6568 神戸天然物化学 研究開発受託から量産強化で成長
*2018年7月19日時点の本記事において、企業(神戸天然物化学株式会社)の顧客として大手製薬会社名を記載していましたが、これは同社が公表したものではありません。
当該企業名は、2017年度における売上高上位の製薬会社を大手製薬会社の例として筆者が記載したものです。
なお、現在は当該企業名は削除しております。
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成長企業は短期的な業績のブレにより成長鈍化の評価を受ける場合がある。
本質を見極め、長期的なスタンスで分析をし、投資判断をしたい。
今回は
6568神戸天然物化学株式会社
を紹介する。
研究開発の受託から、収益安定化に向けて量産事業拡大を視野に入れて成長途上の企業である。
同社はIRにも前向きで以下のサイトは同社の事業を理解するのに非常にコンパクトにわかりやすくまとめられている。
http://www.kncweb.co.jp/ir/individual.html
個人投資家向け説明資料も丁寧に書かれており、ぜひ見ていただきたい。
とはいえ、なかなか身近ではない製品を手掛けていることから
理解しにくいと感じる方も多いと思われます。
以下、理解していただくために私の見方でレポートさせていただきます。
<事業の理解と現状把握>
〇何をやっている企業か
大手企業が手掛ける有機化合物の合成、製造の研究開発の一部を受託している。
また、研究開発を手掛けた製品の量産事業にも注力している。
対象分野は主に以下の2つで90%以上を占める。
2018年3月期の売上高6,312(百万円)
機能材料 売上2,962百万円
電子部品の材料、基礎的な原料が対象
最終製品は同社は把握していないが、スマホの液晶や有機ELの材料と思われる。
部品デバイスメーカーへ提供するための部材を量産まで手掛ける。
医薬分野 売上2,881百万円
原料から中間体(原体のもととなる専用化学薬品)を作る、
または中間体から原体(薬品・昨日の有効成分を有する化合物)を作り、
それらを製品として量産する。
*同社WEBサイトおよびIR資料より
〇”研究開発部門の何でも屋”からスタート
1985年3名で神戸で創業
創業当初のキャッチフレーズは
”研究室の雑用ならなんでもやります”
であった。
とはいっても、コピーやお茶出しをしていたわけではないw
企業の研究開発部門は多数の案件を同時進行で進めており、
材料の合成において、量も品種も様々である。
少量の原薬の合成や試薬の準備、まとまった量の合成や準備作業などを引き受けていた。
化学会社や製薬会社の研究開発は、一度化合物の作り方がわかれば
どのように作るかの部分は外部に委託することで
次の新しい化合物の発見のように、より付加価値の高い業務ににリソースを
むけることができる。
*国内の研究開発の外注市場は高い成長率で拡大している。
2013年から2016年の実績で
医薬品 3,456億円 → 4,788億円(CAGR11.5% )
化学品 410億円 → 699億円(CAGR19.5%)
(総務省統計局調査 会社開示資料より)
〇”研究開発を受託”の意味
研究開発の受託ということで説明は不要かもしれないが補足しておく。
”研究開発”といえば、通常はコスト要因
キャッシュアウトが先行し、その後の製品化による収入につながるまではコスト。
製品化できるかどうか、売上に寄与するかどうかのリスクが伴う。
同社は企業の研究開発を部分的に請け負う、
化学、薬品の大手企業が手掛ける研究開発の受託である。
研究開発ステージで売り上げが計上される。
言い換えれば、SI事業者の開発受託のようなもので
研究開発を開発難易度も考慮し、人月換算し、個別に見積もりする。
*人月換算というとSI事業を思い浮かべ、不採算の懸念も想定するが
SIの不採算の原因はいい加減な要件定義である。
同社の研究開発は、同社内のどう作るかのノウハウを生かし、
作業の人月換算に利益をのせて受注するため
想定外の状況は起こりにくい。
利益率にばらつきはあるものの不採算はほぼ起こらないと考えてよさそうだ。
研究・開発・量産の3つのステージに関わることでノウハウが蓄積することが強み
〇3つのステージ
同社が担う3つのステージ
3つのステージで求められるのは早さ、品質、コスト。それらを実現し、信頼を基に継続的な取引につながっている。
*同社WEBサイトおよびIR資料より
研究・開発・量産
