タナベコンサルティンググループ(東証プライム9644)スポンサードレポート
目次
【第1章】創業理念とコアコンピタンスの確立
【第2章】現経営体制と変革の方向性
2-1.M&Aによる事業拡大
2-2.株式市場との対話と情報開示の高度化
【第3章】2025年3月期業績進捗と戦略投資
3-1.業績進捗と成長基調の継続
3-2.費用構造の変化と戦略的支出
3-3.グループ会社の専門性と、全社的なシナジーの広がり
【第4章】経営コンサルティング領域別の売上高分析
4-1.各領域の進捗
4-1-1.ストラテジー&ドメイン
4-1-2.デジタル・DX
4-1-3.HR
4-1-4.ファイナンス・M&A
4-1-5.ブランド&PR
【第5章】中堅企業の成長を支える戦略と取り組み
5-1.地域経済を支える中堅企業
5-2.中堅企業市場の重要性とホワイトスペース
5-3.「中堅企業経営研究所」の設立とその意義
5-4.長期的な伴走型支援の強み
【第6章】ROE(株主資本当期純利益率)向上と株主還元方針
【第1章】創業理念とコアコンピタンスの確立
タナベコンサルティングの原点は、創業者・田辺昇一氏が終戦後の日本社会で抱いた問題意識と信念に根差している。航空工学を志していた田辺氏は戦後の混乱の中で研究職を失い、町工場の一工員として再出発した。やがて経営幹部となるが、当時の経営者の姿勢や志に疑問を感じ、「このままでは会社が潰れる」と判断して退職。結果、企業は倒産した。
田辺氏は、自らの予感が現実となり、かつての部下やその家族、取引先が路頭に迷う姿を目の当たりにした。この経験は彼に深い衝撃を与え、「企業には命があり、それを潰す権利は誰にもない。日本にも企業を救う仕事が必要だ」という強い信念を抱かせた。そして、企業を支援することを自らの使命と定める契機となった。
こうして経営支援の道を志した田辺氏は、縁あって経営研究組織である産業能率研究所で経営コンサルタントとしての第一歩を踏み出した後、1957年に「田辺経営相談所」を設立した。
当時、日本では経営コンサルティングという概念自体が浸透しておらず、組織的な支援体制や専門職としての基盤もほとんど存在していなかった。対照的に、アメリカやヨーロッパではアーサー・D・リトル、マッキンゼー、PwC、KPMGなどがそれぞれの専門領域を起点にコンサルティングファームとして確立し始めていた。特に、企業の成長戦略や財務改善に関する助言を行う「戦略型」「提言型」のサービスが芽生え始めており、この動きは1960年代後半以降、日本にも徐々に波及していく。
しかし、外部専門家による客観的な指摘や助言が主流となる中で、同社はこれらとは異なるアプローチを採った。経営者に直接寄り添い、現場に深く入り込みながら戦略の構築から実行までを継続的に支援する「伴走型」の手法である。単なるアドバイザーではなく、経営者とともに企業変革と成長を目指すこのスタイルは、創業以来一貫して受け継がれている。
創業後の1958年、最初の事業として「重役教室」を開講。この「重役教室」は1959年に経営者のための勉強会組織「イーグルクラブ」として改めて発足。同年には経営戦略セミナーを開講し、さらにビジネス手帳「ブルーダイアリー」の発売を開始するなど、経営者向けの支援活動を本格化させた。その後も活動領域を拡大し、1971年までに大阪・東京・北海道・九州・名古屋・広島に拠点を展開。さらに1980年代半ばまでには仙台・新潟・金沢・沖縄にも拠点を設けた。早くから全国主要都市への拠点展開を進めたことは、現在に至る地域密着型の経営支援スタイルの礎となっている。
田辺氏の創業理念と戦後社会の現実から立ち上がった同社は、地域密着型で経営現場に深く関与する独自のスタイルを貫き、今日に至っている。今後も、地域企業に寄り添いながら独自の支援スタイルを進化させていくことが期待される。
【第2章】現経営体制と変革の方向性
現代表取締役社長の若松孝彦氏は、2014年4月に社長に就任して以来、急速に変化する経営環境の中で、同社の持続的な成長を牽引してきた。
就任後約2年半という短期間で市場区分を当時の東証JASDAQから第二部、さらに第一部へと段階的に引き上げたことは、その先見性と実行力を端的に示すものである。
若松氏のリーダーシップの特徴は、外部環境の変化を的確に捉え、それを企業成長の機会へと転換する戦略眼にある。特に「M&Aによる事業領域の拡張」と「株式市場との積極的な対話・情報発信」は、成長ドライバーとして重要な役割を果たしてきた。
次節では、それぞれの取り組みとその成果について、より詳しく見ていく。
