7695 交換できるくん 戦略の転換点 アナリストレポート(ロングバージョン) by Ono
2024年9月1日(日)
東京勉強会に登壇していただきました。
*過去のレポートはこちら
上場直後の2021年2月からレポートを書いています。
コロナ禍では様々な取り組みについてフォローしてきました。
こちらからご参照ください。
https://double-growth.com/?s=%E4%BA%A4%E6%8F%9B%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B
レポートのポイント
〇イーコマース企業
〇チェンジ領域でリーダー企業
〇コロナ禍でリスクを取った経営判断により供給回復の追い風を享受
〇M&Aで事業領域を拡大
〇ブランディングを強化
〇イーコマース企業
同社はイーコマース事業者である。
一部の投資家においてはリフォーム事業者と誤って認識されることがあるようだが、同社は自社のECサイトで住宅設備機器と工事をセットで販売するイーコマース事業を行う企業である。
自社ECサイトで顧客からの住宅設備機器の交換見積もりを受け、決済、施工まで一気通貫で提供する。
豊富な工事実績と様々な商品情報などのコンテンツを自社ECサイトに蓄積している。WEBマーケティングによる受注においては同社が提供する商品の検索結果で上位に表示され、競争優位性の高さが維持されている。施工は契約パートナーの職人が工事を行う(社員職人も一部行うがメインは契約パートナーが施工)。契約している職人を効率的にスケジュールするシステムを構築していることも強みの一つ。
〇チェンジ領域でリーダー企業
大規模リフォームから一般リフォームのリフォーム領域、受託設備の修理や壁紙の補修工事などの修理領域とし、住設機器の交換を”チェンジ領域”と定義してマーケットリーダーとして成長を続ける。
〇コロナ禍での経営判断により供給回復の追い風を享受
半導体不足やロックダウンによる商品供給が滞ったタイミングで様々な施策をうち、供給回復して正常化した現在、高い成長軌道に回帰した。
〇M&Aで事業領域を拡大
株式会社アイピーエスの全株式を取得しIT関連事業を提供、ハマノテクニカルワークスと関連会社をグループ化し住宅設備機器の修理サービスに参入した。従来の交換できるくん事業を”住設DX事業”、アイピーエス社のIT関連事業を”ソリューション事業”と定義した。既存の周辺領域に事業領域を拡大し、事業の安定性と成長スピードを高める。
〇ブランディング投資を継続
”交換できるくん”の認知度を向上し、インターネットで住宅設備機器の交換ができることを認知してもらうためにテレビCMを中心としたブランディング投資を実施する。
以下、詳細にレポートする。
1. 沿革
株式会社交換できるくん(以下、交換できるくん または 同社)は、1998年11月に有限会社ケイシスとして設立され、住宅設備工事業を開始した。設立当初から、インターネットを活用した新しいビジネスモデルの構築を目指し、2001年には「サンリフレプラザ」という住宅設備機器のWEBサイトを開設した。このサイトを通じて、住宅設備の交換をインターネットで提供するという革新的なビジネスモデルを確立した。
2007年には埼玉県に商品センターを設置し、以降、大阪(2008年)、名古屋(2009年)、福岡(2010年)、札幌(2016年)と全国各地にサービス部を開設し、事業を拡大してきた。これにより、全国規模でのサービス提供が可能となり、顧客基盤を着実に拡大した。2008年には「ベストECショップ大賞2008」で審査員特別賞を受賞し、オンラインショップとしての評価を高めた。
2011年には、日本オンラインショッピング大賞で最優秀賞を受賞し、業界内での地位をさらに確立した。2012年には本社を東京都渋谷に移転し、2014年には代官山に東京ショールームを開設して、ECサイトの実店舗化を進めた。2018年にはサービス名を「交換できるくん」に変更し、ブランドイメージの統一を図った。
2020年には社名を「株式会社交換できるくん」に変更し、同年12月に東京証券取引所マザーズ市場(現グロース市場)に上場を果たした。これにより、企業としての信頼性と資金調達力を強化し、さらなる事業拡大の基盤を築いた。上場後も、広島や仙台にサービス部を開設し、事業基盤を強化している。
2024年には、株式会社アイピーエスの全株式を取得し、グループ会社化を進めるなど、M&Aを通じた事業拡大を図っている。また、ハマノテクニカルワークスとその関連会社をグループ化し、新たに住宅設備機器の修理サービスに参入した。このような戦略的な事業展開により、法人事業の強化や住宅設備機器メーカーとの関係を一層強化し、持続的な成長を目指している。
2. 社長の経歴と起業の経緯
株式会社交換できるくんの代表取締役社長である栗原将氏は、1975年10月29日に神奈川県横浜市で生まれた。地元の高校を卒業後、1998年に有限会社ケイシス(現・交換できるくん)を設立し、住宅設備工事業を開始した。栗原氏は、住宅設備業界における価格の不透明さや顧客の不安を解消するため、インターネットを活用した新しいビジネスモデルを模索していた。
起業の背景には、栗原氏自身の経験が大きく影響している。彼は、水道設備工事から始まった現場での経験を通じて、現場に精通し、顧客が直面する課題を理解していた。この経験を活かし、顧客が安心して利用できるサービスを提供することを目指した。特に、見積もりから注文までをネットで完結できるサービスを開発し、顧客に対して透明性の高い取引を提供することに成功した。
同氏は、デジタル技術の重要性を早くから認識し、サイトの制作からデザイン、SEOまでを内製化するデジタル開発力を強化した。これにより、ECサイトの運営を効率化し、顧客に対するサービスの質を向上させた。彼のリーダーシップの下、同社は住宅設備機器の単品交換というニッチ市場での地位を確立し、業界内でのマーケットリーダーとしての地位を築いた。
また、企業の成長には人材の育成が不可欠であると考え、従業員数が195名(社員職人15名含む)、職人が社員職人15名と契約パートナー194名で合計209名(2024年6月末時点)を擁する体制を整えた。彼の経営方針は、社員一人ひとりが成長し、顧客に対してより良いサービスを提供することを重視している。このような取り組みが、同社の持続的な成長を支えている。
栗原氏のビジョンとリーダーシップにより、交換できるくんは住宅設備業界において革新的な存在となり、今後もさらなる成長が期待されている。
3. 企業理念
企業理念は、「心から頼んで良かった」「心から働いて良かった」と感じられる会社であることを目指している。この理念は、栗原氏の考え方に深く根ざしている。栗原氏は、住宅設備業界における顧客の不安や不透明な価格設定を解消するために、誠実で透明性のあるサービスを提供することを重視している。
栗原氏は、業界の構造的な課題に対して、インターネットを活用した革新的なビジネスモデルを導入することで、顧客に安心と信頼を提供することを目指した。単なるリフォーム店ではなく、住環境の向上を通じて顧客に「ワクワクドキドキ」を提供することである。この考え方は、同社のサービス全体に反映されており、顧客が気軽に住宅設備を交換できる環境を整えることに注力している。
また、栗原氏は社員の働きやすさにも配慮し、誠実に働いて成長できる職場環境を提供することを大切にしている。社員一人ひとりが成長し、顧客に対してより良いサービスを提供できるよう、評価制度や教育体制を整えている。これにより、社員は自信を持って仕事に取り組むことができ、結果として顧客満足度の向上につながっている。
さらに、栗原氏は「交換できる」をすべての人に提供することを目指し、ITの力と信頼に応える工事力でサービスを展開している。この理念は、顧客に対して迅速で誠実なサービスを提供し、適切な料金で高品質な工事を実現することにある。こうした企業姿勢が、顧客からの支持を得ている要因となっている。
同社は、住宅設備の交換を通じて、顧客の生活をより便利で快適にすることを使命とし、社会に貢献することを目指している。このように、栗原氏の考え方は、企業理念として明確に示され、同社の事業活動の基盤となっている。
