7196 Casa 自主管理市場への進出体制、強化 (定期フォロー版)by宇佐見聖果 ※アナリストレポート
pdfダウンロードはこちら↓↓↓
目次
■はじめに
■本レポートの構成について
■営業利益率の変動要因
■利率の幅の広さは売上原価の3大要素による
■利益率を左右する主要因、貸倒引当金繰入額の動向と対策
1.コロナ禍は滞納者への回収を調整
2.臨時体制時の影響が今現れる
3.教訓から得た、将来へ向けた貸倒引当金抑制策
■紹介手数料の動向
1.キックバック競争は落ち着く気配なく
2.自主管理市場への進出が進捗すれば紹介手数料とは無縁に
■事業用保証の伸び
■中長期戦略の進捗
■自主管理家主市場への進出
■COMPASSの設立とGoldKeyの子会社化
■3社で連携していく未来
1.新たな入居者管理ツールの提供を開始
2.木全氏のコネクションを活用して自主管理家主に同社の商品を販売
3.自主管理家主向けの入居者管理ツールは2025年1月期中に提供開始予定
■業績
■業績見通しの達成確度
1.純増契約数の回復により2024年1月期から売上高成長率が反転して伸長
2.2024年1月期中は売上原価の高水準が継続、営業利益率の伸長はそれ以降
3.GoldKeyの子会社化に伴う業績への寄与は微小
■はじめに
通常時にはさほど影響しない事柄が問題化し、業績が揺れたコロナ禍。およそ3年間つづいた荒波の中で直面してきた困難からいくつかの学びを得た同社は、それらを事業の成長へと生かすべく既に行動を開始している。かつ、コロナ禍の混乱は、同社が2017年10月に上場する前から取り組みを開始し現在ステップアップのタイミングに来ている、自主管理市場への進出という方向性が、期待値を持つ選択であった可能性を含んでもいる。本レポートではこれらの動きを一つずつ解説していく。
■本レポートの構成について
家賃保証という性質上経済環境の変動をダイレクトに受ける特色を有し、さらに、複数の施策を随時方向修正しながら平行して進めている同社の事業は一見すると複雑にみえる。同社の業績の変動を追うためには業界特有の指標を確認する必要もある。こうした特徴を持つ同社について、主要な項目毎に分解して解説することで、事業の現在地を明瞭にすると同時に、中長期のビジョンについても予測をしていきたい。
最初に、業績をみる上で最重要指標のひとつである営業利益について、振れ幅が大きい特徴を持つ同社の営業利益に影響を与えている要因を明らかにする。また、営業利益を安定させるべく同社が取り組み始めた2本の施策について、ヒアリングに基づいた直近の状況を確認する。併せて、コロナ禍に強まった需要をキャッチして各社が導入を開始している事業用保証契約について、同社独自の取り組みや進捗について確認したい。最後に、中長期の戦略として前々から進めてきている、自主管理市場への進出に向けた取り組みについて現在地の確認と未来の予測を行う。
■営業利益率の変動要因
■利益率の幅の広さは売上原価の3大要素による
最初に、直近までの売上高と営業利益率を確認する。
■売上高及び営業利益率(四半期)
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
上のグラフで確認できるように同社の営業利益率は変動の幅が広い。そしてその要因は、下のグラフで明らかであるとおり売上原価の変動にある。
■売上高に対する、販管費及び一般管理率および原価率(四半期)
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
売上原価を構成している3大要素が、過去3年間の滞納率を基に算定される「貸倒引当金繰入額」、滞納者に対する最終手段にかかる費用である「訴訟・処分費用」、契約締結の際に管理会社に支払う「紹介手数料」。下のグラフに明らかであるとおり、この3種類の費用の内、額が高くかつ変動幅も大きいのが貸倒引当金繰入額。すなわち、貸倒引当金繰入の計上額が営業利益率を左右する主要因となる。
■売上原価を構成する3大要素
出所:同社各社HP及び開示情報を基にリンクスリサーチ作成
■利益率を左右する主要因、貸倒引当金繰入額の動向と対策
1.コロナ禍は滞納者への回収を調整
同社は経験上、行政等への申請を行わないがために本来受けられるはずの給付を受けていない滞納者が一定数存在することを認識している。このことから、滞納者への対応は回収に優先して公共のサポートを受けられるようにすべく支援を行うことを近年、企業方針の一つとしてきた。
2020年4月に発出された緊急事態宣言に始まる行動の自主規制は、コロナウイルスの流行が収まる見通しが立たない中で長期化の様相を呈する。店舗が閉じイベントが中止となり、都心でさえも人がまばらに。収入の減少を余儀なくされた人々を対象に、住居確保給付金、特別定額給付金、学生支援緊急給付金等々、公的支援が打ち出されていく。同社の全契約の内滞納者の率を示す求償債権の保証残高割合は2020年夏以降上昇しはじめ、2021年1月期第4四半期には通常時では示すことのない9%台に乗った。
この事態に対して、同社は滞納者に対する回収を一旦控えて滞納の要因を除去するためのサポートに徹底、企業理念に則した対応をした。外部環境の混乱が続く中で結果的にこの臨時体制がおよそ1年間続いたが、コロナ禍の臨時対応に一旦の目途がついた2022年1月期第2四半期の頃から通常の回収体制に戻したことで、その後は割合が改善してきている。現在同社は、求償債権の保証残高割合に具体的な目標値を定めているわけではないが、当面は8%台前半の維持を目指すとしている。
なお、コロナ禍に突入する直前の同社は、従来からの回収体制を見直し新規体制が軌道に乗り始めるというタイミングであった。上場以前はやや強引な回収手段をとる社員が一部おり、クレームに繋がるケースもあった。この反省から、債権回収手法や債権管理方法を個人のアプローチから会社全体の取り組みとした体制に切り替えた。コロナ禍の臨時体制を終えたこれからは、この新体制を軌道に乗せていくことが当面の目指す方向性となる。
■求償債権の保証残高割合
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
2.臨時体制時の影響が今現れる
以上が滞納者に対する対応すなわち求償債権を巡る動向のここ4年程の経緯となるが、過去の実績に照らして算定するという貸倒引当金の性格上、こうした内実が業績に表出してくるまでにはタイムラグが発生する。
貸倒引当金額の算出方法として同社を含む各社は、過去3年間における貸倒発生率の平均値を採用する。この時、発生した求償債権の時期ごとに率を段階的に調整する企業が多い中、同社の場合はこの調整を行わないより保守的な算定方法を採用している。つまり、コロナ禍に増えた貸倒が、同社が採用する厳格な算定方法に基づいて貸倒引当金繰入額として計上され、原価に組み込まれる時期に今ある。
■貸倒引当金繰入額
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
※貸倒の発生は、賃料延滞した内3ヵ月以内に回収できなかったものが対象となる
3.教訓から得た、将来へ向けた貸倒引当金抑制策
①不採算代理店との契約を見直し
一部の大手代理店では、他社からの高いキックバックによる保証会社の切り替えの動きが増加してきた。しかし、大手代理店としても滞納発生率が高いところもある。そこで同社は2022年1月期中より、不採算取引先との契約更新を見送る方針へ切り替えた。その結果、大手代理店に紐づく数万件分の新規契約が減少したことで2023年1月期は一時的な減収となった一方、新規代理店獲得数は伸長した。
■初回保証料と年間保証料
新規契約数の一時的な減少が初回保証料の減少という形で現れた。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
■保有している契約数および代理店数
新規契約数が減少した反面代理店獲得数が伸長した結果が現れている
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
②2段階審査方法を全商品へ拡充していく
代理店の選別に加え、貸倒れのリスクを抑える施策としてスタートさせたのが2020年8月、2022年6月にそれぞれ提供を開始した「ダイレクトS」、「ダイレクトワイド」の2つの商品。同社が独自に保有する家賃支払履歴等のデータベースと、個人信用情報機関が保有するクレジットカード等の取引情報を掛け合わせて審査精度を向上させたOEM商品となる。
これまで行ってきた独自のデータベースに基づく審査に新しく金融審査を組み合わせたことで、従来の審査方法に比べてより個別的かつ精密なスコアリングが可能になった。滞納を入居審査の段階で食い止めることで将来的な貸倒率の引き下げに期待が持たれるこの新しい2段階審査の手法を、同社は2024年1月期中に、居住者向けを対象とする全商品へ適用させていくことを決めた。
■個人向け商品の新規契約数割合
2024年1月期中に「Casaダイレクト」、「家主ダイレクト」にも金融審査を導入するとしている。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
■同社の保証商品一覧
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
■紹介手数料の動向
1.キックバック競争は落ち着く気配なく
