4169 ENECHANGE エネルギーの未来をつくる by Ono
ENECHANGE レポート 2021/4/19
CHANGING ENERGY
FOR A BETTER WORLD
”エネルギーの未来をつくる”
創業ストーリー(以下のリンクから、ぜひご覧ください)
https://enechange.co.jp/story/
<会社概要>
2015年4月設立。
2020年12月東証マザーズに上場。
電力小売事業者向けに特化したサービスを手がける。
サービスは
”エネルギープラットフォーム事業”
と
”エネルギーデータ事業”
の2つ。
<事業内容>
エネルギープラットフォーム事業(以下、プラットフォーム事業)は消費者向けの比較サイトを運営。
電気・ガスの比較から切り替えまで一気通貫で行うことができるサービス。
エネルギーデータ事業(以下、データ事業)は電力・ガス会社向けクラウド型DXサービス。
売上構成比は
プラットフォーム事業 58%
データ事業 42%
両事業とも顧客は電力小売事業者。
〇プラットフォーム事業
2016年4月の電力自由化により新電力の小売り会社が増え、電力切り替え需要が高まっている。
プラットフォーム事業は消費者向けに電力・ガス切り替えサービスである「エネチェンジ」及び「エネチェンジBiz」を運営している。
「エネチェンジ」は一般家庭向け
「エネチェンジBiz」は法人向け
主な顧客企業
*電力供給量上位100位中52社
〇データ事業
データ事業は電力・ガス会社向けクラウド型DXサービスをSaas型で提供する。
契約顧客企業数32社
提供するサービスは次の3つ
EMAP(Energy Marketing Acceleration Platform)
SMAP(Smart Meter Analitics Platform)
JEF(Japan Energy Fund)
*下図参照
EMAPは電気・ガス料金診断、電気・ガス申し込みをWEBから行うことができるシステム。
SMAPはスマートメーターのデータを活用して電力小売事業者が彼らの顧客別の収益性分析や、顧客向けの見積作成を行うシステム。
電力小売事業者が見積書を作成する際に、英国ケンブリッジ大学における長年の研究とAIの活用により、より効率的で高精度な見積もりを作成できる。同社のグループ会社でイギリス・ロンドンにあるSMAP ENERGY社はヨーロッパの電力会社への導入実績がある。
<事業別のビジネスモデル>
〇プラットフォーム事業
・供給量上位100社中52社、電力供給量の約70%をカバー
比較サイトを運営し、電気・ガスのサービス及び料金比較から切り替え処理まで一気通貫で行うプラットフォームを提供する。
提携会社数は52社。日本国内の大手電力会社、大手ガス会社、商社系、石油系などの大手新電力小売りのほとんどを含む。電力自由化により電力小売事業者が増加し、登録会社数は700社程度あるが、上位100社で供給量の99%をしめる。同社は上位100社のうち52社、供給量の約70%をカバーしている。長期で安定した経営ができる事業者に絞って契約している。
・収益源は切り替え時の”一時報酬”と契約継続中の”ストック収入”
収益は同社サイトを経由して切り替えた際の手数料の一時報酬と、契約を継続している間の電気料金に比例したストック収入がある。
2020年12月期の売上高は989百万円。前期比58%増。
一時報酬は560百万円。ストック収入は429百万円。
一時報酬は新規切り替えが約9万件で1件当たりの単価は各社が切り替えを促すキャッシュバックキャンペーンが増加したことで増収率を拡大。
ストック収入は対象顧客数が24万件で前期比48%増。解約率は月次1.1%と低水準にとどまる。
*キャンペーンの例:31,000円のキャッシュバック
切り替えを促すキャッシュバックキャンペーンが増えている。
〇データ事業
電力・ガス会社向けクラウド型DXサービスをクラウド型で提供する。
Saasで提供するプロダクトの導入時のカスタマイズフィーとユーザー数(顧客数、スマートメーター数など)に連動する従量報酬によるストック型ソフトウェアライセンス収益がある。
2020年12月期の売上高は724百万円で前期比23%増。うちストック型収益が478百万円であり66%を占める。
・会社数 32社
<強み・参入障壁>
プラットフォーム事業、データ事業ともに競合はなく、国内の電力・ガス比較サイトとしてはほぼ独占している。日本において価格比較サイトの圧倒的トップである価格コムは同社と協業し、新電力からの切替比較部分は同社が担当する。
同社が独占し、競合他社が参入しにくい参入障壁は主に次の2つ。
①電力切り替えの為のシステム接続が複雑であること
②電力制度の変更について正しく理解するためにスペシャリストの存在が不可欠であること
①電力切り替えの為のシステム接続が複雑であること
顧客から電力・ガスの切り替えの申し込みを受けた場合、個人情報を一度預かって各社に送る。
このシステム接続を4年以上かけて52社までつないできた。
