6031 ZETA社 2025年12月期第1四半期 アナリストレポート
第1四半期:黒字化達成と戦略強化
2025年12月期第1四半期(2025年1月~2025年3月)において、経営統合後の初の第1四半期営業黒字を達成した。前年同期比(2024年12月期の第1四半期比)では売上高が+1.3%、売上総利益が+9.4%と伸びは低く見えるが、2024年12月期は期末を6月から12月に変更する第2四半期までの変則決算。同時期の比較対象となる2024年6月期3Q(旧サイジニア24年1⽉-3⽉、旧ZETA23年12⽉-24年2⽉)と⽐較した場合、売上高+17.3%、売上総利益+23.3%となっている。
この四半期から経費増(オフィス増床・人件費強化など)があるものの事業成長で吸収している。特別損失として3500万円の過年度決算修正費用を計上した。
業績をけん引したのは、堅調に拡大する同社の主力製品ZETA CXシリーズ、その中でも特に新たな収益の柱として期待されるリテールメディア広告エンジン「ZETA AD」の成長である。第1四半期はZETA CXシリーズの販売が堅調に成長するとともに、リテールメディア広告事業が成長軌道に乗り始めた。
業績詳細:収益拡大の要因と収益構造の改善
第1四半期の詳細な業績をみると、統合効果と販売拡大による増収増益がみてとれる。売上構成比をみると引き続きサイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」が売上全体の中で高い比率を占め、その上で前年同期比+17.3%の増収を達成した点に注目できる。主力プロダクトの着実な積み上げに加え、「ZETA AD」が着実に伸びている。その結果、粗利益は+23.3%増と売上増を上回る伸びを示し、粗利益率も75.5%に高まっている。
会計処理見直しの影響で米国Yext(イエクスト)社製品(連携提供している検索ソリューション)の仕入原価が一時的に当期に集中し、自社製品より原価率の高い同製品の計上により売上総利益率が低下した。同時にオフィス増床や人員増強のため販管費も増加したものの、こうしたコスト増を吸収できるだけの増収が実現し、黒字化を実現した。実際、販売管理費の増加率を売上成長率が上回る構図となっており、増床・人員強化による販管費増を事業成長で吸収し、成長投資と収益向上の両立が可能な構造へ転換したと同社は考えている。積極投資にも関わらず利益体質がむしろ強化された第1四半期は、収益構造が良い形で変化していることを示している。
また、第1四半期末時点で導入先サイト数は204サイト、累計UGC(ユーザー生成コンテンツ)件数は1,370万件に達した。UGC件数は前年同時期(2024年6月期第3四半期)比+20%の増加となり、同社プロダクトのエコシステム上で流通するデータ量が着実に拡大している。これらUGCやレビュー(クチコミ)情報はコマースメディア分野の今後の成長を牽引する原動力になると位置付けられており、件数が3,000万件・5,000万件規模に達すれば「日本最大級のコマースメディアを目指す」というビジョンも現実味を帯びてくる。
ZETA CXシリーズ各プロダクトの成長と成果
ZETA社の主力であるZETA CXシリーズ各プロダクトは、第1四半期においても堅調な成長を示した。ここでは、主要プロダクトごとの動向と実績について詳述する。
ZETA SEARCH(EC商品検索・サイト内検索エンジン)
ECサイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」は、主力プロダクトであり売上全体の中核を占める収益源である。第1四半期も新規導入が進み、たとえばパナソニックの公式家電ECサイトやテレビ通販大手QVCジャパンのECサイトなど、大手企業への相次ぐ採用が発表された(2025年3月)。特に、国内有数のリユース(中古品)ECであるコメ兵(KOMEHYO)では、自社サイトの検索エンジンとしてZETA SEARCHを再導入(一時他社製品を導入していた)し、約半年で検索経由のCVR(サイト訪問者の商品購入率)を前年同月比1.1倍に向上させる成果を上げている。コメ兵では検索結果一覧ページの商品表示を「おすすめ順」に並べ替える施策も実施し、ユーザーの検索体験向上によって売上転換率が改善したという。このようにZETA SEARCHは、大規模ECサイトにおける売上直結の機能強化として評価され、堅調なライセンス収入の増加を続けている。
ZETA HASHTAG(ハッシュタグ活用エンジン)
ZETA HASHTAGは、ECサイト上の商品説明やユーザーが投稿したレビューのテキストからハッシュタグを生成・活用するソリューションであり、近年導入企業を増やしている。第1四半期は特に著しい成長が見られ、案件数(導入企業数)以上にクリック数が伸びている点が特徴である。クリック数の急増はユーザーの利用頻度・エンゲージメントの高さを示し、それ自体が「ZETA HASHTAGの製品競争力と需要の高まり」を表すものと同社は分析している。実際、ハッシュタグ経由でECサイトに流入したユーザーが増えることで、リテールメディア広告やコマースメディアへのシナジーも高まると期待されている。
特筆すべきは、ZETA HASHTAGが生み出すUGCコンテンツのSEO効果である。同社調べによれば、ZETA HASHTAGが生成するタグページがGoogle検索の1位~3位を多数占めており、特にアパレル業界のECサイトではハッシュタグ導入が検索流入増に直結している。同社によれば、特にアパレルが今のところ多いが、ハッシュタグを入れないと他社との差別化でハンデを負い、また一旦入れたらなかなか辞めることはできないだろうと見ている。同製品が業界標準になる可能性も示唆している結果である。事実、花王が自社D2Cサイト「My Kao Mall」にZETA HASHTAGを含む複数ソリューションを同時導入したほか、前述のコメ兵も新たにZETA HASHTAGを導入してハッシュタグ経由のユーザー回遊率を3.3倍、CVRを4.7倍に向上させる成果を収めている。このようにZETA HASHTAGはUGC起点の集客と収益化という点でクライアント企業から高く評価されており、ZETA CXシリーズの中でも今後の成長エンジンとして期待されている。

ハッシュタグ活用エンジン「ZETA HASHTAG」が花王の公式オンラインショップ『My Kao Mall』に導入(2025年4月15日)
コメ兵が運営する公式通販サイト『KOMEHYO ONLINE』にハッシュタグ活用エンジン「ZETA HASHTAG」を導入(2025年2月13日)
ZETA VOICE(レビュー・口コミ・Q&Aエンジン)
ZETA VOICEは、ECサイト上でのユーザーレビューやQ&AなどUGC(User Generated Content)を収集・表示するプラットフォームである。第1四半期末時点で同社ソリューション上に蓄積されたクチコミ件数は1,370万件に達し、前年同時期比+20%という堅調な増加を続けている。クチコミ件数の拡大は単にユーザー評価データベースとしての価値向上に留まらず、前述のハッシュタグや検索機能と連動することでサイト内回遊率やコンバージョン率の向上に寄与する点がポイント。実際、クチコミが充実した商品ほどユーザーの購買意欲を後押しし、またレビューコンテンツ自体が検索流入トラフィックを増やす効果もあるため、ZETA VOICEは他プロダクトとの相乗効果でCX全体を底上げする存在となっている。

第1四半期にはFrancfranc(フランフラン)が自社ECサイトにZETA VOICEを新規導入するなど導入事例も広がった。また、花王の事例では、ZETA VOICE上に投稿されたレビューに対し、花王のカスタマーセンターが薬機法チェックや内容確認を行うフローをシステム連携で組み込み、違法性のある表現を未然に排除するといった高度な運用も実現している。このようにZETA VOICEは、単なるレビュー収集ツールに留まらず企業のD2C戦略や法令遵守体制とも結びついた包括的なUGC基盤として機能し始めている。今後、クチコミ件数が数千万規模に達すれば国内最大級のUGCプラットフォームとなる可能性も秘めており、ZETA社のコマースメディア戦略を推進する重要なアセットとなるだろう。
インテリアショップ『Francfranc(フランフラン)』の公式オンラインショップにレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」が導入(2025年3月4日)
リテールメディア広告エンジン(ZETA AD)の進捗
リテールメディア広告エンジンのZETA ADは、ECサイト内検索連動型の広告配信ができるプロダクトで、新たな収益源として期待されている。小売・EC事業者の保有メディア(自社ECサイト等)において、メーカー企業などから広告出稿を募るリテールメディア広告プラットフォームを提供しており、第1四半期はこの事業が順調に収益成長を遂げている。
四半期中の顧客導入数自体は直前の四半期と変わらずだったものの、現在営業中または導入準備中の広告案件数は着実に増加している。特にここ1~2ヶ月で大型案件が相次いで増えてきているとのこと。第2四半期以降の収益拡大に向けて着実なパイプラインが構築されつつある。もっとも、各案件から得られる売上は実際の広告配信量(広告主の出稿額)に左右されるため、”今期どれくらい寄与するかの予測は現時点で難しい面がある”と慎重な姿勢を見せる。しかしながら、直近の引き合い動向を見る限り非常に高いポテンシャルを持つ案件が増加しており、広告市場における同社サービスへの期待の高まりが感じられる。

市場環境の視点では、リテールメディア広告の世界的な拡大トレンドがZETA AD事業の追い風となっている。国内のコマースメディア広告市場規模は広告だけで2027年までに約3兆円規模に達する勢いが見込まれるとの予測がある。同社は、自社のリテールメディア広告ソリューションZETA AD(ECサイト内検索連動型広告)によってこの成長市場を取り込みつつ、将来的にはコマースメディア市場(リテールメディア広告にUGC活用などを加えた新領域)への展開を目指すとしている。アイモバイルが運営するふるさと納税サイト「ふるなび」にZETA ADが採用されるなど、物販系EC以外の分野でも導入が進み始めた。今後について山﨑社長は「物販はもちろん、物販以外の送客・予約系(例:不動産情報サイト、飲食予約サイト等)においてもリテールメディア広告を伸ばしていきたいというのが今回の(戦略の)狙い」と述べており、ZETA AD事業の応用範囲をEC領域の外側へ積極的に広げる考えを示している。
アイモバイルが運営するふるさと納税サイト「ふるなび」にリテールメディア広告エンジン「ZETA AD」が導入(2025年4月22日)
戦略的提携と新規取り組み:Sprocket社・SI企業との連携強化
今後の成長を見据えた戦略的パートナーシップの構築にも注力している。その一つが2025年5月に発表したSprocket社との業務提携である。Sprocket社はWeb接客ツール発祥のスタートアップで、近年は「CX改善」をキーワードにサービス展開する企業。創業者の深田氏は国内EC領域の有識者としてコンサル実績も豊富であり、ZETA社と事業領域が重ならない強みを持つ。具体的には、Sprocket社がユーザー体験の最適化・改善を得意とし、ZETA社は検索やレコメンド等の具体的な機能提供を武器としているため、両社サービス間で競合や食い合いが発生しにくく高い補完関係を築けると判断した。
ZETA、Sprocketとリテールメディア広告およびロイヤルティ向上領域で業務提携(2025年5月7日)
また、SI(システムインテグレーター)企業との提携強化も重要な取り組みである。自社ソリューションを更に普及させるには、自社単独での展開には限界があり開発原価も増大するため、信頼できるパートナーとの協業が不可欠だ。同社は富士ソフト、BIPROGY(ビプロジー 旧日本ユニシス)、CTC(伊藤忠テクノソリューションズ)といった大手SI各社と提携し、協業による事業推進体制を築いている。特に富士ソフトおよびビプロジーはEC分野に強みを持つSI企業であり、両社からECプロジェクトの実装面で大きな支援を得ているという。今後はCTCを含め、更なるSIパートナーとのネットワークを広げていく方針で、ソリューションの導入加速が図られる見通しである。
さらに、データマーケティング分野での連携にも踏み出している。具体的には昨年11月頃より、日本発のDMP企業であるインティメート・マージャー社の株式を市場外で取得し始め、戦略的持分の確保や業務提携を進めている。インティメート・マージャー社は広告クッキーに依存しないID連携型マーケティングに強みを持ち、ZETA社とはアプローチ手法の異なるポストクッキー時代のソリューションを提供している。今後、自社の検索連動型リテールメディア広告と他社のIDマーケティング基盤を組み合わせる可能性も視野に入れており、業界横断的なエコシステム構築に向けた布石を打っている状況。
ZETAと株式会社インティメート・マージャー、デジタルマーケティング事業の構築およびリテールメディアの領域で業務提携(2025年5月21日)
株主還元策:長期目線の信頼醸成と企業価値向上
第1四半期の決算発表とともに株主還元策の追加を打ち出した。具体的には、配当金の増額(増配)である。2025年4月初旬の株式市場全体の下落において、株主優待の設定、自社株買いを続けて決議している。直前に実施した株主総会において株主優待については導入には慎重な姿勢であることを示していたが、株価の下落に対して柔軟、かつ積極的に対応した。まず配当について、前期実績の1株当たり4.0円、発表済みの4.2円への増配からさらに4.3円へと利益成長に応じた株主への利益還元を明確に示した。また株主優待として、1,000株以上保有している株主を対象にデジタルギフト(半年以上の保有で2,000円相当、半年未満の保有で1,000円相当)を贈呈する制度を導入した。
加えて、発行済株式総数の約0.97%に当たる20万株・6,000万円を上限とする自社株買い枠を設定済みで市場からの株式取得を開始した。取得期間は2025年4月8日から12月31日までで、東京証券取引所における市場買付の方法で機動的に買い付ける計画である。実際に4月には約45万円の自己株式取得を実行済みであり、株価水準を見極めつつ残枠の取得を進めていくとみられる。
これら株主還元策について、ZETA社は短期的な株価対策ではなく長期的な投資家との信頼関係構築を意図したものと位置付けている。増配・優待・自己株取得という総合的な還元策は、長期志向の個人投資家に安心感を提供しつつ企業価値の持続的向上に資する施策であり、経営陣の「攻めと守り」のバランスの取れた資本政策として評価できる。
導入事例ピックアップ:顧客企業の声と製品効果
ZETA社プロダクトの効果を示す注目すべき導入事例がいくつか公表された。ここでは特に話題性の高い花王とコメ兵のケースを取り上げ、顧客企業の声や得られた成果を紹介する。
● 花王(My Kao Mall) – 日本を代表する消費財メーカーである花王は、自社直販サイト「My Kao Mall」においてZETA SEARCH、ZETA HASHTAG、ZETA VOICE、ZETA RECOMMENDの4サービスを同時導入した。花王はD2C戦略強化の一環でCX向上を図るべく、自社に蓄積された商品マスタデータや画像情報を一元化してZETAと連携し、検索結果の精度チューニングを行った。その結果、ユーザーが求める商品を見つけやすくなり利便性が向上しただけでなく、サイト回遊中に適切な商品提案ができるよう多様なレコメンドモデルを構築して購買促進につなげている。また、生活必需品を扱う花王ならではの工夫として、ZETA側の協力により薬機法(医薬品医療機器等法)に抵触する可能性のあるワードを自動検知して検索・表示しない仕組みを導入した。加えて投稿レビューに対しては社内のカスタマーセンターで薬事チェック・内容確認を行うワークフローを組み込み、違法表現や不適切表現の排除を徹底している。花王からは「自社EC上で生活者との双方向コミュニケーションを深化させ、ブランドファン育成と売上拡大を両立したい」との声が聞かれ、ZETAソリューション導入によるCX高度化とコンプライアンス対応強化に手応えを感じているようだ。
● コメ兵(KOMEHYO ONLINE) – リユース業界大手のコメ兵は、自社EC「KOMEHYO ONLINE」においてZETA SEARCHを再導入するとともにZETA HASHTAGを新規導入した。その結果、検索経由の購入転換率(CVR)が約半年で前年同月比1.1倍に向上し、EC売上の底上げに成功した。特に検索結果ページでは、ユーザーにとって関連性の高い商品が上位に表示されるよう「おすすめ順」での並び替え機能を実装し、的確な検索体験によって購入意欲を喚起したことが奏功したという。またZETA HASHTAGの導入効果も顕著で、ハッシュタグをクリックしたユーザーはクリックしなかったユーザーに比べサイト回遊率が3.3倍、CVRが4.7倍にも達した。これは、ハッシュタグ経由で商品カテゴリや話題を横断的に閲覧できるようになったことでユーザーエンゲージメントが飛躍的に向上し、そのまま購入に結び付くケースが大幅に増えたことを意味する。コメ兵の担当者は「ユーザー投稿のハッシュタグが検索流入や回遊を促進し、結果として売上アップに繋がっている。ZETA製品の再導入によりECの集客力を再興できた」と評価しており、休眠顧客の掘り起こしや新規客獲得にも好影響が出ている模様。
これら二社の事例からも分かるように、同社のソリューションは顧客企業の課題解決と事業成果に直結する形で効果を発揮している。花王のケースではCX向上と法令順守の両立、コメ兵のケースでは検索・UGCの活用によるEC売上の押し上げと、各社のニーズに寄り添った形で結果を出している点が重要である。導入企業からは「サイト内検索やクチコミ機能の充実でユーザー体験が向上し売上も伸びた」「データ活用と顧客エンゲージメント強化に大いに貢献している」といった評価を得ており、同社プロダクトの実力と成長性を裏付けるものと言えよう。
業績・戦略・株主還元の好循環に向けて
2025年12月期第1四半期は、収益面・事業戦略面・株主還元面のいずれにおいてもバランスの取れた前進を遂げた四半期であった。営業黒字化の達成と堅調な増収によって業績は着実な成長軌道に乗り、ZETA CXシリーズの中でもリテールメディア広告が新たな収入源となる構図が見え始めている。加えて、Sprocket社やSI企業との提携、新領域への布石(Intimate Merger社との業務提携など)によって将来の成長ドライバーを育成する戦略も着々と進行中。
株主に対しては、増配・優待・自社株買いという包括的な還元策を示し、中長期目線での企業価値向上にコミットする姿勢を明確に打ち出した。短期的な株価浮揚策に留まらず、長期保有メリットを高める施策に重点を置くことで、個人投資家を含むステークホルダーとの信頼関係を強めている点は評価できる。
総じて、「収益成長 → 戦略投資 → 株主還元 → 信頼醸成」という好循環を構築しつつある。第1四半期はその芽が出始めた段階と言えるかもしれない。堅実な収益基盤に加え、新規事業の成長エンジン、そして株主を意識した資本政策――これら三位一体の経営を進めている。
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