3989 シェアリングテクノロジー - F1エンジンが駆け抜ける- by 安田清十郎
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20180404 シェアリングテクノロジー 安田清十郎レポート
【沿革】
シェアリングテクノロジーは、現社長の引字圭祐氏が大学在学中の2006年に創業した。創業当初はアロマ製品輸入のECサイトを運営していたが、2009年に賃貸住宅向けのインターネット回線の取次サービスを提供する「ネット110番」事業を開始。2012年には、現在も同社の中核事業であるWEB事業を開始した。なお、ネット110番事業は、会社分割後、株式譲渡により非子会社化している。
【事業内容】
現在の同社の主力事業はWEB事業であり、これは「WEBマーケティングサービス」および「WEBコンサルティングサービス」の2つのサービスから構成されている。2017年9月期の同社売上に占めるWEBマーケティングサービスの割合は89.1%であり、売上高は前年比164.5%と高成長している。WEBコンサルティングサービスは、同社売上に占める割合が 10.9%であり、売上高は前年比ほぼ横ばいである。
WEBマーケティングサービスは、「ペット葬儀110番」や「漏電修理110番」といった「バーティカルメディアサイト」と呼ばれる、特定のジャンルに特化したウェブサイトを運営し、ユーザーと、ユーザーに対してサービスを施工する加盟店をマッチングするものである。同社は2017年9月期末で193ものバーティカルメディアサイトを運営している。 このバーティカルメディアサイトでユーザーを集客し、24時間365日稼働している自社運営のコールセンターで受付をし、全国各地の加盟店とマッチングする。総加盟店数は2017年9月期末で2,318となっている。
マッチング後は、加盟店がユーザーに直接連絡し、加盟店とユーザーが直接契約をする。契約成立後、加盟店からユーザーにサービス提供がおこなわれた場合に、加盟店から同社に成果報酬が支払われる。なお、成果報酬型のほか、同社が加盟店にユーザーを紹介した時点で加盟店から同社に報酬が支払われる紹介報酬型の報酬システムもある。
加盟店としては、成果報酬型ではユーザーへのサービス提供、紹介報酬型では同社から加盟店へのユーザーの紹介がなければ、同社への報酬が発生しない。同社WEBマーケティングサービスを利用すると効率的にユーザーを獲得できる一方、同社の加盟店となっただけでは何も支出が発生しないことから、同社の加盟店となるインセンティブが生じている。全国2,000以上の加盟店を集めるのは一朝一夕にはいかない。2,000以上の加盟店の存在が、一つの強力な参入障壁となっている。
もう一つの参入障壁は、自社運営のコールセンターである。一つのコールセンターでいくつものジャンルの電話を受けるノウハウが確立されている。このようなコールセンターをつくるのは容易ではない。今後さらに新たなジャンルのバーティカルメディアサイトを運営する場合であっても、既存のコールセンターが利用できる。この場合、同社の売上が増加しても、費用はほとんど増加しないため、限界利益率が高いと考えられる。
三つ目の参入障壁は、蓄積され続けるデータである。同社のマッチングサービスが利用されればされるほど、地域ごとのユーザーのニーズや動向、加盟店に関する情報が蓄積されていき、マッチング率や収益力が向上していく。また、投下する広告宣伝費を決定する際の資料となる。
なお、同社は、バーティカルメディアサイトのプラットフォームとして、「生活110番」というウェブサイトを運営している。同社はGoogle等の検索エンジンから各ジャンルのバーティカルメディアサイトに直接集客することもでき、プラットフォームの生活110番を経由して集客することもできる。
WEBコンサルティングサービスは、依頼主のウェブサイトに対して様々な施策を実施することで、集客を増加させる事業である。現在、当事業の取引先は、1社のみである。
直近までの株価
【上場から中期経営計画発表までの取り組み】
同社は2017年8月3日に東証マザーズおよび名証セントレックスに上場した(なお、現在は、名証セントレックスでの上場は廃止されている)。その後、後述のとおり2017年11月10日に中期経営計画を発表した。この間、以下のとおり、非常に活発に新たな取り組みをおこなった。
2017年
・8月15日 新規事業である航空券予約サイト「ソラハピ」事業の開始を決定・9月8日株式会社ティアとの業務提携
・9月1日 株式会社LIFULL MOVE(株式会社LIFULLグループ)と事業提携・9月14日株式会社鎌倉新書と事業提携
・9月19日 株式会社Robot Home(株式会社インベスターズクラウド子会社)と事業提携
・10月5日 ウェブサイト「引越し一括見積もり王」開設
・10月30日 民泊型ホテル事業の開始を決定
・10月31日 AI(人工知能)を活用したコールセンターを開発する株式会社6CNSへの出資を決定
・11月2日 ドローンスクールに関するポータルサイト開設を決定
・11月6日 ウェブサイト「フランチャイズの窓口」等を運営するIdealink株式会社の子会社化に向けた基本合意書を締結
【中期経営計画】
