9644 タナベコンサルティンググループ 2025年3月期1Q決算を発表 by宇佐見聖果 ※アナリストレポート
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TCGレポート_2025年3月期1Q_2024年11月5日発行
目次
1.2025年3月期1Qの業績・中期経営計画の達成確度
(1) 2025年3月期1Qの業績
(2) 中期経営計画の達成確度
2.2024年8月に実施したM&Aの影響
3.経営コンサルティング領域別の売上高分析
(1)ストラテジー&ドメイン
(2)デジタル・DX
(3)HR
(4)ファイナンス・M&A
(5)ブランド&PR
4.人的資本投資
5.株主還元政策
6.M&A戦略について
1.2025年3月期1Qの業績・中期経営計画の達成確度
(1) 2025年3月期1Qの業績
当期1Qの業績は売上高が30億79百万円(前年同期比+5.5%)、営業利益が2億80百万円(同+2.4%)で着地し、同四半期としては過去最高の売上高及び営業利益を更新した。
なお、同社は2024年9月11日に当期2Q累計を見据えた業績修正を発表しており、通期売上高について5億円の上方修正を行った。修正後の計画値に対しては、1Qを終えた時点で売上高が22.0%、営業利益が18.9%の進捗率となっている。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
(2) 中期経営計画の達成確度
同社は5ヵ年中期経営計画の最終年度にあたる2026年3月期の売上高目標を150億円で掲げており、そのうち売上高20億円分をM&A投資で上乗せすることを計画している。2024年8月(2025年3月期)にSurpass社を買収したことにより、M&Aによる売上高20億円の達成が見込まれる。2021年12月にグループインしたジェイスリー、2023年2月にグループインしたカーツメディアワークスの2社を加えた3社の業績貢献により、M&Aによる売上高目標の20億円の大半を賄うことが想定されている。一方で、手元現預金10億円以上を活用したM&A戦略の推進を方針として掲げているため、2026年3月期までの間に新たなM&Aを実施する可能性は現時点でまだ残されており、仮に実施された場合には実績値が計画値を超えてくることも考えられる。
営業利益目標については、今期の営業利益率を10.6%、来期を12.0%としており、近年で最も高い水準を達成することが計画されている。この計画値については、売上の伸長に伴う売上総利益率の上昇が見込まれることに加え、毎期第4Qには3Qまでの累計値を踏まえて投資額を調整しており、営業利益計画の達成確度を高める余地があることから、達成できるとの自信を同社は示している。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
2.2024年8月に実施したM&Aの影響
2024年8月に株式の過半数を取得して子会社化したSurpass社は、組織コンサルティングやBtoBセールス/マーケティングの実装支援等を得意としている。特に、HRコンサルティング領域における「DE&I」「女性活躍推進および人材育成」「キャリアデザイン」等の「組織開発コンサルティング領域」の強化が期待されており、売上に貢献する領域としてはHR領域およびデジタル・DX領域が想定されている。Surpass社の業績は2025年3月期2Qから反映される予定である。
また、Surpass社のグループ加入により同社では2024年9月1日現在の従業員数は742名となった。コンサルタントをはじめとする人員の充足度合が業績に大きな影響を与える同社は、中期経営計画において人員数の目標値を掲げている。前期はM&Aを実施せずに目標未達となったが、今期はSurpass社の買収に伴い目標値を大幅に超過する見込みとなった。また、前期はグループ内の採用活動のみで34名の純増であったことを踏まえると、既に742名(2024年9月1日現在)の人員を確保できている現状から鑑みて、2026年3月期末時点で800名の人員数を獲得することは、新たなM&Aが実施されずとも実現できる可能性が高い。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
3.経営コンサルティング領域別の売上高分析
同社は、2024年3月期に全国の事業所を経営コンサルティング領域別の組織に細分化したことに伴い、各事業所における売上高区分を組織単位に合わせて集計する方法に変更している。それに合わせて前期末、各経営コンサルティング領域の売上目標値を修正した(下のグラフが修正後の実績および業績予想となる)。
今期2Qに子会社化したSurpass社の売上高が、HR領域とデジタル・DX領域の2領域に算入されることが予想されるため、これらの領域の実績が計画値を若干上回る可能性がある。しかし、現時点では、いずれの領域においても実績値が計画値を大幅に逸脱する可能性を同社は想定していない。
なお、同社は、領域別の通期業績予想を毎期2Q決算発表の際に開示しており、今期もその予定である。
■経営コンサルティング領域別の売上高
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
(1)ストラテジー&ドメイン
当期1Q、同領域の売上高は5億71百万円(前年同期比+9.1%)で着地した。
同領域では、「長期ビジョン・中期経営計画の策定・推進」に対するニーズが依然として高く、これらのテーマが同領域の約8割を占めている。企業の中長期的な戦略策定を重視する姿勢が強いことに加えて、コロナ禍からの回復や為替変動・インフレといった外的環境の変化に伴い、一度策定した経営計画を見直すニーズも続いており、事業環境の変化に応じた経営計画の修正や再構築を求める企業が多くなっていることが背景にある。
一方、2025年3月期からはグローバル展開に関する取り組みが強化されつつある。海外展開に強みを持つグローウィン・パートナーズやカーツメディアワークスの体制が整ったことを契機に、今期は同領域内にグローバルチームを新設。この体制強化により、今後は海外案件の拡大が見込まれる。現段階では日本企業の海外進出や撤退、具体的な事例はまだ少数であるものの、海外企業の日本進出支援などが進行している。
また、サステナビリティに関するコンサルティング需要も徐々に増加している。ESG対応が求められる中、同社に対する企業からの依頼は増加傾向にある。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
(2)デジタル・DX
当期1Q、同領域の売上高は6億92百万円(前年同期比+0.9%)で着地した。
デジタルツールを活用し、定型業務・非付加価値業務の効率化を図ると共に、付加価値へ転換可能な情報資産の蓄積と情報に基づくスピーディーな経営判断の実現をサポートする「マネジメントDX」(「IT化構想・DXビジョンの策定」「ERPシステムの導入・実装」等)が同領域の成長をけん引している。中でも、日本オラクル社とのパートナー契約を通じて展開しているクラウドERP「NetSuite」の導入・実装支援は、一件ごとの規模が大きく同領域の売上高を押し上げており、2023年3月期3Qには「NetSuite」導入に伴う大型案件の獲得により同領域の売上が増加している。また、2023年3月に提供を開始した「DXビジョン」は企業全体のデジタル戦略を見据えたテーマであるが、同テーマが「マネジメントDX」へ繋ぐ導入としての役割も担っていることも、「マネジメントDX」の成長を後押しする要因の一つである。
一方、前期には「マネジメンDX」と同程度の売上高をあげていた「デジタルマーケティング」は、コロナ禍が収束してリアルなマーケティング活動が活発化している現状において以前ほどの伸長がみられなくなっている。これについて同社は、デジタルマーケティング自体のニーズが消滅したわけではなく、現在はリアルとデジタルの双方が適切に活用される状況が生まれつつある局面であると捉えている。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
(3)HR
当期1Q、同領域の売上高は6億24百万円(前年同期比+6.5%)で着地した。
人的資本の重要性が高まる中において、同領域は堅調に推移している。中でも、「人事処遇制度の再構築」のテーマはグループの全ての案件の中でもニーズが高く、ストラテジー&ドメイン領域に属する「長期ビジョン・中期経営計画の策定・推進」のテーマに次いで重要なポジションにある。
また近年では、人材育成に関する相談が増えてきており、中でも、中堅社員が早い段階から経営者的な視点を持つことを目的とした経営者人材の育成においてニーズが高まってきている。人材育成のプログラムは同社が運営するアカデミーを通じて提供するものや、数ヶ月間のパッケージシリーズとして提供するものもある。
HR領域を担当するコンサルタントは前職で人事業務に携わっていた経験者が多く、また10~20年の経験を積んだ生え抜きも一定の割合で在籍している。
