社が実施したアンケートでは70%以上が買い物に行きたくてもいけない、90%以上がコーディネートで着こなしに迷ったことがあると回答している。月額会員の内レンタルしたアイテムを購入したことがあるユーザーが約半数、半年以上の継続率がおよそ58%とのデータもある。

3.洋服の仕入れ 

服は同社のバイヤーが、およそ300の国内提携ブランドから選んで購入、レンタル開始のおよそ半年前までに準備を済ませる。定価にすると殆どが1万円前後のアイテム。これまで収集してきた顧客の体験談に基づくデータから、どういったスタイルや素材が顧客からの評価が高いかを同社は一定把握ができている。このデータを活用し、例えば、ブランド側に従来のラインにはない色合いをリクエストして敢えて作ってもらったり、ブランドによってはアイテム毎に取引量の調整を行うこともある。最近では、デザインの段階からブランドと共同で進めていくケースもある。

競争環境 

2015年2月に同社がサービスをスタートさせた頃、洋服レンタルのサービスを展開している企業は国内では皆無であった。それから約7年の間に複数の企業が同社に続いて展開を開始し現在、国内の洋服レンタル市場は乱立期の様相となっている。この状況について同社代表の天沼氏は、市場が形成されていくために競合の参入はウェルカムであるとする一方、オペレーションが難しいビジネスモデルであることから一定の数に集約されるだろうとも分析する。日本に先行して洋服レンタルのサービスが立ち上がった米国では乱立期を経て現在、代表的な2社に集約されており、国内のマーケットもそれに近しい動きをしていると天沼氏は観察している。

■国内の洋服レンタルサービス一覧(サービス開始順)

出所:各社HP及び開示情報を基にリンクスリサーチ作成 ※「ー」は開示やWEBサイトから確認ができていない

競争力

同社の競争力は、サービスを立ち上げた当時競合が皆無だったからこそ育ってきたという見方もできる。今では当たり前のように競合各社が取り入れているクリーニングサービスも、服を数点レンタルして日常の中で楽しんだ後に返却するシステムも、前例がない中でいくつものやり方を発案し、多くの思考と議論を経て最初に骨格を作ってきたのが同社であった。

事業の骨格を構成した後は事業計画を基に、土台となる基盤作りに徹底した。妥協なくブラッシュアップを重ねて仕組みを作り上げてきたことで、同社の事業は他が安易に真似できないものに育ったと考えられる。

 独自に作り上げた「循環型物流」の仕組み 

サービスの立ち上げから最も労力と時間をかけて構築してきたのが、返却を受けた洋服が再度レンタルの準備を整えるまでのサイクル「循環型物流」システム。2015年2月のサービス立ち上げから2022年7月に上場するまでのおよそ7年半、ひたすら地道な作業と検証の繰り返しによってフルスクラッチで作り上げた。2021年12月には、「循環型物流」の中の一部である倉庫管理システム(Warehouse Management System)を、日本で初めてのシェアリングビジネスに特化したものとして発表している。

効率化を実現していく過程では、倉庫やクリーニング工場の現場で、パートナー企業と共に単なる業務委託関係ではない共同作業が進められた。一つ一つの工程でストップウォッチを使用して時間を計測し改善プロセスを挟む、ディスカッションを重ねて業務フローの変更を細かく行う等の地道な作業に多くの時間とコストが費やされた。その結果、当初は顧客に対して洋服を1回送るために4,000円程度かかっていたコストが現在は2,500円を実現。サービスが利益を産みだせる体質に育った。

下記では、この過程を経て同社が作り上げたノウハウを、開示の範囲内で解説する。

1.特許を取得、洗えるRFIDタグを活用した管理手法 

個品毎のレンタル・返却・メンテナンスを管理できる状態にするため、洋服1点1点に対して洗えるRFIDをタグの部分に付けて管理をするというオリジナルのシステムを構築。2019年10月から同方法での運用を開始し、2022年7月に特許を取得している。また、物流拠点については、2016年9月から寺田倉庫「MINIKURA」での運用を開始し寺田倉庫が培ってきたノウハウの採用を進めた後、2018年4月に大和ハウス工業株式会社が運営する「DPL市川」に移転。その後埼玉県に移転している。

2.業者との共同作業で効率性を追求 

当初は全てを業者に委ねていたため1週間前後を要していたクリーニング期間が、同社の物流チームが現場に入って業者との共同作業で効率性を追求していった結果、最短1日にまで短縮することに成功。他にも、除菌消臭効果の高い独自配合洗剤の開発、4種類の洗濯方法やクリーニング前後に行う検品ルールの導入、自社のリペアセンターに専門技術スタッフが常駐する体制づくり等、細かい改善活動が実を結んできた。なお、2016年9月より現在までクリーニングはホワイト急便が担当している。

3.UXを極めた配送および返却方法の追求 

ヤマト宅急便等の一般的な配送方法の活用に留まらず、セルフ返品サービス「SMARI」(三菱商事)やAI宅配サービス「Scatch!」(MagicalMove)を導入。UX向上への取り組みとして進めている。

■UXを追求した包装

スタイリスト×AI 

「循環型物流」に続いて2本目の優位性となり得る可能性を秘め、現在育成中なのが、顧客へスタイリングを提供する際に機能する、スタイリストとAIを掛け合わせたシステム。ここでは、同社が取り組むスタイリストの活用方法と、そこに対するAIの掛け合わせ方の両側面から解説する。

1.プロのスタイリストがオンラインで顧客と繋がる 

トレンドに従うことが正解だった過去から、個々の楽しみ方が重視されるようになってきたファッション業界でこれから求められてくるものはパーソナライズされたサービス。スタイリストの働き方も当然変わってくるはずだと読んだ同社は、プロのスタイリストを業務委託で抱えるスタイルを作り出した。スタイリストへの研修やフォローの仕組みが整ってきた現在、約300名強のスタイリストをクラウドソーシングで抱えている。

業務委託契約を締結したスタイリスト候補は最初に、1ヶ月強に及ぶ同社の教育プログラムを受け、その上で一定の基準をクリアすると同社のスタイリストとしてデビュー。デビュー後は各スタイリストが月額会員1人1人のスタイリングを担当していく。会員のマイページ上でパーソナルに繋がり、簡単な自己紹介や着こなしのアドバイス等のコメントを送ってコミュニケーションを取る。

スタイリストはオンライン上で洋服を選定しており、中には急に成績が下がったり、選定の速度が遅くなることもある。スタイリストの管理はデータを使って行っているため、スタイリストに何らかの不調が出た場合には随時アラートが出てケアへ向かえる体制が組まれている。業務委託料は成績に応じて一定の調整が行われ、また、毎月各種アワードという形で表彰される機会もあるなどモチベーション向上のための工夫もある。

2.「スタイリングサポートAI」を高精度化 

スタイリストと月額会員が1対1で繋がる場は、顧客とスタイリストとの感性が交わるスタイリングの最終段階では不可欠なものとなる。一方、業務効率化への探求に妥協がない同社は、最終段階に至る過程でAIの活用を目指し研究を重ねてきた。

会員から、レンタルの度毎に簡単な使用感やお気に入り度合についてフィードバックをもらう。こうしてためてきたオリジナルの体験データベースは現在400万件に達している。このデータをAI機能に落とし込む。2021年6月からは明治大学の高木研究室と産学連携での研究もスタートし、2022年6月にはアイテムと顧客同士のマッチングの高精度化に成功したと発表。現在更なる高精度化を目指し取組み中。

データサイエンスチーム 

これまでに解説した「循環型物流」、「スタイリングサポートAI」、後述する広告宣伝の投下策や立ち上がりつつある新規のサービス、これら全てを貫通して支えているのがデータサイエンスチームの仕事。社長直轄の部署に設けられている同社のデータサイエンスチームは、人工知能担当エンジニアと分析(データサイエンス)担当の3名、人工知能の開発専任1名の、合わせて4名が所属する。

同社の優位性を支える、データサイエンスチームによる模索と進歩の過程については下記のページで詳細に確認ができる。
↓↓↓
airCloset Data Science Collection 

出所:「airCloset Data Science Collection」サイト

 

■沿革(サービス関連、および、物流システムや特許関連に関するもの)

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

今後の戦略 

前述で解説した、「循環型物流」に代表されるオペレーションコストはこれまで大きく改善を図ってきた結果一定の成果をみたと同社は考えている。今後は会員数の増加や値上げ、オプションでの増収、循環型物流システムの外販等でトップラインの伸びに重点を置く方針としている。成長戦略を確認する。