同社は2017年11月10日、2017年9月期通期決算発表および2018年9月期業績予想発表と同時に、中期経営計画(http://contents.xjstorage.jp/xcontents/AS03964/8715adf7/8d98/4340/9246/a3bf5ca6117b/140120170803447075.pdf)を発表した。2017年9月期の売上高は1,754百万円、経常利益は389百万円であるところ、本中期経営計画では、2020年9月期に、売上高7,000百万円以上、経常利益1,700百万円以上を目指すとした。なお、2018年 9月期および2019年9月期は戦略的投資フェーズとし、一時的に表面上の経常利益が圧迫される計画となっている。
この中期経営計画では、既存事業を強化することはもちろんであるが、買収や新規事業の創出にも言及している。同社の取り組みは、
1.WEBノウハウを活かして投資効率UP、
2. 収益性、投資効率が極めて高い、
3.既存サービスとシナジーがある、
の3つの視点を重視している。
【中期経営計画を受けた資金調達】
上記中期経営計画では、2018年9月期において、手元現預金と銀行借入れにより、約30億円以上の戦略的投資および経営資源強化をおこなうとしている。これを受け、2017年12月14日、3,250百万円の銀行借入と1,000百万円の社債発行を発表している。
【中期経営計画発表後の取り組み】
同社は、上記中期経営計画発表後、同計画に沿う形で、下記発表をした。
2017年
・11月20日 株式会社トレジャー・ファクトリーとの顧客紹介契約を締結・12月12日 航空券予約サイト「ソラハピ」新規開設
・12月14日 民泊型ホテル事業における物件追加を決定
・12月19日 ゲームアプリの開発及び運営を行う株式会社ビジュアライズへの出資を決定
・12月25日 Idealink株式会社の株式取得(子会社化)及び連結決算への移行(フランチャイズの窓口株式会社を新設分割し、同社を完全子会社化)
2018年
・1月15日 労働派遣事業および有料職業紹介事業の許可申請
・1月23日 民泊型ホテル事業における物件追加を決定
・2月1日 海外留学サービス「スマ留」を運営する株式会社リアブロードの株式取得(子会社化)を決定
・2月15日 特区民泊のみならず旅館業法に則った民泊事業も開始し、さらに物件追加を決定
・2月16日 ウェブサイト「お金つくーる」を運営する株式会社APEXYの株式取得(子会社化)を決定
・2月22日 内装工事見積もりサイト「アーキクラウド」の事業譲受を決定
・2月22日 電子プリント工業株式会社の株式取得(子会社化)を決定
・2月22日 株式会社名泗コンサルタントの株式取得(子会社化)を決定
・3月12日 「生活110番」のアクセス数増加に伴うサーバー強化が完了
なお、一連のM&Aについて、2018年2月22日付「M&Aに係るご説明資料」
(http://contents.xjstorage.jp/xcontents/AS03964/b01c1fb2/d989/4177/a403/0f2fc9c69fa8/140120180222476559.pdf)で詳細に説明されている。この内容は複雑であり、本レポートで全てを説明することはできないため、各自、同資料を参照されたい。内容を簡単に要約すると、 以下のとおりとなる。
同社の一連のM&A戦略は、3つある
戦略Aは短期間に投資回収率30%以上が見込まれるもの、戦略Bは積極的な投資により高成長させるもの、戦略Cは買収価格に対して純資産が潤沢であり、安定的な事業継続を目指すものである。
戦略A
戦略 A にはフランチャイズの窓口株式会社、株式会社 APEXY、アーキクラウド事業が属する。これら 3 件のM&A時の直近EBITDAは127百万円である。同社はすでに約 200のウェブサイトを運営しているため、今回買収したウェブサイトを単体で運営するよりも効率的に運営できると考えられる。買収時よりもトップラインも伸ばしていくと考えられ、 今後の EBITDAは、買収時よりも増加すると考えられる。なお、フランチャイズの窓口株式会社の子会社化は 2017 年 12 月 25 日に完了している。また、株式会 APEXYの子会社化は2018年3月31日、アーキクラウド事業の譲受は2018年3月22日に実行される予定である。同社はフランチャイズの窓口株式会社を完全子会社化した 2017 年 12 月 25 日に連結決算へ移行している。2018 年 1 月 29 日に連結決算開始に伴う連結業績予想を発表したが、同日より後のM&A(株式会社 APEXY およびアーキクラウド事業の業績)は業績予想に反映されていない。
戦略B
戦略 B には株式会社リアブロードが属する。同社の M&A 時の直近売上は 222 百万円、営業利益は-24百万円である。今期ノルマ売上を 400 百万円と設定している。株式会社リアブロードの業績も、2018 年 1 月 29 日に発表された連結業績予想には反映されていない。
戦略C
戦略 C には電子プリント工業株式会社および株式会社名泗コンサルタントが属する。2社をあわせた買収価格は 1,800 百万円である。これに対し、2社の直近の簿価純資産の合計 は 2,520 百万円である。買収価格と簿価純資産の差額は、負ののれんとなる。なお、同社 は 2018 年 2 月 1 日、2018 年 9 月期第 3 四半期決算より国際財務報告基準(IFRS)を任意 適用する旨を発表している。また、2 社の過去 3 年平均売上高の合計は 2,460 百万円、過去 3 年平均調整後EBITDA(EBITDAから同社買収後必要な費用及び同社買収後不要な費用 を調整したもの)の合計は 165 百万円である。この 2社の買収による負ののれんや売上高、 営業利益も 2018 年 1 月 29 日に発表された連結業績予想には反映されていない。なお、同社は、2 社の合計簿価純資産約 2,500 百万円のうち、買収会社の安定的な利益確保のために必要な純資産は 1,200 百万円と試算している。買収会社の利益確保のために不要な資産は現金化することで、次の買収資金に充てることができると考えられる。
新規事業
新規事業としては、既存のバーティカルメディアサイトに加え、新規ジャンルのサイト立ち上げに言及している。既存のバーティカルメディアサイトのノウハウやコールセンターという資源を活用できるため、失敗の可能性は小さいであろうし、仮に失敗しても、財務的に大きなダメージとなることは考えづらい。民泊事業に関しても、自社で物件を保有するのではなく、一棟まるごと賃借する方法を採っていて、手堅い印象である。シルバー人材事業についても触れられているが、当事業は初期投資が少なく、立ち上がりから半年でみても赤字にならない可能性があり、また、同社既存事業の人手不足を解消するというシナジーが見込める可能性があるという。
【募集新株予約権(有償ストック・オプション)の発行】
同社は 2017 年 11 月 27 日、一定の業績達成を行使条件とする有償ストック・オプションの発行を発表した。割当を受けたのは同社取締役 2 名である。このストック・オプションが全て行使された場合に増加する普通株式数は、同社発行済株式総数の11%に相当する。
このストック・オプションには、2018 年 9 月期から 2020 年 9 月期のいずれかで、経常利益 10億円を達成した場合には 50%が行使でき、経常利益 17 億円を達成した場合には100%が行使できるという行使条件が付されている。上述の中期経営計画に沿った内容であり、中期経営計画達成への強い意欲を感じる。なお、2018 年 2 月 15 日に、国際財務報告基準(IFRS)の任意適用に伴う募集新株予約権(有償ストック・オプション)の行使条件変更が発表されている。同社は IFRSの任意適用を決定したが、IFRSには、ストック・オプションの行使条件に当初掲げられていた経常利益という概念がない。よって、今般、ストック・オプションの行使条件として、経常利益ではなく IFRS における営業利益とすることとしたものである。
【代表取締役引字圭祐氏の株式処分信託契約】
創業者で同社社長、大株主の引字圭祐氏は、2018 年 2 月 23 日、SMBC信託銀行との間で、株式処分信託契約を締結した。対象株式は 580,000 株である。290,000 株までの処分の 下限価格は 5,000円、290,000株超、580,000株までの処分の下限価格は 6,500 円である。 これは、時価総額の向上を図りながらも株式の取引活性化を図り、企業価値向上を促進させるため、時価総額が 300億円程度、400億円程度と段階的に増加したタイミングで株主数を増加させることを目的としたものである。
【今後の見通し】
同社は月次流通総額を公表している。なお、この流通総額は、原則として、WEB マーケティングサービスにおける、弊社加盟店がユーザーに提供したサービスの施工金額の合計である。2018 年 9 月期第 2四半期の流通総額の前年同月比は、2018 年 1 月度 185%、2018 年2月度 187%と絶好調である。このように順調な既存事業を伸ばしつつ、新規事業や M&A を積極的に推進している。同社の中期経営計画における目標は高いが、達成に向けた滑り出しは順調と言ってよいだろう。同社の買収案件は、一見やみくもに見えないこともないが、大型案件を避け、小型案件をたくさんこなしており、一度の大失敗で再起不能になるリスクを避けている。また、全体として純資産を毀損しないようになっているし、事 業の伸びしろがあまりないと考えられる案件も、安定的なキャッシュフローを産み出しているものである。
今後も、既存事業をハイペースで伸ばしつつ、M&Aや新規事業により業績を伸ばし、中期経営計画における目標達成に邁進していくものと思われる。
同社の魅力は、圧倒的なスピードと成長力である。良くても業績横ばいという会社もたくさん存在しているが、同社のスピードは F1 のようである。ドライバーもリスクを考慮しつつ、大胆に行動している。ただし、組織はまだまだ若い。自動車で言えば、エンジンは一流、ドライバーも大胆不敵だが、まだそれに耐えうる車体を備えていないという状態な のかもしれない。しかし、たとえば買収案件では、大型案件を避けてポートフォリオをうまく組む等、クラッシュを避けるために十分配慮している様子がうかがえる。今後も、ものすごいスピードで成長していく姿をぜひ見せていただきたい。
(安田清十郎)
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