2269 明治HD 価格が価値を決める社会に抗う

2020年5月28日

2269 明治ホールディングズ

価格でなく、価値を提供する企業

新型コロナウイルスの影響で景気の悪化が懸念されている。

アナリストからの質問

”景気が悪化したら、高価格帯の商品に影響はありませんか”

驚いた、この質問にどんな意味があるのだろう。

社長が回答する言葉のトーンが少し変わった。

今まで淡々と回答していたのが

へその下のあたりに力が入った声。

 

”私たちはこれまで、商品の価値を提供してきた”

”1,2年変動があるかもしれないが、バタバタしない”

”これからも価値を提供していく”

”価値を伝えていく”

 

立派。

”私たちのどこを見てきたのだ”

というメッセージ。

 

投資家が短期的な変動要因に一喜一憂しても仕方がない。

消費者に商品を提供しているのだから、影響を受けないわけがない。

外部要因で変動があると思えば、より一層、その企業の強みを理解することに集中すべきだ。

 

〇健康意識の高まりで強みが生きる

新型コロナウイルスの影響で、健康意識の高まり、家庭内での食事の機械の増加により、
同社の業績も好調。

現時点では新型コロナウイルスの影響は同社の業績にはプラスに働いている。

4月に入ってもヨーグルト、おいしい牛乳などが好調に推移している。

食品メーカーだが
牛乳、ヨーグルト、チョコレート、と提供する商品をみれば
健康食品メーカー
といってもよいのではないか。

〇過去業績を振り返る

 

2013年ごろから2016年にかけて約5倍になった。

 

 同期間は売り上げの成長以上に、利益率が改善した。

地道に高付加価値商品の提供をすすめ、選択を集中をすすめたことが市場で認められた時期であった。

その結果、現在では食品セクターでは高い利益を実現している企業となっている。

実施したのは次のようなもの。

・提供商品数の削減

 菓子の商品数を絞り込みを始めた

 例:ガムの主力ブランド キシリッシュを年間販売数を25から4へ

・資産の売却

 例:ザバススポーツクラブを2013年7月にセントラルスポーツに売却

 *現在はザバスブランドのプロテインを提供

 

〇消費に振り回されることからの脱却

このころ、開発商品数は増え続けて年間400品目ほど提供されてきた。

他の多くの菓子メーカーも同様である。

その要因はコンビニの成長。

コンビニの棚を獲得するために、季節性商品や新商品の継続した開発が求められた。

その結果、開発されて、売れなければ次へという流れに飲み込まれてしまった。

 

売上を伸ばすためにコンビニの棚を獲得することは必須だったかもしれないが

その結果、利益率も2%程度と極めて儲からない事業が出来上がってしまった。

そこに問題意識を持って一念発起。

商品点数の絞り込みに着手し、利益率改善につながった。

その結果が市場で評価された。

という時期であった。

〇一つの商品に踏み込んで調べることでわかること

 表面的な業績の数字をみるだけでは企業の経営は見えてこない。

代表的な一つの商品を調べていくことで、その企業の体質を知ることができる。

長期投資を実践するうえでぜひ実践していただきたいこと。

 

明治HDといえば、

牛乳とヨーグルトとチョコレート

それぞれ長期間愛され続けている商品がある。

今回は牛乳にフォーカスを当ててみたい。

同社の代表的な牛乳と言えば

”明治おいしい牛乳”

 

〇価格が価値を決めていた

価格はどうやって決まるのか

本来、価値が価格を決めるはず。

しかし、デフレの進行により、食品の多くは価格が価値を決めていた。

消費者の多くは、商品の価値を判断する能力がどんどん低下している。

価格で品質を判断する材料となり、 

”安いものは質の低いもの”

長期的なデフレの要因だろう。

”安かろう悪かろう”

というやつだ。

価格が安ければ、価格相応の価値と考えてしまう。

”価格が安い、価値も低い、粗雑に扱い、残ったら捨てればいい、また買えばいい”

高いものだったらどうだろうか

大切に扱い、最後の一滴、最後の一粒まで味わうだろう

価格が価値を決めてしまう。

消費者にそんな悪癖が蔓延してしまった。

 

消費者の判断力の低下が価格低下を引き起こしていた。

そんな中で牛乳の価格は長期的に低下してきた。

スーパーで買い物をしていればわかるが、牛乳はスーパーでは特売の商品として扱われる代表商品。

牛乳の価格低下の理由は、消費者の判断力低下だけではなく、企業の努力不足の面もある。

それまで牛乳は製法上の工夫がされてこなかった。

牛乳は成分規格、から細菌数、殺菌条件や保存方法など省令で細かく定められており、差別化が難しいためである。

 

〇食品は健康にいいだけでなく、おいしいからこそ受け入れられる

 

”牛乳を健康のために飲んでいる”

といいながら、価格の安いものばかり買っている

”あなたの健康はそんな安いものなのか”

と突っ込みがいれたくなるほど、多くの消費者は特売の牛乳に手を伸ばす。

しかし、明治は戦ってきた。

そんな中で同社が挑戦したのは

”おいしさ”

への挑戦だった。

”明治おいしい牛乳”

https://www.meiji.com/100th/meijioishiigyunyu.html

抜粋

”おいしい牛乳”の開発が始まったのは1989年

研究の結果、牛乳に含まれる酸素が加熱殺菌時に臭いやクセの原因となっていたことを発見。加熱前に酸素を追い出し、成分の酸化を防ぐナチュラルテイスト製法を確立した。これにより生乳本来の風味を保つことが可能となり、搾りたての生乳のおいしさというコンセプトを実現した。また、ネーミングについても、コンセプトが一言で伝わる方向で検討。味に対する自信を最もストレートに表現でき、誰もが覚えやすい理由から「明治おいしい牛乳」と命名した。

1989年の開発開始から2002年の発売まで13年かかった。

まず、

2002年「明治おいしい牛乳」

牛乳を栄養だけでなく改めて

”おいしい”

という価値をダイレクトに提示

店頭価格はいまだに他社商品に比べて2割程度高く販売されている。

もちろん、”おいしい”には同社の長期にわたる努力がある

同社独自の製法を開発した

ナチュラルテイスト製法

である。

https://www.meijioishiigyunyu.com/feature/

化学と教育 55巻1号 2007年

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kakyoshi/55/1/55_KJ00007514520/_pdf/-char/ja

 

「ナチュラルテイスト製法」の特長を簡単に言うと,「牛乳の殺菌時,牛乳中に存在する溶存酸素を除去し,
加熱時に起こる牛乳中の成分と酸素との問で起こる反応を防ぐことで牛乳の風味劣化を抑える」 

過程に分解すると

・搾乳後、大気中の酸素を吸収してしまう(溶剤酸素)

・牛乳の殺菌の際に、その酸素が加熱されて、いやな匂いが発生する

・その酸素をミキサーで窒素ガスと混ぜて、溶剤酸素を窒素に移行させて減らす

・酸素を減らしてから加熱殺菌する

ということ。

〇価値転嫁のスパイラル

地道な価値訴求を継続し、さらにその努力が開花するのが

2016年

容量変更と新容器の開発である。

全国に展開している牛乳でリキャップが可能な牛乳はおいしい牛乳だけではないだろうか

・容量900ml

・リキャップ可能な容器

の商品の提供。

1000mlが当たり前であった牛乳を900mlに。

再掲

もう一度見てほしい

キャップの形状と900mlの表示

 

少食化により、消費量が減り、廃棄されていることに問題意識をもち、内容量を減らした。

価格に対して消費者は非常に敏感である。

量を減らすことは実質的な値上げになる。

デフレが続く中で値上げを宣言することは簡単ではない。

それを容器変更も併せて価値を訴えた。

容量と容器を同時に変更したのがすごい。

 

リキャップは便利だが牛乳では採用されてこなかった。

なぜ、他社も含め、牛乳では採用されなかったのか。

価格転嫁ができないからである。

長期にわたって、価値を提供し、価値を伝えてきたからその価値にあった価格を提示できた。

そして受け入れてもらえた。

他社は簡単に追随はできないはずである。

 

開発は続く

”おいしいへのこだわり”

”健康へのこだわり”

に引き続き注目している。

 

2020年5月28日成長株投資

Posted by ono