最も有効的な施策は会員数増加のための広告宣伝 

1.外出自粛やリモートの影響で成長にブレーキ 

現在、同社の認知度はターゲット層の内4%程度。認知度90%以上を目標に掲げる同社は、マーケティング活動と新規登録者数がまだ比例していく局面にあると捉えており、トップラインを成長させていくために最も重要な施策として広告宣伝への投下を捉えている。

本格的な広告投下を開始した2019年6月期から2021年6月期までの2年間、会員獲得単価を目標水準に収めた上で新規会員登録者数は順調に増加しており好調であった。しかしそこに突如、コロナウイルスの流行が到来。外出自粛やリモートワークの導入によって人々の洋服を選ぶ機会が激減して新規会員登録が鈍化、好調ぶりにブレーキがかかった。同社はこの事態を一過性と予測し広告宣伝の投下へアクセルを踏んだが想定は外れた。結果、対策が後手に回り、広告効率が悪化した状態が2022年6月期第1四半期をピークに2023年6月期まで2年間続いた。

■会員獲得単価の推移

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

2.2024年6月期は、投下する広告の効率性を高めて土台を固める1年 

2024年6月期の広告戦略を同社は、広告投下の効率性を高めることに注力する1年としている。選択肢としては2023年6月期までと同程度に積極的な投下を行い引き続き高い成長性を求める方法もあったが、2025年6月期以降の安定的な成長回復を重視、より長期目線での戦略を選んだ。

具体策は、非広告領域への取り組み増加とウェブマーケティング効率化の2つ。非広告領域への取り組みでは、以前は実施していたもののコロナ禍に中断せざるを得なくなっていた公開パーソナルスタイリングなどのリアルイベントを復活させる予定としている。ウェブマーケティングでは、広告への導入を促すに留まらずコンバージョンレートの上昇をこれまで以上に追求していくとしている。ウェブマーケティングは年間で1万件以上の検証を繰り返す作業によって徐々に獲得効率を高める地味な作業の継続ではあるが、反応度が分かりにくいTVCMと比較すると効率性が高いとして重視。SNSではMetaとLINEを主に活用し、自社独自で行う取り組みと他社に所属するインフルエンサーへの依頼とを併用する。また、洋服を扱う事業の特質上、春と秋には反応が良く、夏と冬には反応が鈍化するため季節に応じて投下額を調整する。

価格改定は今後も随時実施の予定 

同社はサービス単価の上昇によってトップラインを伸ばす計画を将来計画のひとつとして位置づけており、今後も適宜価格改定されることが予想される。

■過去に行った価格改定

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

廃棄ゼロへ向けた取り組み 

サービススタートの頃より同社は、使用可能ではあるものの検品の結果レンタルから外す判断をしたアイテムについて、セールの実施等により廃棄を無くす取り組みを行ってきた。2022年6月期にスタートした会員向けのセールは、会員からの反応も良く現時点で最も効果を持っている。最近では、企業連携により連携先企業のオフィスでリアル販売会も開始。連携先企業にとってはサステナブルな取り組みとして社内外に謳えるという点、社内コミュニケーションが活性化する効果もあるとして好評だという。レンタルが終了したアイテムのセールによる収益は全体の数%を占める。

新規のサービス等 

1.20代を対象とした「Disney FASHION CLOSET」をリリース 

2023年10月、同社は「Disney FASHION CLOSET」をリリースした。ディズニーのバウンドコーデをレンタルで提供する都度課金型サービスで、ターゲットを20代の女性に定める。このサービスをスタートさせた目的は、SNS等で話題性を高めて20代に認知を拡げ、彼女らが30~40代になった際に抵抗感なく「airCloset」を開始してもらうこと。この試みが成功すれば、中長期視点での成長への安定基盤となり得る可能性がある。

■「Disney FASHION CLOSET」で提供するバウンドコーデの例

出所:「Disney FASHION CLOSET」 HP

2.循環型物流の外販 

2021年12月に発表した、日本で初めてのシェアリングビジネスに特化した倉庫管理システム(WMS)、循環型物流の仕組みであるが、これを同社は、自社の物流システムとして運用していくと同時にシェアリングビジネスを提供する他社への外部提供も行っていきたいとしている。外販については現時点で複数の企業とコミュニケーションを取っている段階だとしており実現の時期は現時点で不透明ではあるが、中長期視点で収益に貢献していく可能性がある。