2-1.M&Aによる事業拡大
2019年から5社をグループ化し、グループ7社体制となっている。M&Aの選定においては、既存サービスとの補完性や相乗効果を重視しており、とくにDX分野を中心に、グループとしての専門性と対応力の幅を広げてきた。
2020年5月に発表された5ヵ年の中期経営計画では、DX分野を中心にM&Aによる売上高を、最終年度(2026年3月期)に全体の約13%にあたる20億円規模とする方針が掲げられていた。現在グループ入りしている5社とは新規顧客の獲得や既存顧客へのクロスセル・アップセルにもつながるなどシナジーが顕在化してきているとしており、今後はさらにグループシナジーを高めながら事業を拡大し、収益性を高める戦略であるとしている。なお、M&Aの効果は財務指標にも表れ始めており、買収によって総資産が一時的に増加したものの、それを上回るペースで売上が伸びたことで資産効率が向上。特に2021年以降は総資産回転率が一段と改善しており、株主資本当期純利益率(ROE)にも好影響を与えている。
下図は、同社の総資産回転率の推移を示したものであり、2021年3月期以降の改善傾向が明確に現れている。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
2-2.株式市場との対話と情報開示の高度化
若松氏は就任以降、企業価値向上に向けたIR活動にも積極的に取り組み、ステークホルダーへの情報発信を強化している。
社長自らが登壇する個人投資家向け説明会を年に複数回開催し、投資家との対話機会の拡充にも努めている。これらの取り組みは市場からも評価されており、リスク指標の低下に加えて、PBR(株価純資産倍率)は2024年3月期に1.5倍、直近では2倍前後にまで上昇するなど、市場からの評価改善が進んでいる。
【第3章】2025年3月期業績進捗と戦略投資
3-1.業績進捗と成長基調の継続
2025年3月期第3四半期累計の業績は、売上高11,140百万円(前年同期比+13.5%)、営業利益1,372百万円(同+43.4%)となり、いずれも四半期累計ベースで過去最高を更新した。売上高の増加に伴い営業利益率も上昇傾向にあり、期ごとの変動はあるものの、近年は概ね10%台を維持している。
売上高と営業利益率の四半期推移
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
2024年9月には、同年8月にグループインしたSurpassの年間売上高約1,000百万円のうち、第2四半期からの連結分を織り込んだことにより、通期売上高見通しを400百万円上方修正した。営業利益については、先行投資を継続する方針のもと計画を据え置いている。修正後の通期計画に対し、第3四半期終了時点の進捗率は売上高79.6%、営業利益92.4%となっており、計画達成に向けて順調に推移している。
3-2.費用構造の変化と戦略的支出
同社では現在、人材の積極的な拡充を進めており、採用費を中心とした人的資本関連投資の比重が高いことが特徴である。ただし、2025年3月期は、Surpassのグループ入りによる増員効果を受け、採用関連費には一定の抑制が見られた。
中期経営計画では、2026年3月期(最終年度)末時点で従業員800人体制を目標としており、現状からは76名の増員が必要となる。
一方、人的資本投資のうち、人材育成(企業内大学(TCGアカデミー)等)や福利厚生への投資方針には変更がなく、年に数%程度の昇給も引き続き実施する予定である。採用費に関しては不透明要素を含むものの、人材の育成と定着を重視する基本方針は堅持している。
また、原価面では、単価の高いブランドPR領域のプロモーション案件やキャンペーン施策に伴い、季節によって変動しやすい傾向(季節性)が従来から見られる。特に、ブルーダイアリーやカレンダーの制作に関連して、第3四半期の原価率が上昇する傾向がある。
下表は、各費用の売上高に対する割合を、項目ごとに四半期順に示したものであり、季節性や費用構造の特徴を視覚的に捉えることができる。同社では、外部への理解促進を目的としてこうしたデータの開示にも努めており、本表はその情報を基に作成している。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
3-3.グループ会社の専門性と、全社的なシナジーの広がり
同社は2019年以降、事業領域の拡張とサービスの高度化を目的として、グループ会社の拡充を進めてきた。各社はそれぞれの専門分野において強みを持ち、タナベ本体との親和性を保ちながら、今後の全社的なシナジー創出にも寄与することが期待されている。以下では、各グループ会社の特徴と現状について紹介する。
2019年10月にグループ入りしたリーディング・ソリューションは、B to B領域におけるデジタルマーケティング全般を手がける企業であり、デジタル・DX領域で貢献しているほか、自社内のマーケティング施策においても密接に連携している。特に、経営コンサルティング領域別の専門サイトの構築を通じて、現在では新規案件の約3割をこのチャネルから獲得している。
2021年1月に子会社化したグローウィン・パートナーズは、クロスボーダーを含むM&A全般の支援を中心に、大企業・上場企業グループを対象としたバックオフィス(経理や財務部門など)に対するBPR/DX支援(ERP、RPAの導入支援など)や人事制度設計など多岐にわたる領域でサービスを提供している。なかでも、M&Aに関しては、ターゲット企業の選定からデューデリジェンス、PMI(買収後の統合プロセス)までを一貫して担う体制を有しており、このワンストップ支援のスタイルは、伴走型を強みとする同社本体との親和性が高い。また、同社が積極的に進めてきたグループ再編や子会社化においても、グローウィン・パートナーズの専門知見が活かされていると考えられ、自社のM&A戦略を推進する上でも一定の相乗効果を発揮している可能性がある。
同じく2021年にグループインしたジェイスリーは、ディレクターやクリエイター、デザイナーなどのプロフェッショナル人材を擁し、創業以来550社以上にブランディング、CXデザイン、マーケティングDXを提供してきた。実績に裏付けられた高度な知見とノウハウを有しており、地域においてブランディングの強化を経営課題とする企業も多く、今後の成長が期待されている。
2023年2月に加わったカーツメディアワークスは、PRコンサルタントとして、メディア出身者やグローバル人材が多数在籍している。外資系を含む大企業に対する戦略PR、海外PR、デジタルマーケティングの戦略立案・運用支援を強みとし、ブランドの大規模プロモーションに特化した事業展開を行っている。これまでに大企業を中心とした案件を多数手がけている。同社が提供する海外向けプレスリリース配信サービス「Global PR Wire」は、配信したいエリアに合わせて業界に特化した世界のジャーナリストに直接リリースを届けるサービスであり、日本を代表するグローバル企業を含む1,500 社超の企業が利用しており、このサービスを通じた顧客数も増加傾向にある。
2024年8月にグループ入りしたSurpassは、社員の約95%が女性である強みを生かし、B to B企業に対するセールス/ マーケティングコンサルティングやデジタルマーケティングおよびSFA(セールス・フォース・オートメーション)/CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の実装コンサルティング、DE&Iを実現する組織デザインコンサルティングなどを提供している2025年3月期第2四半期(9月)からの業績反映となるが、HR、ストラテジー&ドメイン、DXといった複数の領域でのシナジーが期待されており、今後の貢献が注目される。
【第4章】経営コンサルティング領域別の売上高分析
本章では、経営コンサルティング事業を領域別に分類し、それぞれの進捗状況と特徴について解説する。
4-1.各領域の進捗
4-1-1.ストラテジー&ドメイン
第3四半期を終えた時点で、第2四半期に発表した通期計画に対する進捗率は79.0%に達している。計画通りに推移すれば、通期では対前期比+119百万円の売上高となる見通しである。
同領域の主力は、「長期ビジョン・中期経営計画の策定・推進」(以下、中計)の策定支援であり、現在も売上高の約8割を占めている。中計支援を手がけるコンサルティング会社は複数存在するが、策定を依頼する企業の中には、出来上がった計画が十分に実行されず、結果として当初想定していた成果に結びつかないケースも少なくない。これに対し、同社は単なる計画策定にとどまらず、実行段階に向けたアクションプランの具体化まで踏み込んで支援することで、計画の実行確度を高める点が特徴となっている。この伴走型の支援が評価され、他社との差別化要因となっている。また、近年では大企業からの単発案件も増加傾向にあり、これらの案件では伴走支援には至らないものの、数年ごとの中計再策定支援を通じて継続的な関係を構築している。
企業を取り巻く環境では、コーポレートガバナンス改革や資本市場からの要請に加え、経営環境の不確実性が年々高まっている。これを背景に、中期経営計画の新規策定や見直しに踏み切る企業が増加している。上場企業の適時開示における中計発表件数は、2010年代から増加基調にあり、2024年には1~9月の10ヶ月間で614件に達し、直近7年間で最多となった(大和総研『中期経営計画の近時動向 <2024年10月>』)。こうした市場環境を追い風に、同領域は今後も安定した成長が見込まれる。
また、グローバル案件および行政・地方自治体向け案件も好調に推移している。グローバル領域では、日本企業の海外進出支援や海外企業の日本進出支援に取り組んでおり、案件数はまだ限られるものの、今後の拡大が期待される。
行政・地方自治体向けの売上高は、全体の売上高に対する貢献度はまだ僅かであるものの、件数は増加傾向にあり、取り組みを強化している。また、同領域では、2024年にグループ入りしたSurpassと連携したマーケティング・セールス支援も新たに始動しており、こちらも今後の成長が注目される分野である。
下図は、当該領域を担当する組織構成を示している。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
4-1-2.デジタル・DX
第3四半期を終えた時点で、第2四半期に発表した通期計画に対する進捗率は79.8%に達している。計画通りに推移すれば、通期では対前期比+259百万円の売上高となる見通しである。
同領域の成長を牽引しているのは、デジタルツールを活用して業務の効率化を図るとともに、付加価値へ転換可能な情報資産の蓄積や、情報に基づくスピーディーな経営判断の実現を目指すマネジメントDXの分野である。特に、ERP(統合型基幹業務システム)導入支援に関するご相談が増加しており、提携先である日本オラクル社のクラウドERP「NetSuite」とタナベコンサルティングが長年培ってきた経営コンサルティングナレッジを融合させることで、導入効果の最大化を実現している。
NetSuiteは、これまでは主に大企業を中心に普及が進められてきたが、日本オラクル社が2019年以降、販売代理店経由での展開を強化したことにより、現在では中堅・中小企業にも導入が広がりつつある。基幹システムの刷新は企業規模を問わず成長に不可欠な施策となりつつあり、国内ERP市場の拡大トレンドを背景に、当該分野の成長も期待される。
また、2024年7月より全国の中堅・中規模企業のDX を支援することを目的に業務提携を開始したリコージャパン社との連携支援も広がっている。リコージャパンや日本オラクルの連携相手はいずれも出口のDX実装力を持つ企業で、同社が上流工程に属するDX構想構築を担うことで、DXの構想から導入まで一貫したサービスを顧客企業に対して提供できる。他企業とのこうした連携は現在引き合いが多いとのことで、今後も増加が予想される。他には、2023年3月期から新規で提供を開始した「DXビジョン」の契約数も伸長している。
さらに、2026年3月期より、グループ会社Surpassが提供する女性向けIT人材支援サービス「TECH WOMAN」が当該領域に加わる予定であり、新たな収益源として成長が期待される。
同社では引き続き、システム関連企業をM&Aの候補として注視しており、適切な企業との連携が実現すれば、当該領域の成長に一段と弾みがつく可能性もある。
下図は、当該領域を担当する組織構成を示している。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
4-1-3.HR
第3四半期を終えた時点で、第2四半期に発表した通期計画に対する進捗は75.7%に達している。計画通りに推移すれば、通期では対前期比+532百万円の売上高となる見通しである。
国内では2022年以降、「人的資本可視化指針」や「人材版伊藤レポート2.0」の策定、有価証券報告書での人的資本情報の開示義務化など、政府による制度整備が相次いだ。さらに、従業員101人以上の中小企業にも女性活躍推進法に基づく情報開示が義務付けられるなど、人的資本経営への対応は企業規模を問わず急速に広がりを見せている。
こうした潮流のなか、同社のHR領域では、人的資本経営の実装に向けた多様な支援ニーズが拡大しつつある。リスキリングを含む従業員教育、次世代経営者の育成、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)対応、従業員エンゲージメント向上といった新たなテーマへの引き合いが増加。現状把握を目的としたサーベイ型サービス「HRKARTE」の活用も広がっている。
同領域ではもともと、ストラテジー&ドメイン領域の中期ビジョン策定支援に次ぐ主力サービスとして、人事制度立案コンサルティングが柱となってきた。この人事制度立案支援は、現在も領域全体の売上の約8割を担う中核的なサービスであり、引き続き成長を続けている。
下図は、当該領域を担当する組織構成を示している。人的資本領域におけるニーズの変化を的確に捉えるべく、新たに2部門が設立されており、環境変化への迅速な対応姿勢がうかがえる。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
4-1-4.ファイナンス・M&A
第3四半期を終えた時点で、第2四半期に発表した通期計画に対する進捗率は73.2%に達している。計画通りに推移すれば、通期では対前期比+318百万円の売上高となる見通しである。
同社は、約5年前にM&A支援事業をゼロから立ち上げた。2021年1月には、M&A領域に強みを持つグローウィン・パートナーズを子会社化し、支援体制に多様性を加えている。
M&A支援にあたっては、単なる「件数」を追うのではなく、実施前後に発生する経営課題までを一貫して支援するスタイルを徹底している。単発的な仲介業務にとどまらず、経営変革のプロセス全体に寄り添う姿勢が同社の大きな特徴であり、他社との差別化要因となっている。
近年では、長年にわたり継続支援を行ってきた企業から、後継者問題に関する相談が増加傾向にある。2025年3月期第1四半期には、こうした既存顧客同士をつなぐ形でM&Aが初めて実現するなど、新たな動きも見られた。
一方、国内全体のM&A市場に目を向けると、2024年には年間件数が過去最多を更新し、中長期的な増加トレンドが続いている。大企業による案件も増加しているが、近年は1件あたりの取引規模が小型化する傾向も指摘されており、取引金額ベースでは件数の増加ほど伸びは緩やかとなっている。背景には、後継者不足に起因する小規模なM&Aの増加があり、2019年には「事業承継M&A」(中小企業の後継者不在による第三者承継型M&A)が全体の約15%を占めたとの調査結果もある(M&Aキャピタルパートナーズ『M&Aの市場規模は?2023年の実績から今後の動向を探る』)。
こうした市場環境も追い風となっており、同社のM&A支援領域は今後さらに成長が期待される。
下図は、当該領域を担当する組織構成を示している。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
4-1-5.ブランド&PR
第3四半期を終えた時点で、第2四半期に発表した通期計画に対する進捗率は84.4%に達している。計画通りに推移すれば、通期では前期比+51百万円の売上高増を見込んでいる。
当領域は、従来からプロモーションツールの手配やキャンペーン施策に伴う原価負担が大きく、利益率が抑えられる傾向にあった。特に、大企業向けの大規模プロモーション案件では、1件あたりの単価が大きい一方で、原価も高騰しやすい構造となっている。このため、プロモーションコストの上昇に対しては、価格改定(値上げ)を通じた収益性の維持・向上に取り組み、コスト増への対応を進めてきた。
こうした中、近年では、利益率の高いブランド戦略の立案やコンサルティング案件へのシフトが徐々に進んでおり、利益率の改善に向けた動きも見られている。今後も、従来型のプロモーション支援にとどまらず、ブランド価値の向上を目指すコンサルティング領域への展開を加速し、収益構造の強化を図っていく方針である。
第3四半期までの進捗においては、コンテンツマーケティングおよびハイブリッドプロモーション分野が好調に推移した。特に、BtoC向け有名企業のキャンペーン案件や、アニメとのコラボ企画などが収益拡大に大きく寄与している。
下図は、当該領域を担当する組織構成を示している。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
【第5章】中堅企業の成長を支える戦略と取り組み
5-1.地域経済を支える中堅企業
2024年は「中堅企業元年」と位置付けられ、産業競争力強化法の改正により、従業員数2,000人以下の企業が「中堅企業者」と新たに定義された。中堅企業は、規模拡大に伴い経営の高度化や商圏の拡大、事業の多角化といったビジネスの発展が見られる段階にあり、地域経済を牽引する重要な存在として注目されている。経済産業省を中心に、中堅企業の成長を促進するための補助金や支援策が展開される中、同社はこれまでの豊富な支援実績を基に、日本を代表する「中堅企業向け経営コンサルティングファーム」としての地位をさらに強化している。
5-2.中堅企業市場の重要性とホワイトスペース
中堅企業は、国内で事業・投資を拡大し、地域での賃上げにも貢献するなど、経済全体において重要な役割を果たしている。しかしながら、この市場には他のコンサルティングファームが対応しきれていないホワイトスペースが存在している。中小企業向けのコンサルティングは比較的指導がしやすく、多くのファームが参入しているが、企業が成長して中堅規模になると、対応できるファームが限られてくる。一方、大手企業向けの外資系コンサルティングファームは、報酬単価が高く、中堅企業の予算規模では利用が難しいという課題がある。同社は、戦後間もない時期から中堅企業の成長を支援してきた実績を持ち、長期的な伴走型支援を通じて中堅企業の経営課題に深く寄り添い、ノウハウを蓄積してきた。このような背景から、中堅企業市場には同社が強みを発揮できる独自のポジションが存在している。
5-3.「中堅企業経営研究所」の設立とその意義
同社は、これまでの支援実績を基に、日本全国の中堅企業のさらなる成長を支援するため2025年4月より中堅企業に特化した専門組織「中堅企業経営研究所」を新たに設立した。研究所では、中堅企業の経営課題に特化した調査・研究を行い、最新の経営メソッドやソリューションを開発。これにより、地域経済を牽引する中堅企業の成長を後押しする体制を強化していく。
また、同社の創業者である田辺昇一が1970年に『中堅企業成長の秘密』、1983年に『まちがいだらけの中堅企業経営』を出版しているように、創業以来、中堅企業の成長に特化した支援を行ってきている。さらに、経済産業省の「中堅・中小成長投資補助金」の審査委員も務めるなど、政策面でも中堅企業支援に深く関与している。
5-4.長期的な伴走型支援の強み
中堅企業は、海外戦略、事業承継、デジタル化、組織改革など、多岐にわたる課題を抱えている。特に、地域や業界においてNo.1のポジションを持つ企業が多く、特定市場での競争優位性を確立する「ニッチトップ戦略」を理解し、経営者と密接に連携することが成功の鍵となる。同社の支援スタイルは、短期的なプロジェクト型ではなく、経営者とチームを組み、長期的に伴走するアプローチが特徴である。たとえば、「今年は人事制度」「来期は中期経営計画の再構築」といったように、テーマを変えながら継続的な支援を行うことで、企業の成長ステージに応じた最適なソリューションを提供している。このような支援体制は、戦後間もない時期から日本企業の成長を支援してきた同社の歴史と実績に裏打ちされており、中堅企業の経営陣から高い信頼を得ている。
【第6章】ROE(株主資本当期純利益率)向上と株主還元方針
同社では、ROE(株主資本当期純利益率)に加えて、株主資本配当率(DOE)を指標として併用することで、収益性にとどまらない還元方針の透明性も確保している。
ROE(自己資本利益率)については、2021年3月期以降、構成要素である総資産回転率と財務レバレッジがいずれも上昇基調を示している。特に総資産回転率は、M&Aによる事業拡大の効果が大きいとみられる。また、財務レバレッジについても、成長投資に加え、自己株式取得による自己資本圧縮が影響しており、ROE改善に寄与している。
なお、2024年3月期には売上純利益率の一時的な低下によりROEが伸び悩む局面も見られたが、資本効率・資産効率の両面で構造的な改善が進行しており、ROE構成要素の底上げを通じた企業価値創出基盤の強化が着実に進んでいると評価できる。
さらに、2025年3月期第3四半期の決算発表にあわせて、同社は自己株式の消却および株式分割を実施するとともに、期末配当予想の上方修正を発表しており、株主還元に対する積極的な姿勢を明確に示している。こうした施策は、DOEを重視した安定的かつ継続的な還元方針と整合的であり、投資家との中長期的な信頼関係構築にも資する動きといえる。
下図は、同社のROE構成要素(純利益率、総資産回転率、財務レバレッジ)の推移を示したものである。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
下図は、当社の1株当たり配当金の推移を示したものであり、配当も順調に増加している。
出典:同社開示資料を基にリンクスリサーチ作成
以上
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