4. 市場の特徴 需要の多様化と競争激化
住宅設備の交換市場は、リフォーム市場の一部として位置づけられており、近年その重要性が増している。特に日本では、住宅ストックの活用が進む中で、新築住宅の着工数が減少していることから、中古住宅のリフォームや設備交換の需要が高まっている。この市場は、住宅設備機器の交換を通じて、住環境を改善することを目的としており、特に水まわり設備や創エネ関連設備の需要が増加している。
特に、同社は住設機器の交換を”チェンジ領域”と定義し、マーケットリーダーとして成長を続けている。
市場規模としては、2023年度の主要住宅設備機器市場は約1兆9,868億円と推計され、前年から2.3%の成長を見せている。この成長は、脱炭素社会の実現に向けた政策や、良質な住宅ストックの確保が求められていることが背景にある。また、住宅リフォーム市場全体も2022年には前年比5.8%増の7兆2,877億円と推計され、今後も拡大が見込まれている。
*住宅設備機器市場に関する調査を実施 (2024/8/6)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3592
*住宅リフォーム市場に関する調査を実施(2023/07/13)
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3305
市場の特徴としては、以下の点が挙げられる:
需要の多様化:
新築向けだけでなく、既築住宅向けの需要が増加しており、特に中古住宅の価値向上を目的とした設備交換が注目されている。
流通ルートの変化
インターネットを通じた販売や、ECサイトを利用した直接販売が増加しており、消費者が価格やサービスの透明性を求める傾向が強まっている。
競争環境の激化:
市場には多くのプレーヤーが存在し、価格競争やサービスの質が競争優位性を決定する要因となっている。特に、ネット完結型のサービスを提供する企業が増えており、顧客の利便性を高める取り組みが進んでいる。
人材不足:
若手の離職やベテランの引退が進む中で、労働力の確保が求められている。このような市場環境の中で、企業は効率的なオペレーションと高品質なサービスを提供することが求められている。
このように、住宅設備の交換市場は、成長の機会と課題が混在するダイナミックな市場であり、今後もその動向が注目される。
5. 顧客の課題に対して次々と解決策を提供
現在、住宅設備の交換としてトイレ、蛇口、洗面台、ガスコンロ、給湯器など、日常生活に欠かせない幅広い種類の設備機器の交換を行っている。
住宅設備の交換における顧客の課題は多岐にわたる。まず、価格の不透明性が挙げられる。多くの顧客は、設備交換にかかる費用が明確でないことに不安を感じる。また、施工の質やアフターサービスの信頼性も重要な懸念事項である。特に、初めて設備交換を行う顧客にとっては、プロセス全体が複雑で理解しにくいことが課題となる。さらに、時間や手間がかかることも、忙しい現代の消費者にとっては大きな負担となっている。
これらの課題に対して、株式会社交換できるくんは、ネット完結型のサービスを提供することで解決を図っている。同社は、インターネットを活用して見積もりから注文、施工までを一貫して提供することで、顧客にとっての利便性を大幅に向上させている。このプロセスは非常にスピーディーであり、顧客は自宅にいながら必要な手続きを完了できるため、時間と手間を大幅に削減できる。
さらに、価格の透明性を重視しており、ウェブサイト上で詳細な料金プランを公開している。これにより、顧客は事前に正確な費用を把握でき、安心してサービスを利用することができる。また、施工の質を保証するために、経験豊富な技術者を揃え、施工後のアフターサービスにも力を入れている。2022年10月1日より”全品無料10年保証付き”をスタート。これにより、顧客は安心して設備交換を任せることができる。
加えて、豊富な商品ラインナップを誇る。日常生活に欠かせないトイレ、蛇口、洗面台、ガスコンロ、給湯器について主要なメーカーが取り扱う多様な設備を幅広く取り扱っている。これにより、顧客の多様なニーズに応えることができ、幅広い顧客層をカバーしている。
サービスの特徴を以下の通り整理する
同社が置かれている工事業界は消費者から不安感が強く、
信頼関係が構築しにくい業界である。
これらのサービスを通じて、交換できるくんは顧客の課題を解決し、利便性と安心感を提供している。特に、ネット完結型のプロセスは、忙しい現代の消費者にとって大きな魅力となっており、同社の競争優位性を支えている。
6.職人に安心を提供し、顧客の利便性も高める
注文を受ける企業は競争激化のため小さな工事で利益率が低くても受けざるを得ない。実際に施工にあたる職人は下請け、孫請けで請け負うため、いち工事当たりの工賃が低く、収入が安定しない。顧客の不安に加え、職人にとっても良い環境とはいえない状況にある。
・効率化と仕事量の増加による安心
同社は単品交換に専門特化することで、品質向上し作業時間の短縮を実現した。必要な部品の調達、顧客との見積もり調整などの手間が軽減され、一人の1日の作業可能な件数が増える。年間4万件以上の工事があることも安心材料となる。
また、単品交換だけでなく電気工事、内装など関連する一連の作業も一人で行えるように多能工を育成するプログラムを提供した。顧客にとっては複数の職人が入れ替わり訪問して作業することがなく、安心と利便性が増す。職人にとっては収入が増える。
顧客にとっても職人にとってもメリットがある仕組みを作り上げた。
7. 特徴、強み
株式会社交換できるくんの特徴と強みは、住宅設備交換市場における競争優位性を確立するための独自のビジネスモデルとサービス提供にある。以下にその主な特徴と強みを詳述する。
・ネット完結+価格の透明性+高品質な施工とアフターサービス+豊富なラインナップ
前述の通り、同社の最大の特徴であり強みでもあるのは、”ネット完結”、”価格の透明性”、”高品質な施工とアフターサービス”、”豊富なラインナップ”である。
特にネット完結については、精度の高い見積もりが重要となる。その点では”20年蓄積してきたノウハウ”と”年間4万件超の施工実績”によって現地調査をせずに精度の高い見積もりを実現している点は圧倒的な強みと言えるだろう。
さらに成長をけん引してきたのは長期にわたって積み上げてきたSEO対策である。
・本質的なSEO対策 顧客にとって有益なコンテンツの充実
20年以上にわたってSEO対策に取り組んだ結果、非常に優れた実績を持っており、これが同社の成長を支える重要な要素となっている。その経験とノウハウを活かして、検索エンジンでの上位表示を実現しています。
そのSEO戦略は、短期的なテクニックに頼るのではなく、長期的な視点でユーザーに有益な情報を提供することを重視している。具体的には、住宅設備の交換に関する専門的な知識や施工事例、顧客の声などをコンテンツとして発信し、これを通じてオーガニックなアクセスを集めている。これにより、Googleなどの検索エンジンにおいて高い評価を受け、上位表示を維持している。
具体的には、商品レビュー数 17,242件、お客様の声 9,448件、施工事例 26,702件(いずれも2024年8月23日現在)がサイトに掲載されており、年間PV数は3,000万超となっている。
さらに、SEO対策を内製化していることも同社の強み。社内にSEO専任のメンバーを配置し、継続的にコンテンツを更新することで、最新のSEOトレンドに対応している。また、外部のパートナーとも連携し、最新の情報を取り入れることで、SEO戦略を常に最適化している。
このようなSEO対策の成果として、同社のウェブサイト「交換できるくん」は、検索エンジンでの高い露出を実現し、新規顧客の獲得において広告コスト削減を実現している。特に、住宅設備の交換ニーズが顕在化するタイミングでの集客力を強化し、業績の向上に寄与している。
SEO対策の成功により、同社はインターネットを通じた集客力を高め、施工事例や顧客レビューをコンテンツとして活用することで、さらなる成長のサイクルを回しています。これにより、顧客に対して信頼性の高い情報を提供し、ブランド力を向上させることができている。