3.規格外サイズレンタルの展開 

XS、XL等の規定外サイズは、製造枚数は少ないながらもそれらを求める顧客は一定数存在する。同社がこのニーズを意識して2019年7月(2021年2月に現在の名称へ変更)にリリースしたのが、コースの中で唯一XL・XXLサイズを含むライトプラスプランであった。規格外サイズを求める会員の継続率は高く、また、ライトプラスプランは利益率も3つのプランの中で最も高い。今後も、収益性を高いところに寄せるべく、顧客の分布を見ながら規格外サイズの展開は継続していく方針だとしている。

4.コラボレーションによるブランド開発 

直近で400万件に達した会員からの体験データベースの蓄積は、同社にとって新しいビジネスの可能性を拡げる材料となる。現在取り組んでいるのが、柴咲コウ氏がプロデュースするブランド「MES VACANCES」とのコラボレーション。同社のデータベースの中から働く女性に人気の素材等の情報をブランド側へ提供、働く女性向けの限定コラボラインという形で2023年7月から販売およびレンタルを開始、具体的な販売数は不透明ながらも顧客の反応は良いとのこと。

データの活用によるブランド開発は現時点でまだ試験的な取り組みではあるが、中長期の視点で捉えると同社の業績に貢献できる可能性を持つ。

業績 

下方修正の要因、今期予想の根拠、中長期の見通し 

1.リアル回帰による回復時期はやや不透明 

世の中がコロナウイルスの流行を迎えた当初、同社が懸念したのは退会数の増加だった。結果として退会数への影響は殆どなかったが一方で、流行が落ち着くまで登録を控える雰囲気が醸成されたことで、それまで順調に伸びていた新規会員登録者数が伸び悩んだ。

新規会員登録者数の伸び悩みの影響が色濃く表れたのが2022年6月期の上期。しかし2022年6月期の下期には回復の兆しが伺えた。これをリアル回帰による本格的な回復であると見込んだ同社は、新規会員登録者数の伸びについてコロナが流行する以前の水準へ回復する想定を含めて2023年6月期業績予想を発表。しかし、一時期回復したかにみえた新規会員登録者数は2023年6月期中を通して再び鈍化、結果として2023年5月に下方修正を発表。この経験から、同社は新規登録者数の回復時期を不透明と判断し、2024年6月期の業績予想ではこの期待を除いた数値を発表した。

■月額会員数

出所:同社資料(2023年6月期第3四半期決算説明資料)

2.来期予想には達成確度の高い目標を置く 

同社は2024年6月期の売上高を前期比約5%増の3,926百万円と予想。2023年6月期の売上高成長率が前期比約10%増であったのと比較すると抑えられた水準となる。この理由として1つは前述のとおり、2023年5月に下方修正を発表することとなった反省から、コロナ禍に鈍化した新規登録者数の回復期待を今回は含めなかったこと。そしてもう1つは、新規登録者数の鈍化を一時的な減少と見誤り広告効率を悪化させた経験を踏まえ、2024年6月期は広告効率を高めるべく広告宣伝費への投下額を一旦抑える方針としたことにある。2025年6月期より再び、広告効率が高いタイミングで広告投下にアクセルを踏めるかどうかが、更なる成長のためのポイントだと同社は認識している。

■売上高および売上高成長率

出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成

3.口コミ効果に期待、中長期は増収の加速を見込む 

短期では業績見通しの不透明感が拭えない状況であるが、同社は中長期では増収の加速を見込む。理由は2つ。1つは、時期は不透明ながらもリアル回帰に伴う新規登録者数の増加を期待していることで、SNS上では既に「airCloset」を活用したいとするコメントが増えている感触を持っていることを根拠としている。2つ目は、サービスの利用者が一定人数を超えたタイミングから加速度的に認知が広がっていくだろうと見込んでいること。利用者が10万人のラインを超えると口コミ効果が一気に高まるとする一般的なセオリーを根拠としている。

指標から伺える、黒字化への準備 

1.減損損失が減少し安定へ向かう 

洋服レンタル事業を国内で最初にスタートさせた同社は、レンタル品であるアイテムの償却期間について参考にできる前例がなかった。そのため、監査法人との検討のもと償却期間を6か月と定め、6か月よりも長く使える実績がデータで実証される毎に償却期間を延長していくことに。2023年6月期には2度目の延長で6か月プラスされ、18ヶ月となった。