コロナ禍に困難の中にあったのは管理会社も同様であった。顧客の減少に直面した管理会社の中にはそれまで以上にキックバックを要求してくるところも現在なおあるという。高いキックバックを提示する保証会社への乗り換え等も頻発しており、キックバック争いが落ち着く気配はない。もちろん同社も無縁ではいられない。支払手数料すなわちキックバックのパーセンテージを高く置いたダイレクトSは、貸倒率を抑える目的と同時に、こうした状況下で競争力を持つべくリリースした商品でもある。
原価を構成する3大要素である貸倒引当金繰入額、紹介手数料、訴訟・処分費用の内、貸倒引当金繰入額に続いて大きな構成要素を占めているのが紹介手数料。その紹介手数料について下グラフで見られる近年の上昇分は、2020年8月に発売したダイレクトSの新規契約数に比例するいわゆる攻めの部分、そして、管理会社からの要望に応える守りの部分に区分され、その比率は大体半々となっている。
■紹介手数料の推移
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
2.自主管理市場への進出が進捗すれば紹介手数料とは無縁に
各社が頭を悩ませる紹介手数料に対して同社はもちろん傍観してきたわけではない。近年行ってきた、大手代理店との契約解除や保証商品の展開は、いずれも、紹介手数料を抑えようという目的を兼ねたものでもあった。そして、現在同社が中長期戦略として歩みを進めている自主管理市場への進出。これが、紹介手数料の発生を将来的に抑えていける可能性を持っている。
■事業用保証の伸び
コロナ禍へ突入直後の2020年7月にサービスの提供を開始した事業用保証は2022年7月にリニューアルを発表、現在まで契約数は右肩上がりで伸びてきてはいるものの、競合他社と比較すると伸び率が低いとして同社は不足感を抱いている。これまでの、代理店へ訪問した際に漫然と提案していたやり方を、明確なターゲティング設定を行うアプローチに変えることで伸び率の上昇を目指すとのこと。
■事業用保証の新規契約件数
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
■中長期戦略の進捗
■自主管理家主市場への進出
現在、管理会社市場の管理戸数は1,000万戸で内70%を保証会社が担い同社のシェアはこの内7%。一方、自主管理家主市場の管理戸数は650万戸で内15%を保証会社が占め、残り85%を連帯保証人が担う。こうした中、連帯保証人への保護強化を目的とする法律改正が2020年に実施されたことに示されるように、今、世の中は、個人が個人を保証することをネガティブに捉える方向にある。見方を変えれば、自主管理家主市場の管理戸数の内85%がまだ手付かずであると捉えることもできる。ここに対して早い時期から目をつけていたのが同社であった。
人口減少の時代が到来し、今後も空き家物件の増加が見込まれる日本で多くの家主は現在、自身が保有する物件に対して居住希望者が現れないリスクに直面している。こうした局面にあって同社が取り組んできたのが、自主管理家主市場へのDXの導入。DXが、賃貸者が減少していくマーケットにある家主のサポーターになると同社は考えている。
出所:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計 結果の概要」を基にリンクスリサーチ作成
■COMPASSの設立とGoldKeyの子会社化
2019年6月、自主管理市場へ向けたアプローチを切り出して独立させるべく子会社株式会社COMPASSを設立。同社の保証商品を家主へ直接販売するという社内代理店のような位置づけで展開を開始。同時に、自主管理家主市場へ向けたシステム開発もCOMPASSが担っていくこととなった。2022年4月にはIT業界に長く経歴を持つ安藤祐輔氏がCOMPASSの代表取締役社長に抜擢された。
COMPASSの設立から約3年後の2022年9月、不動産DXの総合コンサルティング会社である株式会社GoldKey Co.,Ltdと資本業務提携を締結、GoldKeyが同社の子会社となる。GoldKeyの木全雅仁代表は、同氏の祖父が70年前に呉服屋を畳んで立ち上げた不動産賃貸業を営む3代目。自身が多くの物件を保有する家主でもある木全氏が、国内不動産市場の先細りを予測し、不動産に寄り添うIT会社を掲げて2012年に立ち上げたのがGoldKey。これまでに、賃貸管理アプリなどを自社開発して管理会社向けに販売してきた実績を持つ。また、数多くの建築プロデュース手掛ける傍ら全国各地で開催されるオーナーを対象としたセミナーで講演を行ってきた同氏は全国のオーナーにも広く顔が知られており、40程の大家の団体が加盟する「全国大家の会」の理事も務めている。互いの理念とビジョンに共鳴し、さらに、GoldKeyの開発力と知名度、COMPASSの集客力が合わさり生み出されるシナジーに期待をかけて決断にいたった両社の提携であった。
