PERの使い方と問題点 その1 by yamamoto
PERとは
PERという指標はprice to earnings ratio と言いまして、株式投資の世界では結構、重宝された指標です。
priceとは株価、earningsとは収益ですが、基本的には純利益、そして株価を純利益で割ったもの、それがPERと呼ばれています。通貨単位を通貨単位で除しますので、無単位に見えます。一般的に、指標は単位を持ちます。たとえば、10kmの距離を2時間で歩けば、10/2 = 5 [km/hour]ですね。時速ですから単位は[km/hour]です。kは10の3乗を表します。(k キロ)
財務諸表の単位は通貨ですので、財務指標項目の2つを割る行為は、無単位指標を作成することでもあります。投資の世界では様々な無単位指標が存在します。と書くと、間違いなんでしたね。そうそう、PERには時間要素が隠れていました。。。
利益というものは、年間に稼いだ利益ということで、単位を持ちます。 [円/年]
そして、EPSは[円/年/株]
Priceは[円/株]
すなわち、PERの単位は、単位[円]と[1/株]が打ち消しあって[年]が単位になるのです。
PER10倍とは、倍ではなく、[年]とすべきなのでしょう。PERは株価を年間利益で回収できる期間を表します。PER20年なら投資は20年で回収するペースなのね。5年なら、あら、5年で回収できちゃうのね、となるのです。その利益が将来も一定であるならばという重要な仮説が必要ですが。ところが利益は大きく動くもの。毎年値を大きく変えるものですから、それがPER[年]を難しいものにしているのです。
企業活動では、投資をして在庫を作ります。その在庫が原価となり、在庫が売れると売上となります。バランスシートの在庫の水準に対して、原価を通って売上となるのですから、売上(PL[円/年])を在庫(BS[円])で割れば、それは[1/年]単位指標となります。この指標の場合、大きい方が投資効率がよいとなります。
(読者も知っているように、バランスシートは「状態」を示すもので、時間単位を持たない。キャッシュフロー計算書と損益計算書は時間単位[/年]や時間単位[/四半期]を持つ。) 厳密にいえば、時間単位は会社設立からの時間経過を表した過去のフローの蓄積がBSなので前の状態に依存する現在の状態ということで極めて長い時間単位とみなす方がよいのかもしれない…ここがPBRの難しいところで一体何年かけてここまできたんだという過去の経緯が全部入っているのがBS情報とも言えるのですね。そうなると、時間の長さをもう少し意識した方がよいでしょう。100年かけて1円を1兆円まで積んだ企業と10年で1円を10億円まで積んだ企業の違いは成長率ではどちらが有利ですか?? PBRを意識するときは永遠の時間軸を考慮してください。せめて設立からの時間軸の長さを感じなければ成長性は判断できないでしょう。。。
PERは単位[年]を持つものですから、二次元の空間に住んでいるのです。PER[年=2019]という具合いなります。
あるいは、PER[年 from 2018年5月20日-2019年4月20日]のように任意の時間を指定する必要があるものです。
時間軸と年数という二次元空間で有名なものは株価チャートがあります。つまり、PERはチャートの一種類です。PERが年率換算であることから、1日の利益の365倍をすることで、年間250営業日のPERができてしまいますね。PERを使う投資家は、いつ時点の利益をベースにしたPERかを絶えず慎重に確かめなければならないのでしょう。チャートにいろいろなバリエーションがあることを思い出してください。移動平均、ストキャス、様々なテクニックがあります。PERについても同様のアプローチは可能なのです。ただし、株価と違って、利益は売上から費用を控除したもの。費用が売上を上回る特定の時間が存在すると、手元の株価がゼロになるまでの年数を算出することになります。マイナスのPER[年]は投資が回収できる利益ではなく、投資元本が消滅するに要する年数を示します。
投資家は株価の安い高いをPERで判断する場合があります。一株利益EPSで株価を割ることでPERを算出します。PER = 株価/EPS (ただし、EPS>0) ところが、あまりにもPERが低すぎると利益が損失になる可能性が高い企業を選ぶことになります。PERによる投資回収が短い企業ほど、消滅へのカウントダウンも近いというパラドックスがあることを投資家は忘れてはいけないのです。
良い子は以下の小さい文字は飛ばして読んでください
