4263 サスメド 治療用アプリでマーケットをけん引する by 宇佐見

2022年5月4日

1.ブルーオーシャン「治療用アプリ」マーケット

マーケットの成長

2010年、米国WellDoc社が世界で初めて開発に成功しFDAより承認を得て世に出た、治療用アプリ。デジタル技術やIoTを用いて病気の治療を行う技術とされるデジタルセラピューティクス(DTx)と呼ばれるものだが、それ以来この市場は勢い成長を開始し現在その初期段階にあると言える。市場は今後4年で1.8倍と予測され、関連する論文数は2014年頃より急増している。

■左:DTxグローバル市場規模  右:DTx等についての論文

治療用アプリとは

さて治療用アプリとは何か。受診した患者に対して医師の判断で処方するもので、文字通りアプリで治療を行う。治療形態の一環と判断され、保険適用の対象となる。処方された患者は例えば数か月などあらかじめ設定された期間、処方されたアプリを使って治療を進める。具体的には、糖尿病患者が食事、運動、体重、服薬状況、血圧、血糖値をアプリに入力すると行動変容を促すメッセージが表示される、といった使い方をする。多くの場合、薬との併用も可能である。またアプリは、処方しても実際の服薬有無を医師側が管理し辛い薬と異なって、医師が管理画面で患者の使用状況を随時確認可能であることから治療上のメリットも大きい。さらには開発期間及び費用の面で、医薬品と比較して期間は6割、費用は最大1/10に抑えられる点においても大きな利点を有する。

■用法の一例

・薬物療法に加えて行う生活指導や認知行動療法(糖尿病、肥満、心血管疾患、メンタルヘルス領域)
・生体センサーを搭載したシャツとの併用によって発作を一早く察知し服薬を促す(てんかん)
・鎮痛薬の服薬タイミングの最適化
・VR リラクゼーションビデオ等と併用したペインコントロール

■イメージの一例 左:CureApp 高血圧用  右:塩野義/akill 小児ADHD用

現在、治療用アプリの開発は世界先進各国で、保険適用基準の設定等の点から国により対応の速度が異なるものの、進められている。

■各国における治療用アプリの承認事例数

出所:CureApp社「デジタル療法の開発と社会実装」より

国内での取り組み

世界では2010年アメリカを皮切りに開発が進捗しているのに対し、日本国内で明確な動きが確認されたのは2014年、薬事法の改正において医療ソフトウェアがはじめて薬事規制の対象となったことであった。5年後の2019年、複数企業によって「日本デジタルセラピューティクス推進研究会」(参加企業:アイリス、アステラス製薬、サスメド、塩野義製薬、田辺三菱製薬、帝人ファーマ、デジタルガレージ)が発足。そして2020年、ニコチン依存症治療アプリがCureApp社から開発され薬事承認を取得、後に保険適用も決定し、これが国内初の治療用アプリの誕生となった。直近の2022年診療報酬改定では「プログラム医療機器に係る評価」が新設され、保険点数付与に関する設定がより具体詳細化した。

■国内における治療用アプリの開発の現状


出所:サスメド資料、医薬産業政策研究所資料を元にリンクスリサーチ作成

welldoc社が開発したbluestarの国内承認を目指すアステラスや、逆に当初から米国での販売を見据える大塚製薬、台湾で独占販売権を既に所有している塩野義製薬などの例もあり、国境意識が薄い市場となっている。
また、上表で確認されるように、医薬品等で薬事承認を得る経験に長けていることや医療機関に対するネットワークが豊富である製薬会社等大手企業とベンチャーとの協業といったスタイルが多いのも特徴といえる。

