5695 パウダーテック 世界シェア7割のフェライトキャリアの一流企業  レポートby 相川伸夫

2018年12月27日

パウダーテック(5695)は、世界中のほとんどの人がかかわっている物を作っている粉末製造の一流会社です。
 寒い冬に欲しくなるカイロや粉末冶金用の鉄粉、食品等の品質を保つ脱酸素剤なども手掛けていますが、売り上げの8割を占めているメイン商材は『キャリア』と呼ばれるフェライトの微粉末です。

今回は同社のフェライトで作られたコア技術の詰まった粉末にまつわる話をさせていただきます。

 

 

 

■キャリアとは何か?

 コピーって不思議だと思いませんか?
光がサーっと動いたら同じものが出てくるんです!!魔法ですよ!!魔法!!

 コピー、複写は人類の大きな夢でした。
人類がこれほどまでに発展したのは、膨大な記録の蓄積と拡散を可能にした『印刷』技術の向上にあると思います。

 初期の発明はカーボン紙のような紙を上からなぞるような仕組みでした。
次に、太陽光などの光を使った仕組みやプレスするものなどが生まれました。
その後も様々な発明がされていき、1938年に電気だけを利用した『電子写真』という一瞬で簡単に印刷ができる技術がアメリカのカールソンによって発明されました。

現在でも使われているコピー機の原理です。

 電子写真には6つのプロセスがあります。

1、帯電
 文字や画像を読み取る準備をする
 (感光ドラムにマイナスの電荷を帯びさせる)

2、露光
 感光ドラム上に文字や画像を形成する
 (感光ドラムにレーザー光やLEDで印刷したいパターンを照射する。その部分は電荷がなくなる)

3、現像
 感光ドラムに形成された文字や画像のところにトナーを運ぶ
 (トナーはマイナスに帯電され、感光ドラムの電荷が除かれた部分にくっつく)

4、転写
 感光ドラム上のトナーを紙に写す
 (転写ローラにより、用紙の裏からプラスに帯電させると、マイナスのトナーは用紙にくっつく)

5、定着
 紙の上に載ったトナーを熱で定着させる
 (定着ローラで、熱を加えつつ押し付けることでトナーを用紙に定着させる)

6、クリーニング
 感光ドラムに残ったトナーを取り除く

 

『???』ってなった方は↓をどうぞ。
とても乱暴な説明ですが、↓で理解してもらうといいかもしれません。
※実際にコピー機を使ってるときをイメージして読んでください

【簡略版】

1、光が紙に当たる(紙をコピーする時に走る光のこと)
2、色の濃淡に応じて光を磁力にして記憶させる(機械内部にある感光ドラム(ローラー)に光⇒磁力に変換させて記憶)
3、磁力の力でトナー(色の粉末)を運んで紙の上に載せる(色の濃淡に応じて磁力が付いたローラーがトナーを磁力で引っ付けて紙の上に運ぶ)
4、紙の上に載ったトナー(色の粉末)を定着させる(磁力で持ってきたトナーを熱や圧力で固定させる)

 どちらの説明でも、3番目のステップでトナー(色の粉末)が感光ドラムに引っ付くのは「電荷(静電気)」を帯びているからです。もともとトナーは電荷をもっていませんので、トナーに電荷を与える必要があります。

その役割をしているのがキャリア(運ぶ)です。キャリアは、トナーと撹拌されることでトナーに所望の電荷を与え、感光体ドラムにトナーを運ぶ役目をしています。

キャリアには磁性があるので現像機内に戻り、また新たなトナーと混合撹拌され、ある期間繰り返し使用され、やがて交換されます。

『電荷???』ってなった方は電荷=磁力の一種だと思ってもらえればいいです(笑)
トナー(色の粉末)自体には磁性(磁石に引っ張られる性質)がないので磁石を近づけてもくっつかない。
磁石でくっつけるにはトナーを運んでくれる磁性体(磁石でくっつく物、鉄とか)と混ぜる必要があり、このトナーを運ぶ役割を持つ物質のことを『キャリア(運ぶ)』と呼んでいる。

と、とても乱暴な説明ですがこんな感じです。

 コンビニやオフィスでコピーしたすぐの紙ってホカホカですよね!?
あれはトナーを熱で紙に定着させているからです。

 この電子写真方式にはキャリア(トナーを紙まで運ぶための物質)が必要であり、そのキャリアの世界シェア7割を製造しているのがパウダーテックです。

ちなみに今説明した電子写真の他にインクジェット方式(家庭用コピー機のほぼ100%)やサーマル方式(レシートのような感熱紙)もあります。
 世界市場における出荷台数で話をするのであれば、インクジェット方式が世界のプリンターの6割、電子写真が4割を占めています。
家庭用のコピー機や数人規模のオフィスは安価なインクジェット方式(数万円)であり、世界でのプリンター出荷台数でみるとインクジェットの方が現在多いです。
数十名以上のオフィスで集中的に使うプリンターは電子写真式の200万円くらいするプリンターが95%以上のシェアで圧倒的です。
金額で表してみるとプリンター市場18兆円のうち電子写真が13兆円、インクジェットが5兆円ほどであり、それぞれ得意不得意の分野が違っているのでどちらかがすべての需要を取るわけではありません。
一概には言えませんが、一般論、一般認識としてインクジェットは印刷速度や品質面で電子写真より劣っており、現在家庭用の市場がメインです。
数十名以上のオフィス(企業)は、大量に印刷できて高品質な印刷品質を求めるので、それぞれに価格帯と販売市場の違いがあると思って頂ければいいと思います。

 よって、電子写真方式のコピー機は、そのほとんどがオフィスやオンデマンド印刷(自分で印刷したい画像とかチラシ作ってメールとか飛ばすと印刷してくれる)会社、コンビニに置いてあったりします。

 そうした世界の7割の電子写真のコピー機の中のトナーとセットで活躍するキャリアが、メイドbyパウダーテックなんだという風に解釈してもらえるとこの企業の凄さがわかりやすいかと思います。

■世界に誇る日本の印刷技術を支えたキャリア製造の一流会社

 世界で初めて電子写真方式のコピー機を商品化したのはアメリカのゼロックスであり、当然基本特許を取得していました。
ゼロックスの特許が切れる年の1970年代、日本企業は相次いで電子写真方式の商品化に参画。
 キヤノン、コニカミノルタ、リコーなどが次々に商品化していきました。

当時、トナーを運ぶキャリアには鉄を用いていました。
しかし、鉄は重く、トナーを痛めてしまうため1万枚程度しか印刷ができず、また鉄自体の磁性がとても強い(砂場で磁石を突っ込むだけでびっしり取れる)のでトナーが付き過ぎてしまう悪さから印刷した文字が濃くなり字が潰れたりしていました。

パウダーテックは当時からキャリアの研究開発していました。
 得意先から上記の課題をクリアできるキャリアを求められ、長年の研究開発の末ついに1982年、『フェライト』で既存の問題を大きく改善するキャリアの開発に成功したのです。
フェライトを用いることにより印刷可能枚数は10倍に増え、高精細、高画質化に成功しました。

 フェライトとは化学式で、MFe2O4で表される酸化鉄を主体とした磁性酸化物であり、Mのところにマンガン、マグネシウム、亜鉛、ニッケルや銅などを組み合わせたり、焼成する条件や粒の形や大きさを変えたり、表面にシリコーン樹脂やアクリル樹脂をコーティングすることで、様々な特性が複雑に変化する特徴があるのです!!

フェライトを用いた技術で他社の追随を許さないまでに研究開発を続けていくうちに印刷機のメーカーとパウダーテックがコピー機の共同開発をするのに時間はかかりませんでした。
良いコピー機を作るにはキャリアもトナーもマシーンそれぞれに合ったものを開発する必要があるのです。

 結果、開発から35年が経った今でも富士ゼロックス、リコー、キャノン、京セラなどに各社企業の印刷機専用のキャリアを今でも、新規製品立ち上げ都度それぞれ開発し、生産、納入をしています。

既製品では至高の品質など作れないのです。一品一品、粒の大きさや元素配合のバランス、焼き方、粒の表面改質の条件などをトライ&エラーで開発するのです。
そうした日本人の緻密な合わせ技術と職人魂によって、今日の世界市場の7割以上の複写機が日本企業の製品で占められているのです。

日本企業の高品質、高シェアには同社の陰ながらの貢献があります。
 同社以外に替えが効かないこともキャリア事業のセグメント利益率が20%以上の高利益率をもたらす理由です。

まさに一流企業ではないでしょうか。

■キャリア事業に高まる成長期待値

 キャリアというのはトナーを運ぶためには無くてはならない製品ですが、キャリア事業の売り上げがどのように成り立つのか、また今後についての伸び代について考えます。

まず、トナーは消耗品です。
キャリアも定期的に交換が必要で、最近の主流はあらかじめトナーとセットになっているタイプです。よって、キャリアも消耗品です。
印刷すればするほどトナーが減るのに比例してキャリアも減っていくのでストック的な収益が発生します。

また、新規にコピー機(複合機:FAXやスキャナーなどが付いたものも含む)を作る時にもあらかじめキャリアが充填されるのでこの時にも売り上げが立ちます。

 次にカラー化についてです。
例えば、日本におけるほとんどのオフィスやコンビニに置いてあるコピー機で『カラー』が印刷できることと思います。
日本でのカラー化率は70%以上とも言われています。
コンビニでモノクロコピーは10円、カラーコピーをすると50円かかったりします。

 なぜ5倍もするのでしょうか?

それはカラー印刷の方が白黒に比べて多くのトナー(キャリア)を使うからです。※色の三原色をイメージしてもらうとわかりやすいかも?
よってカラー印刷をする割合が増えるほどキャリアが売れるというわけです。

 ここで、世界に目を向けてみます。
日本、アメリカ、ヨーロッパなどの先進国のカラー化率は同程度です。

 しかし、中国や韓国、その他のアジアに目を向けるとカラー化率は約30%程とまだ低水準であり、今後も伸びることは明白でしょう。
かつ日本のプリンター製造メーカーもパウダーテックのキャリアにしても国際特許の取得はもちろんのこと、肝心要のトナーとキャリアで作る現像剤だけは日本国内で製造して海外の製造拠点に送っています。
技術流出をそれほどまでに恐れているのです。

 今度はマイナス要因であるペーパーレスの流れを見てみます。
10年以上前からエコの流れはあり、また近年IT化の流れによって郵便ポストに入れられるチラシなどが減ったのも実感しているのではないでしょうか?
新聞や年賀状、雑誌やビジネス書、コミックもどんどん電子化されていっており、電子書籍関連の業績は右肩上がりです。
印刷業界においてペーパーレスは大きな懸念要因です。
しかし、パウダーテックにおいては特に気にしなくてよいと思います。
むしろ追い風とも言えるかもしれません。

 なぜなら↑に挙げた例は電子写真方式ではなく『版』を使った印刷方式を使ったものだからです。

※↓ここを見るとわかりやすいです
『カラー印刷のしくみ(外部サイト)』
http://www.3djma.jp/basic_knowledge/

上記の部分に関してのペーパーレスは着実に進行中です。
 しかし、元よりそれらの印刷物はパウダーテックのキャリアを使う電子写真方式ではありません。
ですので、新聞や雑誌の印刷数が減っても影響はありません。
 むしろ従来の『版』を使った少品種大量生産の印刷方式を辞めて、多品種少量生産に向いている電子写真に業界の一部の需要が流れてくる可能性すらあります。
プリンター大手各社にも取材していますが、やはり意欲的に営業活動を進めており、引き合いもあるようです。

 現在、電子写真方式のユーザーの多くはオフィスです。
オフィスでもペーパーレスの流れがゼロではありません。

 しかし、最近だと『月額定額で20000枚まで印刷し放題!!』
というCMを見た方も多いと思いますが、このサービスが伸びています。
印刷枚数も増加傾向のようです!
カラー印刷の数量が伸びることは同社には追い風です。

 また、世界的にIT技術は目覚ましい速度で発展、進歩し続けています。
それに付随するようにあらゆる情報量も爆発的な速度で増えているというのもまた事実です。

 心当たりがあるのではないでしょうか?
ひと昔前はエクセルを使った表やグラフで処理された資料だけで済んでいませんでしたか?
 グラフを使う時も細線、点線、破線、一点鎖線、ドット線などを使って白黒で表すことが多かったように思います。

 しかし、最近はどうでしょうか?
情報(図表や画像、イメージ、ビッグデータ)が多くなればなるほど言葉や白黒だけで情報を伝えるのは難しいです
つまり、パッと見ただけで分かるような『視覚で理解できるカラフルな図表』
 手に入る情報が爆発的に増えた⇒情報を有効に活用したい⇒カラーの図表の印刷枚数が増える=カラー化率の上昇×印刷枚数増加という傾向が発生しています。

 これは世界で同時に起こっている現象です。

結論として、こうした背景からキャリア事業に関しての伸び代はまだまだ高いのではないかと考えます。

 パウダーテックは1983年には50t/月だった生産設備を、今では600t/月以上にまで段階的に設備増強をしてきたとともに、現在も生産設備を増強すべく新しい建屋の建設をしています。