これらの特徴と強みを活かし、交換できるくんは住宅設備交換市場において確固たる地位を築き、持続的な成長を続けている。
8. 競合
住宅設備交換市場は、非常に競争が激しい環境にあります。特に、住宅リフォーム業界全体が多くの企業によって参入されており、価格競争やサービス品質、施工スピード、ブランド力などが競争要因として挙げられる。
まず、価格競争については、同業他社との間で激しい競争が展開されている。顧客は同じ品質のサービスをより低価格で提供する企業を選びがちであるため、企業は効率的なコスト管理や独自の価格戦略を駆使して競争力を維持する必要がある。同社はインターネットを活用した効率的なオペレーションにより、コストを抑えつつ高品質なサービスを提供することで価格競争に対応している。
次に、サービス品質も重要な競争要因である。施工の仕上がりや対応速度、アフターサービスの質が顧客満足度に直結するため、これらの要素を高めることが競争優位性を確立する鍵となる。交換できるくんは、経験豊富な技術者や職人を揃え、施工後のアフターサービスにも力を入れることで、顧客の信頼を獲得している。
さらに、ブランド力も競争において重要な要素。強力なブランドイメージを築くことで、顧客から選ばれやすくなり、競合他社との差別化を図ることができる。交換できるくんは、「交換できるくん」というブランド名を通じて、ネット完結型の利便性と透明性を強調し、顧客に対して信頼性の高いブランドイメージを提供している。
また、競争環境には新規参入業者の脅威も存在する。業界への参入障壁を高めるためには、許認可や専門技術の習得が必要であり、既存企業は常に業界の動向を把握し、適切な戦略を展開する必要がある。交換できるくんは、独自のビジネスモデルとデジタル技術の活用により、競争優位性を維持しつつ、新規参入の脅威に対応している。
このように、交換できるくんは、価格、サービス品質、ブランド力を強化することで、競争の激しい市場環境において優位性を保っている。
9. 成長戦略 ブランド力強化と事業拡大
・ブランディング力強化
複数の施策を通じて長期的な成長を目指している。まず、同社はブランド力の向上を重要視しており、積極的なブランディング投資を行っている。2001年に住宅設備機器のWEBサイトを開設し、2008年にはオンラインショップとしての評価も得られ、2020年に上場したが、”交換できるくんという名前が思った以上に知られていない”、”WEBで住宅設備の交換を注文できることを知らなかった”という声を聞き、いまだにWEB経由で住宅設備機器の交換ができることを知らない人がほとんどだということを痛感した。まずはブランド認知、知名度をあげることが課題であると考え、ブランド力向上への投資を継続する。
具体的には、テレビCMを活用し、ブランド認知度の向上を図っている。この取り組みは、顧客基盤の拡大や受注の増加に寄与し、長期的な成長を支える基盤となっている。テレビCMによるブランド認知はターゲットを明確に絞った放映により、着実に効果を上げている。
・M&Aによる事業領域を拡大
M&Aを通じた事業拡大にも注力している。2024年1月には、アイピーエス社の全株式を取得し、同社を子会社化した。このM&Aの目的は、情報システム部門の強化と新たなビジネスチャンスの創出である。アイピーエス社の技術力を活用することで、住宅設備交換のノウハウをITソリューションとして事業化し、不動産やリフォーム業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)化を促進するソリューションを提供することを目指している。
・新規事業参入
BtoB事業の拡大
同社はBtoB事業の拡大を成長戦略の一環として位置づけており、法人向けサービスの拡充を通じて、安定した収益基盤の確立と成長の加速を目指している。
法人向けサービスの拡大
