7196 Casa 不動産業界の非効率をITで解消
株式会社Casa 東証1部 証券コード:7196
・家賃債務保証サービスを提供 入居者の課題解決に寄り添う
・“家主ダイレクト”が好調 自主管理家主市場を開拓
・不動産IT企業へ舵を切り、不動産業界の非効率を解消
【会社概要】
2008年10月、東京都新宿区に不動産賃貸物件の家賃債務保証事業を目的に設立したレントゴー保証株式会社が前身となっている。
【事業概要】
不動産賃貸物件の家賃債務保証事業
Casa(以下、同社)は、賃貸住宅の賃貸契約において賃借人に対して家賃債務の連帯保証サービスを提供する。賃借人(入居者)とは保証委託契約、賃貸人(家主)とは賃貸保証契約を締結する。不動産管理会社が管理する物件は約20,000店舗からなる不動産管理会社を代理店として全国12カ所の事業拠点で展開している。
【特徴(強み)】
蓄積してきたノウハウと安定した事業基盤があり、主に次のようなものがあげられる。
① 管理戸数10,000戸以上の大手管理会社向け売り上げが約60%を占めている。
② 支払いが滞ってしまった賃借人の問題解決に手間を惜しまず積極的に課題解決の手助けをし、延滞債権の回収を進める。
③ 不動産管理会社を利用しない管理戸数1,000戸未満の自主管理家主向けサービスを強化する。
(詳細後述)
【株価指標】
時価総額 153億円
株価 1,392円 (2019年12月23日 終値)
BPS 604.22 (2019年1月期 実績)
PBR 2.30倍
ROE 13.3%
PER(会社予想) 16.2倍
配当利回り1.9%
【業績推移】
【家賃債務保証事業】
家賃債務保証ビジネスとは、代理店契約をしている不動産管理会社を通して賃貸人(家主)と賃貸保証契約を結び、賃貸人(入居者)と保証委託契約を結ぶ。賃借人が家賃を滞納した場合に賃貸人または賃借人と管理委託契約を結ぶ不動産会社に代位弁済を実行し、賃借人に対して滞納した家賃の督促、回収を行う。約22,000店舗からなる不動産管理会社を代理店として全国12カ所の拠点(東京、札幌、仙台、千葉、横浜、さいたま、静岡、名古屋、大阪、岡山、高松、福岡)で事業展開している。
【ビジネスモデル】
・売上及び費用計上に特徴あり
・売上は案分計上 費用は一括計上
売上は賃借人と保証委託契約を締結した際に受領する初回保証料と、入居後一年ごとに受領する年間保証料から構成される。2019年1月期における構成比率は初回保証料が53%、年間保証料が47%程度となっている。年間保証料が毎年のストックとして積みあがり売上計上されるストック型ビジネスとなっている。
賃借人から保証料を受領し、その一部を業務委託している不動産管理会社に支払手数料として還元している。初回保証料と年間保証料については、受領時から1年にわたって案分して売り上げ計上される。賃借人からは契約時に初回保証料を賃料の50%程度、年間保証料は年1万円受け取っている。一方、不動産管理会社に支払われる手数料は支払い時に一括して費用計上される。
賃料延滞により代位弁済した場合、早期に回収が図られるが、代位弁済実行額のうち決算期末における未回収分である求償債権に対して貸倒引当金を計上している。
【特徴・強み】
大手不動産管理会社と代理店契約を結び、集金代行セット型の保証サービス“Casaダイレクト”を提供する。同社の強みとして主に次の3点があげられよう。
① 管理戸数10,000戸以上の大手管理会社向け売り上げが約60%を占めている。
② 支払いが滞ってしまった賃借人の問題解決に手間を惜しまず積極的に課題解決の手助けをし、延滞債権の回収を進める。
③ 不動産管理会社を利用しない管理戸数1,000戸未満の自主管理家主向けサービスを強化する。
具体的には以下のようなものである。
① 大手管理会社のネットワーク
管理戸数10,000戸以上の全国展開している大手管理会社を代理店とする売り上げが約60%を占めており、同社の収益の柱となっている。年長年の経験と蓄積されたノウハウを生かし、家賃債務保証事業に真摯に取り組む姿勢が強固な信頼関係の構築に寄与している。
*2020年1月期 第3四半期末時点
② 手間を惜しまず借主の課題解決の手助け
求償債権の割合(保証債務に占める求償債権の割合)が安定推移している。
同社は8%程度を適正水準として考えており、現状は想定内で求償債権の回収が行われているとの認識である。