新たな企業が入ってきたとして、電力会社側にも接続のための開発の手間がかかるため、すぐに採用してくれるものではない。システム面での参入障壁が高い。
②電力制度の変更について正しく理解するためにスペシャリストの存在が不可欠であること
電力制度の変更が不定期にあり、今後も変更が予定されている。変更内容について正しく把握して対応する必要がある。同社は城口CEOがケンブリッジの博士に進学、社外取締役にロイヤルダッチシェルの元日本法人社長、レノバの元CFOがいる。他にも執行役員として国内電力大手の東京電力で事業に携わってきたメンバーがいる。エネルギースペシャリストチームによって経営されている。
国内で様々な製品・サービスの価格を比較するサイトとしてほぼ独占状態の価格コムが同社をパートナー企業として同社サービスを選んだ。成長が期待できる市場でありながら自社でサービスを提供しなかったのは上記の参入障壁の高さにあるのではないかと推測される。新電力からの切り替えには価格コムを入り口としてENECHANGEの比較サイトに切り替わるルートが出来上がっていることも強みと言えるだろう。
<業績推移>
<成長可能性>
年平均30%以上の売上高成長、2027年12月期に売上高100億円を目指す。
2020年12月期売上高17億円に対して約6倍の規模。
プラットフォーム事業が年平均30%以上の成長で牽引し、データ事業は2024年以降に成長加速する計画。
達成時期は前後するとしても長期的な成長可能性が大きいことが次の2つのことから理解できる。
①市場規模が大きいこと
②オンライン比較サイトの活用が普及する中でシェアが拡大すること
①市場規模が大きいこと
大手電力会社の投資金額が同社のターゲットとする市場。
プラットフォーム事業は電力会社が顧客獲得のための事業であり、大手電力会社の広告費が対象市場となる。大手電力会社広告費は約457億円。電力自由化以降に約230億円増加した。同社のプラットフォーム事業の売上高は9億円。マスメディア広告中心からWEBサイトを利用した広告に移行した場合の拡大余地は大きい。
データ事業は電力会社のIT投資が対象となる。電力自由化以降に電力会社のIT予算は約450億円増加した。同社のデータ事業の売上高は7億円。電力各社にとって自社内で新規に構築するよりも実績がある同社システムを導入することが信頼度が高く、コストパフォーマンスが高い選択肢となる。
・広告費
・IT投資の予算
②オンライン比較サイトの活用が普及する中でシェアが拡大すること
新電力への切り替えが進んでいる。一般家庭17.7%。法人が29.2%であるが、ENECHANGEを利用して切り替えたのは、一般家庭1.3%。法人1.8%と少ない。また、新電力の上10社の9割が大手電力・ガス会社、通信会社であり、対面で一般家庭に接点のある企業による切り替えがほとんどである。対面からWEBサイトを利用したオンライン切り替えが一般化すれば市場を独占している同社の売上が大きく伸びる。
*新電力は増えているが、依然としてオフラインがメイン オンラインはこれから本格化
電力契約に占める新電力のシェア(契約口数ベース)
2017年3月 → 2020年11月
家庭 3.5% → 17.7%
法人 20.4% → 29.2%
新電力切り替えにおけるENECHANGEのシェア
一般家庭 1.3%
法人 1.8%
新電力利用者の1%しかネットを使って切り替えをしていない。
”東日本大震災から10年を考える 数字で見るエネルギー業界の軌跡”より
https://enechange.co.jp/news/press/decade-after-311/
*切り替えしているきっかけの大半は対面(オフライン)
どうやって、どこに切り替えているか。
家庭向けの上位10社は大手ガス会社や通信会社
独立系の電気会社はLooopのみ。
対面で強い接点を持つ企業が9割をしめる。
同社は前年比で40%伸びた。
同水準の成長を継続していく。
<成長戦略>
〇プラットフォーム事業
認知度が高まることで成長率が高まると考え、費用対効果をみながら広告投資を積極化する。
イギリスでは広告を積極化し認知度が高まったことでオンラインを利用した切り替えが加速した。
イギリスは日本と同じ島国であり、すでにガス・電力の自由化が進んだことから、今後の日本の戦略を考える上で参考になる先行例である。
・イギリスの大手価格比較サイト、MONEY SUPER MARKET社(以下、MSM社)の売上高推移は以下の通り。(単位:百万円)
2010年 652
2011年 964
2012年 1,197
2013年 2,306
2013年に売上高が倍増している。この年にMSM社が行ったのは広告費を大きく増やし、認知度アップに注力したこと。その後も継続して成長しており、成長加速のきっかけとなった。
〇データ事業 プラットフォーム事業をドアノックとして契約につなげる
アプリの追加等でARPU増も可能だが、契約顧客数を増やすことを優先する。
現在の契約顧客数は32社、毎年前年比+20%~30%を達成し、早期に50社以上の契約者数とする。
その後利用アプリの追加等で徐々にARPU増にシフトする。
プラットフォーム事業で契約済みの企業を中心に、EMAP、SMAPなどを提案する。すでに取引中の企業に対する提案をするため、飛び込み営業のようなものではなく提案までの難易度は高くない。
データ関連の制度改革は2024年までに予定されている。特に重要なのは2022年電力データ自由化、利用者の許諾を受けたうえでデータを活用したサービスを提供することが可能になる。
2023年スマートメーター設置完了、EVの本格普及とエネルギーを取り巻く環境が大きく変化する中でエネルギーデータを活用したサービスを先行して開発し、提供している同社の優位性は大きい。
2024年まで続く制度改正のための新たなサービスの開発も継続し、制度改正以降に成長を加速させる。収益面では貢献は2024年以降となる。
・エネルギー制度改革のスケジュール
・業界全体の変化とともに注力事業を広げる
日本のエネルギー業界は2050年の脱炭素社会を実現するために、「エネルギーの4D」という4領域におけるイノベーションが求められている。新たにエネルギー事業者に必要なITサービスをクラウド型で提供する。4Dとは、Deregulation(自由化)、Digitalization(デジタル化)、Decarbonization(脱炭素化)、Decentralization(分散化)。
業界全体の変化とともに
電力ガス切り替え(エネチェンジ)
↓
電力会社向けクラウド(EMAP・SMAP)
↓
再エネ発電所向け(JEF)
↓
VPP向けクラウド(エネチェンジDR)
と徐々に下に注力事業を広げる
〇中長期成長イメージ
2027年12月期までに売上高100億円を想定
プラットフォーム 60億円
データ事業 40億円
2024年以降にデータ事業の成長速度が高まり、2030年ごろには両事業が同程度の売上になるイメージである。
<データ事業の類似企業>
データ事業のバリュエーション評価の参考として日本以外の類似企業を紹介する。
uplight社(非上場)
米国の80社の電力会社向けにシステムを提供している。
ユニコーン企業で1500億円のバリュエーションがついている。
https://uplight.com/press/uplight-adds-new-investors/
・事業規模
uplight社:電力会社80社 1.1億人に提供
ENECHANGE:32社 5,000万人に提供
<リスク>
プラットフォーム事業:投資期間が長期化する
イギリスの事例を基に認知度向上のために広告投資を積極化している。WEBサイトを利用した新電力の切り替えが一般化すれば同社の成長スピードが高まるが、一般家庭のマインドの変化が想定よりも遅れた場合、投資期間が長期化する可能性がある。
データ事業:制度改革の進捗が不透明
2024年まで日本では制度改正が続く。その前のタイミングで上場し、投資をしながら取引を拡大する計画。制度改正は政府主導で行われるもので、改正が計画通り行われない可能性がある。予定通り行われたとしても、2024年までは投資期間、制度改正が遅れればその期間は先行投資の期間が続くことになる。
成長スピードが高まり、大きく利益貢献するのはその後となる。
<マネジメントについて>
代表取締役CEOの城口氏は東日本大震災を機にエネルギー問題への関心を深め、エネルギー電力制度の最先端であるイギリス、理系最高峰であるケンブリッジ大学へ留学。電力データAI解析の工学部修士・博士課程の進学(現在は事業に専念するため休学中)。研究テーマはエネルギーデータ、スマートメーターのデータ分析。留学中に株式会社エプコの岩崎社長(現株式会社エプコグループCEO)から声を掛けられ、共同でエネルギーデータを共同研究する場所として電力データの産学連携研究機関「ケンブリッジ・エナジー・データラボ」(CEDL)を設立し、研究成果をもとに同社とSMAP ENERGY LIMITED(イギリス子会社)を創業した。
同社は上場にあたって経営陣は保有株を手放していない。東証で上場に必要最低限の株数のみを売り出して上場を果たした。成長可能性は大きく、未上場のまま資金調達して事業規模を拡大してから上場する選択もありえたが、成長初期の段階で上場。上場は大手電力・ガス会社と大きな取引を行うにあたって信用度・透明性を確保するため。制度改正が続く現状で上場したことはベストのタイミングと判断した。大手電力会社を含む52社から更なる取引拡大が見込まれる。
<日本の脱炭素社会実現の過程で中心的な存在になる可能性>
コロナ禍の影響でリモートワークが増えたことは一般家庭で電気代見直しに対する意識は高まっている。新電力の本格的な普及を促すものとなり、同社の成長を後押しすると考える。
脱炭素社会の実現のために一般家庭でのEVの普及、企業において電力調達手段の見直し、効率的な活用など、エネルギー関連の変化が大きくなる。同社はイギリスの先行事例を理解したうえで、日本独自の制度改正に先行してキャッチアップしている唯一の企業であり、日本の脱炭素社会の中心的な存在になる可能性がある。
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