■株式会社GoldKey Co.,Ltd代表取締役社長 木全 雅仁氏
出所:GoldKey HP
■3社で連携していく未来
Casaは管理会社に向けたサービス提供に特化。COMPASSは自主管理家主に向けたサービス提供に特化。そして、CasaとCOMPASSの両社に対してシステム面から支援をしていくのがGoldKey。表現を変えれば、自主管理家主を束ねる管理会社のようなポジションを担うCOMPASSと、システム構築部隊であるGoldKeyを社内に抱えることになった同社は、自主管理家主市場への進出へ向けて、家主に対して柔軟性を備えたワンストップサービスを提供できる体制が整ったことになる。そして今、同社は、COMPASSの設立とGoldKeyの子会社化によって3社連携体制となった先の未来を描いている。2023年5月、3社連携による自主管理家主市場への進出体制が整った。
1.新たな入居者管理ツールの提供を開始
子会社化後、最初に共同で取り組んだのが管理会社を対象とした管理ツール「Roomコネクト」の開発であった。GoldKeyの既開発商品である賃貸管理アプリ「app-me」を母体に、同社の出資先のサービスである駆けつけサービスツール(ジャパンベストレスキューシステム)と近隣トラブル対策ツール(ギグベース)を組み込んだもの。入居者を管理するための機能を中心に機能が拡充、充実したものとなったという。
2.木全氏のコネクションを活用して自主管理家主に同社の商品を販売
続いて、GoldKeyの木全代表が有する全国家主とのネットワークを活用した家主への営業活動も始まった。現在、毎週のように木全代表とCOMPASSの安藤代表が共同で全国を回り、家主を対象としたセミナーを開催している。同社に登録するオーナーの数は現在、順調に増えているとのこと。新たに登録したオーナーに対しては家主ダイレクトを提供し、来期には完成見込みの入居者管理システムが出来上がった段階でそちらを提供していく計画としている。
3.自主管理家主向けの入居者管理ツールは2025年1月期中に提供開始予定
現在は「Roomコネクト」を自主管理向けにカスタマイズした新ツールを開発中、2025年1月期中の完成を予定しているとのこと。
■業績
■業績見通しの達成確度
第2四半期を終えた同社の業績は、通期見通しに対して売上高が48.9%(第1四半期が24.2%、第2四半期が24.8%)、営業利益が10.3%(第1四半期が-17.2%、第2四半期が27.4%)の進捗となっている。現在のところ修正は出されていない。これを踏まえた通期見通し達成確度について考察していきたい。
1.純増契約数の回復により2024年1月期から売上高成長率が反転して伸長
先に述べたとおり、同社が不採算代理店との契約見直しを進めていたコロナ禍は、大手代理店に属する新規契約で数万件の減少が発生した一方で保有代理店数の増加がみられた。下表で見て取れるとおり、現在は契約の見直しに整理がつき、新たに契約した中小代理店に紐づく新規契約が増加の局面を迎えた段階にある。
■新規契約数および純増契約数
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
以上より、2022年1月期から2023年1月期にかけて一旦落ち込みをみせた売上高成長率が、2024年1月期以降に回復していくものと予想される。
■売上高成長率
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
2.2024年1月期中は売上原価の高水準が継続、営業利益率の伸長はそれ以降
利益率を左右する主要因である貸倒引当金繰入額について、2024年1月期は算定の対象期間が2020年2月~2023年2月と、貸倒率が高かったコロナ禍の初年度を含むことから、2024年1月期中は高い水準が継続するものと思われるが、2021年2月以降の実績が反映される2025年1月期以降に落ち着きを取り戻してくるものと予想される。
■営業利益率
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
3.GoldKeyの子会社化に伴う業績への寄与は微小
GoldKeyの子会社化による業績上乗せの影響は確認されず、あくまでも買収後のシナジーを期待したものと考えられる。業績へ寄与するのは2025年1月期以降となるだろう。
■GoldKeyの過去の業績
出所:官報決算データベース
以上
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません