6184 鎌倉新書 社長インタビュー 見えない資産をピカピカにすることが発展につながる by Ono

2019年12月6日

6184 鎌倉新書 社長インタビュー 見えない資産をピカピカにすることが発展につながる

鎌倉新書の清水祐孝社長にインタビューをさせていただき、
入社に至る経緯から将来に向けての成長シナリオまでお聞きしました。

お聞きしたこと
・父親から引き継いだ会社を立て直す
・財務諸表には載らないが社員がかけがえない資産 人をピカピカにすることが会社を発展させる
・終活に関わる無駄をなくす
・船賃をもらうビジネス
・強みは“チャレンジを続ける社風”

 

<企業紹介>

設立:1984年

上場:2015年12月

事業内容:葬儀、お墓、仏壇のポータルサイトを運営する。出版から始まったが現在の売上割合は小さい。

 

<企業理念>

人生のいろいろな場面に、人と人とのつながりを感じ、「ありがとう」を言う場面があります。

 

子どもが生まれてきたとき親は、赤ちゃんに向かって、生まれてきてくれて「ありがとう」

結婚する2人は、親に向かって、これまで育ててくれて「ありがとう」

葬儀のとき、故人に向かって、これまで家族でいてくれて「ありがとう」

社会が大きく変化し、このようなつながりの場面は見られなくなってきていますが、

それは、人がつながりを求めなくなったのではなく、

社会の変化が人と人とのつながりの場面を減らしているだけだ、と思うのです。

人は潜在的につながりを求めています。

 

そして、「ありがとう」と言ってもらえると、嬉しくなって、もっと人に喜ばれようとします。

これが連鎖していけば、社会はどんどん良くなります。

「親切」と「ありがとう」の交換は、豊かな社会を形成する土台だと思います。

この人生のさまざまな局面で「ありがとう」を感じる瞬間をこの社会の中に増やしていくこと、

そのために鎌倉新書は存在していきたいと考えています。

 

私たちは、

人と人とのつながりに「ありがとう」を感じる場面のお手伝いをすることで、

豊かな社会づくりに貢献します。

 

ー 入社前の経歴について

1989年11月まで証券会社で大阪、東京で営業を担当。
(*1989年といえば、そう、1989年12月末 日経平均は最高値38,915円を付けた)
まさにバブル絶頂。お客さんのほとんどは儲かっていて、仕事が楽しくてたまらない、という時期だった。

そんな中で父親から会社を手伝ってほしいと声をかけられ、1990年に父親が経営する株式会社鎌倉新書に入社。
小さな会社でなんとかギリギリで経営されていた会社だったが、社員の一人が退職し、運営が回らなくなりそうになり、
長男である清水祐孝氏に助けを求めた。

 

― 入ってみたときの会社の状況は?

もともと、会社の状態はほとんど知らなかった。
それまでは証券会社の営業しか経験がない為、経営の経験はなく、経営状況の良し悪しの判断基準もあまり知りませんでした。

入社したところ実態は予想以上に深刻な状態でした。
出版社だったので出版物を売るのが仕事です。印刷会社へ発注し、その支払いのための負債、買掛金が大きくなっていました。
印刷会社は景気が良く、また付き合いが長かったため、返済は待ってもらえる猶予があったが買掛金が膨らむ一方でした。

― 建て直しのきっかけは?

入社時から
“(創業時の事業である)仏教書の出版では食べていけない”
“新しい事をやらないとつぶれてしまう”
という思いが強くありました。

お寺に行くと葬式をやっていたり、お墓を売っていたりする。
調べてみると、ニッチだが市場規模は大きい。

その当時は
葬式は年間80万人 一人150万円くらい使う、市場規模は1.2兆円。
同様に仏壇・お墓もそれなりに大きな市場で合計すると2兆円。
これらの市場に向けた出版物の方がまだ売れると考え、業界向けの出版を開始。

― さらに発想の転換があったことがきっかけだそうですね 出版社から情報加工会社へ

業界紙を作っていると
・本じゃなくて中身が欲しいから買うのだ
・売っているのは本じゃなくて情報じゃないか
という当たり前のことに気づいたのです。

そこで株式会社鎌倉新書を“出版社”からは“情報加工会社”に定義しなおしました。

情報加工会社であれば展開方法も広がりがでる。(価格は例で実際とは異なる)
・これまで同様に一般的な情報を限定的に届けるだけなら情報誌・・・2千円
・自社にとって重要課題と考え詳しく知りたいならセミナーでより深く・・・2万円
・会社の事業に直接活用するためだけに情報をまとめるなら(コンサルティング)・・・100万円

と展開していった。
そんな時にインターネットが普及しだした。ビジネスにつなげるためにインターネットでビジネスやろうとしている人が
集まっているところにでかけてヒントを得ようと考えました。

その思いから葬儀の情報サイトを作った

”香典はいくら?”
”焼香は何回?”
などの情報だけ載せていたがビジネスモデルがなくお金にならない状況が続きどうしたらいいか模索していました。

 

― ビジネスモデル確立へのきっかけになったのは?

そんな時にある人から電話がかかってきました。
“病院の患者が危篤で、親族が葬儀社を探そうと困っているが、どこのだれに頼んだらいいかわからない”
”関連情報があるのだから葬儀社も知ってるんじゃないか”
とホームページに書かれていた電話番号を頼りにかけてきたのです。

そこで自社の書籍の読者リストから近くの葬儀屋を紹介しました。
すると問い合わせしてくれた方が喜んでくれた。もう一方の業者も予想外のところから売り上げが発生したことで喜んでくれた。

利用者と事業者のマッチングがビジネスになると考えたきっかけでした。

確かに市場を見渡せば需要がある。
利用者の多くは同じような状況におかれている。
・地方で生まれて東京に出て働いている人が多い
・自分では葬式をやったことはない
・安い買い物ではないので騙されたくない

ということから、適切な情報を見つける手段がないのです。

事業者側も同様な状況でした。
 一生に一度のイベントが突然訪れた人を安価で見つけ出す手段がない。
看板を立てたり、アナログ広告を配布して1人の顧客を見つける、という方法しかない。

ここにニーズがあることに気付き、事業者に提案しました。
・後払いでいいので広告を出してください
・キャッシュは後でいい
 これがうけいれられてビジネスが成立するようになった。

提案先の事業者は出版を通してすでに”鎌倉新書”を知っていたので開始時点の営業は比較的容易で、
“試しにやってみようか”とスムーズに進めることができました。

 

― 注力事業をWEBにシフトするなかでトラブルが発生したそうですね

商売自体は書籍販売があったが
・出版には限界がある
・情報配信はネットにシフトしていく可能性がある。

と考えていたが長年出版に携わっていた社員はそんな視点は持っていなかった。

出版事業の営業、取材を担当している社員にとっては出版の締め切り間近には終電まで働くブラック企業。
出版の担当者から見ればWEBサービスの売り上げがたたないなかでWEB担当は一日何やっているのかわからないのに定時になったら帰るという状況が続いていました。

その中で、少しずつ軋轢が生まれ、社長がいないときに出版の担当者とWEBの担当者の間で問題が大きくなりました。
みんなで話し合い、今後インターネットに注力するという方針を改めて伝えたところ、出版の担当者が徐々に辞めてしまった。

これまで一緒に頑張ってくれていた方が“辞めたい”と言ったときはさすがにつらかった。

― そのつらい時期を乗り越えて今がある。
では、今の御社の強みはなんだと考えていますか。

強みは特にない、といえばないですね。
・インターネットの技術があるわけではない
・他社がこの業界に入れないわけでもない

強みをあえてあげればつぎのようなことかもしれません。

強み① 既存に安住しない新しいチャレンジを続ける

事業は常に成熟して衰退するものですから、今伸びている事業もいつまでも伸びるとは思っていません。
そんな中で会社としては常に新しい事をやろうという姿勢を持ち続けています。


強み② 人こそが資産 人をピカピカにする

オーナー社長なので上場する必要もないのですが、上場しようという選択をしたのには理由があります。
出版社のビジネスは製品を製造して倉庫に在庫して注文うけて発送するのですが、
ネットビジネスの比率が高まるとPLは人件費の割合がドンドン大きくなっていく。
さらに企業規模が大きくなればどんどん増え、人だけのビジネスになるのです。
店舗もなければ工場も製品も在庫もない。
結局は人件費が多いのだから

“人をピカピカにすることが会社を発展させるための方法である”

ということだと考えています。

人をピカピカにするのに何が必要かを考えたとき、
この会社に入りたい人が増える企業になることであり、
オーナー企業として継続するよりも上場したほうが人は集まるだろうと考えました。
環境・風土・待遇を整備して多くの人が入りたい企業になる。
会社をよくすることが信頼関係を構築し、会社を大きくすることができます。

