5571 エキサイトホールディングス レポート

1. 企業概要

1-1. ミッション/会社の位置づけ

デジタル起点で複数事業を展開する再成長フェーズの持株会社

同社は東証スタンダード上場(5571)の持株会社で、「デジタルネイティブ発想で心躍る未来を創る。」をミッションに掲げる。創業は1997年。現在はメディカル、プラットフォーム、SaaS・DX、ブロードバンドを柱に多角化し、従業員は255人(契約・アルバイト含む、2026年6月末)。2026年3月期1Q売上構成比はブロードバンド35%、プラットフォーム33%、メディカル23%、SaaS・DX9%である。

1-2. 事業ポートフォリオ(4本柱)

既存の安定収益と新規成長領域を併走させる構成

事業は4本柱で構成する。①メディカル:ONE MEDICALとEMININALを中心にオンライン診療支援を展開。②プラットフォーム:電話占い・悩み相談、女性向けメディア、M&A仲介「M&A BASE」。③SaaS・DX:FanGrowth、Sharely、KUROTEN、iXIT。④ブロードバンド:光回線・MVNO(格安SIM) 等。四半期売上は各柱が分散している。古くからのビジネスであるポータルサイトなどのメディア単体は全体の約7%にとどまる。

1-3. 提供価値と顧客のBefore/After

診療・相談・配信・接続をデジタルで効率化し体験を改善

メディカルでは、広告・送客だけでなく予約・診療・処方・発送まで運営支援を包括し、高い利益率と一貫した患者体験を設計。プラットフォームでは質の高いカウンセラーや占い師と24時間マッチングし、リピートの高い相談体験を提供。SaaS・DXはウェビナーや株主総会等のオンライン運営を効率化。ブロードバンドは業回最安水準で安定接続を供給する。

1-4. 対応する社会課題

医療アクセスの最適化・心のケア・デジタル運営効率の向上

オンライン診療の普及余地は医科・歯科あわせて約18.1万診療所規模が示され、医療アクセスの改善が期待される。カウンセリング・占い等の相談サービスは24時間の相談窓口を提供し、メンタルヘルス需要に応える。企業の説明会・株主総会のオンライン化は運営コスト削減と参加機会の拡大に寄与する。通信基盤は各サービスの安定稼働を支える。

1-5. 設立日/上場日

創業1997年、2018年にTOB後の再構築を経て2023年に再上場

創業は1997年。2018年に経営刷新(TOB)後、コスト改善と成長投資・新規事業立ち上げを進め、約4年で再上場に至った。

1-6. 沿革(ターニングポイント)

非上場化→再生→成長事業M&Aの転換

2018年のTOBを起点に経営陣を刷新。CFO参画後に早期黒字化を達成し、既存事業の収益基盤を整備。2023年に再上場し、その後はオンライン診療支援のONE MEDICALをM&Aで取り込み、成長ドライバーとして位置付けた。メディア依存からの脱却と多角化が沿革上の転換点である。

1-7. 経営陣プロフィール(社長の経歴)

ネット事業の多角化を担ってきた実務派トップ

社長の西條氏は伊藤忠商事を経て2000年にサイバーエージェント入社、2004年取締役、2008年専務COO。広告・メディアに加え金融・VC・ゲーム等で多角化を推進。2018年に現体制を設立し、TOBを通じてエキサイトを取得・子会社化した経緯を持つ。再上場後は新規事業への投資とM&Aを主導している。

1-8. 事業立ち上げの経緯

LBOでの買収→黒字化→M&Aによる成長の再設計

2018年、LBOを用いた買収スキームで非上場化。財務・管理体制の立て直しにより単月黒字化を短期で達成。既存のキャッシュカウを活用しつつ、オンライン診療支援ONE MEDICALを約38億円で取得し、送客から運営支援までの垂直統合に近いモデルで高収益化を狙う方針である。

2. 事業内容(セグメント別)

2-1. メディカル事業

オンライン診療と歯科矯正の両輪による高収益モデル

ONE MEDICALは広告送客から診療予約・診察・処方・薬配送まで包括的に支援し、高い利益率を実現する垂直統合型モデルを構築している。提携クリニックとは独占契約を結び、LINEを活用した顧客基盤や診療科別のオペレーションが強みである。2024年10月の連結前GMV105百万円は2025年6月に239百万円に倍増し、売上も200百万円へ成長。利益率は20〜30%以上と高水準である。EMININALはマウスピース矯正希望者と提携医院をマッチングし、1件あたり約30万円の成約報酬を得る仕組みで、医科と歯科の両輪で補完関係を築いている。

2-2. プラットフォーム事業

メディア・M&A仲介等の多角化基盤

主力の「エキサイト電話占い」「お悩み相談室」は利用単価約9,000円、リピート率70%と高い継続性を持ち、資格保有カウンセラーなど質の高い”相談員”が多数在籍することで安定収益を確保している。収益は課金型が中心である。女性向けメディア「ウーマンエキサイト」は月間2.6億PVを超え、広告収益を得ている。近年はAIを活用したコンテンツ生成も導入している。M&A BASEはIT業界ネットワークを活かし、ソーシングから実行まで一貫支援する仲介サービスで、成約報酬は最低3,000万円に設定されている。課金、広告、成約報酬と収益源を分散している点が特徴である。

2-3. SaaS・DX事業

ウェビナー・株主総会・会計DXを支援するSaaS群

FanGrowthはウェビナーの企画・配信・分析を一元化。月額課金に加え、導入企業数1,600社を超える共催マッチング機能やデータ連携で収益を拡大する。Sharelyはバーチャル株主総会を支援するSaaSで、Zoomとの提携や会社法改正による規制緩和を追い風に拡大を目指す。SaaS提供に加え、シナリオ設計や業務支援を含むハイブリッド型モデルである。KUROTENは管理会計の効率化を支援するクラウドで、サブスク収益を得る。iXITは開発・運用受託を担い、安定した収益基盤を支えている。平均単価は15〜40万円程度である。

2-4. ブロードバンド事業

業界最安水準と返金制度で差別化する通信サービス

固定回線「BB.excite 光」、高速回線「BB.excite 光10G」、モバイル通信「BBエキサイトモバイル」を提供。業界最安水準の価格体系に加え、縛りや工事費不要、全額返金制度といった差別化策を導入。売上は回線数×月額料⾦(約4,790円)で算出され、平均利用期間は5年と長期安定。成熟市場のため大幅成長は見込みにくいが、キャッシュカウ事業として年間約10億円の営業利益を創出し、成長領域への投資を支える源泉となっている。

3. 特徴・強み・競争力

3-1. 垂直統合型オンライン診療モデル

送客から診療運営まで包括する高利益モデル

ONE MEDICALは広告送客だけでなく、診療予約・診察・処方・薬発送まで包括的に支援する点が特徴である。従来の医療系マーケティングが断片的な支援にとどまる中、垂直統合型の仕組みを整備し、高い利益率を実現している。さらに、LINEを活用した顧客基盤や診療科目別オペレーションの仕組みが強みとなり、競合との差別化を可能にしている。

3-2. キャッシュカウと成長投資の両立

安定収益を源泉に新規領域へ積極投資

ブロードバンドやプラットフォームといった事業は、年間約10億円規模の営業利益を創出するキャッシュカウとして機能している。これらの安定収益を源泉に、オンライン診療やSaaS・DXなど成長市場への投資を積極的に展開。既存事業で得た利益を新規領域に循環させるモデルにより、リスクを抑えつつ高い成長性を確保している。

3-3. 横断的な人材活用

エンジニアリング・マーケティングを核とする組織文化

エキサイトはポータルサイト時代から高いエンジニアリング文化を蓄積しており、事業が変わっても堅牢な技術基盤を提供できる点が競争力となる。さらに、広告事業で培ったマーケティング人材が、医療・SaaSなど他事業にも横断的に活用されている。エンジニアとマーケターという汎用性の高い人材を中核に据えることで、複数事業の展開において一定の相乗効果を発揮していると考えられる。

3-4. M&A実行力とPMI

短期間での再生・統合作業を可能にする実務力

2018年のTOB後、同社はわずか1カ月で単月黒字化を達成し、再上場まで経営を立て直した実績を持つ。直近ではONE MEDICALやSharelyなど成長事業を積極的にM&Aで取り込み、PMIを通じて事業シナジーを早期に具現化している。買収から短期で収益化につなげるスピード感は、同社の大きな競争優位性である。

4. 事業環境(成長性)

4-1. 美容医療市場とオンライン診療普及

市場拡大と普及率向上で高成長余地が大きい

美容医療市場は2024年に6,310億円規模に拡大し、今後も成長が見込まれている。欧米ではオンライン診療の普及率がコロナ前の約20%から規制緩和後に50〜70%に急伸した。日本は約15%と低水準にとどまり、拡大余地が大きい。医科診療所約11.3万、歯科診療所約6.8万を対象とする市場は約18万拠点に及び、今後の診療科目拡充を通じて新規成長機会が見込まれる。

4-2. ウェビナー・株主総会DXの制度動向

規制緩和と需要拡大を追い風に成長

FanGrowthによるウェビナーマッチング機能は、導入企業が1,600社を超えて拡大している。加えて、バーチャル株主総会を支援するSharelyは、会社法改正に向けた規制緩和の議論を背景に成長期待が高まる。Zoom提供会社との提携も進め、SaaS利用料と運営支援収益を組み合わせる事業構造が強みとなる。今後、企業のIR・コーポレート部門における需要増加が見込まれる。

4-3. 固定・モバイル通信市場

成熟市場でシェア維持が主軸

ブロードバンド市場は、過去の新規参入が淘汰され、大手寡占が進む成熟段階にある。ユーザーは安価かつ安定したサービスを重視し、契約後は不便がなければ乗り換えが少ない傾向がある。エキサイトは業界最安水準の10G光回線や返金制度を導入することで差別化を図っているが、市場全体の成長余地は限定的と考えられる。そのため、収益の安定性は確保できるが大幅な成長は難しい環境である。

4-4. メディア広告単価の動向

底打ち後の回復局面にある広告事業

ウーマンエキサイトを中心とするメディア事業は、月間2.6億PVという規模を維持しつつも、直近では業績底打ち後の回復途上にある。市場全体では広告単価の変動が影響するが、AI活用によるコンテンツ生産性向上が改善要因となる可能性がある。

5. KPIとその推移

5-1. ONE MEDICAL

GMV・売上・利益が急成長し成長ドライバーに

ONE MEDICALは美容医療を中心に急成長しており、2024年10月の連結前GMV105百万円が、2025年6月には239百万円に倍増した。売上も2024年10月の102百万円から、2025年6月には200百万円に拡大している。調整後営業利益も黒字化しつつ増加基調にある。事業利益率は20〜30%と、一般的な外部協業モデルの3〜4%を大きく上回り、高収益性を示す。

*ONE MEDICAL GMV

*ONE MEDICAL 売上高

5-2. カウンセリングサービス

高ARPUとリピート率が収益基盤を支える

「エキサイト電話占い」「エキサイトお悩み相談室」では利用単価が約9,000円と高く、リピート率も70%に達する。ユーザー層は20〜50代女性が中心で、「エキサイトお悩み相談室」では国家資格や民間資格を持つカウンセラーが96%を占める。利用単価と継続率の高さから安定収益を確保できており、キャッシュカウ事業として会社全体の利益源泉となっている。

5-3. SaaS・DX

導入社数拡大と単価が成長を牽引

FanGrowthはウェビナーの企画から配信・分析まで一元化し、一部機能のウェビナーマッチングは導入社数が1,600社まで拡大。平均単価はサービス別に15〜40万円程度で、SaaS課金に加えて共催マッチングやデータ連携の機能も収益を押し上げる。Sharelyは株主総会のDX需要を背景に拡大、KUROTENは管理会計クラウドとして企業導入が進んでいる。導入社数と単価の積み上げが収益成長の主要KPIである。

5-4. ブロードバンド

回線数×ARPUに基づく安定KPI

ブロードバンド事業は「BB.excite 光」「BB.excite 光10G」「BBエキサイトモバイル」により構成される。売上は回線数×月額料⾦(約5,000円前後)で算出され、平均利用期間は5年と長期に安定している。成長余地は大きくないが、契約数の維持とARPUの安定により安定キャッシュフローを生む構造となっている。成熟市場であるが、既存ユーザーの継続利用が主なKPIである。

6. 業績(実績と今期計画)

6-1. 連結実績と今期見通し

2025年3月期は大幅増収、26年3月期はさらに成長を計画

2025年3月期の連結売上高は9,091百万円で着地。営業利益は広告費増により一時的に減益も、既存事業で約10億円の利益を安定的に確保した。2026年3月期は売上高11,000百万円を計画し、前年比21.0%の増収を見込む。営業利益は610百万円、EBITDAは1,200百万円を見通し、当期純利益は320百万円と大幅増益を計画する。

6-2. セグメント別増減要因

メディカルが成長を牽引、メディアは回復途上

2026年3月期1Qの売上は2,552百万円で前年同期比26.4%増。メディカルはピルに続きダイエット診療が立ち上がり、月間GMV1億円に拡大し急成長。プラットフォームはカウンセリングが増益に寄与する一方、広告単価下落でメディアが80百万円減収となり、回復途上。ブロードバンドは9.0億円と安定推移。SaaS・DXは2.3億円で堅調に拡大している。

6-3. 進捗率と利益率

第1四半期で通期計画に対し23.2%の進捗

2026年3月期通期計画に対し、1Q売上は2,552百万円で進捗率23.2%で会社計画通りの進捗。営業利益610百万円計画に対し、1Qは71百万円。営業利益率は通期目標で5.5%を計画しており、既存事業の安定収益とメディカルの高収益モデルが寄与する構造である。

6-4. 今期の重点施策とリスク

成長領域への集中と既存事業の安定収益維持

今期はメディカル事業に注力し、ピル・ダイエットに続く新規診療科目の拡充を推進する一方、プラットフォーム・ブロードバンドといったキャッシュカウの収益維持で投資余力を確保する方針。リスク要因はメディア事業は広告単価下落による収益悪化、メディカル事業は自由診療が中心で価格設定の自由度が高いことから足元で為替などによる影響はないが、診療領域拡大に伴う薬剤調達コストの変動、またM&A後のPMI進捗も業績影響要素となる。

7. ONE MEDICALの特徴・強み・成長戦略

7-1. 特徴

科目別特化とバックエンド重視で差別化する診療モデル

ONE MEDICALは、広告送客だけでなく、診療予約からオンライン診察、処方、薬配送までを包括的に支援する垂直統合型のオンライン診療事業である。大手企業が全科目を網羅するプラットフォームを志向するのに対し、同社は診療科目ごとにきめ細やかなオペレーションを構築する点が特徴。例えばダイエット領域ではカウンセリングを重視し、患者一人ひとりに最適化された商品・治療プランを提供する。さらに、安定した仕入れルートや配送体制など「バックエンド」の仕組みを整備することで、患者体験のスムーズさを担保し、競合との差別化を実現している。

7-2. 強み

マーケティング力と広告効率で高い利益率を確保

競合との最大の違いは、医療機関に不足しがちなマーケティング力を補完できる点にある。長年培ったウェブマーケティングのノウハウにより、購買意欲の高い患者層を効率的に獲得でき、広告費削減と売上拡大を両立させている。実際、広告費を前月比10%削減しながら売上を10%増加させた事例もある。さらに、診療領域は「高単価」「ニッチ」「すぐ解決したいニーズ」が揃う市場を狙い、シェアトップを確実に取る戦略を採用。ピルに続くダイエット領域はLTVが高く、20〜30%以上の利益率を実現できる収益モデルとなっている。

7-3. 成長戦略

「ニッチトップ」の積み上げによる中期的な拡大

成長シナリオは「既存診療科目の拡大」「新規科目の多角展開」の両輪である。大手が巨額広告を投下する数百億円規模市場ではなく、年間売上10〜20億円規模のニッチ市場でトップシェアを取ることを重視。例えばピルとダイエットに加え、今後は美容内服薬や美肌など安定需要がある領域を狙う方針である。提携クリニックは現状1拠点ながら、全国に対応可能なオンライン体制を整えている。年間で1つずつ新科目を立ち上げることで、売上50億円規模への成長を中期計画で掲げている。

8.バリュエーション

時価総額 66億円
株価 1,370円
会社予想EPS 65.81円
会社予想PER 20.8倍
配当利回り 2.3%

成長株投資, 銘柄研究所

Posted by ono