なお、同領域では毎年6~8月および11月に大規模なセミナーが開催されるため同時期の売上が増加する一方、4Qはセミナーの開催が殆どないことから同領域の売上が落ち込む傾向が見られる。同領域におけるセミナー関連の売上は年間約10億円である。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
(4)ファイナンス・M&A
当期1Q、同領域の売上高は5億64百万円(前年同期比+10.5%)で着地した。
同領域では、2024年3月期に「MIRAI承継」の提供を開始した。「MIRAI承継」は、後継者がいない企業が廃業を避けて継続的な成長を目指すための包括的な支援を行うサービスを志向したものである。例えばM&Aを選択した場合には、どのような企業と提携することで顧客企業が発展できるかの想定を行った上で、顧客企業または顧客企業以外の買い手を紹介する段階からM&A後の経営統合(PMI)に至るまで一貫したサポートを行う。
「MIRAI承継」のテーマに関連して後継者問題を抱える企業からの相談が増えてきており、今期1Qには顧客の中堅企業同士を繋げる形でのM&Aが初めて実現した。「MIRAI承継」の売上シェアは現在、同領域全体の約1割強とまだ多くはないが、このような大型案件の発生が今後も予測され、シェアの拡大及び同領域の成長が期待される。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
(5)ブランド&PR
当期1Q、同領域の売上高は5億87百万円(前年同期比+0.3%)で着地した。
市場の成熟と競争の激化に伴い、ブランディングを検討する企業が増加しており、BtoB企業や、周年や事業承継のタイミングでパーパスやブランドビジョン等を検討する企業向けに、「ブランド構築」や「戦略ブランディング・PR」等のテーマも増加傾向にある。また、従来から同領域は、プロモーションツール手配などに伴う原価がかかる案件が多く、利益率が抑えられていたが、近年では利益率の高いブランド戦略の立案やコンサルティングへのシフトが徐々に進み、その結果として利益率が改善傾向にある。
また、毎期3Qは「ブルーダイアリー」の販売に伴い売上が大きく伸びる。年間約7億円の需要を持つブルーダイアリーは、手帳単体での注文分は「その他」の領域に計上される一方、ブランドPRの一環として発注を受けた分は同領域に計上される。なお、財務諸表における「商品」「仕掛品」「原材料」の大半はブルーダイアリーの製造に係る費用となる。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
4.人的資本投資
経営コンサルティング領域ごとに人材を補強し、人材流動を防ぐために報酬処遇をより良くするなど、前期に引き続き、人的資本投資を継続している。
育成は、独自のプログラムで編成された企業内大学「TCGアカデミー」を通じて行われる。新卒採用、キャリア採用いずれも入社後は同アカデミーに参加し、さまざまなカリキュラムを受講しスキルを身に付けることと並行して、OJTによりコンサルティングの実務経験を積む。かつてはOJTが中心であったが、座学やeラーニングを取り入れたカリキュラムが導入されたことでコンサルタントの育成スピードが向上し、一人前になるまでの期間が約5年から2~3年程度へと短縮された。
これら各施策の結果として、人材獲得競争の激しいコンサルティング業界において同社の離職率は現在約10%で、近年はこの水準を維持しつづけている。
5.株主還元政策
同社は、中期経営計画最終年度の2026年3月期までにROE10%を達成する計画としており、増配および自己株式取得を組み合わせることで総還元性向100%の実現を目指す。2024年9月11日には、今期2Qおよび通期の上方修正に加え、1株当たり年間配当額について1円の増配に伴う修正を発表した。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
6.M&A戦略について
同社は、2019年より現代表の若松孝彦氏が代表に就任して以降積極的なM&Aを開始しており、直近約6年間で5社の企業がグループインしている。今後も引き続き、手元現預金10億円以上を活用したM&Aを積極的に検討していくとしている。
出所:同社開示情報を基にリンクスリサーチ作成
以上
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