求償債権の回収が安定して推移する背景には
”手間を惜しまず賃借人に寄り添って問題解決に取り組む”
ことが仕組みとして定着していることにあるだろう。
*求償債権とは:賃借人が滞納した賃料を賃借人に変わって賃貸人(大家さんまたは代理人となっている不動産管理会社)に支払ったうち、期末時点の未回収分。
まず、支払いができない賃借人について一人一人、原因を確認する。”うっかり忘れてしまった”という人は連絡すればよいが、何らかの”支払いができない問題”が発生していることも多いという。解決方法として、生活保護の申請ができるのであれば生活保護の対応方法を伝える、といったことを一人一人対応する。
主に行っているのは
(1)公的支援制度の案内
(2)NPO団体と連携した食糧支援の実施
など
具体的には
(1) 公的支援制度の案内
社員は各種福祉制度等についての知識を習得し、情報を提供する。
不払いとなった賃借人の課題解決の手助けのため、次のような制度について情報提供し、活用を促す。
保険制度:健康保険、雇用保険
年金制度:年金担保融資、障害年金・老齢年金
貸付制度:緊急小口貸付、総合支援資金
福祉制度:福祉助成金・貸付、児童手当
給付制度:住宅確保給付金、教育訓練給付
自治体の各制度:育成制度
生活保護制度:生活扶助・住宅扶助
など。
同社の受付スペースの壁には多くの写真と手紙が貼られている。支援を受けた方々からの感謝の手紙と写真である。社外へのアピールというだけでなく、”ありがとう”の言葉が社員のモチベーションにもつながっている。
(2) NPO団体と連携した食糧支援の実施
農林水産省が支援するNPO団体”フードバンク”と提携し、食糧支援を手掛ける。
顧客である入居者が食に困っていることがあり、その際にセカンドハーベストジャパン(日本で初めて設立されたフードバンク団体)からの食品を活用したことから始まったとのこと。これら賃借人の課題解決のための活動が、顧客である家主のリスク抑制につながるとともに信頼関係を作ることにつながっている。
社員数は派遣含め約400名。そのうち半数程度が回収を担当している。手間のかかる回収に注力していることがわかる。回収において家主と接触することにもなるため営業活動にもなっている。
*”③ 不動産管理会社を利用しない管理戸数1,000戸未満の自主管理家主向けサービスを強化する。”
については下記の”注力する事業”で詳細な解説をする。
【事業環境】
不動産賃貸住宅市場は単身、夫婦のみの世帯数増加により拡大している。高齢者の単身世帯、外国人入居者の増加もあり、家族、親類、知人に連帯保証人を見つけることができない賃借人が増えている。家賃債務保証市場は拡大しており、今後もこの傾向は続くと考えられる。また、アンケートによれば賃貸物件の増加が続く中で将来的な空室リスクに対する不安を6割以上の家主が抱えている。
そのような環境下でこれまで同社は大手管理会社と関係を密にし、売り上げを拡大してきた。大手管理会社が管理する物件は1,000万件程度あるがすでにその60%程度は保証会社を利用している。一方自主管理家主が管理する物件は650万戸程度あるが保証会社を利用しているのは10%程度にとどまり、ほとんどが連帯保証人を利用している市場である。同社はそこにターゲットを定めて営業を強化する。
【注力する事業】
〇“家主ダイレクト”で自主管理家主市場を開拓する
“家主ダイレクト”が好調。第3四半期で利用オーナー数31千人、新規契約件数20千件と前年通期を超えて順調に拡大している。
*家主ダイレクトについてはこちら casa”家主ダイレクト”WEBサイトが開きます。
“家主ダイレクト”はリコーリースと東京海上日動火災保険との連携で開発したサービス。集金代行、家賃保証、保険を提供する。競合が少ない自主管理家主市場で拡大を狙う。
“家主ダイレクト”は集金代行セット型の保証サービスだが、物件での事故があった場合に備えた家主負担費用や孤独死保険を付帯するほか、同社が持つ22,000店舗以上の仲介ネットワークを生かした入居者募集も行う。自主管理家主の賃貸経営のニーズに合わせて、“コスト削減”、“空室対策”といった経営安定化につながる充実したサービスを提供する。
大手管理会社と違い、小規模で点在する自主管理家主をターゲットとするとき、同社が契約する賃貸仲介のエイブル、ハウスコム等を通してアクセスできることが強みとなる。今後認知度が高まることで一層の拡大が期待できる。
〇新CasaWEBの提供
保険料保証サービスを提供するうえで既存のシステムを刷新し、新CasaWEBの提供を開始した。
新CasaWEBは家財保険料の保証サービスや代理店業務の業務効率を大幅に改善するクラウドサービス。システムのデザインや操作性の改善を行い、直感的に利用できるシステムを構築した。これまで契約のために手書きの書類を作成し、保険会社と保証会社それぞれにFAXで送付していたが、一括で手続きを終了できる。他にも多彩な機能を提供しており、当初は既存の手続きの変更に難色を示していた中小の代理店においても業務効率化を実感することにより利用の定着につながっている。
〇市場の変化を捉えたサービス充実
同社は入居者、家主の双方にとって便利なサービスを拡充し、顧客満足度を高め、契約者拡大につなげている。
主なサービスとして次のようなものがある。
・様々な決済手段の導入
初期導入費用のカード決済を業界に持ち込んだのは同社の宮地社長。導入前は決済手数料が高く、不動産業界では浸透していなかったが、決済手数料を抑えた商品を提供し、導入を促進した。その後、様々な決済手段も取り入れた。
・外国人対応
現在、日本において人手不足が問題となっており、国の政策として外国人労働者の受け入れを勧めようとしている。年々増加する外国人の入居希望者にとって、問題は保証人と言語である。同社は利用料無料、年中無休、24時間、11か国語で対応可能な通訳サービスを提供する。
・高齢者対応
日本は高齢化が進み、単身高齢者の入居希望者が増える一方で、家主にとっては入居者の孤独死がリスクであり、契約には二の足を踏む。同社は孤独死保険を開発して提供。家主ダイレクトに自動付帯することで高齢者の入居促進を図る。
・入居者向けWebサービス
同社の入居者向けサービス“入居者カフェ”では提携した様々な企業の優待サービスを受けることができる。例:ビックカメラの購入時ポイント追加サービス、家具雑貨のKEYUCAの割引サービスなど。
・家財保険商品
家財と火災がセットになった保険。入居時に家賃保証と一緒に入ることで入居者も管理会社も別に行うわずらわしさを省くことができる。また、保険料を保証するサービスのため保険の更新時の付保漏れを無くすことが出来ます。
〇不動産IT企業へ舵を切り、不動産業界の非効率解消を加速する
同社はこれまで蓄積してきたノウハウを生かし、不動産業界の様々な非効率をIT技術の活用により解消することに取り組んでいる。以下、子会社設立及び資本業務提携により自社のノウハウだけにこだわることなく、他社の技術を活用することでさらに積極的に進める。
・現在及び将来の不動産賃貸市場における課題と事業機会
同社は現在及び将来の不動産賃貸市場における課題とその課題解決のための自社が果たすべき役割について“私たちの想い”として次のように掲げている。
現在、築20年以上の築古物件が約70%。今後もこの割合は増え続ける見通し。築古の物件は物件競争力が低く、管理会社は手間がかかる価値向上の提案などには消極的であり、結果として築古の物件の空室率が高まることが予想される。中古物件の物件価値低下、空室増加と賃貸市場の悪化が懸念される一方で30代、40代といった家主経験がないがITリテラシーの高い世代の家主が増加することを同社はチャンスととらえている。従来の慣習にとらわれず、新しい仕組みに抵抗を持たない大家をサポートすることで現在の不動産賃貸市場の課題解決に取り組み、将来を変えようと考えている。
・株式会社COMPASSのサービス開始
2019年6月に設立した株式会社COMPASSにおいて、リフォームサービスの提案を開始。提携しているリフォーム事業者と共にリフォームのパッケージを複数設計し、大家さんにリフォームの提案をする。まず関係を密にしている大家さんに対して入居者の退出時に原状回復の低額プランを提案することからスタートした。他にもサービス充実のための機能開発を進めている。2020年の第2四半期以降にはマーケット分析による賃料設定を手助けするリフォーム診断サービスや、賃貸経営に必要な情報分析サービスを提供するシステム”AI SCOPE”をリリース予定である。
〇成長投資を積極化
同社は現在成長投資を積極化している。
主な内容は以下のようなものである。
・人材採用・育成への投資 2億円
営業人員の強化やシステムエンジニアの積極採用及び階層別、業務別研修の実施
・システム投資 3億円
家主と仲介をつなぐハブシステムやAIによる社内業務の自動化、賃貸取引のデータベース化
システム投資においては、不動産管理会社向けサービスとしては入居募集→申し込み→契約→契約管理→問い合わせといった一連の業務をIT化し、業務効率を高めることを実現する。また、家主向けサービスでは入居募集→内見→申込→契約→入居→退去までをワンストップで提供するためのシステム開発を進めている。自主管理家主は世代交代により若返りの傾向があり、ITを使った経営効率化には前向きな層が増えるとみており、ITを生かした大家経営の効率化サービスを続々提供することで顧客満足度を高める。
子会社COMPASSの設立、リーウェイズ株式会社への出資により成長を加速させる。
【業績動向】
〇2020年1月期第3四半期
2020年1月期第3四半期は売上高7,023百万円(前年同期比+9.6%)、売上総利益4,642百万円(同+7.0%)、営業利益1,198百万円(同+7.9%)と増収増益となった。会社計画に対する進捗率は売上高で74.3%、営業利益で85.0%とほぼ会社計画通りの進捗となっている。
契約数は新規契約数99千件(前期比+9.1%)、保有契約数512千件(同+8.2%)。大手管理会社向け売り上げは前年同期比102%と引き続き堅調だが、他社が来年の民法改正に向けて営業を強化してきており、一部顧客で対応が必要となったため、紹介手数料が前年同期比+28.2%と売上原価を押し上げた。
自主管理家主向けでは契約数が前期比160%と高い成長を達成した。
“家主ダイレクト” は管理戸数の少ない中小の代理店にとっては業務効率を改善する商品であり、
・オリジナルガイドブックの作成
・未登録大家向けキャッシュバックキャンペーンの実施
などをきっかけに契約増が加速している。
また、2019年11月から保険料保証を開始。開始から1カ月経過が経過し、保険代理店として利用を表明している会社が102社と順調に進捗している。
・四半期別売上高及び前四半期比の増減率
・新規契約数 保有契約数推移
〇2020年1月期 通期会社計画
2020年1月期の会社計画は、売上高9,454百万円(前期比+9.8%)、売上総利益6,250百万円(同+10.2%)、営業利益1,409百万円(同+6.3%)と増収増益の計画。営業利益率は14.9%。大手管理会社からの契約拡大に加え、自主管理家主向けの営業強化による売り上げ拡大を見込む。成長投資を増額するため、営業増益率は低くなる計画である。契約数は新規契約数130千件を見込む。期初には127千件を計画していたが、足元の好調な新規契約獲得を背景に計画を見直した。
【株主還元】
〇配当
2020年1月期
一株当たり予想配当26円
配当性向30.34% *配当性向30%を目安に配当を実施する方針。
*2019年1月期の実績は
一株当たり配当26円 (普通配当23.75円+記念配当2.25円)
記念配当がなくなる2020年1月期も一株当たり配当26円を維持する。
〇自己株式の取得
2019年12月18日 自己株式取得を発表
取得する株式の総数 300,000株(上限)
発行済み株式総数に対する割合2.72%
株式取得価額の総額 3億円(上限)
自己株式の取得期間 2019年12月20日から2020年3月10日
*2019年3月20日にも自己株式の取得を発表し、実施している。
【リスク】
自主管理家主マーケットの開拓が進まない可能性
自主管理家主マーケットへの営業強化をしているが、大手管理会社向けと違い、小規模家主を個別に開拓するため手間と時間を要する。会社が想定する以上に時間とコストがかかる可能性がある。
景気悪化による代位弁済が拡大するリスク
代位弁済の抑制のため、賃借人に関わるデータベースを構築し、独自の分析による与信管理を行っているが、想定以上に経済環境が悪化し、賃借人の家賃支払いに影響を及ぼし、代位弁済が拡大した場合、同社の業績に影響を与える可能性がある。
成長投資の遅れ
今後の成長を加速させるため、人への投資及びシステム投資を計画し、推進している。システムエンジニアの人材不足が業界を問わず顕著となっており、同社においても採用が想定通り進まず、投資が遅れる可能性がある。
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