(数学の世界では、PER空間をプラスの世界とマイナスの世界で連結成分を二つとみなします。境界は利益ゼロのポイントで、その地点を特異点[=1次元の空間で(株価、利益=0)のすべての点=すなわち正の数直線そのもの]ととらえます。特異点とは、分母がゼロになってしまい計算が不能になる無限大が生じる箇所です。一旦、無限大となって、PERの二次元空間は、全く違う二つの世界でできているのです。利益がプラス(回収期間)からマイナス(破綻期間)になると、全くの別世界へワープするのです。そもそも、PERと利益率の低さと利益の変動率の大きなには高い相関が存在します…PERは写像であり、R+ x R = (株価、時間)からR(年数)への写像とみなすことができる。正の数である株価と時間という二次元実数空間から実数時間への写像であり、特異点(x,0)を持つ。このときPER(x,0)=無限大と定義できる)
ワープなんてどうでもいいとして、EPSとは? エスパーじゃないよ
EPS[円/年]というのは株主にとってのキャッシュフローに関わる重要なものです。なぜならば、毎年のEPSを基準に一株あたりの配当を決定する企業がほとんどだからです。EPSから配当が支払われるとき、配当/EPSを配当性向と呼びますが、概ね30%程度が平均的な配当性向です。
EPSの残りの70%は企業によって再投資されます。再投資は事業の維持や拡大のための投資です。再投資がうまく回れば、投資家は将来の事業の拡大が期待でき、最終的には増配となり、投資家にとってのキャッシュフローが増加します。ここで注意が必要なのは、EPSは投資家にとってのキャッシュフローではなく、あくまで配当が投資家にとってのキャッシュフローです。EPSの大多数は再投資(内部留保)となるため、内部留保が事業拡大に繋がらないケースでは、下手くそな投資になってしまうリスクがあるのです。
益利回り[/年]とは 益利回りの分解とは
PERの逆数を益利回りと呼びます。益利回り[/year]=EPS/BPS=純利益/時価総額
です。
先ほどの配当性向と内部留保(=1-配当性向)に利益を分解して、
益利回り= 配当利回り + (1-配当性向) x 1/PER = 投資家による複利運用部分 + 企業による再投資運用部分
という形で益利回りは分解できます。
配当利回りとは株数が年複利で増加していくペースを表します。企業による再投資部分は事業の拡大再生産ペースを表します。
配当利回りには20%課税がありますので、投資家によっては、企業の再投資部分が大きなものを選好する成長株投資家もいれば、企業のエイジェンシーコストを嫌気して自らが税引後であっても再投資によってポートフォリオの株数を増やしていくことが確実にできる利回り部分を重視するバリュー投資家もいます。
エイジェンシーコストとは (探偵じゃないよ)
PERの低位ランキングを見ると、PER4倍とか3倍の企業もあります。ところが、配当で20%や30%の利回りの企業はありません。両者のギャップは、エイジェンシーコスト(agency cost)と呼ばれるものです。agencyとは経営者のことで、投資家が丸々経営者を信じることができない状況下ではこのコストがバカにできず、EPSの大きさが株価に反映されないわけですね。つまり、経営者が企業を私物化してしまい、株主までお金が回らないことを多くの市場参加者が想定している、ということです。例えば、ネットキャッシュ(企業の保有現金同等物から有利子負債を除いた部分)が、時価総額を超えてしまっているという企業が散見されますが、現金を将来の配当の原資と投資家が見なしていないことの裏返しです。この状態がエイジェンシーコストが高い状態ですね。
PERの使い方 (パーではないよ。ぷぅうrぁ)
PERには多数の種類があります。
実績PERは、現在の株価を直近の純利益の実績で除したものです。会社計画の予想純益はあくまで不確定な予想にすぎないため、実績PERを重視する投資家が多いのです。
この実績PERの株価をその純益の時点に遡って過去株価として、計算することで、過去のPERたちの推移を把握することができます。上場している期間の株価と純益があればそれらを計算することができます。
過去の数値を使った PER |
実績PERその1 =過去t年前の株価/過去t年前のEPS |
実績PERその2 =現在の株価/過去t年前のEPS (=純利益と1:1に対応) |
実績PER平均値 |
過去の実績純利益の数だけある 主に、最も新しいものが重視される 標準偏差でばらつきを把握する |
過去の実績純利益の数だけある 純利益のばらつきの大きさを確認する |
5年平均 7年平均 9年平均など多数 |
この過去株価による実績PERを平均したり標準偏差を出すことで、概ね以下のことがわかります。
- 業績のブレが大きな企業はPERのブレも非常に大きくなる
- 赤字転落の期間、PERは算出できない。(純益>0の時、PERが存在します)
- 2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、9年、10年、11年、12年のそれぞれの期間平均PERなどを出し平均PERのばらつきを見ることで現在の実績PERの位置を確認できます。平均PERには時間要素が存在します。3年平均と12年平均では数値が大きく異なります。
マイナスになっても違和感なく使うためには、 PERではなく益利回りで統一する投資家も多く存在します。
株価を固定し、100円とします。EPSが+10円からマイナス1円になった場合、PERが10倍からマイナスの100倍になります。これを益利回りで見れば、10%からマイナスの1%と見てより連続的な感じが出ますね。PERについてはマイナスの数値を投資家が議論する習慣はありません。
過去数年の平均値を使うーこれがPERの使い方の基本です。
大事なことは、誰がいつ、どれだけの予想をした、ということと、それに対して意見をぶつけることのできる環境にご自身を置くということです。
アナリストの若年期は、必ずエクセルシートから始まります。シートを立ち上げ、KPIを入力してみる。外部世界、マクロの数字と合わせてみる、そして、その企業の本当のリスクを感じることからスタートして行きます。それから取材。取材はビジネスモデルの理解のため、そしてその先にある業績の予想のためです。
PERを使うならば、意識を持って使って欲しいなと思います。誰のいつの何年の予想だということ。そして多数の実績PERを並べてみて、10年の実績を作るなら、10年の純益を並べてみること。その純益の毎年のブレの大きさに怖くなる感覚があれば、投資家として成功するでしょう。頑張ってください。 😀
感想
投資指標には、単位があり、PLではそれは[円/年]=[JPY/year]であり、BSでは、それは[円] at 特定時刻でした。
時間を固定することで、本来の動きが見えなくなってしまう傾向があります。本当は高速で動く利益という乗り物の瞬間を写したピクチャーのようなもの。それがグレアム指標であり、 PERであり、PBRでした。
一方で、特異点を持つPERという指標は、連続関数ではない。すなわち、利益の符号により解釈が180度変わる使いにくい指標でした。
最大の問題点は、リスクという概念がないこと。これは時間を止めてしまっていることから当然のことです。
投資家は自分自身のイメージで時間を動かす必要があります。イマジネーションを豊かにしなければ、PERが高速で動くことを体感できません。PERという語彙を聞くと、ジェットコースターを思い出す、というイメッジトレーニングが必要なんです。(うそよ!)
投資家の本懐とは? わたしはそれぞれが未来の想定を語ることだと思います。予想を戦わせる。そして、過去をしっかりと分析すること。すくなくとも過去は固定されたものです。丹念に過去を分析すること。もっとも重要なことではないでしょうか。過去が現在をつくる。現在が未来をつくるのですから。
皆様を応援します!
筆者について
山本 潤 (やまもと じゅん)
ダイヤモンドフィナンシャルリサーチ投資助言部にて投資助言者 兼 投資判断者を務める。
長期株式投資ゼミの講師。コロンビア大学大学院修了。社会人時代を含めて哲学・工学・理学の3つの修士号取得。外資系投資顧問のファンドマネジャー歴20年。日系投資顧問2年。
日本株の成長株投資を得意としている。外資系投資顧問会社クレイ フィンレイ日本法人共同パートナーで日本株及びアジア株の運用などを経て投資教育の会社を設立。現在も年間400社前後の会社訪問と投資判断を行っている。
1997-2003年年金運用の時代は1,000億円を運用。
その後、2004年から2017年5月までの14年間、日本株ロング・ショート戦略ファンドマネジャー。過去22年の機関投資家としての運用戦績は年ベースで19勝4敗の勝率8割超(同期間の日経平均は、13勝10敗)。
現在は、DFR(ダイヤモンド フィナンシャル リサーチ)投資助言部において日本株ポートフォリオ22銘柄で投資判断の助言サービスを行っている。2019年9月30日現在、年初来パフォーマンスでリターン16%(年率20%換算)を20%の年率リスクで20銘柄強の安定したポートフォリオにてリスク管理をほどこして提供している。回転率は年率100%以下の設計。
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