2025年3月期に売上高100億円を目指しており、そのうち10%を法人向けサービスが占めると見込んでいる。法人向けサービスは、大手ハウスメーカーや不動産会社が管理する賃貸住宅のアフターメンテナンスや下請け施工を担うもので、すでに東急コミュニティーや大和ハウスグループとの取引を開始している。
修理サービスへの新規参入
同社は、株式会社ハマノテクニカルワークスなど3社を買収し、BtoB領域における修理サービスへの新規参入を図っている。これにより、修理管理業務システム「RequestWise」をソリューション事業の商材として外販展開する計画である。同システムはメーカーからの修理依頼の受付、修理日の調整、エンジニア手配、完了報告、それらに関連する請求や支払いなどを、少人数でも効率よく管理することを可能にする修理業務システムで、その利便性の高さから住宅設備機器メーカーでも利用され、メーカー側からの声も機能改善に反映されたことで、修理業務システムとしてハマノテクニカルワークス以外の修理委託先でも使用されている。
電気工事士資格を有する施工職人の拡充
子会社化した企業を通じて、電気工事士資格を有する施工職人の拡充を図り、施工能力の強化を進めている。これにより、法人顧客に対するサービス品質の向上と施工の効率化を実現している。
これらの戦略を通じて、交換できるくんはBtoB事業の拡大を図り、法人市場でのプレゼンスを高めている。これにより、安定した収益基盤を確立し、持続的な成長を実現することを目指す。
これらの戦略は、栗原社長のリーダーシップの下で推進されており、同社の持続的な成長を支える重要な要素となっている。ブランド力の向上やM&Aによる事業基盤の強化、新規事業への積極的な参入など、多角的なアプローチを通じて、交換できるくんは市場での競争優位性を高めている。このように、同社は長期的な視点での成長を見据え、柔軟かつ戦略的な経営を行っている。
・コロナ禍での経営判断が転換点
コロナ禍にあっても増収、黒字を維持した。外出が制限される中でWEBサイトで住設機器の交換ができることが追い風となったが、一方で半導体不足やコロナ禍による中国のロックダウンによる部品調達ができなくなり、商品供給が滞った。2022年4月末時点にはバックオーダーが最大約7.3億円積みあがった。
商品供給はいずれ回復して正常化することを視野に入れ、職人の確保に注力した。その結果、施工ポテンシャルが高まり、正常化後の提供工事数を増やすことができた。
しかし、単一事業に集中すること、メーカーからの商品提供に依存するビジネスモデルのリスクを感じるきっかけにもなった。
BtoB(法人向けサービス)を拡大することを目指し、2021年7月に株式会社KDサービスを分社化し、住宅設備機器の単品交換の専門特化した強みを活かしつつ、リフォーム事業者など周辺の事業を行う企業とも協力することで取引先企業にとってもメリットのあるビジネスを拡大する体制を築いた。
コロナ禍で厳しい状況におかれたのは自社だけない、多くの職人が仕事を減らしていた。商品供給が滞っている中でも、四半期当たり1万件近い工事件数があり、バックオーダーが積みあがっている状況で20-30代の若くて優秀な職人の採用をすすめた。先行きに不安を抱えていた職人にとっては安心につながる。
10. 業績(実績と見通し)
・2024年3月期実績
株式会社交換できるくんの2024年3月期の業績は、売上高と営業利益共に過去最高となった。売上高7,565百万円(前期比+25.2%)、営業利益は328百万円(同+9.0%)。この成長は、アフターコロナの需要回復とM&Aによる上乗せである。
特に、2024年1月に100%株式を取得したアイピーエス社の業績を第4四半期から取り込んだことが、売上高の増加に大きく寄与した。これにより、従来の「住設DX事業」と新たに定義された「ソリューション事業」の二つのセグメントが形成され、売上高の多様化が進んだ。第4四半期の売上高は過去最高の2,282百万円を記録し、そのうちソリューション事業が290百万円を占めた。
また、前述の通りテレビCMなどのブランディング投資を積極的に行っており、これがブランド認知度の向上とBtoB売上の順調な推移に寄与している。この結果、第4四半期の売上高は従来の季節性を超えて第3四半期を上回る結果となった。