 今後もキャリア事業は年5%以上で成長を続けていくのではないかと思います。

■キャリア事業で培ったフェライトのさらなる新規用途研究

キャリア事業は依然好調です。
他社には真似できないほどのフェライトに関する魔法のノウハウがあるからです。
 原料は鉄の酸化物が主であるので原価コストは比較的安いにも関わらず、料理の仕方によって和・洋・中に形を変えるかの如く様々な用途があります。

 その新規用途の開発をしている開発陣は平均30歳と若く、もっとすごいものを開発してやるんだ!!と、やる気に満ち溢れています

 同社は4年前から東京ビッグサイトでの新機能展に出展し、これまでに企業からの引き合いは200件以上を超えています。

 フェライトパウダーによる様々な新規用途応用を列挙すると多岐にわたります。
1、磁力を利用した『粉体輸送・フィラー』
2、粉体の凹凸を大きくして表面積を大きくした『水処理・土壌改良・吸着剤・フィルター』
3、米国食品医薬品局に認可された材料での『血液検査キット・生化学分野解析』
4、ナノスケールまで微細加工と焼成した粒子による『磁性流体・フィラー・磁性インク』
5、球体ではなく板状にすることで『電磁波シールド・顔料(ラメ)』
6、スポンジのような内部がスカスカな性質を利用した『触媒担持体・低密度フィラー・吸着剤・フィルター』
7、六角形の板状成形による形状磁気異方異性を利用した『ボンド磁性用フィラー・磁性シート用フィラー』
8、フェライト粒子の外側を銀コートしたもの『白色顔料、導電性フィラー・電磁波シールド』

 フェライトのポテンシャルはとても高いです。
 新規用途の一例として、お客様との間で共同で特許を取得して進めているようです。

 現在開発中の数多くある案件の中で、最も実現が近いとされるのは
・粒径1~3μmの電子部品用途
・ナノ粒子を用いた電子部品用途
・板状フェライトを用いた電磁波関連用途

等があるようです。
 電磁波シールドと呼ばれるものはたくさんありますが、金属によるシールドは電磁波を反射させてしまい、悪さを生んでしまうこともあります。
 フェライトの場合は吸収するようにも指向性のように方向を変えたり、樹脂に混ぜても使えたりと汎用性も高いです。

 IoT機器やセンサーの筐体に使えば電磁波のノイズから守ったり、交通系の非接触型ICカードの枠に使えば非接触での感応力を向上できたり、携帯電話の周波数付近に対しての電磁波吸収性能など様々な可能性を秘めていたりします。

↑で挙げたのはあくまで開発用途であり、どうなるのかはまだわかりません。
 とはいえ、本業での収益が安定している中で、新規用途の引きあいが多いと期待せずにはいられませんね(笑)。

■パウダーテックの財務状況2018年2月16日(金)終値

 終値4845円
 時価総額143億円
 ※今期3月期予想
 売上 109.0億円
 営業利益 17.8億円
 経常利益 17.7億円
 純利益 11.6億円
 配当 95.0 円
 配当利回 1.97%
 PER 12.0
 PBR 1.5
 ROE 12.6%
 自己資本比率75.3%

2003年3月期の赤字以降15年間収益は黒字を維持!
2011年3月期にリーマンショックから立ち直り、前年比+200%の営業利益に回復。
そこからほぼ右肩上がりのきれいな上昇を続けて今に至る。
まさにピカピカの優良企業!!

今後も安定成長しつつ、利益の増加分は株主への増配を既定路線に成長を続けていくでしょう。

 また、フェライトの主原料は鉄ではありますが、鉄価格の影響はほとんど受けないでしょう。
というのもフェライトの主原料は、<鉄鉱石から銑鉄を作り出すときの副産物>だからです。
 世界中に溶鉱炉はありますが、キャリアとして当然使いきれるわけもなく、廃棄されてしまう副産物の二次利用です。
そう考えると資源価格の影響を受けるのは添加物に対してのみなので、同社はディフェンシブ銘柄かもしれませんね!

5年後には売上高は150億円、営業利益30億円、純利益19億円
EPSで640円、配当性向30%で一株配当192円になっていても違和感はありません。

 高い技術にあぐらを掻くことなく、真摯にお客様の要望に応えるべく研鑽を積み、尖り続ける同社の今後のますますの発展に期待します!

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by 相川伸夫