2.サスメド社の取り組み

治療用アプリ開発企業として先陣を切る

2021年12月マザーズに上場したサスメドは、現役医師である上野太郎氏が2015年に立ち上げた会社。現在治療用アプリ開発企業として国内ではCureApp社(未上場)と並び先陣を切る存在だといえる。現在41歳の上野氏は東北大学医学部を卒業後、博士課程において、日本学術振興会特別研究員、東京都医学総合研究所研究員として、従来より興味を抱いていた意識のメカニズム解明に関連し、睡眠分野において基礎研究に取り組んできた。平行して睡眠外来での診察も行う中、睡眠薬の多剤処方の現実に対して問題意識を持つに至る。認知行動療法が第一選択とされる諸外国と比べて日本は、医療リソースの制約から薬剤処方に頼らざるを得ない現状。この壁に対して、アプリによる認知行動療法という解決策を編み出した上野氏は、当時医師の起業を後押しする環境に恵まれたこともあり2015年、不眠症治療用アプリの開発を掲げて会社を立ち上げる。

■上野医師

向精神薬の多剤処方に関しては国も問題視していた事柄でもあり(2018年診療報酬改定で減算の対象設定)タイミングは絶好であったといえるのだろう、会社設立翌年の2016年にNEDO起業家候補プログラムに、2019年には経済産業省の委託事業「飛躍 Next Enterprise」に採択され、周囲からの期待を背にバックアップを受けながら、2022年2月、承認申請までたどり着いた。申請承諾がおよそ1年後の2023年2月頃、その後保険点数付与完了までにおよそ半年が見込まれ、上市は2023年夏頃が予定されており、既に塩野義製薬との間で販売提携契約が結ばれている。
現時点で同社は、不眠症治療用アプリに後続する7本のパイプラインを平行して走らせており、これら7本について承認申請の見通しについて具体的開示はされていないものの、開発本数では国内トップ、開発速度においては既に対禁煙依存症アプリを上市させているCureAppに次ぐ二番手となっている。

■現在開発中の治療用アプリ

出所:サスメド資料より

収益モデル

実際に販売開始後の収益見通しについて検討するに際し、主に考慮するのは以下の2点となる。

①病院、販売会社(製薬会社)、開発会社(サスメド)3社における収益の分割割合
②各アプリが対象とする病気の市場規模(病気毎の患者数等)および保険点数

まず①について、病院側にアプリを採用してもらうためのインセンティブ付与も要されることから、収益については病院、製薬会社と開発会社つまり、不眠症治療用アプリの場合、塩野義製薬とサスメドで均等に分け合う形になるだろうとのこと。
②に関しては、病気によって患者数そして保険点数も異なることから、収益予測算出に際してはアプリ毎に調査をしていく必要が出てくる。

■不眠症治療用アプリの推定市場規模

出所:サスメド資料より

■各市場規模及び保険点数

出所:サスメド資料より

2本目の柱 ブロックチェーン臨床試験システム

デジタル医療の研究開発を進めて行く段階で上野氏は、医療データの信頼性担保の重要性について改めて認識を深くする。治験の過程ではデータ転記、原材料との照合過程において人が介在し労働集約的である上、CRO委託費用約1,700億円のうちモニタリングコスト(人件費)が55.2%を占めている現状にも課題を見出す。これが、同社2本目となる事業立ち上げの動機となった。従来の治験システムにおける人的労働部分をブロックチェーン技術に置き換えるシステムで、既に特許の取得を終え実装可能な段階にあるが売上はこれからとなっている。

■SUSMEDシステムに代替した場合の費用削減効果及び同社収益見込み

出所:サスメド資料より

協業

協業先は現在全9社となっている。また、現在進行形で複数の製薬会社と商談を進めてもいる。

■業務提携先

出所:サスメド資料を元にリンクスリサーチ作成

3.業績

2022年6月期収益予想は約3.13億円で、その内訳は次の通りとなっている。
・塩野義製薬からのマイルストーン:約2億円(残額45億円は来期以降計上予定)
・SUSMEDシステム提供:約1億円

2022年5月4日成長株投資, 銘柄研究所

Posted by usamiseira