・2025年3月期計画
売上高100億円を目標として掲げている。この計画は、下期の需要回復やM&Aの効果を見込んだものであり、さらなる成長が期待されている。特に、法人事業の強化や住宅設備機器メーカーとの関係強化を通じて、住設DX事業とソリューション事業の両方での成長を目指している。
・2025年3月期第1四半期
売上高2,198百万円(前同比+35.2%)、営業損失28百万円(赤字)となった。赤字の要因はブランディング投資およびソリューション事業の季節性によるもので、通期業績予想は据え置いた。ブランディング投資においては過去最大の1.8億円の広告宣伝費を投下した。
セグメント別
・住設DX事業
売上高1,951百万円(前同比+20.0%)、営業損失12百万円(赤字)だが、売上総利益率は1.4ポイント改善して25.0%となった。営業損失は広告宣伝費の増加が主な要因である。
2Q以降の月次受注状況は前年同期比30%以上の伸び(下図参照)
住設DX事業は7月のハマノテクニカルワークスをM&Aしたことにより、電気工事士有資格の契約職人が55名増加し、2Q以降の施工体制が大幅に増強されており、工事件数の増加に寄与する。
*高水準の工事件数と好調な受注状況
・ソリューション事業
売上高は262百万円で、営業損失は9百万円であった。売上総利益率はBtoB向けのシステム開発が中心となる事業のため、コストが先行する形となっているが、第2四半期以降で利益創出を見込む。
11. バリュエーション
時価総額 52.8億円
株価 2,320円(2024年8月23日終値)
会社予想EPS 92.33円
PER 25.1倍
12. 経営課題
・サービスの質向上
・人材確保
・スピード経営
株式会社交換できるくんの経営課題について、栗原社長は多角的な視点から取り組んでいる。まず、急速に変化する市場環境において、競争力を維持するための戦略的な課題が存在する。住宅設備交換市場は競争が激化しており、価格競争やサービス品質の向上が求められている。栗原社長は、これらの課題に対して、効率的なオペレーションと高品質なサービス提供を通じて対応している。
特に、インターネットを活用したビジネスモデルの強化が重要であると考えている。交換できるくんは、ネット完結型のサービスを提供することで、顧客に対して利便性と透明性を提供しているが、これをさらに進化させ、競合他社との差別化を図る必要がある。SEOやデジタルマーケティングの強化を通じて、集客力を高めることが求められている。
また、人材の確保と育成も重要な課題である。住宅設備の交換は技術的なスキルが求められるため、優秀な技術者の確保が不可欠である。栗原社長は、職人の定着率を高めるための施策を講じており、優秀な人材の育成と維持に注力している。これには、魅力的な労働環境の提供やリファラル採用の強化が含まれる。実績として、契約中の職人から優秀な職人の紹介の実績も多い。また、M&Aにより電気工事士有資格の契約社員が55名増加し、順調に人材確保が進んでいる。
さらに、M&Aを通じた事業拡大も経営課題の一つである。最近のアイピーエス社の買収は、情報システム部門の強化と新たなビジネスチャンスの創出を目的としており、これにより事業の多角化と収益基盤の強化を図っている。しかし、M&A後の統合プロセスやシナジーの実現には慎重な計画と実行が必要であり、これは経営陣にとって重要な課題となっている。
最後に、顧客満足度の向上も継続的な課題である。顧客の期待に応えるためには、施工の品質管理やアフターサービスの充実が不可欠である。栗原社長は、顧客のフィードバックを積極的に取り入れ、サービス改善に努めている。これにより、顧客からの信頼を維持し、リピート顧客の獲得につなげている。
これらの経営課題に対して、栗原社長は戦略的なアプローチを通じて、持続的な成長と市場での競争優位性を確保することを目指している。
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