2551 マルサンアイ  豆乳で国内シェア2位

2018年12月27日

豆乳の会社マルサンアイ

Figure1:伸びる豆乳の生産量

マルサンアイは「みそと豆乳の会社」である。祖業はみそだが、近年豆乳の売上が多くなってきている。投資家目線で見るとほぼ「豆乳の会社」と認識されていることだろう。マルサンアイの豆乳のシェアは業界2位。1位はキッコーマンである。

Figure2:マルサンアイは豆乳でシェア2

Figure3:豆乳の売上が約6割を占める売上構成

豆乳ブームはいつまで続くのか?

と、いうことは豆乳が売れなくなると大変なことになる。日本人は飽きやすい民族である。日本では毎年のようにカタカナの新しいお菓子が生まれては消えていく。豆乳もその道をたどるのだろうか?

そうはならないと思う。

豆乳のブームは過去3回。80年代、90年代後半から06年まで、09年から現在までだ。現在も継続中の「第三次ブーム」はなぜ長期のトレンドとして続きそうなのか?

理由1-息が長いこと

第三次ブームの開始から9年近くたった。豆乳の生産量は減ることなしに増え続けている。一過性のものであればもう終わっていてもおかしくない。

理由2-流行の性質が過去とは違うこと

流行の性質も違う。第一次ブームは「人工的にブームを作った」と評する人もいるぐらい業界主導のものであった。第二次ブームでは狂牛病報道や豆乳が健康食材として報道されるなど、外部環境によるところが大きかった。

豆乳ブームの検証

第一次ブーム 業界主導のブーム

19834月の日経産業新聞には「豆乳市場はここ数年“倍々ゲーム”で急成長し」ているとある。しかし、翌年になると、豆乳の消費量は減り始めた。19841月の産業新聞を見てみると、「豆乳の名前だけは広がったが、ファッション飲料としてのイメージが広がり過ぎて消費者の本当の理解度は低い」と紀文のマーケティング部がコメントを出している。

さらに同紙によれば、「日本豆乳協会に加入しているメーカーは十三社。他にアウトサイダーのメーカーを含めると、主だったところは三十五社を数える。」という。2018年の日本豆乳協会の加盟企業は6社であることを考えるとどれだけ競争が激しかったのか見て取れる。

さらに1984年8月になると「豆乳の需要が低迷する一方で、生産設備過剰が業界全体の大きな課題となっている。・・・「三個百円」などという破格な安値販売もまだ一部ではみられる」と、ブームの終焉を匂わせる記述がある。

85年にもなると生産量は最盛期のほぼ半分まで落ち込む。同年8月同紙には「はしゃぎすぎだった。今となれば、人工的にブームを作ったことが豆乳という商品にとってマイナスになった」という当時の紀文ヘルスフーズ副社長のコメントが載っている。

この第一次豆乳ブームでは粗悪品があふれ、中には「大豆の粉と水を混ぜただけで豆乳と称した商品」などもあったという。(200312月の同紙)

第二次ブーム 外部環境手主導ブーム

再び豆乳の消費量が伸び始めるのは99年ごろ。

当時(9911)の産業新聞を見ると、「豆乳類の販売が伸びている。・・・ヘルシーイメージが強い半面、大豆特有の青臭さが苦手という人もいて、従来、支持層は中高年にとどまる傾向にあったが、今年に入り各社は飲みやすさを追求した新製品を相次いで投入。それをきっかけに購買層が広がり、市場が膨らんだ。」とある。

第二次ブームのスタートは品質向上や健康イメージの広がりであったが、

  • 20006月から7月にかけての雪印集団食中毒事件の発生

  • 2001年に狂牛病の流行で牛肉、乳製品のイメージが落ちたこと

  • 2002年ごろから豆乳が健康食品としてテレビや雑誌にとりあげられたこと

などのさまざまな外部要因で売上が伸び始める。生産量の上昇も2005年まで続いた。

しかし、病気の流行は食い止められるもの。メディアも同じことをいつまでも取り上げ続けない。狂牛病の終息とメディア報道の減少で豆乳の生産量は大きく減る。

豆乳以外の事業の検証

みそ事業

最近ご飯を家で炊いてますか?最近家でみそ汁を作ってますか?

私はどちらもノー。

ご飯はたまに炊く。ただ、みそ汁を作るのは手間もかかるし、保管も面倒。味噌があることはあるが冷蔵庫の中で干からびている。パンのほうが食べたいときに食べれるし、冷凍すれば保存もきく。ラクである。

ということで、統計を引き出すまでもない。日本人はみそもコメも食べなくなった。残念ながらみそ事業には豆乳ほどの成長は期待できない。おまけにみそは発酵させなければいけないので豆乳より作るのに時間がかかる。

昔のようにただ普通にみそを作っているだけでは誰も買わない。そこで当社が注力しているのが「インスタントみそ」である。フリーズドライのみそもあるが、面白いのはみそのボトル。

Figure4:マルサンアイのボトルみそ

インタビュー中にもマルサンアイの方から「これは使ってみないと良さがわからないです」と言われた。ということで実際に買って使ってみた。

食べてみた

買ったのは「とろける甘味噌だれ」と「だし入り赤だし」。ボトルは近年しょうゆに使われるようになった中身が酸化しないボトルである。

まずみそだれ

Figure5:揚げ物にみそだれをかけているところ。

Figure6:昼食、マグの中身は赤だしのみそ汁

どちらのボトルも中身がたれずらく、注ぎ口も汚れづらかった。

味もさることながら、冷蔵する必要がないのがすばらしい。真空パックのボトルなので、開けてもかなり長くもつ。これなら机の引き出しにいれておける。みそ汁は職場で小腹が空いたときに軽食代わりになるし、味噌だれがあればフライがとてもおいしくなる。

飲料事業 アーモンドミルク契約解除の理由

同社は20137月にブルーダイヤモンド グロワーズ社とライセンス契約を結んでアーモンドミルクを販売し始めた。売上は好調だったようで四季報でも好調であることが何度か言及されている。しかし、201710月になって、アーモンドミルクのライセンス契約を解除している。

なぜ好調の製品の販売を止めてしまったのだろう?競争に負けてしまったのだろうか?

これは、ライセンス契約が「味、宣伝文句、パッケージなどはブルー社の方針に従う」となっていたのが理由のようだ。ブルー社は製品を世界で同じ味、販売方法で流通させている。なので、同社にも他国でのやり方を踏襲して販売することを求めていた。

例えばブルー社のやり方では、アーモンドの健康効果をうたったりすることができない。ブルー社の製品はアーモンドの風味が少ないが、これを調節して風味を強くすることもできない。これでは日本の顧客に合わせた変更ができない。両者は何度か話し合いの場を持ったようだが、結局決裂してしまった。

その後、同社は20183月より「タニタカフェ監修」をうたって新たにアーモンドミルクを販売しなおしている。パッケージには「コレステロール0」、「ビタミンC」、「オレイン酸」など健康に良さそうな単語が並んでいる。

これは「失敗」というより、「出直し」と考えるべきである。

新工場と中期計画

20176月。マルサンアイの鳥取工場が竣工した。この工場建設計画は同社始まって以来の大プロジェクトである。工事は一期と二期に分かれており、6月に終了したのは一期工事。一期、二期合わせた投資総額は約77億円。両方の工事が終了すると鳥取工場だけで、豆乳5万キロリットルの増産が可能になり、同社の豆乳生産量は11万キロリットルから16万キロリットルに伸びる。

20179月期の同社の業績は売上高約250億円、営業利益約7億円、純利益約6億円である。これだけみてもいかに投資額がかなりのものであることがわかる。2017年にローリングされた中期経営計画を見ても、この償却負担ため、しばらくは利益の縮小を見込んでいる。

Figure7:2017年中期経営計画ローリング時点での経常利益計画

同社の説明によれば、工場が稼働して、生産が伸びてくればこの計画は十分達成可能であるとしているが、ここまで大きな投資を決意した背景には何があったのだろう?

巨大投資の背景

前述の通り豆乳の需要は非常に伸びている。実際工場が竣工する前は工場を24時間フル稼働させていたらしい。それだけのことをやっても需要をギリギリ満たせるか満たせないかだったようだ。

需要が満たせなければ欠品になってしまう。欠品すれば顧客からの信頼を損なうだけではなく、売り場もなくなってしまう。小売店は棚を空けることを嫌うからだ。いったん他社に棚を奪われてしまったら、取り戻すのは非常に難しい。

人も機械も24時間働けるようにはできていない。人には休憩が、機械にはメンテナンスがいる。しかし工場を止めるわけにはいかない。工場建設の決定は企業としての死活問題であったことがわかる。

鳥取工場の利点

鳥取工場では少人数かつ、低コストで操業が可能である。

賃金

鳥取は賃金が安い地域である。

例えば同社の鳥取工場すぐ近くのローソン。ローソンのウェブサイト上の求人によると、日中の時給は750円で、深夜では950円だった。ちなみにリンクスリサーチのオフィス近所のローソンでは時給が1000円スタートだった。都心と比べるとかなり安い水準である。(どちらも20185月時点)

鳥取は山がちなためきれいな水が豊富にある。工場では豊富な地下水を使っている。

少人数

すべての工事が終了すれば、当社の生産能力を5割程度アップさせる鳥取工場。操業に必要な人員は意外に少なく、完成後は70人程度という少人数で操業できる。

リスク

原材料

豆乳もみそも原材料は大豆である。

農林水産省のウェブサイトによるとアメリカが世界1位、ブラジルが世界2位の生産国で、最大の消費国は中国。海外では油脂、飼料など大半が食用以外で消費されるが、日本では3割が食用である。

Figure8:世界の大豆生産量と消費量(農林水産省より)

当社によると今の所大豆の価格は安定しているという。しかし、中国とアメリカの行動次第で状況は大きく変わることがあるだろう。

見込み生産

クルマなどと違って食料は「必要なときに必要なだけ作る」ということが難しい。空腹を感じればすぐその時に何か食べたくなる。「これから発注して納品は明日です。」というわけにはいかない。

必要になりそうな量と時期を予測して生産し、予め必要な量を店頭に並べておく必要がある。もしこの読みを間違うと欠品や過剰生産が起きる。

業績と従業員数

20179月期

売上高:25,346百万円

営業利益:710百万円

営業利益率:2.8%

従業員数:381(うち151人が臨時)

平均年間給与:625万円

2018年12月27日銘柄研究所

Posted by 古瀬雄明