それぞれのステージの意味と同社の役割を理解する。
研究:”モノを見つける”
役割:評価用のサンプル提供
開発:見つけたモノを”使えるか、作れるか、製品として出せるか”
役割:開発に向けた多量のサンプル提供
量産:開発したモノを必要量まとめて作る
役割:自社工場で受注生産
同社は年間150社程度の取引先と850件のテーマを手掛けている。
研究ステージ、開発ステージ、量産ステージ、
全てのステージの様々なテーマに関わることでノウハウが蓄積される。
”蓄積されたノウハウ”が強みである。
*同社WEBサイトおよびIR資料より
〇顧客は”大手”で”長期”
取引先は大手が大半で取引年数の長い長期取引先が多い
現在取引のある100から150社の企業に占める割合は以下の通り。
顧客の売り上げ規模別割合
1兆円以上 38.4%
1000億円以上 45.7%
取引先上位として第一三共、東レなどを上げている。
有価証券報告書でも取引先として東和薬品、富士フィルム、三菱ケミカル等があがっている。
大手化学メーカー、大手製薬会社が顧客である。
顧客との取引年数別割合
10年以上の取引がある企業は
売上で70.5%、顧客数で28.6%を占める。
大手企業が顧客であることから信頼を基にした安定的な研究開発の受託拡大に
つながっているといえよう。
大手化学、製薬企業はより付加価値の高い部門へ人的資源を集中したい。
それぞれのステージで自社の人的資源は、より付加価値の高い分野へ投入したい。
例えば、製薬企業は製造方法よりも薬品の薬効の研究に集中して投資をしたい。
製品の生産を外部委託して変動費としてフレキシブルにしたい製薬会社の構造変化の流れが
同社の成長をけん引する背景である。
”蓄積されたノウハウが強み”
であり、
長期の取引先が多いことで突然のキャンセルの発生などのリスクが最小化すること
につながることが同社の企業価値を高めることにつながっている。
”利益率の高い製造業”という見方
〇収益性が高い量産ステージ
同社が量産を受託するものは化学品、医薬品など付加価値が高い製品につながる材料や
基礎的な原料等である。
受託生産でのため、見込み違いによる廃棄ロスリスクはなく、
緊急性の高い製品の量産ではないため、計画的な生産も可能。
研究開発とは違い、一人当たりの売上高が大きく、
生産性を高めることで収益性の改善が可能となり、研究開発よりも利益率を高めることが可能。
同社は”製造業である”という見方もできる。
”製造方法を考えて、提案して、化学会社、製薬会社に代わって製造する”
そんなイメージを持てば、高い利益率であることが理解しやすいかもしれない。
”利益率の高い製造業”
という見方をすると同社への評価は少し変わるのではないか。(量産ステージについて)
<沿革>
〇顧客ニーズに合わせて事業を拡大 機能材料分野から医薬分野へ、そして量産へ
1985年に創業
機能材料分野の研究開発ステージ
1988年岩岡工場を開設
医薬分野の研究開発ステージ
1993年市川研究所
2001年出雲第一工場を設立
研究開発の外部委託ニーズが医薬分野の研究開発部門にも同様にあることから
医薬のGMP工場として投資を行い医薬分野に進出した。
機能材料分野で量産ステージへ
2003年神戸工場
2009年出雲工場(機能材料分野最大の製造拠点)
を開設
顧客企業から製造ノウハウを生かして量産もやってほしいという依頼があり、量産に進出した。
*GMP(Good Manufacturing Practice)とは
製造業者(外国製造業者含む)および製造販売業者に求められる「適正製造規範」
(製造管理・品質管理基準)のこと。品質管理とは、医薬品等の原材料の入荷、検品から製造、
製品の包装、出荷管理、製品保管、回収処理などに係る業務である。
医薬品製造において薬事法に基づくGMP省令を遵守することが定められている。
臨床試験を実施する医療機関等にも適用される。
〇リーマンショック後に量産への設備投資を英断
上記の通り、量産の依頼を受けたのはちょうどリーマンショック(2008年9月)の時期、
2009年10月に出雲第2工場を開設。
先行き不透明な時に新たな事業への大型投資に踏み切る判断をするのは
簡単ではなかっただろうと推察される。
結果的にその判断が顧客企業の研究開発部門の収益縮小をカバーすることにつながった。
社長および経営陣の英断といえよう。
〇研究者にとってユニークな恵まれた環境(かもしれない)
競合する企業について聞くと
”研究開発から量産までをワンストップで請け負うところは他にはない”