*説明会資料の表紙の写真

     

BSには載ってないけれども “人” これこそが私たちの資産だ

ということです。
極端に言えば、ですが

”ビジネスモデルは組織作りに劣後する”

ぐらいに考えています。

 

― 成長戦略について教えてください

私たちは日本の高齢者社会の終活の領域をやっています。
私たちのビジネスはどういうものかというとき、終活を川に例えて話しています。

利用者は家族が亡くなったときに川のほとりに来る。
安心してサービスを受けたいとやってくる。
川の向こう岸にはソリューションを提供してくれる事業者がたくさんいて、
私たちは利用者を船に乗せて適切な事業者の方のところに連れて行く。
自分自身でバシャバシャ泳いでもいいけど、ほとんどの方が初めてのことで難しい。

そこで渡るのが難しい川を船に乗せて届ける際の船賃をもらうビジネスをしているのです。

今は、お墓、葬儀、仏壇を必要とする方のための船を提供しています。
しかし、その利用者は同時に他にも様々な課題を抱えています。

・相続の書類手続き
・(亡くなる前の準備として)遺言書の作り方
・地方で葬式を行ったが、そのあとの事務的な手続きをしている余裕がない
・家を売りたい

と周辺の課題がたくさんのあることに気が付きました。
どれも、利用者にとって経験のない初めての事でわからないことばかりです。
そういった人たちを船に乗せて専門のソリューションを持った方のところに送り届ける。

会社としては葬儀をやるつもりも、信託銀行になるつもりもありません。
それらの業界はすでにたくさんの企業がひしめき合っている。

しかし、船に乗せて連れて行く人がいない。

自分自身で泳いで渡る(自分で見つける)といっても初めての事で判断基準がわからず、適切に判断することは難しい。
新たな周辺分野で情報を提供し、ソリューションを提供する企業を紹介するだけでも事業は大きくなります。
例えば、100人のひとが遺言書を書かなければならないと思っていても実際に書くのは5人くらいしかいないとして、
(実際の数字はわからないが)そこに情報提供し、ソリューションを提供する企業につなげることで20人、30人とする。

現在、紹介に対する成約率は30%程度です。
10万人の方を紹介してそのうち3万人くらいが利用してくれています。

2020年1月期の予想売上33億円は
3万人の利用者からそれぞれ10万円くらい手数料などを受け取っていると捉えることができます。

その母数と成約数を増やすことで売り上げを伸ばすことができます。
そのために私たちがやることはシニアとリアルな接点を持っている企業と連携して、
川のほとりに来る方とのつながりを増やすこと。

例えば日本郵便。
リリース:
日本郵便と連携して提供する「終活紹介サービス」が 東京都全域(1,466局)に試行エリアを拡大(2019年2月19日~)

今後、終活に関わるソリューションの種類を増やし、横に広げていこうと考えていますが、ソリューションの提供者になるわけではありません。これまで同様に、あくまでも必要としている利用者を適切なソリューションの提供事業者に送り届けるのが私たちの仕事です。

成長シナリオを整理すると次の5つになると考えています。

①既存事業の成長

②サービスラインナップを増やす

 

③葬儀お墓仏壇のネットワークはできており、税理士司法書士などソリューション提供者の全国ネットワークを作る

 

④リアルでつながる企業とのアライアンス

 WEBでつながることができない川のほとりに来る方とつながる方法を増やす。

日本郵便、デパート、金融機関などシニアとリアルで接点のある企業とのネットワーク作りをする。 

 

⑤それぞれの事業をブランディングする

 

― ”目指す姿”を定義しなおしましたね

目指す姿

これまで

”高齢者とその家族が必要とする供養サービスを比較して探せるweb/電話サービス”

これから

”終活において、高齢者とその家族が必要としていることを誰よりも深く理解し、
彼らが「やりたいこと」「やるべきと感じていること」
そして「困っていること」に、耳を傾け、寄り添い、一緒に解決するサービス”

 

高齢者が増える社会の課題解決に向き合うとき、そこにある課題は

ソリューションを提供する企業はニーズがない人にも働きかけてきたこと。

例えば保険会社、葬儀社、霊園などが、それを必要としている人にも必要ではない人にも
“保険入りませんか”
“葬儀はうちでどうぞ”

とアプローチしている。

本来、顧客のニーズありきのはずで、必要とする顧客に向かって、
“うちを利用しませんか”
とやるべきだが、ニーズを持った人がどこにいるかわからないため、このようなことが起こっている。

顧客のニーズを基に働きかける仕組みを作ったのがGoogleでしょう。
例えば、ある自動車メーカーが広告を出すときに、Google以前は車を必要としない人や車に興味がない人にも働きかけていた。

Googleは自動車メーカーの名前を検索した人に向けて広告を出すようにした。
ニーズのある人に向けて広告を出す仕組みを作ったのです。

私たちは証券会社が企画する終活セミナーを数多くやっているがいつも満席になります。
必要だとは思っているが、どうしていいかわからない、知りたいというニーズがあるということです。
潜在的なニーズはあるのに顕在化していない。
ニーズがあることと実際に行うことの間のギャップが非常に大きい。

われわれだからそこを埋めることができるのです

”われわれだからできる”

とは、つまり、

自分たちが売っているのではないから利用者が必要とするソリューションを持つ事業者につなぐことができる。

もし、我々が売るものを持っていたら、そのソリューションを提供していたら、利用者に最適ではないとわかっていても売りたくなるでしょう。利用者のニーズを把握し、その解決策をもつ事業者につないで解決の手助けをするのです。

目指す姿

”終活において、高齢者とその家族が必要としていることを誰よりも深く理解し、
彼らが「やりたいこと」「やるべきと感じていること」
そして「困っていること」に、耳を傾け、寄り添い、一緒に解決するサービス”

とはそういうことです。

ニーズを理解し、解決に導くまでの過程に無駄が多いことがこの業界にある社会課題であり、今後も続くでしょう。
この過程を効率化することが私たちの仕事です。

 

― 将来的に葬式をしなくなる、お墓がいらなくなる、といった社会になるのでは?

今後25年は亡くなられる方は増えますから利用者は増えるでしょう。

その一方で葬儀、仏壇など関連する商品・サービスは簡素化により単価は下落するのは自然な流れですね。

市場を掛け算で考えれば

マーケット↓=単価↓×数量↑

数量は増えるが単価は下降するというトレンドとなる。
としてマーケットは横ばいから微減の流れであり、長い目で見ると衰退するでしょう。

しかし、提供する事業者にとってニーズが高まる側面もあります。
単価が下がってもマーケティングコスト(顧客獲得コスト)は下げられません。
私たちはそこを効率化できることができるのです。

また、葬儀、お墓、仏壇、それぞれ市場は縮小することは確かだと思いますが無くなるかと言うと無くならない。
私たちが長期的に貢献できる市場は残り続けるのです。

 

<インタビュー後の筆者感想>

強みをお聞きした時、“これといった強みがない”という回答に少し驚いた。

しかし、そのあとに続く言葉で同社の本当の強みを知ることができた。

・現状に安住することなく新しい事に挑戦し続ける
・私たちの資産は社員
・社員をピカピカにすることが発展につながる

説明会資料の表紙の写真が社員の集合写真であることが意味することが理解できた。

私はちょうど

「見えない資産」経営―企業価値と利益の源泉 バリュークリエイト代表取締役 三富正博

を読んでいた。この本に書かれている

“企業が価値を創造するためには「見えない資産」が何よりも重要である”

見えない資産である、ワクワク(組織資産)、イキイキ(人的資産)、ニコニコ(顧客資産)が大きくなることは

将来のFCF(フリーキャッシュフロー)が大きくなることであり、それは企業価値が高まることを意味している。

同社は「見えない資産」を大切にする、大きくすることに注力している。

 

私たちは

”企業は社会的課題の解決のために存在している”

と考えている。
関わる社会課題が大きければ企業の成長可能性も大きい。
同社が関わるのは終活。

“終活に関する無駄”

という社会的課題をなくすことをビジネスとしている。

“成長企業への長期投資”

の候補企業であることを感じることができたインタビューだった。今後も継続して注目していきたい。
また、多くの投資家に対して財務諸表にある、「見える資産」の数字を見るばかりでなく、

「見えない資産」

を評価し、そこから将来を考える視点を持たなければならないことを改めて強調したい。

 

<バリュエーション>

時価総額 636億円
株価 1,670円(11/18終値)
PER(2020年1月期 会社予想)106.8倍
配当 未定

 

 

 

2019年12月6日コラム, 成長株投資, 銘柄研究所

Posted by ono