HUMAN MADE(456A) 裏原発ブランドが挑む、限定性と量産化の両立
1. HUMAN MADEの源流 – 裏原宿ストリートが育んだ文化的土壌
HUMAN MADEは、創業者NIGO氏が1990年代の原宿で築いてきた日本発ストリートカルチャーを、次の段階へ進めたブランドである。
裏原宿のムーブメントは1980〜90年代に原宿で発展した。アメリカの黒人コミュニティにおいて人種や階級への抵抗を起源として発生したストリートカルチャーが、日本ではそうした意識よりも遊びや創作を用いて翻訳され、キャラクター性やコラボレーションを重ねて広まっていった。その代表的なブランドの一つが、1993年にNIGO氏が立ち上げた A Bathing Apeである。
こうした日本的ストリートは、裏原宿を訪れた海外アーティストとの交流を通じて逆輸出され、世界でファンを獲得していった。Louis Vuittonメンズクリエイティブ・ディレクターのPharrell WilliamsがNIGO氏の長年の友人であり、同社でアドバイザー兼大株主となっている事実も、その広がりを示している。
HUMAN MADE のプロダクトは、NIGO氏が幼い頃から好んできたアメリカンヴィンテージをベースに、日本の素材や縫製仕様を取り入れて耐久性や仕上げを現代基準まで高めている点が特徴。ハートロゴを中心とする可愛い感にヴィンテージ感がミックスされた雰囲気で、BAPE よりも日本発らしい柔らかさが感じられ、その広がり方は、アニメやキャラ文化と近い部分がある。
また、HUMAN MADEは発売する全ての商品で供給数を絞ることを戦略としている。少量生産による欠乏と熱量が希少性を高める構造は、初期の裏原宿ムーブメントが形成してきた。当初は生産キャパシティの制約から必然的に少量しか作れなかったが、それが顧客の熱狂を生み、文化として成熟していった。同社はその文脈を引き継ぎ、現在は希少性をブランド価値の中核としている。
こうした背景から、HUMAN MADEは裏原宿カルチャーの情熱と混沌に満ちた黎明期を経て、文化としての足場を固めたフェーズに入ったブランドと捉えられる。ストリートとラグジュアリー、日本と世界の架け橋となる存在としても機能しつつ、裏原宿文化の枠組みを超えて、広範なマネタイズと幅広い市場を見据えた事業を展開していこうとしている。
2. NIGOブランドが企業へ変わるまで-創造性依存モデルから経営体制の確立へ
2-1. プロダクト拡大より世界観づくりを優先した時期
HUMAN MADEは創業初期、プロダクトを急拡大させるのではなく、複数カテゴリーを通じてブランドの世界観を広げることを優先してきたことが読み取れる。
2016年の創業翌年に初の直営店をオープン。その翌年2018年には、インドやタイのスパイス文化に日本的な可愛らしさを掛け合わせたカレーショップ「CURRY UP」を開業し、アパレル以外の領域へ世界観を拡張した。
2019年には2店舗目の直営店を、あえて都内ではなく京都の歴史的建築物「1928ビル」に出店し、伝統とストリートの接続を主張するような拠点となった。現在直営店は全国に8店舗まで増えているが、各店舗ごとに異なるコンセプトを持たせ、ストーリー性を重視した設計となっている。
2021年以降は、アメリカ西海岸発のコーヒーショップBLUE BOTTLE COFFEEとのカフェ併設店舗を複数展開し、2023年には音楽レーベルとの共同プロジェクトも開始するなど体験領域を含めた世界観の広げ方が進んだ。
2-2. 2023年以降-世界的才能を味方につけたグローバル転換
2023年以降は、国内外で知名度を持つクリエーターやアーティストと組み、その先にはブランドの基盤を世界水準へ引き上げる動きを開始した。
2023年、世界的アートデザイナーである VERDY氏とKAWS氏とパートナーシップ契約を締結。同年、世界的アーティストでありLouis Vuittonのメンズクリエイティブ・ディレクターでもある Pharrell Williams 氏がアドバイザーとして参画。
2021年には、ユニクロのUT企画を長年牽引してきた松沼氏がCOOとして参画。そして2024年、NIGO氏が代表取締役を退きクリエイティブディレクターに専念、代わって同年5月より松沼氏が代表取締役CEO兼COOを務める体制となった。この変更は、松沼氏のグローバルマーケティング経験を生かし、量産化や、本格的な海外展開を志向する方向へと舵を切ったことを意味している。
また同社の特徴として、経営陣だけでなく社外取締役や監査役も含め、クリエイティブ領域に強みを持つ人材が多い点が挙げられる。これは、ガバナンスを形式的に強化するというより、HUMAN MADE の世界観を内部から維持することを重視した組織編成とも言えるだろう。
3. 爆発的な販売力-常時タイトな需給が生む成長余地
3-1. 出せば即売れる。供給拡大を吸収し続ける異常な需給構造
現在、HUMAN MADEの売上はその95%がHUMAN MADEブランドに集中しており、アパレルを中核に事業ポートフォリオが明確に整理されている。
25/01期は国内7店舗すべてで前年比の㎡あたり売上が伸長。新規オープンした福岡店も順調に立ち上がっており、供給を拡大しても需要が完全に吸収している状態が続いている。ブランドの世界観を毀損しない範囲であれば、まだ販売量拡大の余地がある。
3-2. 大型IPコラボの爆発力-ポケモンが示した認知拡大効果
2025年10月に実施したポケモンとのコラボでは、EC来店者数が対前月比2.1倍へ急増した。過去のコラボと比べても桁違いの伸びで、過去最大級の跳ねを記録した。日本IPの異様な爆発力が示されたと言える。こうした大型IPとの協業は、同社にとって、認知拡大を加速させる非常に強力なボーナス要素として今後も活用できるだろう。
4. 変化する顧客層-インバウンド依存からグローバル市場へ
4-1. 免税店が成長を牽引する一方、欧米市場は伸びしろが大きい
HUMAN MADEの、販売チャネル単位での顧客層を確認すると、直近の海外売上比率は64%(約72億円)と高い。そのうち半分以上が国内免税店での売上で占められており、特に25/01期の免税店売上は前年比2倍以上へと急伸した。円安とインバウンド拡大が直近ののびを支えている構造が読み取れる。
一方、顧客居住者ベースでは販売先の71%が日本居住者となっている(25/01期)。これは、免税店など海外向けチャネルを経由し、国内在住の外国人、とくに中国人による大量購入が一定数存在している可能性を示している。
アジアでは2023年からパートナー販売を開始し、中国・韓国・香港に各1店舗を展開。日本を除くアジアでの売上は前期比約9.9億円増(顧客所在地ベース・25/01期)と伸びており、国内免税店での販売動向も含めてアジアでの人気の高さが伺える。
一方、日本とアジアを除く地域(欧州・北米・UAEなど28か国)については、現在は卸売中心で展開しており、Dover Street Marketなどの上質なセレクトショップに限定している。しかし、これら地域の売上は前期比で約4.6億円の減少(25/01期)となっており、回転改善に課題があることが伺える。
これらの地域では例えば、時差の影響により、現地で売り切れる前に買うことの難しさや、リソースの面からマーケティングにまだ手が回っていない点、卸売先へのフォロー不足など、改善していける余地が多い状況であり、テコ入れによって成長余地が大きい市場であるとも言える。
また同社は27/01期に海外子会社設立を予定しており、各地域の特性に合わせた戦略展開を本格化させる方針であることもあり、今後の海外成長のポテンシャルは高い。
4-2. 購買者層は加齢によりシフト。単価上昇が若年層の参入障壁に
購買者の年齢構成を見ると、21/01には20代が64%を占めていたが、直近は20代と30代がいずれも39%(25/01期)と、購買層の加齢が進んでいることが読み取れる。ファン層が固定化され、なかなか若年層へ広がっていかないという課題が見える。
要因の一つとして、商品単価の上昇が考えられる。22/01から25/01の間で客単価は約5,000円上昇し、現在約17,000円。新規の20代にとっては購入ハードルが以前より高くなっているのかもしれない。
同社はこれから、定番商品の量産化や新カテゴリーの開発、販売地域の拡大を視野に入れている。これらが進めば購買層は変化していく可能性が高く、その動向は注視していく必要があるだろう。
5. 広告費ゼロ型ブランド運用と最適生産
下は、HUMAN MADEの売上高と営業利益率の推移を示したグラフとなる。

5-1. 著名クリエイターが広告塔となる独自の集客構造
HUMAN MADEの営業利益率は、販売単価の高さとブランディング手法の特殊性から、アパレル業界平均を上回る水準にある。
まず、NIGO氏を筆頭に、Pharrell Williams、VERDY、KAWSという世界的クリエイターがブランドの象徴となり、外部広告に依存しなくても自然と初期認知が広がりやすい。
さらに現在は、限定性 × コラボレーションを軸に希少性を維持しており、毎週土曜日に新商品を発売して翌日には大半が売り切れる状態で、在庫消化率は99%、プロパー消化率(定価で売れた商品率)は100%と、極めて高効率の販売運用が実現している。
InstagramなどのSNSは自社でも積極的に活用しているが、広告出稿は必要最低限にとどまる。一方、国内外のセレブリティが自発的に投稿してくれる循環ができている。
一方、費用面では、NIGO氏を含むクリエイター陣へのロイヤルティ支払が一定割合を占めているとみられ、広告費の低さを補っている面もある。
5-2. 国内高品質 × 中国量産の最適配分によるファブレス戦略
製造はファブレス中心で、仕入れ先の内訳は国内59%、中国39.6%(25/01期)。製法を丁寧に行う核商品は国内高品質で、大量需要の商品は中国という機能分化を明確にした生産戦略と考えられる。
売上構成を見ると、グッズが全体の31%と一定を占める。グッズは粗利を確保しやすく大量生産も可能なため、中国生産を組み合わせてコスト効率を高めているのだろう。
ただ、グッズ比率が高すぎるとプレミアムブランドとしての位置付けが弱くなる可能性があるため、核商品=日本製衣類とのバランスを絶妙に操作しているものと見られる。
6. ユニクロUTの方程式は適用できるのか-前例のない挑戦
同社は今後、東京と大阪への大型店舗出店や、Tシャツなどベーシック商品の供給量拡大を計画している。
このアプローチは、松沼CEOがユニクロUTで確立した、アート × 大量販売という成功モデルを下敷きにしたものとみられる。NIGO氏と松沼氏はUTを通じて関係を築いており、KAWS氏、VERDY氏もUTでデザインを担ってきた。ユニクロでの成功体験をHUMAN MADEにも応用しようとしている意図は読み取れる。
しかし、HUMAN MADEの起点は限定性と世界観への共感であり、供給を絞ることで熱量を高めてきた。ユニクロとはブランドの成り立ちが根本から異なるため、大量供給へ舵を切ることは世界観の毀損リスクと背中合わせである。
今回の戦略は、希少性を維持しつつ、通年ベースの回転商品を加えるという、これまでに市場で成功事例のない新しい試み。成功の鍵は、供給拡大による成長とブランドが持つ物語性の保持をいかに両立させるかにあるだろう。
7. IPO構成
HUMAN MADE のIPOは、新規発行が931,400株(公募価格:3,130円)。初値は3,440円、上場時点の時価総額は約812億円となった。既存株主による売出金額は4,740,000株と、新規発行の約5倍規模。売出の内訳は、創業者の長尾智明(NIGO)氏が2,720,000株、Pharrell Williams 氏が1,640,000株でこの2名で全体の92%。その他、経営陣の松沼CEO、柳澤氏、鳩山氏がそれぞれ100,000株、NIGO氏の関資産管理会社 NIGOLD が 80,000株。
IPO後の主要株主は、創業者NIGO氏の資産管理会社が9,720,000 株(約42.4%)を保有。次いで、アーティストのPharrell Williams氏が4,160,000株(約18.2%) 、NIGO氏が1,680,000株(約7.3%)。続いて、経営陣の松沼氏、柳澤氏、鳩山氏がそれぞれ 560,000株(2.4%)となる。
以上
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