とのこと。
研究者を目指す人は研究開発の道に進むべく専門的な勉強をしてきても
実際に、製薬会社、化学会社に入って研究開発の道に進むのは狭き門だろう。
同社は担当する研究者が研究開発から製品化、量産までの過程を継続して担当できる可能性がある。
〇採用にも好影響
上記のような環境により、人材難、特に優秀な人材を獲得することが難しい現状でも採用は出来ているとのこと。
社員の満足度、顧客満足度を高めることにつながっている。
量産ステージ(製造業のような位置づけ)では求められるスキルが異なり、工業高校からの採用なども進めている。
<業績>
〇2019年3月期は成長率鈍化に見えるが、前期業績が上振れしたため
2019年3月期会社予想(単位:百万円)
売上高 6,450(前期比+2.2%)
経常利益 1,300(同+6.4%)
6.4%の営業増益にとどまる見通しで前期が大幅増益に対して控えめに見える。
2017年12月に上方修正した数値
売上高 5,818
経常利益 1,010
に対して前倒しで進めてほしいという案件があり、予想が上振れた。
2018年3月期の実績
売上高 6,312
経常利益 1,208
上振れる前の経常利益と比較すると
1,010→1,300
28.7%の増益計画である。
成長が続く見通しであると捉えてよいのではないか。
*同社WEBサイトおよびIR資料より
〇受注減に対する見方
もう一点、投資家が懸念しているとすれば受注額の減少だろう。
有価証券報告書から読み取る受注動向では
医薬事業部門の受注残高が前年同期比59.8%と大幅に減少している。
機能材料が同134.9%、バイオ事業が191.0%と増えているが
3部門の合計は同75.9%と減少している。
受注から売り上げ計上までは長いもので1年程度
多くは3から6カ月程度とのこと。
受注動向に注目しておく必要はあるが
外部委託の需要が年々高まる環境には大きな変化はないと考えている。
大手企業は製薬企業であれば大型の所謂ブロックバスター(年商1000億円以上)を
目指すよりも、より特徴的な、薬効を絞った分野の薬品の開発に注力している。
大きさより種類の多さである。
そのため、案件数は増えるとともにより高付加価値の部分へ自社のリソースを
投入するという流れは継続すると考えてよいのではないか。
<長期的な見通し>
〇研究開発の増加傾向は期待できる
前述の通り、大手企業の研究開発の分業が進み、
外部委託の増加による成長は期待してよさそうだ。
研究開発の現状についてもう一つデータをみてみよう。
研究開発費は米国の企業ではひとつの製品開発に10年以上、1000億円以上、
大手では2000億円近い研究開発費が投じられるという。
やはり10年以上、500億円以上と言われている。
繰り返しになるがブロックバスターの薬剤を生み出すことが難しくなり、
研究開発で欧米の製薬大手には資金力ではまったく太刀打ちできない現状では
多種多様なテーマで研究開発を行うと共に
研究開発の中でも分業を進め効率的な開発を進める傾向にある。
〇量産化の難易度が高いが長期では同社の業績をけん引する
量産化の外注市場は緩やかに成長しており、分業が進んでいる。
2013年度 3,660億円 から 2021年度予想 4,820億円 (CAGR3.5%)
同社は事業安定化のために量産化事業の拡大を目指すが、量産化にこぎつけるのは難しい。
例えば医薬品であれば最初の化合物発見から最終製品化にこぎつけるのは
1万件に1件
と言われる。
同社が受注した開発品が量産化までつながる例は年に数件あるとのこと。
医薬品の製品化確率に比べれば十分高いが受注の波は大きそうだ。
研究開発テーマが安定的に高い成長を続ける中で量産品の受注が増加するのを待つことになる。
〇売上高100億円を目指した設備投資
中期展望として
2021年3月期(単位百万円)
売上 7,750
経常利益 1,700
を掲げ、10%程度の成長率を目指している。
さらに2021年3月期までの設備投資計画を発表している。
今後3年間で約63億円、役員従業員も300人体制とする。
達成時期は不明だが、この設備投資により
売上高100億円
量産が占める割合50%程度
が可能な設備投資計画である。
短期的には業績がぶれやすい面はあるが収益性の高い量産の成長が業績をけん引する
長期的な成長が期待できる企業である。
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