🔹IPOシリーズ【2025年10月6日上場】ムービン・ストラテジック・キャリア(421A) 市場拡大と先行投資の実像

伴走型キャリア支援の需要が高まる中、キャリアアドバイザー拡大で急成長する同社。効率低下リスクはあるが、豊富な現預金と高収益基盤を背景にIPOへ。

1. 創業期に示した先見性と戦略眼

同社が創業した2000年、国内は企業再生需要とIT投資需要が重なっていた時期であった。このため、外資系コンサルティングファームは人材採用を一気に拡大していた。

こうしたタイミングで、同社はコンサルタント特化の人材紹介事業を創業。当時、職種に特化した人材紹介会社は珍しかった。また、同社は創業前年の1999年に転職支援サイト「Consultant転職」を立ち上げている。当時の国内インターネット普及率はまだ約27%(総務省統計)で、サイト制作もHTMLを直接書き込むのが一般的だった。市場を先取りしたチャレンジが起業の成功につながり、この時に得た先行優位がその後の成長の土台ともなっているとみられる。

さらに、創業者の神川貴実彦氏はBCGに2年勤めた経歴を持ち、コンサル業界とのネットワークと一定の信頼を備えた上で設立に臨んでいる。この点も、同社の優位性を支える要因となっただろう。

2. 拡大を続けるコンサルティング需要

コンサルティングファームの採用人数の動向は、市場の先行指標として常に注目されている。同社が設立してからの推移を振り返ると、2010年前後にリーマンショックの影響で一時停滞したが、その後は細かい波はありつつも上昇基調を続けている(下表参照)。

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直近はAI投資やグローバル化の不可避性を背景に、需要は益々高まっている。急速な環境変化に直面している企業は、専門人材を中心とした人材不足を背景に、コンサルティングファームに依存する傾向にある。最近では、経営戦略だけでなくITシステム開発などアウトソーシング的に活用されるケースも増えている。

3. 拡大する人材市場と同社への追い風

一方、人材紹介市場も拡大が続いている。2000年代以降、リーマンショック時に一時的な落ち込みがあったものの、その後は右肩上がりの成長が続き、近年はむしろ成長率が高まっている(下表参照)。

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専門人材への需要は高まり、人材の流動化も進んでいる。人口減少の中、自社の力だけでは採用を賄えない企業が増え、人材紹介企業への依存度は高まっている。紹介手数料率の相場は従来 30~35%とされてきたが、近年では40%〜50%に引き上げるケースも出てきている(マンパワーグループ他)。

コンサル需要の拡大 × 人材紹介市場の二重の拡大は同社にとって強力な追い風であろう。20/12期以降売上の伸長に伴い、利益を積み上げてきている(下表参照)。

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総資産は2020年末の約7億円から2023年末には24億円超へと拡大。25/12期2Q時点では総資産の78.6%が現金及び預金で占められるまでになっている。

4. 社会変化を捉えた伴走型戦略

同社は2020年以降、キャリアアドバイザーの採用を一気に拡張し、それに連動して売上も成長している(下表参照)。

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2016年、キャリアコンサルタントが国家資格化された。背景には、人生100年時代やリカレント教育といったキーワードの広まりがある。生涯の中で複数回キャリアを再設計することや、学生時代を終えてからも学び続けることが自然になりつつある。環境変化の重なりにより価値観も多様化し、一人ひとりが自分なりの人生の歩み方を形成していく必要性が高まっている。この流れの中で、キャリア形成における伴走のニーズは今後も拡大していくだろう。

同社が志向する伴奏型の体制強化は、創業期にインターネット活用で先行優位を築いた時と同様、時代の変化をタイミングよく捉えて収益力につなげるという競争力を発揮していると考えられる。

5. ブランド強化を兼ねたIPO

今回のIPOでは、公募株式数は約17万株、既存株主による売出株式数が約227万株。公募と第三者割当を合わせた手取額は約7億円で、すべてキャリアアドバイザーの採用費および人件費に充当する計画である。ただ、この規模は内部資金でも十分に賄える程度ではあるため、IPOの主目的は資金調達よりも既存株主の利益確定にあると考えられる。

一方で、現在同社はキャリアアドバイザー数を急速に拡大しており、採用競争におけるブランド強化という意図も併せて意識されているだろう。

売出による放出は創業者の神川氏とその資産管理会社を中心に、家族も含めた一族によるもので、数十億円規模の現金化を図った構図となっている。上場後の株式保有は、代表の神川氏が資産管理会社分を含めて約37%、共同創業者の大外一晃氏および関連会社が約20%、経営陣や役員持株会が数%、の合計で55〜60%前後を占める予定でいずれも180日のロックアップが設定されている。

6. 効率低下は先行投資の裏返し

同社の成長ドライバーであるキャリアアドバイザー採用を、効率性の指標で検証すると、特徴的な傾向が浮かび上がる。同社によれば、同社で採用したキャリアアドバイザーの売上成長は、入社1年目を1.0とした場合、2年目には約1.5〜2倍、3年目以降は2〜3倍程度まで高まるとされている。

ここで、20/12期におけるキャリアアドバイザー1人あたり売上を1.0とした相対値(=各年の1人あたり売上高÷20/12期の1人あたり売上高)を算出してみると、22/12期に1.29とピークを打ったのち、急速な採用増加によって24/12期には0.5まで低下している。

同社の積極採用は将来の需要を見据えた先行投資と捉えられるが、教育体制が追いつかなければ、戦力化の遅れや中堅層への負担増といったリスクが顕在化する可能性もある点には留意しておく必要がある。

以上

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Posted by usamiseira