償却期間が延び、将来キャッシュフローが大きくなっていくことで、減損損失が業績に与える影響は2018年6月期の27.7%から2023年6月期の3.3%へと着実に低下。2023年6月期については償却期間が6ヶ月延長されたことで前期比およそ60%の減少となった。

なお、減損損失は、各アイテムについて償却期間内に得られるであろうキャッシュフローすなわち将来キャッシュフローと簿価とを比較し、その差額がカウントされる。販売されるアイテムや破損しリサイクルされるアイテムの処理については、本来であれば売上原価の中に入るべき部分が減損に移動する計算方法となる。

また、本来であれば翌期以降の売上原価に減価償却費として計上されるべき分が減損損失に含まれることから、減損損失額の額に応じて売上原価、売上総利益も影響を受ける。今後、実証データの蓄積に応じてレンタルアイテムの償却期間がより実態に即したものに落ち着いてくることで、関連項目について財務諸表上のバランスが保たれていくことが予想される。


出所:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成

2.倉庫検品料も一定水準を達成、これからは緩やかに減少 

返却を受けてから再度レンタルの準備ができるまでの過程にある物流やクリーニング、倉庫管理を含む倉庫検品料は、2020年6月期の時点で対売上高比率39.6%とかつては費用の中で最も大きな割合を占めていた。本レポートでも解説してきたように、事業を利益体質に育てるためにこの部分の削減を最優先事項として取り組んできた結果、地道な努力によって2023年6月期には対売上高比率27.7%を達成。それに応じて限界利益も上昇してきている。

更なる効率性を求めて近々、現在3拠点に別れている倉庫を1つに集約する計画がありそれにより物流コストが一定削減される予定だとしているが、これ自体は費用削減に大きなインパクトを与える程のものではないとのこと。物流システム効率化の目標は一定のラインを達成したため、限界利益や倉庫検品料について、今後は大きな変化ではなく緩やかな改善経過を辿っていくことになるだろうと同社はコメントしている。


出所:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成

3.月額会員1人あたり仕入高も一定水準を達成、これからは緩やかに減少 

オペレーションコスト削減の取り組みと切り離せないのが、月額会員1人あたり仕入高の推移。これを同社はこれまで、KPIのひとつとしても重要視してきた。

例えば、同社のサービスでは現在、1日あたり数千着の洋服を動かす。クリーニング日数を削減することで倉庫の外にある日数を減らすことができれば、数千着が前倒しで使えるため仕入の必要枚数を抑えることができる。この分析に基づいて現場の物流チームが動いた結果、当初1週間を要していたクリーニング期間を1日に短縮させることに成功したことは、本レポート内「独自に作り上げた「循環型物流」の仕組み」で解説した。

また1人あたり仕入高を減らすための工夫としてはその他にも、南北に長い日本列島の寒暖差を利用し、同じ服であっても季節に応じて使用する地域を移していくことによって、その分仕入れ必要枚数を抑えることに成功。このように、データ分析に基づく細かな工夫を重ねてきたことで、現在はようやく一定の水準を達成できていると同社は考えている。これからは、よりいいものを長期に使えるなどのデータが見えてきたらその分を単価に反映させるなど、1人あたり仕入高の視点においても、トップラインの成長をより重視していくとしている。

■1人あたり仕入高(※1)および顧客満足度

出所:同社資料「2023年6月期有価証券報告書」
※1:各年度におけるレンタル用資産増加額を年間平均月額会員数で除すことで算出
※2:利用毎に月額会員から取得する4段階評価のレーティングにおける年間平均値

業績推移

売上の内訳は、月額会員に対するレンタルによる収益が80%強、レンタル品の購入による収益が13%、オプション料・レンタル終了アイテムのエコセールによる収益・エアクロモールからの収益が残り数%の構成。

2020年4月にスタートしたエアクロモールは現在、売上シェアが1桁%の後半であるが着実に伸びてきているとのこと。販売額の100%が売上高に計上される買取販売、手数料が売上高に計上される販売仲介の2つのケースの扱いがあり、このバランスの調整が今後の戦略となってくるとのこと。

■売上高および営業損益(通期)

四半期の業績推移では季節性が確認される。

■売上高及び営業損益(四半期)

出所:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成

■主要経営指標の推移(損益計算書)

出所:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成

以上

2023年11月12日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira