サイバーソリューションズ(436A) 残存者利益を活かして成長を続けるメールセキュリティ企業がLBO再建
1. 創業から再建、そしてLBOへ
サイバーソリューションズは1997年に、台湾出身で青山学院大学を卒業した林界宏氏が前身を立ち上げた。林氏の故郷である台湾でソフトウェアを開発し、日本で販売を行うビジネスをスタート。
当時、日本企業が製造拠点を海外に設けることは一般的だったが、開発拠点を海外に持つモデルは珍しく、ここに同社の競争優位があったものと見られる。台湾はちょうどTSMCの台頭期にあり、理系人材が豊富で人件費も相対的に低かったため、コスト効率と技術品質を両立できる稀有な環境だった。
2000年、林氏が、同社と並行して立ち上げていた別会社の経営に専念するため、経営陣に事業を任せて離脱。林氏がいなくなった同社は2001年より、企業向けメールシステムの開発へと事業内容を転換。
しかし徐々に業績が悪化。2009年、債務超過に陥った同社の立て直しを担うために林氏が経営に復帰。業績は回復し2022年、上場を目指すためにPEファンドのACAセカンダリーズと提携、2023年にLBOを実施。
2. メールシステムから統合プラットフォームへ
サイバーソリューションズの事業としては、当初はメールシステムそのものの提供が中心だったが、2000年代半ば頃から、メール運用に関わるセキュリティ対策を取り込み、スパムやウイルス対策、情報漏えい防止などの機能を拡充していく。そして2000年代後半から、セキュリティ機能を組み合わせたソリューション型の展開へと拡張。
2010年代に入ると、企業のクラウド利用が拡大し、同社もオンプレミス中心の提供からクラウド提供への移行を進める。セキュリティ領域ではメール文面の暗号化、アーカイブ、無害化へと新機能を追加していく。
2020年代に入ってからSaaSモデルへ転換。2025年には、メールに加えてチャットやファイル共有も組み合わせ、さらにそれらをセキュリティ基盤と統合した新サービスを発売した。これは、Microsoft 365 や Google Workspace のように、メールやチャットとセキュリティを一体化した統合型プラットフォームが主流になりつつある潮流に対応した形。
現在提供している主なサービスの大半はいずれもこの数年以内に提供を開始したもので、同社はサービス拡充フェーズの真っただ中にあるとみられる。また、メールを軸にしたサービス領域は、斜陽産業のため競合の撤退が進んでおり、残存者利益を享受できている点も、同社の成長を支える要因の一つ。
主な顧客は中堅中小企業のほか、外資系のメールシステムやセキュリティを敬遠する自治体、教育機関、金融機関など。
3. 原価構造とファブレス開発の優位性
下の表は、サイバーソリューションズの売上高と税引前利益率の推移を示した表となる。
利益率の高さを支えているのは、売上総利益率の水準。同社の売上総利益率は77.4%(24/04期)、77.8%(25/04期)と、同業他社と比べて遜色ない水準を維持している。その背景には、開発拠点を、代表林氏の故郷である台湾と、ベトナムに置いていることが一因として挙げられる。
ただ、原創業当初、台湾は理系人材が豊富でコスト効率にも優れており、オフショア開発拠点としての優位性が高かったが、近年では台湾やベトナムへの開発委託は他社でもトレンド化してきており、当初ほどのコスト優位性は相対的に低下しつつはある。
原価構成を見ると、同社が強みとする台湾およびベトナムへの開発委託費が売上高比で2%台、外部エンジンのロイヤリティが54%を占めており、これらの変動費が全体の約7割を構成している。一方、固定費はクラウド利用料や減価償却費が中心で約3割。そのため、構造としては、売上の拡大に伴い固定費負担が逓減していく体制にある。今後の売上総利益率の更なる改善余地は残されていると考えられる。
4. 売上成長を支えるアカウント増加とネガティブチャーン構造
サイバーソリューションズの売上の伸びを支えているのは、契約アカウント数の増加である。その内訳を見ると、新規顧客の獲得に加えて、競合他社のサービス終了に伴う移管需要が相当程度を占めていると考えられる。
これまでの移管事例としては、NTTコミュニケーションズの「Enterprise Mail」(2020年3月終了)、ビッグローブの「BIGLOBEクラウドメール」(2021年6月終了)、富士通クラウドテクノロジーズの「ニフクラ ビジネスメール」(2023年9月終了)および「Cloud Mail Security Suite」(2024年3月終了)などが確認されている。こうした撤退企業の顧客を引き受けたことが、契約数の底上げに寄与している。
また、24/04期および25/04期における月次解約率は0.2%前後に対して、アップセルなどによる既存売上増加率が0.3%前後となっている。これにより、実質的な解約率は▲0.10〜▲0.14%と、ネガティブチャーン(解約率よりも拡張率が上回る状態)を維持している。既存顧客ベースでも年間+1〜2%程度の純増効果を得ており、安定している。
5. 売出は創業家の放出中心、上場後も63%保有
サイバーソリューションズの上場時の公開価格は1,380円で、公募による新規発行総額は約10.8億円、既存株主による売出総額は約26.1億円、オーバーアロットメントによる追加売出が約5.5億円。これらを合わせた総吸収金額が約42.5億円。
売出元は、創業者の林氏が約8.3億円、親族2名と合わせて創業家から合計約12億円が放出された。そのほか、取締役の東明浩氏が約8.1億円、PEファンドのACAセカンダリーズが約5.3億円を売り出した。全体として、創業家の持分整理という色合いが強い内容となっている。
発行済株式数は15,782,050株、公開価格ベースでの想定時価総額は約218億円だが、初値は1,914円と公募価格を約39%上回り、初値時の時価総額は約302億円に上昇した。
上場後の主要株主構成は、代表の林氏が42.7%、林氏の親族2名を含めた創業家で約63%を占める。このほか、台湾のOpenfind Information Technologyが4.1%、資本提携を結ぶTKCおよび日立システムズが合計約5.3%、PEファンドのACAセカンダリーズが2.2%を保有。
6. ACAセカンダリーズの投資スキームと回収構造
PEファンドのACAセカンダリーズは、2023年1月にサイバーソリューションズのLBOを支援し、約12〜13億円を投じて2023年1月に同社を買収した。この取引に伴い、同社は同社はのれん約10億円および顧客関連資産約22億円を計上。取得単価は1株あたり約800円前後と推定される。
IIPOに際しては、保有株のうち半数にあたる382,650株を公募価格1,380円で売却し、約2.2億円のキャピタルゲインを実現。残る382,500株はロックアップ対象として引き続き保有しており、解除条件180日経過または株価2,070円超。すでに投資元本のを終え、残存株分でさらなる評価益を狙う段階的エグジット戦略を取っているとみられる。
なお、LBO実施時に計上された借入金は、2024年7月時点で全額返済が完了している。同時に認識された約7億円ののれんについては、IFRS移行に伴って、非償却資産へ変更された。22億円を計上した顧客関連資産については耐用年数17年で定額償却が行われており、年間1.4億円の償却負担が発生している。
以上
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません