「ファイマン物理学を読む 電磁気学を中心として」を読む by yamamoto
BLUE BACKSのシリーズに「「ファイマン物理学」を読む 電磁気学を中心として」(著者は竹内薫さん)があります。とても分かりやすく腑に落ちるのでお勧めです。そもそも電磁気学はピンとこない学問です。しかし、竹内さんはご自身の言葉で誰が読んでもわかるように説明してくれます。教育書のそのまた教育書です。大本にあるファイマン物理学はノーベル物理学賞を受賞した大家であるファイマン先生の「ファイマン物理学」。岩波からのシリーズが何冊か出ています。物理学の大学教科書として定番です。
高校三年生になった三男が嬉しいことに理学部志望で物理学科志望です。そこで物理チャレンジなどを今回受けるわけです。本人いわく「電磁気学が難しい」という。わたしも社会人のとき夜間の理科大の電気工学で必須だった電磁気の単位は取ったものの「わかった」という実感が持てなかった科目です。そうか、息子が難しいといっているのもわかるのでこの竹内さんのブルーバックス電磁気学版を昨日と今日パラパラ読んで見たのですが、すごかった。
こういう風に教えればわかるんだと。
三次元ベクトル EとBと作用素grad (=▽)。ベクトル場での足し算と外積と内積。出てくるのはこれだけです。
▽xE = -∂B/∂t(ファラデー)
▽xB= ∂E/∂t(アンペール) (ただし定数項とスカラ倍は省略しています)
基本的にはこれだけで説明しているのがすごい。以後、本コラムで「ファラデー」といえば上の最初の式、「アンペール」といったら二番目の式を示すと思ってください。
電磁気学が具体的にどこが難しいか。圧倒的に「向き」の問題です。要するに右回り左回りかの区別。
それに電荷のプラス(原子核)とマイナス(電子)も場におけるベクトルの方向は逆向きだから、二重に間違えるリスクがある。±と外積の向きを抑える必要がある。
逆にいえばそこだけをしっかり認識していればもうわかる。
竹内さんは式の具体的な解釈を非常に丁寧にされています。わかる人は式を見れば言葉なくてもわかるはずですが、高校生は偏微分を習わないでしょうから教えるのは一苦労でしょう。(1変数の微積ができれば偏微分自体は難しいものではありません)
そこまで押さえたら93ページに第一関門があります。上記二つの式が交互に三次元空間を伝播していく電磁波の様子を記述したところです。図が紙面ということもありベクトルの向きが上から下は×、下から上は●など、記述に工夫が見られます。電流が下から上へ流れる。すると「アンペール」をみれば電場Eが時間変化するのでBの磁場が生まれる。電流の向きと電場Eの向きが同じなのでベクトルの向きが定まり、アンペールよりBの向きも定まる。「アンペール」から右回りです。面電荷の右側で地場Bが手前から奥へと生まれる。すると磁場が変化したので次に「ファラデー」から電場Eが左向きに生まれる。つまりEは上から下。これをずっと繰り返す。このように伝播していくのですがそれが光速であることまで最終的にはっきりとわかる。この本のクライマックスは最初の57ページで紹介された「電磁気学のパラドックス」が最後に感動を伴って疑問が氷解する爽快感にあります。そのパラドックスが結局は相対性理論の説明であり、最終的に量子化の話で終わるという完ぺきな内容になっています。
クライマックスに行く前にじらしてクールダウンするのがにくい。静電場に戻るのですが、点電荷、線電流、面電流の場合の電場の計算。ここは電荷の次元が増えるということは密度計算における距離の要素(次元)が減るということであることを上手く説明します。こういう説明は痛快であり、高校生が読んで「なるほど!」と思うこと請負です。それで次に磁場を同様に計算していく。相対性理論が高校生でもわかるようになるのが126ページから4ページです。ここがクライマックスです。
そして圧巻はものの見方。つまり数学では写像というのですが、電磁気とは4x4の行列なんだということを示す。ここが腑に落ちるのは高校生では無理でしょう。大学生にならないと難しいところ。電荷や絶縁体や導体というモノを中心に考えている限り、電磁気学はピンと来ないのです。この行列を見せられて、ああ、そういうことだったのか腑に落ちたわ、というようになるには、「ポテンシャル」を理解する必要がある。ベクターフィールドのことですが、4次元ベクトル(空間のx座標、y座標、z座標と時刻t)上のポテンシャルベクターのこと。そしてポテンシャルを微分すれば電場と磁場がわかる。電磁気学がわかりにくのは、初学者は作用と反作用を見ようとするからです。電荷を止めて、何が動いてとえーと、となり、自分がどの座標にいるかかわからなくなる。その方法では電磁気学はわかりせんよ、と教えてくれるのです。
電磁気学のポイントは一にも二にも、ポテンシャル(φというスカラ(高さ関数)とAという3次元ベクトルのトータル4次元のベクトル)をまずは理解することだったのです。そうすれば矛盾なくパラドックスは解けるのです。そしてポテンシャルを説明するために導体と絶縁体とそこに生まれる電場を説明します。ポテンシャルが一定になるように場が広がることを理解するためです。そしてポテンシャルが一定になるように電場が定まる。それらを積分すればポテンシャルが現れる。ポテンシャルは電場や磁場のように実験で確かめることができないものです。ポテンシャルそのものが電磁気学のキモだったということがわかるのです。実態がないからわかりにくい。
私が最も感動したのは、168ページのポインティングベクターの存在でした。これはExBのことです。コンデンサへ電荷が流れるのは電線から直接くる電荷ではない。電線を流れる電荷が作用するこのベクトルExBのエネルギーだったのです。無線給電ですね。ポインティングのベクターの前にポテンシャルAが存在することを説明してくれています。それは「アンペール」より暗示的に▽・B=0(磁場は回転するのみ)だから、あるAが存在してB=▽xAのはずだ、という。同様に静電場では「ファラデー」より▽xE=0(Eは回転はしない)。「等高線」を直行するように下る勾配ベクトル場▽φが存在することがわかり ‐▽φ=Eのはずだと。こうしてEとBの性格からφとAの存在を突き止めて、そいつらを見ることが電磁気学なんだよ、と教えてくれるのです。そしてそれはアンペール、ファラデー、静電場、静磁場という基本的なところから算出される。そんな教え方はなかったですよ。すごい。よく理解できる。ありがとうございます。そんな感謝の念がわいたのです。(▽・B=0はマクスウエルの式の一つとして本書で丁寧に説明されています)
最も面白いところは、宇宙の彼方に双極子が存在しても、それが伝播して電荷を送り込むことができるということ。あるいは川面のきらきら輝く反射光が偏光で垂直方向は反射しないこと。水平方向のものだけがキラキラする。そしてそれは入射光によって水中電荷の振動が生み出したものだ(つまり直接壁に当たったボール🥎のように跳ね返ってはいない!)という183ページは鳥肌が立ちました。確かに向きを計算すれば垂直方向の偏光は水面から出てくるはずがないことが確認できます。
要するに竹内さんはファラデーとアンペールという二つの式から相対理論が何をしたのかを説明しちゃった。そして最後にファイマン先生のノーベル賞の無限の回避方法ー「組み込み」まで説明しています。量子化まで踏み込んだというわけ。実際にはファイマンさんが解説しているのですが、ファイマンさんの書物はお値段も張りますし量も膨大。初学者には敷居が高いものです。
竹内薫さんという方は素晴らしい。彼の説明で積分やストークスの定理がすんなりと頭に入るのではないかと思います。積分はどこ上を足すのかだけです。足すのは実数。(ベクトルではない。)だから積分する対象は内積です。さて、線積分は線の上の各点の内積を積分する。面積分は面の上の各点における内積を積分する。外積による「回転」は面上で隣同士がベクトルが逆になり打ち消しあうので面の上の足し算は結局は境界の足し算だけになります。「ファイマン物理学を読む」シリーズは量子力学、力学などもあります。おすすめです。
世の中のことが少し理解できるようになりました。ありがとうございました。竹内先生!!!
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